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「朝鮮半島情勢をめぐる懸念」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「朝鮮半島情勢をめぐる懸念」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

私はどうしても昨今の朝鮮半島情勢が気に掛かります。
私が認識している朝鮮半島情勢を、整理して、以下に簡単に書きあげてみました。
巷で言われているものとは異なるかもしれませんが、以下が私の見方です。

朝鮮民主主義人民共和国=北朝鮮の建国の祖である金日成元初代国家主席は、そもそも抗日パルチザンであったが、マルクスレーニン主義をよく学び、旧ソ連軍の事実上の配下に入り、抗日活動で実績を上げた。
そして、第二次大戦後、旧ソ連と連携をし、北朝鮮を建国、初代指導者として国家運営を始めた。

そして、その金日成元国家主席の遺志を次ぎ、金正日前主席、金正恩現委員長も旧ソ連の後継である、
「ロシアとの基本連携」
の姿勢を原則としては崩していない。

しかし、旧ソ連の崩壊と共にロシアからの対北朝鮮支援は減り、ここで北朝鮮は中国本土からの支援を受けるようになる。
中国本土としては、ロシアの北朝鮮に対する利権を奪取すべく、支援外交に出たわけである。

然るに、北朝鮮はロシアとの連携姿勢を基本的には崩さず、中国本土にはなびかないでいる。
そして、今回の米国からの圧力を受け、北朝鮮に非核化を求めたディールに於いても、北朝鮮は、こうした中国本土の要請には基本的には応じなかった。

これを受け、中国本土人民解放軍は米軍との連携による、
「北朝鮮の金正恩斬首作戦」
を示唆するようになり、朝鮮半島の軍事的脅威が高まる。

ここで、北朝鮮はロシアにアプローチ、ロシアのプーチン大統領は米中に圧力を掛ける。
しかし、米中とロシアの国力の差から、ロシアの圧力は限定的であった。

ところが、ここで、北朝鮮とロシアに神風が吹く。
親イスラエルを掲げるトランプ大統領に対して、イスラエル政府が、北朝鮮の核脅威よりもイランの核脅威が問題であるとの認識を伝える。

こうした状況を見たロシアのプーチン大統領は、すかさず、米国・トランプ大統領に対して、
「シリア問題では譲れないが、イラン問題に関しては協力することやぶさかではない」
との姿勢を示す。

これを受けて、トランプ大統領は、一旦、北朝鮮問題から手を引き、イラン問題に集中する。
そして、トランプ大統領は、エルサレム首都容認宣言を発し、
「トランプ政権はイスラエル政府と一枚岩である」
ということを内外に示しつつ、更には、昨年末より、イランにCIAと見られる部隊を送り込み、イラン国内での反政府デモ活動を支援、これが拡大し、イラン問題に一定の楔を打ち込む。

そして、歴史と宗教、文化などが複雑に絡む中東問題よりも先に歴史が浅く構図が単純な北朝鮮問題を、先に決着をつけるという姿勢を再び強める。

こうした流れを受けて、一時は、
「平昌五輪、パラリンピック以降の米中による金正恩斬首作戦実施」
のリスクが再び強まることとなる。

これを受けて、ロシアと北朝鮮は、
「朝鮮半島問題の民族自決化ムードの醸成」
を念頭に、その出自が北朝鮮に近い韓国の文大統領を上手に取り込みつつ、平昌五輪開会式、閉会式での、
「南北融和」
の下地を見事に演出、国際世論が、
「民族自決による南北融和」
に対する支持に傾き、特にこうしたムードが欧州を中心として高まる中、韓国特使を通した、
*南北首脳会談
*米朝首脳会談
の提案を北朝鮮から行い、特に米国に対して、これを拒否しにくい国際環境を作って、今日に至っている。

こうして見ると、ここまでは、ロシアが、北朝鮮・シリア問題に関して、明らかに米国を上回る作戦で展開してきていると言え、また、だからこそ、北朝鮮の恨みをシリアで取り返すが如く、米国は特にシリア問題では必要以上に親ロシアのアサド政権を非難し、反ロシアの国際世論を、昨今のスパイ惨殺問題も絡めて拡大し、欧州各国も巻き込みながらロシア叩きに入っているとも見られる。

しかし、こうした中、ロシアは、更に南北朝鮮に対して、
「米中の顔色を見て国家運営をするのではなく、自立をせよ」
とのキャッチフレーズの下、南北朝鮮に対して、
「天然ガスのパイプラインの釜山までの敷設(中国本土領内を通さずとも敷設可能)、サハリン、シベリアのインフラ開発ビジネスの権利を一定程度南北朝鮮に付与する」
ことを示唆、南北朝鮮の取り込みに余念がない。

こうした中、北朝鮮はもともと、
「非核化」
には賛成の姿勢を示していた国であること、但し、リビアのカダフィ大佐の最期を見て、核保有国に一旦なり、その後は、北朝鮮だけではなく、国際社会全体の核放棄の動きに協力するとの意味での「非核化」という基本姿勢を保ちつつ、米朝会談に臨む、或いは、一旦、非核化を受け入れても押しもどす可能性が極めて高い。

従って、
「米朝首脳会談の、非核化に向けての前提条件が5月までに整うのかは慎重に見極める必要がある」。

一方、
「南北首脳会談では、南北首脳が、休戦ではなく、停戦協定締結に向けた姿勢を示す可能性もあり、これが顕在化すると、国際世論が一気に南北融和に傾く。
よって、米国が大義名分を持って金正恩斬首作戦実施に打って出ることが更に難しくなる。
こうなれば、一旦地域の安定を前提として、一体一路構想の拡大に余念のない中国本土人民解放軍も米国との金正恩斬首作戦からは一旦は手を引き、むしろ、ロシアと連携しつつ、極東地域の経済発展への舵を切る可能性が出てくる。
先般の習近平・金正恩首脳会談はこうした可能性も議論したと見られる」。

こうして、今回の朝鮮半島問題は、シナリオライター・ロシア、主演俳優・北朝鮮の演劇の下、北朝鮮の核放棄は見られず、一旦、終結する可能性が出てきている。
そして、今般、ロシア・北朝鮮間のトップ会談(電話会談ベースも含む)による最終確認が行われようとしている。

…と言った見方を私はしています。
混沌の火種が残る中での動きとなりそうで、引き続き注視する必要がありそうです。

尚、このような認識を基にすると、日本が、米国から、俗に言う、はしごを外されると朝鮮半島問題からは、日本だけが阻害されてしまうリスクが顕在化するのではないかと私は懸念しています。

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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