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「日本のものづくりのあり方について」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「日本のものづくりのあり方について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

 私は、
「日本は世界のものづくり奴隷大国、サービス奴隷大国となるべきではない」
と考えており、
「日本は、世界がものすごく必要としているものやサービスを量と価格を安定化させながら、世界に供給し、その貢献を世界に認知してもらいつつ、適正利潤を得ていくような企業が、日本全国各地に、農業や畜産業などの第一次産業も含めて、全業種に存在するような国家としていくべきである」
と言うことを目指して国家運営を図っていくべきであると考えています。

そして、もちろん、こうした企業群の対局には、例えば、今で言えば、トヨタ自動車グループのような、
「グローバル市場を相手にし、大量生産、大量販売を前提としたグローバルマス企業群も存在し、これら企業群は日本オリジンの無国籍業として世界を股にかけて活躍する企業を日本としても積極的に支援していくことも大切である」
と考え、
「こうした合わせ技により、日本の産業構造の改善を目指していくべきである」
と考えています。

そして、特に前者に関しては、商品単価が極めて安価な場合を除き、
「少量・変量でも良いから、多品種、高品質の商品提供を目指し、その結果として適正利潤を得られるような企業を構築する。」
ことをイメージしており、即ち、
「量を求め、規模の経済性を求めたマスビジネスではなく、質を重視し適正利潤を確保するビジネスに特化していけるような企業群の構築を日本国としてサポートしていくこと」
を私は強くイメージしています。

また、こうしたものやサービスを提供する為には、今現在のみならず中長期的にも必要とされるようなものやサービスをターゲットにして、日本人しか作れない、提供できないような商品を作り上げていくことが大切であると考えており、その為には、
「機械ではむしろ出来ない、マニュアル化出来ないものやサービスを、日本人の心と手をもって提供し、世界に喜んで頂きながら適正利潤を頂戴することに励むべきである」
そして、
「水、食糧、原材料、エネルギーと言った人々が生きていく為に必要な分野を意識しながら、核心部品、高度製造装置、新素材分野とメンテナンスの分野を中心に」
し、
「丹精込めた仕事」
をして、日本人の特性をもって比較競争優位を作り、適正利潤を上げる、従って、そうしたことが出来る、山椒は小粒でもピリリと辛い、
「一騎当千の人材」
によって支えられた企業を作り上げ、結果として、そうした日本人のたくさんいる日本を拠点にして、国内はもとより世界にものやサービスを販売し、
「日本に居ながらにして外貨を稼ぐ企業」
を作ることを強く意識すべきであるとの持論を持っています。

「言うは易く行うは難し」
との声も聞こえますが、実際に日本各地を回るとこうした企業は結構あり、これら各社は好不況にはあまり左右されることなく、粛々とビジネスを展開されています。
頼もしい限りです。

こうした中、先日、さいたま市がサポートする企業を訪問致しました。
80歳に近い社長は、現役のライダーでもあり、大のバイク好き、自らは慶應工学部を卒業後海外でも理論を学び、その理論を背景にして、衝撃に強いバイク用のヘルメットを生産販売しており、製品はバイク用のヘルメットのみという徹底ぶり、
「安価で危険に強い高品質製品を社会にたくさん送り出し、人々のお役に立ちたい」
とする経営理念は素晴らしい、の一言であります。

商品はマニュアル化、機械化出来るものは当然にそうしているが、たくさんの作業工程を持ち、経験則に基づいた作業工程をたくさん持つ同社では、多くが手作業のもの、生産ラインの仕事は楽ではないものの、従業員の大半が自動二輪の免許を持ち、ヘルメットの安全性の大切さを知り、自らが手を抜いた作業をすれば、ライダーの命にも関わるとの自覚を持った、即ち、社長の経営理念をしっかりと認識した人にその厳しい作業をしてもらい、商品の品質を守っている、グラスファイバーなどの原材料は全て日本企業からの調達とし、原材料の量と価格の安定確保も意識、受注生産を行い、原価計算を基にして適正利潤を乗せて商品価格を設定し、決して廉価販売はしない、こうして社員約300人、年商80億円前後の企業となっている同社は、決して海外には生産拠点を持たず、日本の特性を生かし、日本に居ながらにして外貨を稼ぎ適正利潤を確保しています。

最終商品まで作り、バイク用ヘルメットと言う特殊な分野で、
「安全性の高い、しかし適正価格の商品を提供する会社」
として市場の認知を得、そのブランド価値を持つ、そして粛々と経営されるこの会社は日本企業が目指す、一つのモデルのように思いました。


真田幸光————————————————————
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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