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中国からみた「靖国参拝問題」(高田 拓)

新連載 第二回 「高田拓の中国内部レポート」

中国からみた「靖国参拝問題」

高田 拓 (山東外国語職業学院終身名誉教授)

毎年、8月を迎えると閣僚の靖国参拝問題が中国、韓国で必ず取り上げられる。

戦争に殉じた戦没者の霊を慰霊鎮魂する施設は各国に存在し、中韓以外の国で批判したり、外交問題になることはない。

国際的な基本見解は、その国の「内政問題」であるということだ。また靖国神社を参拝するのか、千鳥ヶ淵戦没者墓苑を参拝するのかは個人の自由である。

1985年、中曽根首相が胡耀邦総書記との対話で翌年以降の靖国神社参拝を控えた。三木総理が私的参拝と言いだし、朝日新聞がたきつけ、中国が靖国神社参拝に抗議、韓国がこれに追従した。これが外交的な前例となり、これ以降、中韓が外交カードとして使うようになった。外交問題で前例を作ることが、いかにその後の障害になるのかを政治家はしっかり肝に銘じて欲しいものである。

中韓は日本人の贖罪意識を利用してくる。戦争責任と鎮魂は別の概念であるにもかかわらず、また、基本は内政問題である靖国神社参拝を歴史認識問題にすり替えた。

中韓両国は国内体制維持に反日感情を利用している面も無視できない。
靖国神社問題に関しては、日中国交正常化の原則に則り、相互内政不干渉とすべきである。

中国は1985年7月までの6年4月間、3人の首相が計21回参拝したことに対しては何の反応も示さなかったが、中曽根首相が参拝を取りやめたことを外交カードとし、「A級戦犯が合祀されている靖国神社に首相が参拝すること」は、中国に対する日本の侵略戦争を正当化することであり、絶対に容認しないという見解を表明し続けている。

こうした問題の対応策:実は論語のなかに対応の極意が示されている。

或曰。以徳報怨。何如。子曰。何以報徳。以直報怨。以徳報徳。
「ある人が孔子にたずねた。怨みに報いるに徳をもってしたら、いかがでございましょう。孔子がこたえた。それでは徳に報いるのには、何をもってしたらいいかね。怨みには正しさをもって報いるがいいし、徳には徳をもって報いるがいい」

「以直報怨、以徳報徳」 直(なおき)を以って怨みに報い、
解釈:相手の怨みには正しさ=真っ直ぐな理性(筋を通す)を以って対応し、相手の徳には徳を以って対応する
「政治カード」として利用し続ける意図を持った相手に何度謝罪しても効果は無い

■「死生観」の違い
こうしたこと以外に「中国人と日本人の死生観」が認識の違いを生み出していると考えられる。

◎中国人の死生観
「死生一如」と言うのが中国人の伝統的な考え方であり現世重視の死生観です。
「死生一如」:荘子の死生観で、生と死を二種類のものとして考えるのではなく、ひとつながりのものとして考える見方。
 「生ずれば滅し滅すれば生ずる」:‘持続’するという思想

*中国や韓国では死んだ人間に生前の罪を問い遺体を暴いて切り刻んだり晒し者にするような行為はかなり一般的に行われていた。

中華圏では相手への仕返しで、「先祖の墓を暴く」このような復讐が行われていた。さらに、死後に自分に向く「復讐心」を恐れた権力者が、政敵が復活しないように墓を暴き死体を燃やし、遺体を撒き散らす極端な仕打ちをすることがある。屍がキョンシーとなって甦り、復讐されることを避けるためだ。
墓をあばかれることを避け散骨する者が現れた。

*鄧小平は自らの希望で飛行機から海に散骨させた。
個人崇拝を嫌うとともに、政敵から墓を暴かれて辱めを受けることを恐れたためといわれている。衣類はすべて焼却された。

*周恩来も本人が希望。北京上空、開発に力を注いだ北京市郊外のダム、革命のスタート地点である天津、黄河の河口の4カ所に分けて散骨された。死後に墓を暴かれるのを恐れたためとされる。

◎日本人の死生観
  
ある者は「人間が死ねば魂(霊)もなくなる」と考え、生前の罪の有無にかかわらず、また死んで罪が消えるか否かにかかわらず、人間は死後、土に帰ったり、物質になったり、無になったりすると思っている。
また、ある者は「人間は死後にも魂(霊)がある」と思っているだけでなく、人間は死後、天国や黄泉の国に行き、または輪廻転生することができると思っている。

武士道では死後は極楽世界に行けるのか、などの問題にまったく関心を持っていなかった。いつでも自らの命を捨てる心構えをして、今の今、自分の責任を果たすことが武士にとって重要であった。

■余談:中国の「冥婚」

この古い風習は、未婚で死んだ人のために死後の世界での伴侶を与えるものだ。約3000年前から続くこの風習を信じる人たちは、これによって未婚の人たちは死後の世界を独りで過ごさずに済むのだと言う。

そもそもの「冥婚」は、あくまでも死んだ者同士を結びつけるものだった。未婚の死者2人を、生きている人間が結婚させる儀式だった。しかし近年では、生きた人間を死体と結婚させるケースもある

いまだに中国の一部で行われている「冥婚」がむごたらしい殺人事件を引き起こすことがある。事件の発覚は2016年4月。交通警察が女性の死体を乗せた自動車を発見し、男3人を拘束したことから始まった。
 
陝西省(せんせいしょう)の警察が捜査を進めるうちに、次第に凄惨なことの次第が明らかになっていった。容疑者は結婚相手を紹介すると女性たちに近づき、女性たちを殺害し、遺体を「冥婚」用に売却しようとした。

若い女性の遺体・遺骨にはかつて3万~5万人民元(約15万~75万円)の値がついた。今なら10万人民元にはなると言う。遺体の売買は2006年に禁止されたが、墓の盗掘は後を絶たない。

「死者は死後の世界で生き続けるという考え方が、冥婚の背景にある。生きている間に結婚しなかったとしても、死後に結婚する必要があるわけだ。」

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■高田 拓氏(曲阜師範大学、斉魯工業大学客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授)

1967年福島大学経済学部卒業、同年4月松下電器産業(株)入社。1997年松下電器(中国)有限公司に北方地区総代表として北京勤務、
2001年華東華中地区総代表として上海勤務。2002年松下電器産業(株)退社、同年、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル(株)顧問
2009年中国各地の大学で教鞭、2012年山東省政府より外国人専門家に対する「斉魯友誼奨」受賞。
曲阜師範大学、斉魯工業大学の客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授。
現在、現場での実例を中心に各団体、大学、企業のセミナー講師を務める。