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「自分磨きを『学び直し』で楽しむ」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(41)
「自分磨きを『学び直し』で楽しむ」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆ベテラン層研修に診るおかげさまづくり
 
ベテラン社員クラスの研修は勢いがある。
担当部門とのパートナーシップを生かした支援指導は、2つの柱。それは、現在の職責で最高に活躍することによる「おかげさまづくり」と更なる強さづくりを楽しむことである。

それは人生100年時代に向けて、単に息しているだけの寿命が延びるだけでなく、存在感を得て、お役立ちで生き続けるための蓄えだ。いき(し)ている、いきている(し)の文字が一字はいる違いだが(し)とは存在感ないことを意味する。

要は、生涯にわたってどれだけ「寄って(頼って)きてくれる人」になり得るかである。まず、受講者の活躍ぶりから2つの柱について確認してみよう。

①現職の貢献で「おかげさまで」と感謝される施しを楽しむ
それは経験値・経験智(経験による智恵力)を生かして、企業、上司、後輩に対しての施しである。具体的には、
*専門力を活かした新たな業務に貢献する(新しい、初めて、独自のものへの関与)
*経験智を生かした、仕事の改善(創意工夫)を実践
*事実データーに基づき、組織での難しい案件の解決に貢献する
*自身の分身を宿す技能継承の実践
*後輩管理者への補佐、支援に貢献する
*職場の活性化、風土改善にオーラのある言動
*ハイテク技術を生み出す暗黙知の究め
等があり、「おかげさまの」感謝と足跡を残す活躍ぶりが良い。おかげさまは施した相手から生涯に渡って寄ってきてくれる、そして語り、語り継がれる財産である。

②将来に向けての決め手(頼られる専門力・人間力)を磨く
自信と誇りを持って蓄えてきた潜在能力をより高めることである。具体的には、
*専門力(技能・技術)の向上(幅広く、深耕・新鮮)の啓発と学び直し
*趣味・特技の究め(作品制作レベル・指導者の素地づくり)
*社会性に富む対人関係力(職縁+新縁作り)
*社内外の活躍の基本スキルである話力の修得
である。

一言で表現すれば、先輩から受け継いだ業務に工夫と改善を加えて進化させてきた今日までの活躍に、自信と誇りを持ち、加えて今後に向けての自分磨きの現状である。よく言われる「いまさら感」はない。むしろ息吹を彷彿させる。
 
いかがであろうか。メーカーでのベテラン社員層の一例であるが、業種、職種が違えども共通事項は多い。もし違うとすれば、現職での活躍に悲観的であり、ここまでの活躍評価を自ら醜態化させているに過ぎない。それは俗に世評化される「肩書・権力がなくなり、手当も減り、部下が上になる、頑張れといったってそりゃー」と自身を粗末にした慰め感である。こんな死事(気持ちが入らないことへの向かい方)は実にもったいない。

◆新たな学びによる年輪を刻む
 
現状維持は退歩する。時の流れの変化はその退歩の幅を増幅させる。古い、通用しない、レベルの劣化が伴うからである。

ならばどうする。それは自分磨きを怠らない、学び直しを加味していくことである。

木は年輪を刻む。それは新たな目的・目標を創り(志ざし成そうとすること=志事))、達成していく活躍ぶりである。目標とは今できてないこと、達成とはできたことであり、そのプロセスは新たな学びにより創出される智恵の実践の実りだ。

この実りは年輪となり幹は一回り大きくなる。勿論幹を支える養分を供給できる根が肥えてなくてはならない。学びの肥料がここにも施される。肥える土なくして、根が張り、強い幹はできず、枝も出ず、花、実りはあるまい。「一生勉強」とはそういうことである。従来の隆々としていた木が、細まり、枯れ果てていくとしたら憐れである。

そこで着目したのが「学び直し」である。「学び直しとは」以前に学んだものをもう一度学ぶことであり、文科省では社会人の学び直しの推進策も設けている。ビジネスマンが改めて大学、大学院で学ぶ事例は、小生の身近にも多い。
 
ここではこの実践はさておき、研修現場で交換される真摯に取り組んでいる学び直しを汲み取ってみることにする。それは従来から指導されなくとも、自ら身を以て蓄積してきた能力に、改めて付加した研鑽である。その研鑽例を4項に集約してみる。

①多面的思考に基づく提案の構築と伝える能力の学び
さすがの活躍には、従来の経験値(智)がベースとなる。それはKKD(カン・コツ・度胸)で闇雲に振りかざす活躍ではない。トラブル時でも分析による真因を掴み出し、改善策を施す。トラブルの真因のつかみ出しには多面的切り口での追求が欠かせない。だからこそ情報収集、調査への取組み。提案書としてまとめあげるには、身体での表現にプラスして話す、書く、画く等の伝えるスキルの新たな学びが必ず必要である。そこに身体を動かす行動力でなく、智恵力を生かした考働力を生かした活躍と伝えるスキル向上がある。

②「なぜ・どうして」の論理的説明力の学び
後継者への支援・指導でも単なる暗黙知で真似させることでは不十分である。だからこそ「なぜ。どうしての」という根拠・理由付けの説明、説得力が不可欠。そのためには、経験知をどうロジカル化するか、技術の専門知識についての新たな学びも必要であり、説明力の磨きも欠かせない。

②共に創作する継承方法のスキルアップ
暗黙知(技能)を形式知(技術)に転換して継承する手段にマニュアル化(標準書、手順書)がある。アナログからデジタル化である。この際、見えない現実を見える化する表現は言葉にすることであり、さらに言葉の限界(官能=聴覚、味覚、触覚、嗅覚、視覚)で正しく伝えることの難しさはビジュアル、オーディオの活用が必要である。
この技術は若手被継承者の優れた能力であることも多い。従って、どう協力願うかの引き出すセンスと活用の新たな学びが必要である。この磨きがビデオ、DVD化の共同製作へと推進していく。

④ハイテク化への貢献はIT専門家との意思疎通力を磨く
ハイテク,AI化その元は熟練者の暗黙知である。身体・官能を要素分解、分析し機械化、メカトロニクス、・デジタル化に転換していくことである。鉄鋼業では、匠の最高称号である「宿老」の作業(動き・官能)を分解・分析しシステム化した事例もある。この場合でも、熟練者がIT化専門スタッフの意図を正しく理解し、正しく伝える力が肝腎である。
 
今日まで組織発展に貢献し、学び直しによる自分磨きが、今後の伸展にもさらなる貢献ができる、こんな意義あることはない。この誇りは、将来の楽しみ作りの存在的財産としての原石である。原石とは、今後どう加工し、磨きをかけ、応用力として付加価値を生み出す元である。

◆生涯現役に向けた学び直しの楽しみ

あの人「いてくれるの」「まだいるの」どちら…。前者であれば生涯にわたって活躍できる生涯現役の人である。勿論活躍の舞台〈働く場)・キャスト〈役割)は変わる。そこには頼って、寄ってきてくれる人が絶えないことである。どう対応するかの働き方は自身で決めることができる主体的立場でもある。

会社には定年があるが、人生には定年がない。100年の可能性は、お役に立てる機会を得て、自ら蓄えた能力を生かして楽しめることが条件である。
 
定年後どうする、50才からどうする、40才でどうする目に映る論客の提案は多い。いずれにしても「売れる力」なくしてそのときになっての得策はあるまい。
 
定年後の笑顔の人生は3Kである。それは、①健康、②経済、③決め手である。

ここでは決め手に着目してみよう。それは専門力、特技、人徳の柱立てである。

専門力は既に記してきたことであり、特技は働く傍ら続けてきた趣味の極めによるレベルである。指導、製作、演じる等で稼げる力量の確保と言える。稼げる決め手は、経済力の補填になるし、決め手の頼られる存在感は孤独、孤立に際悩まされることなく心身の健康には最も大事な要素である。周囲を見てみると現職時の経験を生かし、さらなる応用の術を学びなおしている人も多い。いずれにしても「売れる力」なくしてそのときになっての得策はあるまい。

受講者と交わす将来へ向けての居場所づくりに着目してみるとここでも「学び直し」に類した自分磨きの実践が次のようにまとめられる。

● 社内外教育受講・専門書購読・ 新設備設置時取説の理解と技術習得、不明点は専門スタッフに問い合わせて高める
・担当業務に関する資格、免許の取得・他人の意見を取り入れた能力向上
・変化対応の基礎技術の研鑽
・機器についての特性確認、初めてやる仕事は恥ずかしがらず訊く
・新たな整備に興味を持ち技術向上
・経験豊富な先輩、定年先輩から酒の席を生かして知識を得る
・故障箇所の分析診断の体得・職場内で月1回スキルアップ勉強会主催、指導、受講・専門分野の通信教育受講等
などの取組みである。
 
共通していることは、体得された能力(専門力、趣味等)を更に「どうして、なぜの論理的追求」である。それは幅広く、深耕させ、新たな要素の取り入れである。そのために、素直に訊く言動の実践、体系的な学び直しでの学習会や、資格取得への挑戦がある。

確認しておこう。売れる力は「何ができるか」「腕が良い」ことにプラスして指導力も不可欠である。そして、人物的魅力である。それは、技術の施し、提案、指導の貢献はこの人だから訊きたい、頼みたいと寄ってこさせる人物的影響力がまず前提条件だ。

だからこそ決め手の人徳がここに生きる。そして、理解、納得し、共感し自発的実践を促進するロジカルスピーキングは教え上手の不可欠なるスキルだ。

喜びを生み出す種を提供する機会を得て、指導により、相手が実らせた結果の「感謝のおかげさま」は生涯にわたって喜びとして味わえる幸福感である。「学び直し」は自ら求める学びであるから学びの効果は高い。蓄えた能力は誰にも獲られない。原石の磨きが更なる地力の向上となり如何様にも応用力として駆使でできる。
 
ベテラン社員にとっては、組織での現役を譲ることから得られるライフ・ワークバランス条件を効果的に活用したセカンドキャリア形成でもある。

◆新たな舞台で活躍する応用の学び
 
現職での活躍は業種、職種は様々である。周囲を見てみると現職時の経験、また特技等などさらなる応用の術を学びなおし、現役を謳歌している人も多い。例えば

*酸素関係企業で勤務していたSさんは70才、現在大学の研究現場で酸素関係に関する事項で教授のサポーター。
*中学校校長経験のKさんは80才、日本語に関する社会人講座で評判講師として活躍
*小学校校長だったOさんは家庭教育に関しての専門家として著述、教員試験を目指す学生への論文執筆の指導者として活躍
*大企業で経理部門を長年担当してきたKさんは小企業の財務顧問として社長の側近として活躍
*アルミ缶メーカーライン長として活躍したIさんはゴルフ場で5S活動、営繕業務で何でもしてくれる重宝な人と評判
*精密部品メーカー勤務だったTさんはおもちゃ病院のドクターだ
*紙問屋で営業部門トップだったTさんは、ゴルフ、カラオケ、演芸の持ち技を生かして慰問クラブを編成、座長として引っ張りだこである
*Yさんは公務員時代に趣味として取り組んでいたウエスタン音楽の分野で、国内愛好者の重鎮役として国内外に向けて活躍
*外国赴任の体験を生かしてOさんは学習塾での講師である
*地元NPO法人(小生理事)では士業の資格を勤務時に取得し、定年後事務所を構えた仲間で組織
*創業塾には現職から独立、現職での副業を軸足を変える人もいる。
 
皆、きょういく(今日行くところ)・きょうよう(今日する用事)を持ち得た皆60才、70才、80才代の現役である。

◆自己を生かす働きは「学び直し」を楽しむことにもよる
 
「学び直し」に関してベテラン層に着目して記してきたが、立ち位置が違えども共通事項(意識・考え方・実施方法)が多々ある。例えば、

*新人も半年過ぎた。基本力の完璧実践で得た信用から、任される信頼での活躍のときにもなった。それは持ち味を生かした変える楽しみである。変える前提は現在を正しく理解し改善ポイントを掴み出す。ならば、ここまでの指導内容を今一度確認し、新たな学びを自ら課す。そこには追認、専門基本能力の向上、あるいは学生時代の学び直しもある。単なる流行感情での浅知恵では、上司からの実施のOKはだされまい。

*異動による新規業務でも、新たな学びの累積に加えて、前キャリアとの融合化に向けての学び直しもある。それでなければキャリアを生かした「あなたが来てくれて良かった」とのさすがの実績形成はできない。なぜなら、着任先での期待だからである。

*専門職なら調理、設計、デザイン、芸術、音楽、ビジネス力では社外、国外での修行、留学での学び直しもある。年初の平昌でのスケート金メダリストの小平選手は体力強化の課題をオランダに求めたとの紹介もあった。
 
勿論、大学、大学院などでの学び直しもあるし、専門学校、機関での学びもある。企業の支援制度の活用や、自己投資での取り組み等その気になれば方法は多い。
 
夢・希望の実現は現職を踏まえて、具体的目的を定め、PDCAサイクルをスパイラルに回す実践である。それは変える実践による進化を累積することに他ならない。変えるには新たなインプットによる新、初、独自のアウトプットを産み出し、関わる人の協力を取り込んでの実現だ。インプットは学びの実践である。「こうしてくれない」「ああしてくれれば」「教えてくれない」との被害者意識での他人の施しを待つ「くれない族」では夢の実現は程遠いし寄ってきてくれる人はいない。

「お風呂に入ったとき、ああって声が出るのはなぜ?」「お盆ってなに?」「ポン酢のポンって何?」「子供はなんでうんちが好き?」「学校の夏休みはなんのためにある?」こんな身近で素朴の疑問を投げかけ、答えられないと「ボーっと生きてんじゃねえよ」と叱られるTV番組が話題である。回答の解説を聞くとなるほどと苦笑いする小生である。案外「分かっている積もり」の自省による学び直しでもあろうか。
 
業務は「守破離」の活躍段階がある。案外「守」の根が張っていなかったり、肥えてなかったり、腐敗することもある。時として発する原点回帰、基本を確認せよとはこの警告である。素直に診断し、学び直しの第一歩の踏み出しに生かしたいものだ。必ず、「あっ、そうか」と気づくことも多い。

あなたは、周囲のチコちゃんから叱られていることはありませんか。

 

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澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/
  


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