[ 特集カテゴリー ]

「北朝鮮情勢と米中露について」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「北朝鮮情勢と米中露について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

 昨今の北朝鮮情勢を巡り、国際社会では、トランプ大統領と安倍首相の国連演説を機に、一層、
「対話か圧力か?」
が注目されています。

こうした状況にあって、韓国ではかつてより、
「北風と太陽」
と言うイソップ寓話のひとつが意識されてきました。

皆様、よくご存知の通り、この寓話の教訓は、
「物事に対して厳罰で臨む態度と、寛容的に対応する態度の対比を表す言葉として用いられる。
そして、手っ取り早く乱暴に物事を片付けてしまおうとするよりも、ゆっくり着実に行う方が、最終的に大きな効果を得ることができる。
また、冷たく厳しい態度で人を動かそうとしても、かえって人は頑なになるが、暖かく優しい言葉を掛けたり、態度を示すことによって初めて人は自分から行動してくれる」
と言った内容が包含されていると理解されています。

従って、強硬な姿勢を示す北朝鮮に対しても、
「融和を以って解決することが先決である」
との議論が生まれ、国際社会もここまでは我慢を重ね、対話の努力をしてきたのでありましょう。

しかし、前述したトランプ大統領と安倍首相の発言は、平たく言えば、
「もう堪忍袋の緒が切れた!!
北朝鮮、いい加減にしないといよいよ本気で怒るぞ!!」
とかなり強烈にその意思を示したこととなります。

そして、そうした内容は例えば、英語では、
「President Donald Trump downplayed the possibility of a dialogue with North Korea after its latest missile test.
In particular, they have sought to apply economic pressure through China, North Korea’s only major ally.」
と言った表現の中にも見られ、もはや対話は重要視しない、北朝鮮に対して影響力を持つ中国本土を通じて経済的な圧力を加えていくぞと言った姿勢が明確に示され、中国本土もこれに呼応するように、対北朝鮮取引の見直しに入り、例えば中核的な銀行の北朝鮮取引停止措置に出るなど、これまで以上に北朝鮮取引を限定的とし、制裁強化の姿勢を目に見える形で具現化してきています。

これにより、米中連携はいよいよ強化され北朝鮮がコーナーに追い込まれているとの見方も出てきていました。

そうした中、私が今、注目しているのはロシアです。

上記の英語のコメントで北朝鮮に対する唯一のサポーターは中国本土のみであるかのように書かれていますが、私はロシアがまだ影響力を持っていると見ています。

そもそも北朝鮮建国の流れを見ると、北朝鮮建国の父である金日成氏(1912年4月15日~1994年7月8日)は、もともとは朝鮮の革命家・独立運動家であり、その後、北朝鮮の政治家、軍人となった人物です。

そして、満州に於いて抗日パルチザン活動に部隊指揮官として参加し、第二次世界大戦後はソビエト連邦の支持の下、北朝鮮に朝鮮民主主義人民共和国を建国したことからすれば、北朝鮮のそもそもの関係国は旧ソ連であり、それは今のロシアとなります。

しかし、ロシアの国力の低下と中国本土の国力拡大を背景に、北朝鮮は、ロシアに対する経済依存を中国本土にシフト、然し乍ら、決して中国本土の傀儡となることはせず、中露、そして米国と言う大国の狭間で生き延びてきました。

むしろ、米中露のパワーゲームを巧みに利用してきたとも言えます。

然るに昨今、米国と中国本土の軍事筋が急接近し、「金ファミリー帝国」の撲滅に対する共同戦線を張ろうとし始めたことを受け、北朝鮮は、そもそもの関係国であるロシアに助けを求め、ロシアも北朝鮮に対する権利を失うことを嫌い、その北朝鮮と呼応する形で、
「北朝鮮と米国、場合によっては北朝鮮と中露」
の対話の場を積極的に作ろうとする動きを示していると思われます。

こうした中、また、米露は北朝鮮問題とイラン問題を天秤に掛け、ロシアが影響力を残したい北朝鮮問題では米国がロシアの意向を尊重、一方で、米国がイスラエルを意識しながら、警戒しているイランの問題に関連しては、米国がロシアの協力を求めると言った形で、協調する可能性もあると思われます。

いずれにしても、果たして、こうしたロシアと北朝鮮の動きが上手く作動するのか否か、を私たちは今注目しなければならないと考えています。

複雑な国際情勢です。


真田幸光————————————————————
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
——————————————————