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「とてつもない楽観論が正しい」 (3)新産業革命と、日本の二つの優位性

武者陵司の「ストラテジーブレティン」vol.3
「とてつもない楽観論が正しい」~
(3)新産業革命と、日本の二つの優位性
〔第 8 回 東日本大震災復興支援 (5/12)、投資と未来を語る義援金セミナー講演録より〕

武者陵司氏((株)武者リサーチ代表、ドイツ証券(株)アドバイザー、ドイツ銀行東京支店アドバイザー)

◆新産業革命、適切な政策が大株式ブームを引き起こす

■劇的生産性の上昇で利益増加、低インフレ・低金利が起きる

新産業革命は生産性を劇的に高める。その結果企業はより少ない金と人で儲かるから、企業利益は増える。他方で、儲けたお金の使い道がないので金利が上がらない、或いは人が余っているので賃金も物価も上がらない。不思議に企業が好景気で儲かっているのに物価も金利も上がらないということがおこっている。この問題で何が必要かというと、余っているお金と人を使って、有効需要を作ることが必要となる。

そのような政策を打ち出した時にはマーケットは大きく上昇すると考える。アベノミクスもトランプ政権の大減税もそのような有効需要政策であるから株式市場は肯定的に反応する。

■正しい経済政策が必須、株式市場は企業利益還元の場に

この状況の中では株式市場の役割が劇的に変質する。少し前までの株式市場の役割は産業資金の調達の場であった。しかし今はアメリカの株式市場の役割は企業利益の株主に対する還元の場となっている。企業は5%の益回りを獲得し(株価に対して5%の利益を得)、これを配当で2%を株主に払い、3%から4%の自社株買いで市場に還元する(=株価上昇となって株主価値が増加し、家計の富が増える)。

つまりもうけを100%はき出す場が株式市場なのである。株式市場が機能することによって企業の儲けが社会的に還流している。だからアメリカ経済は回って、家計は消費できるのである。産業革命は株価を大きく押し上げる社会現象である。

図表15:日米の企業利潤率と利子率の推移


図表16:米国株式益回り、配当、バイバック社債・国債利回り

図表17:米国非金融企業の資金調達の推移

図表18:米国家計の資産・債務・純財産の推移

◆日本、顕著となる二つの優位性、地政学と国際分業

日本が確立した国際分業上の優位性、技術品質で無数のオンリーワン領域を確保日本の優位性が大きく高まる時代が来たと考える。企業利益が史上最高である。韓国、中国、台湾に美味しいハイテクビジネスの中枢(半導体、液晶、パソコン、スマホ、TVなど)を大きく奪われた。またハイテクサイバー空間、インターネットのプラットホームはアメリカが支配している。

一見日本は負け組に見えるが、なぜ史上最高の利益をあげているかは、日本企業は世界他の国が作れないオンリーワンの領域をたくさん作って、独占的なビジネスをしているからである。

今はハイテクの中枢は大変な激戦区であり、半導体や液晶は中国、韓国、台湾が投資をして、恐らく価格は大暴落するであろう。その周辺はそれらの国は作っていない。従って、日本は有利なポジションにいる。

図表19:空前の企業収益(営業利益/GDP)


図表20:日本企業の新領域

■希少性で優位、為替フリー、摩擦フリーに

今、ハイテクをめぐって、韓国―中国、台湾―中国、ドイツ―中国の競合関係は強まっている。またインターネットのプラットホームは米国企業に対し中国のアリハバ、テンセントが挑戦状をたたきつけている。

しかし、日本と米国は言うまでもなく、中国との競合もほとんどない。なぜならば、中国がハイテク化しようとすると、日本の設備や部品や材料が必要であるからだ。日本は著しく有利な国際分業上のポジションを得ている。このような国際分業場の優位性が日本の企業収益の大幅な増加を支えている。

この間、日本の経済は為替フリー、貿易摩擦フリーということがおころうとしている。例えば、今回のトランプ政権による鉄鋼・アルミの関税で日本も対象になった。日本企業が慌てていないのは、日本が売っている鉄鋼・アルミは価格で売っているのでなく、日本にしかないクオリティで売っているからである。

相手は日本から買わないわけにはいかないので、円高になっても、関税が上がっても、そのコストを負担するのは相手の需要家である。日本の全てのビジネスにこの傾向が広まっている。価格競争で生き残っている産業は日本にはない。非価格競争力、技術・品質である。日本経済が到達した、価値を作り出すメカニズムは歴史的であり、世界最高の中身をもっている。

図表21:拡大する日本企業の海外投資


図表22:経常収支黒字国比較 ~ 日本の一時所得収支は大幅な黒字

■圧倒的グローバルサプライチェーンの確立、巨額の一時所得収支の背景

主要国の経常収支の内訳をみると、経常収支黒字国のうち日本以外の国の黒字は貿易黒字である。相手国の雇用を奪って黒字をあげているのは中国、ドイツ、韓国、台湾、スイスである。日本だけ、黒字のほとんどが第一次所得収支である。つまり、海外で工場をつくって、営業して稼いだ黒字である。従って、日本の黒字は海外で雇用をした結果生まれている黒字である。

日本は世界の中で極めてまれなグローバルサプライチェーンの確立によって、為替フリー、貿易摩擦フリーの仕組みを作っており、その背景にあるのは圧倒的な技術と品質優位である。これが平成の後の時代に日本の経済と株価を大きく押し上げる最大の推進力となっていくのである。

■米中対決で日本の地政学的立場有利に

世界覇権をめぐって米中対決が本格化しつつある。その中で日本の立場は、著しく有利に。日本が米国につくか中国につくかで米中の覇権争いの帰趨は決まる。米国にとってイギリスやイスラエルなどの伝統的同盟国よりも日本が重要になってきている。

強い日本経済、中国に対抗できる強い日本経済は米国国益に直結するということである。ジャパンバッシングの円高や貿易摩擦は起きようもない。それは日本の国際分業上の優位性をさらに強めるものとなるだろう。

このように見てくると、人生100年、日経平均10万円という展望は希望的観測などではなく、最も可能性の高い将来図なのだということがわかろう。

 
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■武者 陵司
1949年9月長野県生まれ。1973年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券(株)入社、企業調査アナリスト、繊維、建築、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て、1997年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト。2005年副会長就任。2009年7月(株)武者リサーチを設立。
 
■(株)武者リサーチ http://bit.ly/2x5owtl