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「米国の為替操作国と中韓について」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「米国の為替操作国と中韓について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

私の経験則から申し上げますと、私は、
「人間は自らが強くなると、その自らの論理を他者に押し付ける傾向がある。
そして、その背景には、人間の持つ、欲得が存在している場合が多い」
と感じています。

人間の倫理観から言えば、
「強者は弱者を思う。
一方、弱者は強者を頼らず自力再生する」
ことが重要であると私は考えますが、実態はそうでないことが多く、それは、人間の集まりである国同士の関係の中でも見られます。

即ち、
「強者の論理」
がまかり通りやすい世の中になっており、人間は、そうした現実の中で、
「折り合いをつけながら」
生きているようにも思います。

さて、皆様は、
「基軸通貨」
という武器を現在、背景としている米国が、その強者の立場を利用して作っている身勝手なルールの一つをご存知ですよね?

米国は、
「為替操作国認定」
と言う極めて身勝手な国内ルールを作っています。
この為替操作国とは、米国において、外国為替相場(為替レート)を不当に操作していると認定された対象国を言います。

これは、米国財務省が年二回、連邦議会に提出する、日本を含めた米国の主要貿易相手国を対象とした「為替報告書(Semiannual Report on International Economic and Exchange Rate Policies)」の中で、対米通商において優位な立場を取るために、介入などで為替レートを意図的に操作している(輸出に有利になるよう通貨安に誘導している)と米国が認定した国のことを指します。

一般に為替操作国の認定は、米国の視点での一方的なものですが、その影響は大きく、実際に認定された場合は、二国間協議が実施されるほか、米国だけでなく各国(同様に貿易摩擦がある国)から通貨切り上げが要求されるケースも出てきます。

しかし、皆さん、
「為替レートを意図的に操作している国」
が対象となるのであれば、世界がよく知っている事象とすれば、例えば、
「1985年のプラザ合意」
などは米国が国際会議と言う場を通して、意図的に為替レートを操作した事態である訳であり、米国は、自らが為替操作をしていることを棚に上げて他国のことを責めていることになります。

これも、強者の立場を利用しての行為とも言え、世界は、
「現実との折り合いをつけながら」
米国の顔色を見てその対応方法を考えているようにも思います。

こうした中、今般、米国の財務省が発表した最新の主要貿易相手国の為替政策報告書では、韓国は4月に続き、「観察対象国」(モニタリングリスト)に含まれました。

韓国が懸念していた「為替操作国」への指定は回避されましたが、米国による通商圧力に引き続き直面することとなったとも言えましょう。

また、米国のトランプ大統領が「貿易報復」を公言してきた中国本土も韓国と同様に「観察対象国」とされており、こうした結果、今回の報告書で「為替操作国(深層分析対象国)」に指定された国はありませんでした。

尚、韓国と中国本土のほか、現在は日本、ドイツ、スイスなど5カ国が観察対象国となり、4月に含まれていた台湾は除外されています。

そして、現在、米国は対米貿易黒字(200億米ドル超)、経常収支黒字(対GDP比3%)、為替市場介入(対GDP比で買い越しが2%超)という独自ルールの3条件を適用し、毎年4月と10月に貿易相手国を分析し、議会に報告しており、この3条件を全て満たすと為替操作国、2条件を満たせば観察対象国に分類されるとされている中での決定が上記の中韓に対する決定です。

韓国は昨年4月、初めて観察対象国に分類され、トランプ政権発足後初の報告書となった今年4月を含め、4回連続で観察対象国になっています。

即ち、今回の報告書では、韓国は経常収支黒字がGDPの5.7%、対米貿易黒字が220億米ドルとなっており、2条件が対象となりました。

また、中国本土は3条件のうち、対米貿易黒字だけが条件に該当しましたが、黒字規模が巨額だという理由で観察対象国となっており、中国本土の対米貿易黒字は昨年7月から今年6月までで3,570億米ドルで、2位日本(690億米ドル)の5倍を超えていることが、強く意識されたようです。

こうした状況に対して、韓国国内では、
「米国が中国本土を為替操作国と指定する為、適用基準を引き下げれば、韓国も米中貿易紛争に巻き込まれるリスクがある。」
といった声までも聞かれるようになっています。

輸出立国である韓国は確かに主要輸出先である米国に本格的に睨まれると輸出は鈍化、その結果として、経済成長も鈍化し、甚大なる悪影響を受けるリスクを感ぜざるを得ないと思います。

しかし、中国本土は、
「米国は、人民元の国際化進展を意識すれば人民元高の進展は回避したいはずである。
一方、米国は貿易赤字を意識した場合、人民元高を誘導したいはずである。
よって、この両面を解決する回答は見出しておらず、例え、米国が中国本土を為替操作国に認定したとしても、為替レートをいじって中国本土に圧力をかけてくることに関しては自ずと限界がある」
と見ているようで、米国のひとりよがりの為替操作国指定に対しては韓国ほどの危機感は示していないものと思われます。

さて、今後、如何なる展開が見られましょうや?
注目されます。


真田幸光————————————————————
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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