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「NOをYESに変えさせる話力」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(44)
「NOをYESに変えさせる話力」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
 
◆想いを現実化していく伝わる話力の磨き
 
若手経営者・幹部・管理者(候補者も含む)が受講者の話力向上研修。この立場の人が話が苦手、話し下手では通らない。ましてや「あうん」の呼吸でのビジネスは成り立たない。なぜなら、トップ・幹部の想いを、正しく理解、納得し、そして共感を得た社員の実践の総合力が企業の強さを形成するからだ。

その柱には、3つの「話」がある。

その一つは一言の話、その2.は互いに交わす快話力、そして3.は大勢を対象にしたプレゼン力である。

一言の話は、社員の喜働感の高める認め、褒め、励まし、感謝、ねぎらいのひと言の掛けであり、社員・部下との親和感の高めは快話による互いの学び合いである。そして、会議での提案、発言、その事に関わる深めの質疑応答はプレゼン力である。

それは適切なる判断力に基づく決断の発信であり、単なる現状維持でなく、変えていく「想い」を実現する目的の伝えと言える。いかに変えていく働きかけで実績を形成していくか。それ故、「なんでそんなことする」「不可能だ」「反対だ」との抵抗がでるのは当然である。

だからこそ「想いを」現実化していくためには、関わる人に伝わる話力によって相手を変えていくパワーがどうしても欠かせない。つまり、「こちらの想い」を理解し、納得し、「よーし思いきって試してみよう」との態度変容(事に対する構え方を変えること)を実現しなければならない。

そこには、相手が、最初の否定から、「良さそうだ、やってみようか」と判断の変化が生まれ、「やってみると」決断を喚起する相手側の変化のストリーができることに他ならない。いわばNOからYESに向けていく話力の施しによる決め手がそこにある。

◆共に変えさせる絡みが生きる
 
受講者にその重要性を説き、ビデオ活用による気づき研修を施す。そのステップは、まず、2分間のプレゼンテーションを収録する。次にビデオを再生し、本人が自己診断を行う。初体験の受講者が多いが刺激は強い。「想いが伝わる話力」の基本事項の診断だ。

各自、それなりにこなしている能力はあるが、「態度・話しぶり」「表現」「筋道の一貫性」「体験話題の適切性」「内容 」「目配り」「間合い」「声、スピード」「ビジュアル化の工夫」はどうかを客観的に診断する。診断結果を訊く。「早口でした」「言葉癖が気になりました」「半分も言えませんでした」「表情が固かった」「結構上手くいった感じ」と自身の鏡での診断結果が返ってくる。

次いで、他受講者からの診断結果の発表を促す。「落ち着いていました」「好きなことが良くわかりました」「声が通っていて聞きやすかった」「ええ、まあ、が多いですね」と率直な発言が良い。ちなみにOKポイントとアドバイスポイントの診断は日常での指導話法のへの役立てである。指導の話力は「こうなってほしい」との変える想いの働きかけであるからだ。仲間からの診断は自身が現在駆使している指導の切り口を変えるあるいは、視点を変えるヒントを産み出す役立ちもある。特に受講者は異業種であり、顧客の視点での感じ方も参考になる。

最後に小生から助言を施す。そこには、本人の話力を高めることによる「○○さんが上に立ってくれて良かった」との存在感を強める活躍を念じる「支援の想い」である。本気で伝えているか、言霊としての響きはどうか、聴き手を引きつける親和感、真摯な態度の話しぶりと等々に注目し、人物の写りによる影響力を診る。

「この人なら信用・信頼できる」との評価なくして、想いなど伝わるはずがないからだ。演習者の中には、途中でパニクってしまう人もいる。でも、必死に次なる言葉を探し頑張る。この場面に笑う人はいない。

「こう言いたいんだろう。君の言いたいことは通じているよ」との応援する聴き手になっている現実を受講者に問いかけ確認する。この切り口のコメントは新鮮な刺激となる。大概は、かむことなく言葉巧みにしゃべる話がうまいと考えているからだ。単なるこなしの話しぶりの巧みさは、ビジネスの現実の場面では決して相手の心を変えさせる影響力は高くない。

演習も進むに従って、本人コメント、他からのコメントも向上してくる。従って後半の演習になれば話力アップのコツを掴み、自負心のあった話し方にも改善を加えてくることが嬉しい。「自分なりにできている」との自負心や、「話が苦手だからしようがない」では変化対応していく「想い」がいかにあろうとも実現することは難しい。想いと現実を継ぐ伝わる話力は殊の外重要なる能力である。だからこそ受講者同士で真剣に磨き合うのが当研修である。

◆T氏の凄い体験談に学ぶ
 
かつて、「私は話すことが苦手です」と話し方を学びはじめ、「講演なんてとんでもありません」と断りの人でも、やがては、人気講話者として活躍した人がいる。それは実業家T氏である。

T氏は当研修主催の倫理法人会創生の立役者である。倫理法人会は倫理経営を学び実践する経営者の組織である。この創生に「想いを込め、全精魂を打ち込まれた人」がT氏であった。T氏の「想いの実現」への尽力の財産は、現在国内外7万余社の会員を擁する組織に成長している。
 
それにT氏は小企業の経営者だからこそ「想いを貫き」NOからYESを引き出した多くの体験から、人生の言葉として、「打つ手無限」を提唱した人でもある。

このT氏の初講演は小生が支援した。思い起こすままその実例を次に記してみる。
 
T氏との出会いは、小生が講師をしていた話し方教室に学びに来たことである。T氏は、小さな海草問屋から身を起こし、飼料、住宅産業へと進出した。常に業界の常識を打ち破る“逆からの商売発想”で躍進、飲食産業、ゴルフ場をはじめレジャー産業、健康産業へと次々に進出し、成功を収めた人である。

幾多の研修に小生も関わったことから、氏の生きざま、人間観、経営観を親しく聴かせていただいた。聴くたびに私の胸を打ち、勇気を与えてくれた。まさに、私の人生の師のお一人であった。とりわけ次の体験談は印象深く鮮明に記憶に残っている。それは、まさにNOからYESを引き出す実例である。

「ある日、突然に、銀行(支店)から、手形割引枠を半分にするという一片の通知を受け取った。半減されたら、商売の背骨を切断されたと同じこと。すぐ、支店に駆け込んだが、“本店からの指示ですから”という回答の一点張り。その理由すら、明らかにしてくれない。「このままでは倒産する」と熟慮の末、本店に頭取を訪ねて直訴することを決断した。いきなり訪ねても、頭取が会ってくれる可能性はないことを知ってはいたが、どうしてもそうしなければとの思いが募りつのって背水の陣の覚悟で赴いた。
 
開店と同時に、貸付課長席に直行し、“頭取さんにお目にかかりたいのです”と言った。きょとんとした課長は“ほう、頭取にご面会をねぇ。で、お約束は”と言う。「ありません」と応えると、“それでは・・・・・・”と苦笑して、“頭取はスケジュールが詰まっています”と何やら軽視の目なざしなのだ。「ぜひとも」、と粘るT氏を持て余して、ようやく、部長に取りついでくれた。ところが、その部長とも、「頭取さんに・・・・・・」「私でも用は足ります」という応答が続いた。とにかく「私の目的は、頭取さんにお会いすることなのですから」とねばった。あげく、「あなた、日本語が分からんのですか」とまで言われる始末であった。

氏にとっては、心の闘いだった。「頭が変だと笑われてもいい、何がなんでも頭取に会う」との一念を貫くだけだった。開店時間に赴きこの状態が何日か続いた。そんなある日、今度は専務室に通された。

「万事は、私で一応の判断がつきます。どうぞ用件を話して下さい」と言われた。それで心が動いたのだが、「何もおっしゃらず、頭取に会わせてください」を繰り返すばかりであった。専務の顔色が変わった。「頭取は忙しい。夕方までは、帰りませんよ」と味気ない言葉で、ピシャリと突き放されてしまった。しかし、T氏も「今日ダメなら、明日また来ますよ」と気迫の勝負に出た。“一念岩をも通す”とはこういうことだ。

◆想いを貫く一途の言動
 
ついに頭取室に案内され、頭取に直接、窮状を訴えることができた。無我夢中で、頭取に30分ほどもしゃべり続けた。一拍おいて頭取が口を開いた。「それでは、支店側とあなたの要求とを考慮し、折半にしましょう」(つまり半減を四分の一減にするという意)と頭取の回答が提示された。

しかし、氏は頑として譲らない。さらに現状維持でなければ、会社はパンクする、と胸のうちを洗いざらいぶちまけた。もう、刺し違える覚悟であり、必死の形相での訴えであった。ついに、頭取に心が通じた。

「分かりました。全額認めればよいのですね。そう取り計らいます・・・・・・」と。嬉しかった。はかり知れぬ喜びに満たされた。同時に、一瞬、虚脱感が襲った。だが、気を引き締めて、氏は「頭取さん、いま、支店長にそのむねをご指示下さい」とお願いした。確実に事が運ぶように、万全を期したのであった。頭取からは、「私を信用できないのか」とキッとにらまれたが「鶴の一声というのを、ぜひお聴きしたい」と願ったそうだ。頭取が黙って受話器を取り上げ、支店長への指示を終えたとき・・・・・・。

「感謝の言葉を、次々と言いたかった。でも、声にならない。思わず、握りしめた頭取の手に、ボタッ、ボタッと大粒の涙が、とめどなく落ちるだけでした……」。
 
凄いことをする人だ。ここまで想いを貫き、しかも、確認の実現まで成す胆力の強さに驚嘆した。

◆打つ手は無限、ならばと講演を企てる
 
貧しい漁師の子に生まれ、県下に長太郎ありと知れ渡るまでには、筆舌につくせぬ苦労との闘いがあったという。

「一つ打った手がだめなら、次の手を考えてやればよい。人は一度ダメだと、もうすべてダメだと結論づけるが、それでは問題は解決しない」と語るとき、氏の目は、キラリと輝き、何事にも前へ進み出ていく迫力がある。話を聴くたびに、氏の生きざまに感動し、己をふり返る。まさに“打つ手無限”。
 
こんな氏の生きざまを、ぜひともより多くに人々に届けたい。この想いが募り、T氏の処女講演を実現させる決断をした。折良く、担当していた経済団体主催の「若手社員セミナー」での特別講演として企画に取り組んだ。T氏に想いを告げた。”私が講演なんてダメですよ”と即座に一蹴された。実は、当時のT氏は大勢の前での話す事の大の苦手な人。社の行事や冠婚葬祭でもすべて専務に任せ、どうしてもの時には欠席も辞さない人だった。話し方教室での学びはその克服への挑戦であったことは承知していた小生であった。
 
今度は小生の一念の行使である。
「必ずできます。準備に尽くします」
「無理ですよ」
「成功します。是非若者に聴かせたいんです」
「そんなこといわれても」
「若者にやればできる楽しみを持たせたいんです」
とたたみかけた。

その日は「考えさせて下さい」との回答までは引き出せた。だが「YES」の快諾はない。3日後訪社した。「自分を試すまたとないチャンスとして腹を決めました」と言って小生の要望を受け入れていただいた。

後日談として「実は周囲の声は、そんなことは無理だ。恥を欠くだけだ、断りなさいとの声が大方だったんですよ」とお聴きした。それを超えての受け入れに感謝と同時に身が引き締まった。
 
約束通り、互いの時間を調整して会社に、また自宅に伺い、テーマを「人生を積極的にいきる」と決めた。当然、小生が伺った話題を基に、訴求ポイントを明確にし、筋道づくりを構成した。どう伝えるかとあれこれ知恵を交わしての準備である。「それはちょっと」と尻込みの気配がでれば、小生が手本を示した。時には奥様の同席を得てリハーサルまがいの演習も試みた。

◆体験から導き出した訴求は強い
 
そして、いよいよ、本番。受講者は20代の若手社員50人である。予想通り1時間半、原稿も見ず、全身をぶつけた講演である。苦手な表情一つない。「自分の話を聴いてくれている」、この喜びが自然に涌いてきて、(後の感想)笑顔も生きた話しぶりである。体験談を率直に紹介、その時の心情、そこか導き出した気づき、そしてそれ以後どう自分を変えていったかの話に皆、聴き入っている。笑いもでる、時として涙顔も伺える、素直に受け入れ、なぜか感動してくれている。そこには懸念事項であった年代の差などない。小生の興奮の心中の移り変わりを表現すれば「大丈夫かな、いけるぞ、よーし」。と握り拳に力が入る。
 
T氏の終了の挨拶が成された。間髪入れず受講者からの大きな拍手・拍手。T氏の顔がくしゃくしゃだ。すかさず「握手をお願いします」とお声がけをする。一人ひとりが氏と目をあわせ、「ありがとうございました。頑張ります」とがっしりと握手したシーンは、私の脳裏に今も焼き付いている。そして、T氏の無骨な手をがっしりと握った握手の痛さが今も残っている。まさに話の味は人の味である。T氏だからこそ話せる,T氏だからこそ聴かせる、世界でたった一つの話である。
 
この体験を契機として、蝶ネクタイを着け「ハイ!」と元気な声で立ち上がり、ニコニコ顔で演壇に向かい蝶ネクタイを両手で左右に動かし整えるおなじみのキャラでのT氏の講話は話題を生んだ。勿論、打つ手無限に裏打ちされた経験談だからこそ、感動し、訴求される実践策に「私もやってみよう」との変える機会を提供する講話としての評判である。

◆思い切っての変化はNOから始まる
 
当研修でもT氏の実例を紹介し、上に立つ人の組織活動を変えていく力は【新たな想い」を決断し、熱き心で伝たわる話力が不可欠であると確認する。その熱きパワーに裏打ちされた論理と、理解、納得を助長し、共感を喚起し、態度変容を創造する伝え方のスキルを確認し、磨き合いを楽しむ機会であるからだ。  
 
さすが、と社員、部下をうならせるたくましい上役、頼りがいのある上役としての存在感がそこにある。そこには、うちから湧き出す内発パワーの素晴らしさが潜んでいるはずだ。

現在は「思い切って変える時代」だと評する人も多い。思い切って変える新たな想いを内発パワーで構築し、関わる人の協力を「NOを起点にYESをどう引き出すか」の取り組みをぜひ楽しみたいものである。
「想いに向けた新たな努力は苦しみでなく、楽しい。それは実現に向けて近づいていくことだから」
とは、東京五輪重量挙げ金メダリスト三宅義信氏から伺った言葉である。

今年も喜怒哀楽の多くの出来事があった。流行語大賞は「そだね」、漫才M-1には霜降り明星に決まった。微笑ましさと、しゃべくる熱きエネルギーと楽しさの味わいもある。
 
善しくも悪しくも語り継ぐ出来事は来たる年に向けての新たな望(想い)をつくる示唆として生きる。ちなみ忘年会でなく望年会と称する小生である。ぜひ語り継ぎたい社内外の出来事を話題に、そこから導き出した反省と変える想いを伝え合うとよい。そこから来たる年に向けた「新」が創造されよう。

 

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澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/
  


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