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「中国ペシミズムへの違和感、米中妥協後に来る投資チャンス」(武者陵司)

武者陵司の「ストラテジーブレティン」vol.14
「中国ペシミズムへの違和感、米中妥協後に来る投資チャンス」

武者陵司氏((株)武者リサーチ代表、ドイツ証券(株)アドバイザー、ドイツ銀行東京支店アドバイザー)

■日本株の頭を抑える中国ペシミズム

世界株価は2018年クリスマスで大底を打ったようである。世界株式市場のメガトレンドはやはりアメリカ、そのアメリカで半値戻し達成。半値戻しは全値戻し、との格言に従えば大きな上昇の波に入っているといえる。最大の要因は、FRBが市場フレンドリーの政策に大きくシフトしたことであろう。

にもかかわらず、日本市場では依然市場悲観が根強い。その原因はひとえに、中国ペシミズムにあるといえる。筆者は2011年の「失われた20年の終わり~地政学でみる日本経済~」(東洋経済)上梓以来、いち早く米中対決と中国経済が困難に陥る将来展望を主張してきた。よって現在の中国ペシミズムは想定通りの展開であるが、現在の中国ペシミズムの行き過ぎに対して大いに違和感を抱いている。

■誇張されている中国ペシミズム

氾濫する中国ペシミズムには4つの根源があるが、いずれも現時点では誇張されすぎているのではないか。

第一は米中覇権争い、米国は中国のハイテク覇権を許さない。ファーウェイはその象徴だが直ちに正面衝突にはならないだろう。米中は大きな相互依存分業関係にあり、その関係を断ち大不況を招くという選択肢は、米国トランプ側にも、習近平政権側にもあり得ない。

第二は米中貿易戦争、これは経済的利害に従うはずなので、知的所有権など中国の譲歩と改革でいったん終結しよう。グローバル企業の中国から他国への生産シフトは不可避だが、いずれ棚上げされていた投資が再開しよう。半導体投資は米中摩擦と情勢の不透明感から一時的にストップしているが、それは近い将来の半導体需給をひっ迫させ、次の投資ブームを引き起こす。それは工作機械も同じこと。すでに落ち込んでいる資本財受注は、今後むしろ改善の牽引車になりえる。

■景気浮揚、バブル支持に注力する中国経済政策

第三は中国内需の減速である。M1の急減速など引き締めによるゾンビ企業の整理、インフラ投資抑制など改革がブレーキとなった。これに支援策一巡による自動車販売の減少、スマホ市場の成熟化などのマイナスが加わった。しかし、すでに改革からテコ入れへと政策軸はシフト、内需は緩慢なる回復に向かうだろう。

第四の最も深刻なペシミズムは中国バブルの崩壊、金融危機深化であるが、外貨管理等当局の対応は万全であり、顕在化は当分先であろう。

中国は日本で経験したようなバブル崩壊は絶対に容認できない。日本の場合、バブル原資は100%国内の過剰貯蓄であり、その崩壊をもっても経済システムは損なわれなかった。しかし中国は大きく外資依存しており、バブルの崩壊は資本流出と通貨暴落を引き起こし、容易に体制危機に結び付く。それを回避するための奥の手、より厳格なクロスボーダーの資本コントロール、株価や不動産など資産価格の政策的サポートなどが繰り出されるだろう。

■対中投資、この局面で増加させる日本企業

ペシミズムの一巡の後に、日本への追い風が顕在化しよう。
1.米国の圧力により中国の国内企業の保護・差別的優遇が大きく改善されそうなこと、
2.中国国内での対日プロパガンダが反日から親日へと急旋回したこと、
等が日本企業の対中ビジネスを大きく支えるだろう。

王毅外相は「中国側の対日印象が回復しているが、日本の対中印象が改善してこない。日本側の国民感情の改善が重要だと指摘し、日本の修学旅行での訪中が増えていくと、感情改善に役立つのではないか」と提案し、中国側の日本に対する秋波を示した。

今や中国内需の規模は圧倒的である。例えば自動車販売台数は米国1720万台に対して、中国2800万台、と群を抜く。この巨大な中国内需の規模を考えれば、米中摩擦いかんにかかわらず、日本企業のビジネスチャンスは大きいといえる。

図表はキャノングローバル研究所研究主幹の瀬口清之氏による、中国に対する各国の直接投資推移であるが、2012年の尖閣国有化後の対日暴動に懲りた日本企業は、以降急激に対中投資を減らし、他国に先駆けて生産拠点の脱中国化を進めてきた。その日本企業が今、対中投資を大きく活発化させようとしている。言うまでもなく中国内需に焦点を絞った投資である。

     図表1:主要国の対中直接投資推移

■自働車と消費財、ハイテクが受益者に

自働車では中国の新エネ車政策が大きく転換するだろう。EV(電気自動車)一辺倒からハイブリッドへのシフトが起き、ハイブリッドで圧倒的技術蓄積を持つ日本メーカーを利することになろう。トヨタはPHV技術供与によりシェア拡大を狙っている。苦境の米韓企業とは対照的に日本メーカーのシェアが上昇。日本自動車企業は対中投資を大きく増やす構えである。

消費財分野では安全・高品質、洗練された日本製人気、made in Japan熱が高まっている。
中国での対日批判が静まったことで、底流にあった日本製へのあこがれが強まっている。中には、made in Japanのラベル表記のために、日本で製造を始める中国企業も。
特にmade in Japan人気が強いのは、化粧品・ベビー用品市場。化粧品対中輸出は2017年2100億円、前年比50%増となり、2018年も同ペースの伸びが続いている。

ハイテク基礎・周辺・基盤技術分野を担う日本企業は圧倒的有利な立場に立っている。中国・台湾・韓国のハイテク・ハードウェアのメガプレーヤーを日本企業が支えている。詳細分析は後に譲るが、今後の日本の株式市場では中国ファクターが大きなポジティブサプライズをもたらす可能性を強調したい。

 
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■武者 陵司
1949年9月長野県生まれ。1973年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券(株)入社、企業調査アナリスト、繊維、建築、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て、1997年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト。2005年副会長就任。2009年7月(株)武者リサーチを設立。
 
■(株)武者リサーチ http://bit.ly/2x5owtl