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「中東情勢と米露について」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「中東情勢と米露について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

中東、そして、欧州地域でも、ISをはじめとするイスラム過激派の動きが沈静化の傾向を示し、一部で安心感が出ています。
特にテロの脅威が下がるであろうと期待する欧州にとってはこうした動きは好ましいことでありましょう。

しかし、ISの動きが鈍化する中、対極にあるシリアのアサド政権の動きは再び活発化する可能性がありましょう。

そして、そのアサド政権のサポート姿勢を示すロシアのプーチン政権は、
「シリアと北朝鮮に関しては、米国とロシアの立ち位置は異なる」
との姿勢を鮮明にしつつ、動き始めており、日本としても気にかかるところです。

こうした中、東京銀行の大先輩からは、
「シリア内戦:最悪の事態が来るのは、まだこれからだ」
と題するコメントを少し前に頂戴しました。

その内容を箇条書き形式にて以下に列挙させて戴いた上で、僭越ですが、私の見方を加えていきたいと思います。

1)イスラエル政府のジェット戦闘機が、シリア・アサド政府の軍用施設を空爆した(イスラエル政府はこの事実を否定しているが)、その直後、シリア政府の防空ミサイルによって撃墜されたことで、シリア内戦は、イスラエル、レバノンに飛び火し、情勢は一層エスカレートして来ると思われる。

そして、真田の見るところ、イスラエルが関与したことから米国・トランプ政権も関与、これにより、ロシアもこの問題にコミットしてくるものと思われます。

2)イスラエル政府が狙っているのは、アサド政府軍の軍用施設である。
この軍事施設には、アサド軍支援のため参加しているイラン革命防衛隊ならびにレバノンのヒズボラが駐屯していて、ここの軍事施設からイラン軍は、無人機ドローンで、イスラエルを攻撃していると言われる。イラン政府はこの報道を「全く馬鹿げている」と否定しているがーーー。

真田は、ここに更にイランが関与することにより、核開発もしている可能性があるイランを敵対視してきたイスラエルの動きはさらに過激化する、そして、場合によっては、イラン対応に関しては、ロシアは米国の動きを見過ごす、或いは局面によってはサポートするかもしれないとも見ています。

3)イランもヒズボラも、イスラエルにとって不倶戴天の敵であるが、
4)アサド政府軍とイラン軍は、シリア反体制派との戦闘に勝利した今、長年に亘りイスラエル政府が占領して来ているシリア国境近くのゴラン高原を攻撃目標にし始めたと言われる。

真田は、「敵の敵は味方」的な動きを止めない中東諸国の動きは事態を更に複雑化させており、また、ロシアはこの事態複雑化をむしろ対米交渉の中では巧みに利用しているとも見ています。

5)この戦闘には、レバノンのヒズボラも参戦していると言われるが、イスラエル政府が占領しているこのゴラン高原こそ、ヒズボラにとって故郷なのである。

6)ISがほぼ殲滅し、反シリア政府軍も力を失って来た今、シリア内戦は、新しい展開となって来て、シリア国内だけにとどまらず、レバノン、そして、イスラエルに拡大して行く可能性が出て来たのである。
真田はこうした事態に対して間違いなく米露が複雑に関与してくるものと見ています。

7)ヒズボラは、イランによるミサイル攻撃の支援を受け、テルアビブやハイファなどイスラエルの都市への攻撃態勢にあると言われる。

真田はイスラエルの反撃は必至、そして、その際には、イランをも意識した動きとなるものと見ています。

8)一方、シリア北西部アフリーンに居住するクルド人民防衛隊(YPG)への、トルコ軍による攻撃は、収まる気配がない。YPGは、エルドアン大大統領による「オリーブの小枝作戦」に対して必死の抵抗を続けているのである。

真田は、トルコのエルドアン大統領がこうした動きをとることについて、イスラム勢力の賛同を必ずしも得ていない、特にサウジアラビア国王はエルドアン大統領に対して不快感すら示していると見ています。そして、シリア問題にこのようにトルコも関与することによって事態は益々複雑骨折化しているとも見ています。

9)嘗てはアサドの敵であったシリア自由軍(FSA)も、今ではトルコ軍に力を貸している。この戦闘で多くの住民は命を落とし、また難民となって放浪を余儀なくされている。

真田は、シリア国内の混乱は収まらず、常に泣いているのは一般市民と感じています。

10)そして今や、NATO加盟国同士の直接対立の危険性が出て来た。米国政府とトルコ政府との衝突である。
米国の中東戦略の支えの一つであったトルコと米国の関係が悪化すれば事態は更に収拾しにくくなると真田は感じます。

11)米軍は、ISとの戦闘でこれまで、シリア国内のクルド人を使って来たが、トルコのエルドアン大統領は、このことで怒り狂っている。

12)米軍はまた、シリア北東部に、多くの防衛基地を建設している。アフリーンへのトルコ軍による攻撃には米軍は、今のところ、介入を避けているが、トルコ軍が今後、シリア北東部に軍を進めて来る様なことになれば、米軍と正面衝突する事態になる。

真田はこうした事態となると米国の中東戦略はいよいよイスラエル一本となり、オールターナティブが狭まると見ています。

13)米軍の爆撃機は、シリア北部に出て来たアサド同盟軍に対して、空爆を行っている。この地域は、ラッカからISが撤退した後、米軍/クルド軍が押さえているのだが、ここは、原油、天然ガス地下資源が豊富な地域であり、それだけにアサド政府が緊急に必要とする地域なのである。

14)アサド政府は、この地域に、親アサド軍を送り、米軍に対する攻撃を仕掛けようとしているのである。
米国とシリア・アサド政権との対立の構図が再び顕在化、ロシアも出てくる可能性は高まろうと真田は見ています。

15)さてここで、ロシア政府は一体、どうしようとしているかが、問題になって来る。ロシア政府はシリアにおいて、2015年9月30日にシリア内戦介入以来、軍事的にも政治的にも大国としての勢力を保持していて、今後ともこれは、変わらないと思われる。

16)国連によるシリア和平会議とは別にプーチン大統領は、カザフスタンの首都アスタナでのロシア、イラン、トルコ三国による休戦会議を行い、休戦地帯を設定しているが、イスラエル政府では、「イランがシリアに力を拡大して来る」のを見て、イラン政府への疑惑を深めている。

17)さてこれからどうなるのか?

18)トルコの「オリーブの小枝作戦」についてプーチンは、エルドアンに事前了解を与えていたと思われるが、この攻撃は遅々として進展せず、先行きは見えて来ない。ロシアとしては何とか、形を付けたい所であるが。

19)一方、米国には、今もって何ら“シリア戦略”なるものが見えて来ない。ただただ、シリア国内に米軍を駐留させているだけである。

20)イスラエル政府は、自国の安全保障上、今では、ロシア政府など信用していない。「イランやレバノンのヒズボラがイスラエルを攻撃して来るのをロシア政府は、引き止めることが出来ない」と思っているからである。

21)また最近、プーチン主催になる「ソチでのシリア和平会議」も頓挫してしまい、今ロシア政府が依然として、しかし“おっかなビックリで”やれることといえば、アサド側に立って、空爆を続けることくらいである。

22)さて、シリアのイドリブ県は、反シリア政府軍にとって最後に残された軍事拠点である。このイドリブ県には、アレッポなどシリア各地から逃げて来たシリア住民が難民となって、その日を暮らしている。

23)イドリブ県は、アルカイダに近い戦士が支配していて、ここのシリア住民を抑圧しているのだが、数週間来、シリア政府軍とロシア空軍が、このイドリブ県をへの空爆を続けていて、2月初め、ロシア軍とシリア軍が、カフランベル(Kafranbel)の街で最後に残った病院の一つを空爆、この空爆には毒ガスが投入されたと言われている。

24)シリア政府軍とロシア空軍の空爆は、イドリブ県だけにとどまらず、反政府軍が支配している首都ダマスカス近郊の東グータにも加えていて、病院も破壊され、先週の火曜日以降に限ってみても、200人以上が命を落とし、400,000に及ぶ住民が、口にするものもなく状態に追い込まれている。

25)本来は、イドリブ県も東グータの街も、昨年のロシア・イラン・トルコ三者が「戦闘休止地域」に合意した地域なのであるが、ロシアもイランもトルコも、そんな合意など見向きもせず、皮肉な冷笑を浮かべているだけである。国連は、「あそこは、“戦闘休止地域”なんてものでななく、“戦闘エスカレーション地域”である」と喝破している。

26)シリア難民の数は益々増えて来ている。彼等は今、嘗ての「地中海を越えてヨーロッパへ」ではなく、国境を越え、厳冬の厳しい寒さの中、トルコ国内へと逃げている。

そして、こうしたことを前提として、中東情勢は、当事者たるイスラエルもイランもシリアもトルコもサウジアラビアも自国の権益を主張、またこれに乗る形で米露も自国の利益につながる勢力を支援しようとし、事態を更に袱紗させていると思われ、
「IS問題は沈静化している。」
との状態の背後で、
「中東情勢はむしろ更に複雑化している。」
としか、私、真田には思えてなりません。
果たして、こうした中、国際社会の中で、
「漁夫の利」
を得るのは、
「中国本土」
でありましょうか?

今後の事態を注視したいと思います。


真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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