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武道家の要望に応える ライバルはナイキ [ Vol.28 ]


経営の基本は「武道家ファースト」と語る木村代表

 

 剣道、柔道、空手……と言えば日本が誇る武道であるが、今や海外でも競技人口が多い。ロシアのプーチン大統領も柔道の黒帯で有名で、武道は世界中でスポーツとしても精神文化としても愛されている。今回はその武道具の製造販売で世界を席巻する京都市の株式会社東山堂に木村隆彦代表を訪ねた。

 

武道具製造販売で
世界に貢献する東山堂

 

 京都にある武道具の会社だというので、さぞ歴史があるのだろうと思っていたら、驚いたことに、創業は1989(平成元)年。現在58歳の木村氏が30歳のときに起業して一代で大きくしたのである。

 

 木村氏は長崎出身で、大学卒業後にリクルートに入社し、営業をしていた。大学時代はゴルフに打ち込み、武道の経験はなかった。

 

 では、なぜ武道具に関わることになったのか? 実は、留学経験のある木村氏に「イタリアの剣道ナショナルチーム選手が来るので、通訳として面倒を見て欲しい」と知人に頼まれたことがきっかけとなったのである。

 

 そして、軟派なイメージに反してイタリアの選手が真面目で、朝から晩まで剣道や日本の武士道について真剣に学ぼうとしていたことに心を打たれた。

 

 「何か困りごとはないか?」と剣道の話をすると、「イタリアでは防具の修理ができない。胴着や袴のサイズが合わない。竹刀を買えずに困っている」と、道具に関する不満や要望が出てきた。

 

 普通の人ならそこで終わりだが、そこは起業家を多数輩出するリクルートの社員。早速、ジェトロなどに相談して、カタログ通販をメールオーダーですることを決意。文化的な事業には京都が相応しいと、89年、30歳のときに京都で東山堂を興したのである。

 

無理だと言われた
カード決済契約を開始

 

 木村氏は剣道用品のカタログを作成し、日本の剣道連盟から紹介してもらった世界中の剣道連盟に送付し、商売を開始。しかし、早速、難題にぶち当たる。それは決済だった。今でこそインターネットでのクレジット決済通販が当たり前になっているが、当時、通販の決済は銀行振込か郵便為替くらいしかなかった。また、一部は通販のクレジットカード決済をしていたが、資本金1億円以上とか、一部上場企業のみという厳しい条件を課すカード会社がほとんどで、資本金100万円で誕生したばかりの同社がその契約をすることは100%無理と思われた。

 

 ところが、何度も交渉に通っていた住友VISAで山が動く。担当者から「無理だと思うが、ダメ元で出してみる」と、役員会に上程してもらったところ、なんと1人の剣道をやっている役員が、「剣道、つまり日本文化を世界に普及させようとしている会社が、カード決済できないために活動できないのはおかしい!」と、他の役員を説き伏せ、契約を結んでくれたのだ。

 

 それからというもの、1度も売上を落とすことなく業績は上がっていくのだから、何事もあきらめてはいけない。そして、海外での販売から始まったために、バブル崩壊の影響を受けなかったことも幸運だった。

 

居合道、そして
柔道へと業務拡大
 

 会社ができれば、売上を伸ばそうとガンガン営業していくのが普通だが、同社は「頼まれたことをやる。困っていることを解決する」という起業の経緯を大切にし、目標金額ありきとはしなかった。愚直に剣道家のニーズ、ウォンツに応えてきたのである。しかし、現在はすべての武道の道具を扱っている。どのように拡大してきたのか?

 

 木村氏は「日本では剣道なら剣道だけをやっていればいい。これは競技として見ているからです。しかし、海外では日本の文化として見るので、剣道をする人は柔道もしたいし、合気道も弓道もしたい。さらには、お茶もしたい、お花もしたい……と、全部やろうとします。この求めに応じているうちに、扱い品目が増えていったのです。

 

 頼まれたことをやるだけというポリシーは変わりません。国内販売も自然に増えていったのです」と語る。最近ではインバウンド需要で鎧、兜、刀剣もよく売れているが、これもその延長線上にあるだけなのである。

 

東山堂の目指す方向
ライバルはナイキ

 

 では、今後はどんな会社を目指すのか? また、ライバルとどう戦っていくのか?

 現在、同社はB to C販売を行い、さらに製造や卸、B to B販売などの会社のグループで構成されている。年商もグループ29億円に成長した。もっとも、これらも細かいオーダーに応えるために製造会社を買収したり、B to B販売の必要から会社をM&Aしたりと、お客の求めに応じるため、あるいは日本文化を広めるために必要なので、互いの特性を生かせる会社を厳選してM&Aしているのだという。「お客さまに喜んでもらう」ことが大切で、他社をライバル視していないのだとか。

 

 しかし、あえて言うなら……と前置きした上で、「アスリートファーストをうたい文句にしているNIKEがライバルです!」と、木村氏は語ってくれた。つまり、「武道家ファースト」で、商品開発・販売をしていくのみだということなのである。

 

 ではそのために、どんなニーズに応える商品開発をするか? だが、開発の余地はまだあるという。例えば、痛くない防具、臭くならない防具、投げられても痛くない生地の柔道着等である。木村氏曰く、「差がないところで差をつける」ことで、危険や不快を取り去るという防具や道着の本来の目的をさらに追求しようというのである。

 

 営業面では、「柔道人口の多いフランスにも拠点をつくり、また剣道人口が急増している中国にも対応できるようにしたい。数年後の売上はグループで50億円を達成しそうなので、その勢いで無理せずやっていきたい」と語る。50億まで来れば、倍になれば100億になるので、そう遠くない未来に100億円企業の東山堂が誕生するのではないだろうか?そうなると、武道具業界ナンバー1企業になる。

 

 ナイキが「ライバルは日本の東山堂だ!」という日が来るかもしれない。

 

【会社概要】

株式会社東山堂

代表取締役 木村隆彦
〈きむら・たかひこ〉

本  社:京都府京都市上京区中立売通智恵光院東入
業  態:武道具製造販売
創  業:1989年12月16日
年  商:グループ29億円
従業員数:130人