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トルコ狂騒曲

 トルコ行進曲は、オスマン帝国の軍楽隊の音楽にある、独特の繰り返しのリズムを取り入れて、モーツァルトやベートーベンがピアノ曲にしたもの。運動会の思い出とセットで耳に残る馴染み曲である。その起源であるトルコから、この夏、行進曲ならぬ狂騒曲が鳴り響いた。

 

 

 新興国の中で脆弱なファンダメンタルズの国が二つある。アルゼンチンとトルコ。アルゼンチンはすでにIMFが入り交渉をしているため、残るトルコが狙い撃ちにされたことが、トルコショックの発端である。
 

 トルコが新興国の中でも脆弱であったのは、①経常赤字の規模が大きい、②対外債務が大きい、③為替下落に対してインフレが反応するスピードが速い、からである。特にエネルギーを完全に輸入に依存していることから、原油価格上昇局面でインフレ上昇に拍車をかけている。
 

 脆弱なファンダメンタルズを反映して、トルコリラが下落。こうしたトルコリラの暴落にはトルコ中銀を含む政府機関の為替レート下落への対応が不十分であるといわれている。しかし、直近の会合で利上げしなかったとはいえ、後期流動性貸出金利と5月時点の13.5%から17.75%まで425bpも引き上げているなど対応はしている。

 8月13日、銀行業規制監督庁はオフショア投資家との外貨とトルコリラのスワップおよびそれに類する取引を銀行の自己資本の50%に制限する規制を発表した。現残高がその水準に低下するまで新規取引は停止される。これにより、オフショア投資家は為替ヘッジの積み増しではなく、既存のヘッジポジションを用いたアウトライトの資産売却を余儀なくされる。つまり、売り圧力は為替レートではなく、資産価格にかかってくる。
 

 エルドアン大統領が中銀に対して利上げするなという圧力をかけている、とも言われている。エルドアンは傍若無人でトルコのトランプ大統領のようにも見えるが、更によくないのは、一院制議会で自らの与党が圧倒的過半数を有しており、政権交代の可能性が非常に低いため、影響力が強いことである。かといって金融政策に過度に介入しているわけではない。完全に圧力をかけているなら、前述した4%以上の利上げは行えていないはずだ。
 

 今後の注目点として、短期的には中銀が小幅でも追加利上げを実施することが期待される。その他、中期財政計画の発表の際、財政赤字が相対的に小さいという強みが評価されるかもしれない。米国との関係悪化に底打ちの気配があれば、高金利通貨のキャリーコストの高さを嫌気されることもある。そうなると、トルコ売り圧力は緩和されてくる可能性が大きい。とはいえ、中長期的に見れば、ファンダメンタルズの弱さは簡単に是正できない。トルコには、2017年7.4%という新興国の中でも高い成長率をある程度犠牲にしてでも、経常収支を改善させる努力が求められることは言うまでもない。
 

 最後に、トルコの悪化状況が長引いた場合の影響を三つ指摘しておく。第一に、その他の新興国などソブリンへの影響、第二に、トルコ向けエクスポージャーを持つ金融機関への影響、第三に、金融機関のリスクが顕在化した場合のソブリンリスクへの転嫁、である。トルコ向けエクスポージャーが多いのはスペイン、フランス、イタリアなど欧州金融機関。これを契機にした金融システム不安の再燃までは予想しないが、欧州金融機関の資本毀損の可能性などは注意しておくべきであろう。
 

 トルコ狂騒曲によって、乱された金融市場は随分と平静を取り戻しつつある。しかし、独特のリズムが繰り返すのは行進曲だけでなく、トルコの特徴かもしれない。本格的な回復局面に入るまでは油断は禁物である。