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「日中マンション比較」(小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考

「日中マンション比較」
—-「人間が本来持っているはずの“将来世代に対する利他性” 」

小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

中国のマンションには管理組合がない。
今回は、ここから、「借金大国:中国」の行く末を論じてみる。
この小論には確たるエビデンスはない。
しかし「風が吹けば桶屋が儲かる」といった類の話でもない。

「財政と民主主義」(加藤創太・小林慶一郎編著 日本経済新聞出版社刊)の中で、著者たちは国家財政の健全化のために、
「究極的に求められるのは、有権者の当事者意識である。国政に当事者意識を持つ有権者なら、国の財政についての情報を懸命に集めて、最善の判断を下そうとするだろう」
「日本では、民主的に運営されているマンションの管理組合は滅多に破綻しない。マンションの管理に住人が当事者意識をもっているからだ。自己破産率も他の先進民主主義国家に比べて日本は非常に低く、個人のモラルや能力も高い」
と書いている。

たしかに日本の分譲型マンションには、そのほとんどに管理組合があり、そこでは民主的に理事が選ばれ、その人たちの手で、健全な財政運営が行われているため、マンション管理組合が赤字で破綻したという話しは聞いたことがない。マンション管理に関しては、収入も支出も単純明快であり、すべての理事が当事者意識を持ってそれを監視しており、赤字になる可能性はきわめて少ない。

つまりマンション管理組合に破綻が少ないのは、運営が民主的で、当事者意識を持つ理事たちが、透明でわかりやすい財政運営を、責任を持って行っているからである。それでも老朽化したマンションの建て替えとなると、住民の意見が錯綜して、それをまとめることはきわめて困難であるといわれている。 

現在、日本国家は1000兆円超の借金を抱え、財政破綻の瀬戸際に立たされている。ただし、この状況については、超悲観的に捉える識者から、楽観視している経済学者まで、いろいろな見解がある。

日本は民主主義国家であるから、国家財政について意見を戦わすことは制限されないし、そのための政策立案も自由であり、それを争点にして、選挙を戦うことも自由である。国会議員が優秀ならば、国会で財務官僚を追及して、その現状を白日の下に晒すことも可能である。それでも国家財政の仕組みは非常に複雑であり、一般人には把握し難い。

また民主主義体制下の選挙は、どうしてもバラマキ政策に人気が集まるため、財政規律を無視し、お金をばらまく政党が伸びる。そして国民は豊かさを満喫する。その結果、膨大な借金が積み重なる。それが民主主義国家日本の戦後の歩みだった。

1000兆円超の借金があるということを前提にした場合、その当事者であり元凶は団塊の世代の高齢者である。団塊の世代は、1000兆円超の借金で豪勢な生活を楽しんできたのだから、当然、その借金を全額返済してから、死んで行くべきである。そうしてこそ、「自己破産率も他の先進民主主義国家に比べて日本は非常に低く、個人のモラルや能力も高い」(上掲著)と自称することができるのである。

もちろんその恩恵に預からなかったという人も多いだろう。しかし団塊の世代はそれらの人も含めて、層として、責任を取らなければならない。なにしろ、団塊の世代のすべての人が、戦死も飢死も体験しなかったのである。団塊の世代は、人類史上でもまれにみる幸せな人生を送ったのである。

団塊の世代は、戦後民主主義社会の受益者として、また財政破綻の当事者として、借金を全額返済する責任を負っている。食い逃げは悪である。団塊の世代は、悪人であるという当事者意識を持って、国家の借金問題を捉えなければならない。

それでも日本国家の財政危機は、その正体がわかりにくい。巷には、「国家財政は破綻しない」という主張から、「10年後には、確実に財政破綻する」という見解まで、あふれかえっている。今ここで、官僚にしっかり情報公開させて、わかりやすい議論を展開し、その正体を突き止める必要がある。

日本は民主主義国家であるから、それができる。そして巷で、その解決策を戦わせればよい。百家争鳴状態を作り出せば、きっとそこに、利他の精神を発揮した素晴らしい対策が生まれてくるだろう。人間が本来持っているはずの“将来世代に対する利他性” (上掲著)に期待したい。また、それらの対策は玉石混交で、馬鹿げた対策と一笑に付されるものも生まれてくるだろうが、その状態を作り出すことが、最初の一歩であると考える。

日本国家が1000兆円超の借金で財政破綻寸前だということを前提にして、その借金の当事者である団塊の世代の一人として、私は次のような対策を考えている。馬鹿げた対策として一笑に付されることを承知の上で、「瓢箪から駒」を期待して、あえて提案してみる。

また、これらの提案は、結局、「上を向いて吐いた唾は、自分に降りかかる」ことになり、自らが実践しなければならなくなるだろう。それを考えると、少し弱気なるが、あえてそこに自分を追い込むつもりで、以下に書いてみる。

■案1.現在の日本国債を高齢者がすべて買い取る。そして死亡時には債権放棄する。そうすれば日本国家の借金は、20年後にはゼロになる。巷では、高齢者の持っている貯蓄は1000兆円ほどであるといわれており、それを全額投入すれば日本国家の借金をほぼ完済できる。
少々足りなくても、高齢者は次々と誕生し死亡していくので、いつかは必ず完済できる。

問題は高齢者に、どのようにして日本国債を買わせるかという点である。
私は、死亡時の債権放棄を条件にして、その国債のみ、利息を3~5%にしたらよいのではないかと思う。これだけの利息が付けば、高齢者は喜んで日本国債を買うだろう。

「そんな高い利息を払えば、それをまかなうために、また多額の国債を発行しなければならないではないか」という声が上がりそうだが、なにしろ高齢者は死んでいくのだから、元金そのものが自然に激減していくし、同時に支払い利息も減っていく。

■案2.年金の賦課方式をやめて、同世代間扶助方式に切り替える。新たな年金機構を作り、65歳以上の高齢者の積み立て資金や現金預金などの資産をそこに移し、そこから年金を支払うようにする。

当然、原資は不足するだろうから、当事者である団塊の世代がその原資について、創意と総意を尽くして捻出する。新たな年金機構の運営は、高齢者がボランティアで当たり、経費を節約する。

■案3.75歳以上の高額医療費は実費とする。団塊の世代は、人類史上、最高の生活を満喫したのだから、それ以上の延命を望まず、高額な医療費の発生するような診療は拒否するべきである。

仏教には、「足るを知る」という教えがあるが、団塊の世代は、「命の足るを知り、いたずらな延命を避ける」モラルを構築すべきである。それを善とし、美とするモラルで精神武装し、死に臨むべきである。

どうしても長生きしたいという人は、実費でそれを受ければよい。また平均寿命以上生きた場合の医療費も、実費扱いにしたらどうかと考える。

いずれにしても、超高齢者は、「いかに生きるか」よりも、「いかに死ぬか」を自ら志向すべきであり、「理想の死に方」を見つけ出し、それを実践すべきである。次世代の若者たちに自分の医療費を押しつけ、生き恥をさらすべきではない。

昨年来、私は即身仏の調査・研究を行ってきたが、自らの死期を悟ったとき、断食往生も私が取り得る死に方の一手段である。

■案4.平均寿命以上の高齢者の介護費は実費とする。団塊の世代は、人類史上、最高の生活を満喫したのだから、最期ぐらいは、あまり多くの人たちの手を患わせずに、従容として死に臨むべきである。

どうしても手厚い介護を受けたいという高齢者は実費を払って受ければよい。死ぬまで手厚い介護を受けたいが、実費では高すぎて払えないという人には、私は海外介護施設をお勧めする。

今、私は、月間500ドルで、手厚い介護を受けられる海外介護施設を開拓中である。団塊の世代は、「自宅で死にたい」などとわがままを言わず、青春時代の「なんでも見てやろう」(小田実)の精神を思い起こし、それを最後まで堅持して、「海外姥捨て山」=死に臨むべきである。

団塊の世代の高齢者が日本国家の借金を完済していけば、30年後、間違いなく日本は世界に冠たる桃源郷となる。もちろん、人口がかなり減るので、それなりの撤退作戦は必要であるが、借金のない国家運営で、世界に範を垂れることができるだろう。

上掲著で著者たちは、
「いまだに生まれていない将来世代の利益を守り、彼らに国家を継承していくためには、高い倫理性にもとづく政治哲学を構想することが求められる。これは“全体のための個の犠牲”を是とする価値観にも漸進するため、今日、広く共有されている個人主義的自由主義の価値観と両立することは難しいかもしれない」
「“自己統治の自由”ないしは、“統治への参加の自由”においては将来世代への献身は自由の一形態となる。このような新しい自由主義を構想することが、財政と民主主義という問題への解となるのではないだろうか。それには政治哲学、経済学などの学問分野の枠を超えた取り組みが必要とされる」
人間が本来持っているはずの“将来世代に対する利他性”を呼び覚まし、人間の利己的な性向を抑えて、財政再建に向けた合意形成を図る」
などと書いている。

つまり、将来世代へツケを回さないために、「高齢者は利他性や自己犠牲の精神を発揮せよ」と言っているのである。私は大賛成である。

中国のマンションに、管理組合はない。マンション購入者は、管理については、管理費用を管理会社に毎月払うだけで、それで終わりである。管理会社は、受け取ったお金で、共同使用部分(玄関やエレベーター、庭など)の管理とガードマンの費用などをまかなう。

結局、マンション購入者は管理会社に管理を丸投げしており、管理費用も少額なので、支払ったお金の使途などにはまったく関心がない。不都合があれば、管理会社に文句を言う程度である。自分の居住部分の修繕は自己負担であるが、マンション全体にかかわる大規模な修繕の必要が起きた場合については、今のところ、定まった解決方式はなく、どうもケースバイケースのようである。それは多くのマンションがまだ新しく、大規模な修繕や建て替えなどの問題に直面していないからでもある。

中国のマンション価格は超バブルで、10年前に購入した物件が10倍の価格で売買されるような状態になっている。したがって、中国のマンション購入者の頭の中には、「マンションは購入して住み始めたときから、減価していく」という当然の経済常識が全く欠けてしまっている。頭の中は、「自分のマンションは、寝ている間にも、価格が上昇している」という浮かれた夢でいっぱいになっている。大規模な修繕や建て替えなどの費用の問題は、まったく視野に入ってこない。

ともかく中国のマンション購入者は、「マンションを手に入れさえすれば、それは無限の価値を生み続ける。いざとなれば、売れば大儲けできる。あとは野となれ山となれ」という心境なのである。そこでは、まさに無責任体制が跋扈しており、彼らは日本のマンション居住者のような当事者意識を、まったく持ち合わせていない。

マンション運営に関してさえ、中国人の間には当事者意識がなく、自治を通じて民主主義を学ぶチャンスを失っている。その上、中国は社会主義国であり、中国人民には民主主義体験がない。民主主義を標榜する国に付きものの選挙の類いは、一切ない。

したがって一般の中国人の間には、当事者意識を持って、国家や地域の運営を積極的に推進していこうという意識がきわめて希薄であり、そこには無関心・無責任な姿勢のみがはびこっている。

しかも習近平政権になってからは、一段と情報統制が厳しくなり、人民は真実を知る手段を封じられている。情報操作もかなり大胆に行われており、誰も真実がわからない状態となっている。その上、政府批判の表明は封殺されており、メディアに登場するのは御用学者のみであり、彼らから政府批判の声を聞くことはできず、新説・珍説の生み出される余地すらない。また政治や経済に関する中国の学会なども同様で、政府のシャンシャン大会のようで、喧々諤々の討論などは皆無であり、全くおもしろくない。

改革以後、鄧小平の掲げた先富論によって、中国社会における貧富の格差は短期間で急激に拡大した。ことに共産党員や軍人は、その特権的地位を利用して、瞬く間に巨額の財を溜め込んだ。

もちろん一般の中国人も、そのおこぼれに預かって、生活水準を著しく向上させた。それでも巨万の富を蓄えた輩は、一般中国人の怨嗟の的になり、それへの不満は社会不安につながりかねない状況となっていった。それを抑えるために中国政府は、人民の生活を向上させるために、外資の大量導入を繰り返し、巨額のバラマキ投資を実施し、右肩上がりの経済の常態化を演出することによって、人民に経済大国意識を植え付け、中国人の経済感覚を麻痺させた。

中国政府は、外資の総撤退やバラマキ投資の後始末について、つまりバブル経済崩壊後の中国についてなど、まったく考えていない。メディアや学者たちも、外資導入の与える悪影響やバラマキ投資への批判の声を上げない。一般中国人は、中国は経済大国であると信じ切らされている。つまり「中国は、外資に侵蝕された借金大国である」という現実を、誰も知らず、直視しようとしていない。

やがて中国は、日本をはるかに凌ぐ少子高齢化社会に突入していく。このことに関して、誰も抜本的解決策を示していないし、誰も建設的な意見を出さない。

中国の60代以降は、大躍進運動の中で飢餓を体験し、文化大革命の中で生死を賭けて戦ってきた。そして今、彼らはやっとつかんだ地位や生活にすがりつき、利己主義と拝金主義の権化となり、とにかく私財を守ることに必死になっている。

しかも長く続いた一人っ子政策によって生まれた「小皇帝」たちは、今、社会の主人公に成りつつある。わがまま放題に育った彼らは、自分のことしか眼中になく、老いた両親のことなど、まったくかえりみない。しかも中国古来の親孝行の道徳は共産主義によって葬り去られて久しい。

今、中国人は、高齢者から若者まで、拝金主義と利己主義で固まっており、「人間が本来持っているはずの“将来世代に対する利他性” 」など、彼らには望むべくもない。国家の行く末など、誰も考えておらず、しかも国家を信用しておらず、すべての人たちが、「隙あらば外貨を持って、国を逃げ出そう」としている。昨年の外貨激減は、その証左である。

中国のマンション住民には、当事者意識がなく、経済常識もない。中国人民には民主主義体験がなく、中国政府が厳しい情報統制を行っているので、中国経済の実態を知らない。メディアや学者は沈黙してしまっている。しかも中国政府は無責任バラマキ政策をやめようとしない。

今、中国を支配しているのは、「13億無責任体制」である。しかも、本来ならば、社会を正しい道に戻す役割を果たすべきモラルは崩壊してしまっている。

かくして、「借金大国の中国」は、間違いなく崩壊する。

                   
                                                                           
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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。