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「福島原発事故に関する日韓の対立に関する異見について」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「福島原発事故に関する日韓の対立に関する異見について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

今回はいつもとは少し異なる視点からのコメントを申しあげることをお許し戴きたいと思います。
異論があることを承知で勇気を持って、書いてみました。

2011年3月11日は、日本にとって、否、世界にとっても、忘れてはならない日であると考えるべきである。
言うまでも、大震災が齎した津波が、福島原発を襲い、大量の放射能漏れ事故となったからである。
放射能の数値は日本のみならず、太平洋な対岸にある米国西部海岸でも上がり、事態は日本一国では留まらぬこととなったからである。
 
そして、事故の直後、スリーマイル島やチェルノブイリの原発事故を経験した米露両国からは、事態の深刻さが指摘され、特に、チェルノブイリ原発事故の経験からすると、
「放射能漏れは長期化する」
との見方も出て、日本国内でも当初は、専門家の中から、
「福島原発付近の一定地域を地主の意向を反映しながら、その地主から、国家が買い取る、或いは借り受けて、一定期間は立ち入り禁止にする一方、あまりメンテナンスを必要としないその地域すべてに太陽光発電パネルを敷き詰めて、発電をしていけば、日本の中心電力は、太陽光の不安定な発電能力を加味しても、日本全体の電力需要をカバーできるのではないか、即ち、原発再稼働は不要となるのではないか。 
一方、そうした場合、当該地域に居住をしていたものの、放射能漏れのリスクによって住めなくなってしまった住民たちには、その生活を保障するために、地方に受け入れ地域を作り、そこで雇用を作る産業移転を推進する、農林水産業の強化を図り雇用機会を作り、避難住民の方々に自力で収入が得られるような雇用機会を日本政府が作る、その上で、万一、避難住民の方々と雇用の質にミスマッチがあれば、それを改善するための、職能訓練を日本政府が全額保証して推進するという形で進めていけば、日本の放射能漏れによる被災事故も減るのではないか」
といった議論がなされていたことを筆者は知っている。
 
しかし、こうしたことは実際にはほとんどなされずに、今日に至っていることはお気づきの通りである。
そして、むしろ、被災地の放射能漏れは懸念なき状況になっているので、被災地への帰還も可能であるとの動きが拡大しているのが現状である。
それが本当であれば、何と、嬉しいことであろうか。

ところで、福島原発事故直後、世界の54カ国の国々が水産物をはじめ日本産食品の輸入を規制したことはご高尚の通りである。
そしてまた、このうち31カ国が規制を既に解除しており、日本政府の言う、放射能漏れのリスクは限定的となっているのであるから、被災地近辺の日本産食品はもう安全性に問題なく、被災地であることを理由にして、
「輸入規制」
を行うことは、
「風評被害」
に外ならず、そうした輸入規制は解除して然るべしである、という外交展開をしてきている。

そして、日本政府は、輸入規制を未だに解除していない残り23カ国のうち、戦略的なことを考えて、先ずは韓国だけを、中立的な国際機関である世界貿易機関(WTO)に提訴したのである。

日本政府の思惑通り、正に一審では、日本政府の論理的な主張が通り、日本が勝利をした。
韓国に最終審でも勝訴した上で、これを基にして、残りの22カ国に圧力を加えようという戦略準備も整い、実施間近であったはずである。

ところが、この韓国による福島などの8県産の水産物輸入禁止は不当であるとして日本がWTOに提訴していた問題は、本年4月11日に、WTOが、
「韓国の措置を妥当とする」
という最終判決を下した。
日本の逆転敗訴となった訳である。
 
その背景を見ると、WTO上級委員会は、一審は事実関係を中心に判断したが、上級委員会は主に法理を調べることになっているとし、韓国食品医薬品安全処がWTOに示した、
「関連資料を追加するよりも、以前の判定が偏っていたということを示すことに重点を置いた説明をした」
ということが効果を上げたとの見方もある。
 
いずれにしても、今回のWTOの裁定は、
「最終審」
であり、これで結審された訳であるから、日本政府としては、
「外交的な視点」
からすれば、大きく戦略を変えていかなくてはならなくなったことは言うまでもない。
 
しかし、筆者が、今日ここで、一言申しあげたい、
「異見」
は、外交的視点ではなく、我々日本人自身のことである。
 
筆者の認識では、今回のWTO提訴に際しては、
「日本政府は、科学の粋を集めて、論理的に、様々なデータも駆使して、国際機関に対して、説明をして、実際に一審は勝訴した。
しかしながら、最終審では、そうした主張が結果としては、受け入れられずに、敗訴した」
というものであり、また、日本の論調では、
「WTOの最終判断は、玉虫色の判決である」
ともしてはいるが、何を言っても敗訴は敗訴であり、
「日本の福島などの8県産の水産物の安全性は完全には保証されなかった」
ということを日本政府も、一旦はきちんと受け入れるべきではないかと筆者は考えている。
 
そしてまた、読者の皆さん、我が国・日本が最も信頼している(であろう)同盟国・米国も、
「日本産食品の輸入を規制している国」
として、今現在も挙げられているのであることを忘れてはならない。
 
即ち、多くの日本人、また日本政府が信頼している米国ですら、日本産食品の輸入規制をしているということであり、こうしたことからしても、やはり、日本政府は、
「国民のことを思い、大丈夫であるとは思われるが、来年日本政府としては、万一のことを考えて、第三者となる国際機関からの完全なるお墨付きをもらうまでは、日本国民の安全も守る」
と勇気を持って、今回のWTO結審を受け入れるべきではないかと考える。
 
そして、そうした時、冒頭に述べた、当初の対応案をここで、具現化していっても良いのではないかと筆者は考えている。
「東京五輪を来年に控え、そんなことはできない!!」
との厳しいご意見もあろうが、筆者が学んだ政治学の中で、政治家がまずもってすべきことは、
「国民の生命財産を守る」
ことであり、その国民の生命に不安を齎す要因について、国際機関からの懸念も払しょくされぬ中で、一旦は回避すべきではないだろうか。
 
読者の皆様方は如何、思われますか?

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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