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「リーマンショックについて」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「リーマンショックについて」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

リーマンショックからちょうど10年が過ぎ、少し興味深いデータが示されています。

未曾有の大恐慌から世界経済は回復したのか?
様々な議論や考察がなされていますが、私は、
「国際金融筋が主導する弱肉強食型の原始資本主義により発生した、行きすぎた広義の信用創造によって吐き出された、何の担保もない貨幣の過剰流通により、お金がお金を生む投機世界に過剰資金が流れ込み、その投機性資金の動きによって、世界経済は発展する、しかし、投機に失敗すると世界経済は急落するという、zero-sumのボラティリティの高い経済世界を生み、発展に対する期待と暴落に対する不安を常に抱えながら走っている世界を創出してしまった」
と考えています。

そして、これはまた、
「お金を持つ者は更にお金を生む機会に恵まれるが余剰資金を持たぬ者は投機の機会を持てず、この結果として、富の格差を拡大する遠因となっている。
そして、こうした富の格差が現行世界の社会不安の根源となっている」
とも考えています。

こうした本題を解決する根源は、
「世界に吐き出された過剰資金を回収することから始める」
とすべきでありますが、
「過剰資金の回収は少なくとも短期的には、強烈な信用収縮を生み、景気大減速を齎す。
よって、その資金回収は、ゆっくりと慎重に行わなければならない」
ということになり、だからこそ、基軸通貨発行国たる米国の金融当局は、徐々に金利を引き上げ、資金回収に入り、世界的に見た通貨供給量を適正水準にしようとしていると私は見ています。

もう一つの根源的な解決方法は、
「資金需要が強い新興国の経済発展を促進し、通貨供給量に合わせた実体経済規模にまで世界のGDPを引き上げる」
という方法がありますが、これを実行すると、
「新興国、就中、中国本土やロシア、インド、ブラジルといった英米の世界膣時に対抗する勢力が拡大する懸念もあり、英米を中心とする世界の既得権益層は、これを好まない」
と見られ、こうした結果、私は、
「リーマンショックからちょうど10年が過ぎましたが、世界経済の根源的なリスクは解消されていない。
まずは一時、苦しくとも、世界的な大恐慌を覚悟してでも、世界にあふれ出た余剰資金を回収すべきである。」
と思いますが、
「現実との折り合いをつけようとすると、これは難しい」
ということになりましょう。

そして、実際には、リーマンショック直後、急激な信用収縮によって激減した通貨供給量により、売上高も激減、景気悪化を招く、これを解決すべく、主要各国政府は、
「財政出動を伴う景気解決策を取る」
しかし、これら主要国のほとんどは国家財政の赤字傾向に悩んでいたことから、国債発行などを拡大、この結果、今度は民間部門のみならず、公共部門の負債が急拡大する。
そして、これに懸念が出たギリシャでは、ギリシャ財政危機が生まれ、その延長線上で、ポルトガル、スペイン、イタリアを巻き込み、欧州財政危機問題を発症、世界経済は今も、こうした、
「行き過ぎた広義の信用創造に基づく、バブル経済の突然の破裂不安を抱えたまま、進展している。」
と言えましょう。

実際に、現行の世界では、リーマンショックが発生した2008年9月当時に比較して、むしろ、世界的な債務の増加を見せています。

民間企業の債務残高が増大し、過剰債務問題に関しては、中国本土企業を中心に、多くの国で債務残高が増加しています。

そして、今回は、上述した通り、その民間部門の負債増加に加えて、公的部門の負債増加も見られており、万一、これが破綻をきたすと、リーマンショック以上の悪影響をもたらすものと懸念されます。

一方、視点を日本にのみ移し、日本の国家財政に不安がある中、日本企業の状況について、概観してみます。

日本の国内企業の業績は、2007年度を100.0とすると全企業の売上高合計は2017年度で98.8に留まり、リーマンショック前の水準に戻っていないとされています。

一方、利益合計は162.0に伸び、売上高と好対照となっています。
震災復興や東京五輪に向け好調な建設業、物流が盛り返した運輸業が牽引していると報告されているものです。

しかし、詳細を見ると、非上場の小売業は売上高合計・利益合計ともに100.0に戻しておらず、戦後2番目の好景気と言われる中で、少子高齢化による需要減少や大手の寡占化で業績回復はまだら模様となっています。

尚、これは、東京商工リサーチが保有する国内最大級の企業データベース(約480万社)を活用し、リーマンショック前の2007年度(2007年4月期~2008年3月期)から直近の2017年度(2017年4月期~2018年3月期)まで、11期連続で単体の業績比較が可能な26万5,763社を抽出し、分析した結果を引用しています。

そして、全企業の売上高合計は2009年度に84.7まで下落、その後は一度も100.0を回復しておらず、一方、利益合計は2008年度18.1と極度に落ち込んだものの、2013年度に100.0を回復し、2017年度は162.0まで回復しています。

そして、2017年度は上場企業の利益合計が165.6に対し、非上場は158.4に留まり、円安を背景にした上場企業の回復と中小企業のもたつきが鮮明になっています。

また、全企業の利益合計は2017年度に162.0に回復しましたが、売上高は100.0を下回っており、利益面は技術革新や製品の差別化、生産性効率の向上などが寄与したものの、海外移転に伴うコスト削減、正社員から非正規社員へのシフトなど、人件費抑制や労働分配率の低下も影響していると見られ、労働分配率の低下は、個人消費の落ち込みに直結するだけに、小売業や耐久消費財関連の企業業績への影響が出たとも言われています。

こうして見ると、社会全体に傷を残しながら、一部企業の業績が回復、そこにまた、個人間のみならず、企業間格差の拡大ももたらしており、これを、基にして、
「日本の企業業績の回復と言えるのか?デフレからの脱却トレンドにあるのか?」
と問われれば、答えは、
「疑問」
とならざるを得ないと思います。

こうなると、日本がとるべき対策は、
☆消費税を含め、増税をせざるを得ない
☆その増税分の半分を国家負債の返済に明確に当て、これを内外に明確に示す
☆その増税分の残り半分で最近脆弱となっている、国土インフラの再整備、強靭化に向ける
☆国土インフラの再整備に関しては、地方インフラの再整備をできる限り優先し、地域格差を少しでも少なくする政策的配慮を図る
と言った骨太の指針を、日本政府が日本国民に、そして世界に明確に示し、
「日本が回復トレンドに入った」
ということを印象付ける政治的行動に出ることがベストウェイではないかと私は考えています。

いずれにしても、今後の動向をフォローしたいと思います。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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