[ 特集カテゴリー ]

「最近のネット話題現象から眺める中国」(高田 拓)

「高田拓の中国内部レポート」
第9回「最近のネット話題現象から眺める中国」

高田 拓(山東外国語職業学院終身名誉教授)

今回は、中国のネットで話題になっている社会現象から中国を眺めてみよう。

1、最近覚えた中国語がある。「巨嬰」:大きな赤ちゃん
意味:自分では何もしようとせず無理な要求を、まるで赤ん坊のように大声で喚きたてる大人。

この中国語を覚えたのは1月24日成田空港で起こったLCC格安航空を利用した中国人旅行客の騒ぎだ。上海が大雪のため飛行場が閉鎖され欠航した。この便の乗客が食事や宿泊の提供を求め騒ぎ立て、職員にけがをさせ、大声で中国国家を歌った事件だ。中国大使館員が弁護士と共に現場に駆けつけた事件。日本でも報道されているので、知っている方も多いだろう。

最近、同じようなトラブルがシリアやテヘラン空港でも起きた。喚きたてて言うことを聞かない中国人に大使館が怒った。
「一群“巨婴式”游客不听劝 中国驻外使馆“怒”了」

こうした結果、三ケ国にある中国大使館が共同で声明を出す羽目になった。
(1)LCC格安航空は、そもそもこうしたサービスが提供されないものだ。航空券を買うときによく理解して買え。
(2)突発的なことが起こっても理性的に相対し、大使館を煩わせるような法的な紛糾を起こすな。

中国ネットで大きな話題になっている。多くのネットの意見は冷静で、騒ぎを起こした中国旅行客を「巨嬰」といって非難している。日本人に差別的な扱いをされたのではない、といった論調である。日本の事でも、やっと正常に反応するようになった。

ネットで「巨嬰」を調べると、幼児教育の過程で周囲の大人が、なんでも言うことを聞いてくれ「何もできない、自己中心的」となり、さらに「かたくなな分裂症」の精神状態で、そのまま大人になった人を指す言葉としている。

この他にも、バスの中で座席を譲らない女性に腹を立て、「自分は老人だ、なぜ席を譲らない」と暴力をふるい怪我をさせた事件も起きている。

これはなにも中国だけの話ではない。日本にもこうした「巨嬰」が出現している。
コンビニで店員に無理な要求を大声で喚きたて土下座を強要した事件、もう退職しているのに以前の地位が忘れられず、周囲の人間をまるで部下のように使おうとし怒鳴り散らす人である。

2、「無現金」都市、「新小売」の登場:
時代の流れは急速にスマホでの支払いになってきた。

IT企業と連携し、杭州、武汉、福州、天津が打ち出した「無現金のスマート都市宣言」、IT大企業、スーパー業界の「新小売」、例えば、阿里巴巴傘下の「盒馬鮮生」など、人民元を全く使用しないといった「無現金」の動き。

こうした状態に、人民銀行は声明を出した。
「人民元は中国の正式な法定通貨である。いかなる人も、企業も現金での支払いを拒絶することはできない。現金拒絶は違法行為だ」
また、
「無現金をスローガンに用いてはならない」 

実際、筆者も昨年6月中国に行って経験した「無現金」は衝撃的だった。
街中の大衆レストラン、昼食は自分で料理を選び、食べるのだが、支払はすべての客がスマホだ。なんと現金では支払えない。そばの人に頼んでスマホで支払ってもらい、現金をその人に渡すしか方法が無かった。

もう若い都市住民はスマホでのネット購入、街中での購買にスマホで支払う、財布を持ち歩かない、偽札の心配もない、タクシーもスマホで割安、というのが常識・常態となっているのだ。
逆に中国スマホを持たない海外旅行客は非常に不便になった。

3、WeChat(微信)、「添加朋友」、旅行青蛙
意味:WeChat(微信)=日本でいうLine
最近、私は格安スマホを買った。息子から「時代に遅れるよ」の一言で買った。上記の中国の「無現金」状況も購入の動機だ。

購入したのは中国深圳のIT先端企業「フアウエイ(華為)」のP10lite、FREETELのデータ定額プラン。屋外で動画を見ない限り結構費用が安い。

(1)中国の微信WeChatのアプリを早速入れて、中国の友人と交流を始めた。
入力方式をいろいろ選べて便利だ。ピンイン入力、手書き入力(中国語・日本語)写真、絵文字・……。でも打つスピードが彼らと断然違っていて慣れるまで大変だ。
また、もう一度中国語を学習する必要が出てきた。

この情報を中国の友人に伝えたところ。一気に「友人申請をしたいのでユーザー登録番号を教えてくれ(添加朋友)」といった依頼が舞い込むことになってしまった。

私は頻繁にくるWeChatで煩わされることは好きではない。日本でも友人との会食で、頻繁にスマホを覗き込んでいる人がいる。本人は気付かないかもしれないが、私は同席者に対し、大変失礼な行為ではないかと思っている。

これは会社で厳しく躾けられた、躾けたことである。
会議中に突然携帯の呼び出し音が鳴り響く、あわてて会議室を飛び出していく幹部社員。電話を終えて会議室に戻ってきたら、総経理(社長)から「もう会議に出る必要はない。出ていきなさい」と大目玉である。

折角、得意先のトップが会ってくれる。そのとき、携帯が鳴り響く、その間、商談は中断する。相手は忙しい時間を当方に割いてくれているのに、大変失礼な行為である。 

なんとなく、日馬富士のスマホ乱打事件の心境が見えるような気もする。スマホのマナー教育は必須、ということで、特定の友人を除き、従来通りE-meilを使用してくれ、という羽目になった。

(2)中国で人気沸騰している「旅かえる(旅行青蛙)」、アプリを入れた。
今までのゲームソフトと全く違った落ち着いた癒し系のゲームソフトだ。
旅支度をしてあげると蛙が好き勝手に旅行に出かけ写真を送ってきたり、お土産を買ってきたり、好き勝手に帰ってくる。こんな日本のゲームが中国人の間に爆発的に受けている。

カエルの行った旅行先の写真、お土産を見た中国人から、その場所や買ったお土産など、日本旅行の問い合わせまで出てきた。

4、「碰瓷」
意味: 磁器、最近では壊れたスマホを持って故意に人につきあたり,わざと落として、「お前が壊した」と言って、高い代償を請求する犯罪行為、日本でいう「当たり屋」。

中国、山東省の済南で、今年の3月13日赤信号を無視して道路を渡ろうとした老人がボランティアの女性交通指導員に遮られ、これに腹を立て女性を罵り始め、路上に押し倒した。さらに自分が非難されるのを恐れ、故意に自分も倒れ込み被害者を装った事件が発生した。

「老人推倒志愿者后躺地,被指碰瓷又坐起」で報道された。この一部始終がスマホで撮影されていてネットで話題になっている。

中国では倒れた人を助けたために、逆に加害者にされ、慰謝料や治療費を請求される事件が相次いでいる。中には組織的に目撃者を作り、監視カメラの無い場所を選んで犯行に及ぶといった手口まで出現している。

この背景には裁判で起こったある事件の判決が大きく影響している。
道路に倒れている老人を若者が助け起こし、病院に運んだ。その後この老人は、「若者がぶつかってきて倒れたのだ」と主張、裁判所が若者に治療費と慰謝料を負担させる判決を出したのだ。この裁判後、こうした事件が多発した。9ヶ月間でなんと149件も同様な事件が発生したのである。

この結果、老人が倒れていても誰も助けないという社会現象が起きた。
長春では、実際に体調不良で倒れていた老人を、なんと178人もの人がそのまま通り過ぎ、誰も助けないという事件が起こった。また交通事故に遭った幼女を誰も助けない、知らんぷりをして通り過ぎるという不毛の事態が起こっている。

悪判例が引き起こした社会現象だ。現在では、人助けも、周囲の人を証人にしなければできないような人心を寒くするようなことになっているのだ。

本来中国人はおせっかいである。これは良い意味で他人に関心を持っている世話好きな親切な国民性である。

///////////////////////////////////////////////////////////////

■高田 拓氏(曲阜師範大学、斉魯工業大学客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授)

1967年福島大学経済学部卒業、同年4月松下電器産業(株)入社。1997年松下電器(中国)有限公司に北方地区総代表として北京勤務、
2001年華東華中地区総代表として上海勤務。2002年松下電器産業(株)退社、同年、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル(株)顧問
2009年中国各地の大学で教鞭、2012年山東省政府より外国人専門家に対する「斉魯友誼奨」受賞。
曲阜師範大学、斉魯工業大学の客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授。
現在、現場での実例を中心に各団体、大学、企業のセミナー講師を務める。