[ 特集カテゴリー ]

「とてつもない楽観論が正しい」~(2) トランプ大統領をどう評価するか

武者陵司の「ストラテジーブレティン」vol.1
「とてつもない楽観論が正しい」
 (2) トランプ大統領をどう評価するか
〔第 8 回 東日本大震災復興支援 (5/12)、投資と未来を語る義援金セミナー講演録より〕
 
武者陵司氏((株)武者リサーチ代表、ドイツ証券(株)アドバイザー、ドイツ銀行東京支店アドバイザー)
 
■経済人は圧倒的にトランプ支持

現在の情勢分析の鍵は、トランプというとてつもない大統領をどう評価するかであろう。投資という観点からトランプ大統領をポジティブに評価できると考える。多くの専門家、メディアはトランプ大統領の経済政策を正当に評価してないと思える。

図表6に見るようにトランプ大統領が当選して以降、アメリカのビジネスマンの景気に対する見方は著しく楽観的になっている。CNBCの調査によるとウオール街のトランプ大統領の支持率はほぼ5割と非支持率2割弱を大きく上回っている。

メディアを通すトランプ大統領の評価とは別にアメリカのビジネス主体の評価は高いということである。トランプ大統領は経済政策を株価が上がるように、企業の経営者が儲かるように、という政策をしているからである。これは正しくなく、アメリカの将来の展望にとってマイナスであるという批判はあるが、短期的には著しくポジティブな要素である。

図表6:米国中小企業楽観指数


図表7:米国の企業開業率と廃業率推移

■規制緩和で起業家精神の鼓舞に成功

トランプ大統領が就任して一年間で実行した経済的措置は大きく二つあった。

その一つは規制緩和。オバマ政権の大きな特徴は理想主義であった。しかし経済をあたかも敵視するような政策をとった。その結果、アメリカのビジネスの開業が大きく低下して低迷している。

オバマ政権はビジネスとワシントンの垣根を作って、企業と政府の癒着を排除するというのが政策の柱であった。それは金融モラルハザードの抑制や環境面では評価できるが、経済活力という点では問題があった。

トランプ大統領の政策は悪く言えばビジネスとワシントンの癒着を強めるということで、それがビジネスセンチメントを改善させ、これから開業率も上昇してくると思う。アントレプレナーを大きく鼓舞するというのが、トランプ大統領の規制緩和の重要な目的である。

■空前の企業減税、企業の設備投資急増、自社株買い急増が株高を持続させる

経済政策の二つ目として昨年、レーガン政権以来、または歴史上最大の税制改革をした。野放図というほどの税制改革だが、それにより経済はより一層成長力を強めるというのは確実である。このように考えるとトランプ大統領は一年目において大きな成果をあげたと言ってもいいであろう。

■二年目に入り政策軸を経済から米国覇権強化にシフト

トランプ大統領が二年目に打ち出したイニシアティブは、経済は目途がついたので次は地政学。つまりアメリカの覇権の再構築である。アメリカの覇権を邪魔しようとする中国をいかに抑え込むかと一気に方針を変えた。

それに伴ってキャビネットが大半シャッフルされた。国務長官をティラーソンからポンペオに、国家安全保障問題担当大統領補佐官をマクマスターからボルトンに、そして経済の司令塔をゲーリー・コーンからラリー・クドロー、ピーター・ナヴァロに。タカ派、強硬保守派に全部入れ替えたのは中国を抑え込むためにと言っていいだろう。このままの趨勢だと世界の覇権国がアメリカから中国にシフトすると多くの人が思っている。

しかし、アメリカは絶対に認めないであろう。米中の対抗関係が起こっているのは明らかである。

世界4極(米・中・日・欧)のGDPの推移をみると、2008年に日中逆転、2016年に中国・ユーロ逆転が起こり、このままいくと2026年に米中逆転が起こる。そうなれば、中国は経済力でも軍事力でもアメリカを凌駕し、世界の覇権国はアメリカから中国に移る。

アメリカの現実的な危機があるという意識が急速に高まっていることは言うまでもない。米中逆転を許さないアメリカとして、中国の経済台頭を抑制するしかない。

図表8:米中日欧(ユーロ圏)の名目GDP推移

■中国の台頭を許さない決意、米中貿易戦争勃発の狙い

中国がここまで経済的に台頭できたのは、アメリカによる過大な関与である。分かりやすく言えば、ミルク補給。

アメリカの主要国別貿易赤字をみると2017年の対中貿易赤字は3757億ドル、アメリカ全体の赤字の約半分である。この規模は、日米貿易摩擦が盛んだった今から20年ほど前、日本の対米黒字がたかだか500~600億ドルだったことと較べると著しく大きい。

アメリカの中国に対する経常赤字はここ10年間、ほぼ2%弱で推移している。アメリカ全体の経常赤字は2.4%なのでほとんどの赤字は対中である。平たく言うとアメリカ人が一年間稼いだ所得のうち2%は中国に対して貿易赤字の支払いという形で所得移転が行われ、中国の成長をもたらしたのである。

ここを止めるということが米中貿易摩擦の最大の眼目である。中国が急激に対米黒字を積み上げることができたのはフリーライド、不公正な様々な通商慣行と産業保護政策を使ったからであり、アメリカはこれを止めさせるであろう。

アメリカのUSTR代表であるロバート・ライトハイザーは、日米貿易摩擦で日本をやり込めた当事者であり、その経験を使って今度は中国をこじ開け、押し込めようとしている。この先、日米貿易摩擦と似たようなことがおきるであろう。5年や10年の長期にわたって、そして多岐にわたって様々な交渉が行われる。様々な分野でアメリカから中国に対し圧力や制裁が課せられ威圧するであろう。

現在米中関係は片務的であり、中国は利益を受ける一方であるため、アメリカの要求はほぼ貫徹されるであろう。どのような制裁であっても中国とアメリカの貿易が遮断するよりは、それを甘受した方がいいというのが今の中国のアメリカに対する関係である。のらりくらりとアメリカの要求をかわしつつ、しかしアメリカが納得するところまで譲歩するというのがこれから何年も繰り返されるであろう。

図表9:米国の相手国別貿易収支推移


図表10:米国経常赤字(うち対中)/GDP推移

■中国封じ込めは成功する

最も重要な焦点はハイテクである。今は新たな次世代通信5Gの開発が、世界の将来のハイテク産業のリーダーシップを握るということで、大きな山場を迎えている。このハイテクに於いて、中国の覇権を許さないとアメリカは決意しているであろう。ハイテク覇権奪取計画である中国の「製造2025」計画を破棄すべし、ということまで米国は求めている。

それでは米国にどのような強制手段があるかというと、アメリカのドルの使用禁止によって中国は破局する。しかしそれは宣戦布告と同様であり、可能性は低いであろう。

もう一つは、ZTE(中興通訊)に対してアメリカが打ち出した政策は、不当なイランに対する輸出をしたペナルティとしてアメリカ企業と7年間取引を禁止するといことが決まった。ZTEはスマホ用の半導体をアメリカのクアルコムから買っている。従って、スマホはもう作れなくなり、ビジネスは立ち往生する。同様の措置は世界最大の通信機メーカーファイウェイ(華為技術)に対しても検討されている。

このような劇薬をアメリカは中国に投与した。こん棒によって相手をねじ伏せるやり方を米中貿易摩擦でアメリカは行おうとしている。これがトランプ政権の政策でのやり口であり、北朝鮮、イランに対する対応も同様である。

これまでの紳士的なアメリカから金と力で威圧して世界をアメリカが望む秩序に作り替えるとういう方向にトランプ政権は行こうとしている。それは成功する可能性が高いと考える。理由はすでにアメリカの産業競争力が著しく強くなっているからである。

■トランプこん棒外交の背景に圧倒的産業競争力、経常赤字の減少

アメリカの企業はインターネット空間を支配している。そのようなアメリカ企業が海外で大儲けし、海外留保利益の合計は2015年で2.5兆ドル、現在は3兆ドルを超えているであろう。

この巨額の海外に於ける利益の蓄積は大幅なドル高要因である。アメリカの経常収支の赤字はこのところ過去ピークの8000億ドルから4000億ドル台へと大きく減少している。貿易赤字は横ばいだが、サービス輸出と一時所得収支の黒字が大幅膨らんでいるからである。

サービスと一時所得は大雑把に言えば、アメリカのテクノロジーのイノベーションがグローバルに稼いでいる利益である。今から十数年前はほぼゼロであった。それがアメリカの貿易赤字の半分を埋め合わせるまでに達している。従って経常赤字が半分になっている。

この趨勢があと7,8年続けばアメリカの経常収支の赤字が劇的に減少することはほぼ確実であろう。つまりドル不足の時代が来る。世界の覇権国のアメリカの通貨が強くなるのであるから帝国的にグローバルに対する影響力が強くなる。

トランプ大統領の政策には様々な評価がある。しかし、経済のイノベーションや産業競争力に於いてアメリカが圧倒的に強くなっているという局面における、金とこん棒による世界に対する威圧というトランプ大統領の政策はパワフルであり、当面大きく成功するであろう。従って世界的株高はまだ続くであろう。

図表11:米国企業海外留保利益の推移


図表12:米国経常収支とその内訳(貿易・サービス・一次所得収支)推移

■対中政策の最重点、人民元切り下げ禁止

アメリカが中国に対して求めているものは3つほどある。一つ目はフリーライドの阻止、ただ乗りを止めさせ、ハイテク覇権をあきらめさせる。二つ目は国内の市場開放、三つ目は人民元の切り下げを絶対に許さない。であるが実はこの三つ目が市場にとって一番重要である。そうなるといずれ中国の貿易黒字が劇的に減少する。

中国湾岸部の賃金は今やどのアセアン諸国よりもはるかに高くなっている。ハイテク分野においては技術者の所得は日本より中国の方が高いと言われるほど、中国は高給国化した。よって人民元を切り下げてはいけないとなると、輸出競争力は大きく落ちる。すでに中国の貿易黒字はここ数年年率20%程の大幅減少を続けている。

数年後には中国の貿易黒字が激減し、経常赤字国に転落する可能性がある。そうなると中国に投資している巨額の海外資本に流出圧力が高まる。外貨不安が再び台頭し、どこかの時点で人民元が大暴落をするであろう。それは国内でのバブル崩壊、金融危機と同時におこると想定される。3年後、5年後、いずれかおこる。そうなるまでアメリカは中国の人民元の切り下げを絶対に許さないであろう。

米国の最後の切り札はドルの使用を凍結させる、或いはハイテクの中心である半導体の供給を止めるなどの劇薬投与であるが、そうなる前に中国は自滅していくのではないか。米中経済逆転は絶対起こさないという点でトランプ大統領の金とこん棒の政策は成功すると考える。

図表13:割高化した中国賃金


図表14:減少する中国貿易黒字と輸出入前年比伸び率

(続く)

 
////////////////////////////////////////////////////////////////////////
 
■武者 陵司
1949年9月長野県生まれ。1973年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券(株)入社、企業調査アナリスト、繊維、建築、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て、1997年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト。2005年副会長就任。2009年7月(株)武者リサーチを設立。
 
■(株)武者リサーチ http://bit.ly/2x5owtl