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「協働力を強めるリーダーのコミュ二ケーション実践法」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(51)
「協働力を強めるリーダーのコミュ二ケーション実践法」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役) 

 ◆協働力はコミュニケーションが肝腎

メンテナンス全般を請け負い発展するC社の研修を担当した。対象者はサービス現場を率いるリーダークラスである。集団構成はパートタイマー、アルバイトであり、職歴、年齢の特性は様々である。
 
この集団を統率し、限られた時間帯で最高品質の業務をこなす、そこに評判を高めるリーダーの貢献力が問われる。例えば清掃作業で、時として目にする、新幹線車両内清掃チーム、空港内の清掃プロの話題に匹敵する仕事の質が依頼企業、ホテル、病院、公共施設などから求められる。
 
また建設現場、車道での業務では圧倒的安全の提供が使命である。だからこそ、リーダーが統率する現場で必要な絶対条件は風通しの良いコミュのケーションの実践にほかならない。
 
その対象は、本部と現場、現場と顧客(依頼先)、現場と顧客(依頼先)利用者様との関わりである。このほか現場管理における他社、官公庁との折衝もある。
 
このような条件での活躍であるが、受講者の評判はすこぶる良い。とは研修担当T部長の話である。例えば、現場では依頼者からお礼の言葉、時にはお裾分けの差し入れ、食しての自由談義の提案もあるとのことだ。
 
その裏付ける実態は研修会場でも体感できた。
一例だが、演台には冷たい茶と水の2本のペットボトルを用意されている。見事な気配りである。
そして迎える挨拶が良い、話の聴き方の反応も良い、表情が明るく、目をあわせの交流も見事である。
まさに親近感溢れる心の通わしができている。この日常での活躍状況が垣間見られる現状をもとにその確認と、更なる実践のヒントの提供を施した研修であった。
 
C社に限らず円滑なコミュニケーションに関する相談は多い。従って具体的実践についての指導、支援の機会は多岐にわたる。そこで、今回は「企業の伸展を決める第一線リーダーのコミュニケーション実践法」の切り口で提起してみる。
 
職場、組織はそれぞれの目標を達成するために関わる人々の集団である。そこには組織集団の各位が互いに力を合わせることが求められる。 従って協働関係を円滑にするためには相互のコミュニケーションの実践が欠かせない。
 
その要となるのがリーダーであり、どうしても率先した実践は欠かせない。その必要性を確認してみると次の5点である。
 
●必要性の5点
① 集団の同一方向性を保ち、リーダーとしての考え方を徹底する(リーダーとしての想い、方針、目標など発信と共有化)
② 相互(上下、他部門、他社)の関わる人の考え方、人柄の理解ができる(対人関係)
③ いざというときの協力意識を高める(報告・連絡・相談の動きの知らせは 相手も予測や準備ができる)
④心豊かな人間関係、信頼関係のある風通しの良い職場、組織環境を創る(組織活動の円滑・活性化の環境実現)
⑤相談や悩みを解決できる(突然の退社・メンタル不全の予防にも通ずる)
 
●二つの無精
だからこそ無精は許されない。案外次の二つの無精が多いことも現実である。それは
① 消極的無精=「いわなくても解っているだろう」「らしい」「ようだ」でついつい億劫にするたぐいの無精
② 高圧的無精=「言ってくるはずだ」「べきだ」「もんだ」この上から目線での無精は事が起こったときに発する「なんで言ってこない」との叱責による他責の姿である。
 
必要なことを、必要な人に、必要な時に伝える、訊く、確かめるこの言動を適切に施す必要性は解っているのだが……。つい待ちの無精が災いする。
そして、成していてもそこには、うまくいかない要因があることも事実。
 
◆うまくいかない要因
それは次の6点で診断してみよう。
 
① 先入観=日頃の人との関わりで起こる要因であり、個人的に好感、逆の反感・あの人はこういう人だとの感情に支配された観察での色眼鏡で決めつける・自分の考え、推測など頑な思い込みによる偏りあるコミュニケーションの実践となる
② 普段の行動=威張っている・言行不一致による不快と不信なる人物的影響、無関心・気配り不足、対人関係不足による感受力の弱さが寄ってこない、気配り不足の一言の欠如を生む
③ 情報の不足=資料不足、機会不足、伝達不足、関わる人からの報連相の寄ってくるコミュニケーション不足・現場、現物、現実、現人(本人)の事実確認不足が狭い視点での判断力を創る
④ 地位の差=よく出される「考え方が違って困る」とのフレーズがある。当然違って当たり前、それは各自は10人10色、各自成長により一人10色であり異見の持ち合いが現実。押しつけ・親近感無しこの要因が心を閉ざさせる
⑤ 伝達力不足=話力の欠如(苦手意識、経験不足、方法無知)文章、メール,IT機器の活用不足・論理構成不得手が発信力を妨げる
⑥ 受容力不足=聴解力の欠如・親近性ない人物的影響・引き出すコミュニケーション不足・感受性の弱さ・気配り、関心不足がうわべだけのコミュ二ケーションとなる
如何であろうか。コミュ二ケーションは必要なことを、必要な人に、必要なときにと解っていても実践時の必要な方法を最適に駆使することがなければ実効を得ることはできない。
 
ましてや相手との信用、信頼関係が良好であることが前提である。組織活動のコミュニケーションはそのときだけの点対応でなく、以前、日頃の現在、今後への期待などのその人の評価を含んだ線対応である。
 
◆実践の具体的スキルを提起する
 
●実践の柱は二つ。
その一つは対人関係をつくり、深める柱であり、*挨拶、会話、相談、飲みニケーションがある。
もう一つは仕事の遂行上であり、*指示、命令、報告、情報提供、説得、折衝・交渉、忠告、文章、メール、会議・ミーテイング・朝・終礼、等がある。
 
ここではリーダーとしての協働力を強める実践スキルとして、日常の実践法、情報交換の二つの括りで列挙してみる。
 
①日常の実践法  
まずは、
1)帽子と靴を付けた先手の挨拶=見かけたら後ろからでも名前(帽子)→おはよう(挨拶言葉)→一言のプレゼント(靴)(昨日はありがとう、今日もよろしく頼みます)。挨拶言葉は、ごくろうさま・お帰りなさい……など適切に活用する。
 
2)学ぶ楽しみの会話=「会話の必要性は解っていても何を話して良いか、話題が会わない」との嘆き節を良く耳にする。そこには言って聞かせることが会話だとの思い込みがある。
 
解らないから教えていただく機会が会話。だから会話は学ぶ楽しみである。そこには訊ねる、引き出すコミュ二ケーションからスタートすれば良い。
 
ここから糸口が拡がる。引き出しのマジックフレーズの一例を紹介すると「テニスと竹」の頭文字がある。即ち
「テ」=天気・気候。季節に関する問いかけ 
「二」=ニュース、気になる出来事
「ス」=好きなこと(食べ物、歌、運動、人、テレビ番組、スマホ……趣味など
「ト」=友達、仲間
「タ」=旅
「ケ」=健康に関する問いかけ
である。
 
●会話は学ぶ合える楽しみである。決して上から目線の説法ではない
●何を聞かせるかより、何を教えて貰うか。         
●話しの味は人の味それは一人ひとりの今日までの生い立ち、体験、知識、智恵、情報、人間性は違う、だから考え方も違う。この交換が学び合い、生かし合いのコミュニケーションと言える。
                      
3)ミツマメの組み合わせ=ミツマメとは甘味のメニューではない。マメとは忠実人(まめな人、実直な人)のきめ細かな施しを表す、その施しのマメは三つ。
まずは筆マメ(書く、描く、画くなど等の施しでメモ、葉書、メールの実践)
次は口マメ(話す、訊ねる、電話での施し)そして、
足マメ(現場に行く、人と会うとの行動による施し)である。ここには無精によるコミュニケーション不足はない。丁寧、きめ細かい人のコミュニュケーションの実践策といえる。
4)言行一致の率先垂範=言行不一致はあの人は「風呂屋の釜」それは湯(う)ばかり、で信用されない。不言実行は認められるがどこか自身への甘えがある。それは公言することによる逃げがなくなる事への恐れ、やはり有言実行の逞しさある言動は信頼を得る。それも自ら魅せる率先垂範の魅力が、理解を促す力となり協力温度を上げるコミュ二ケーションの実効となる。
5)人間性の磨き=誰が言っているかは、生身の人のコミュニケーションの大事な要件。嫌い、不快な人の話は聞き流し、断りを考えての聴き方になることも多い。それには、馬が合わない、気が合わないと決めつけている人との関係改善を成す事だ。その第一歩は笑顔での接触を成す事。現在までの不快感を与える表情を敢えて自ら破る。なぜなら「相手を変えようとするなら自ら変わる」とは知り尽くした言葉であろう。
 
②情報交換の具体的実践法
1)寄ってくるコミュニケーションの報連相の徹底
「なんで、連絡くれなかった」「どうなっている。一言ぐらい知らせろよ」「なんで相談してくれなかった? 勝手にするな」—-こんな言葉を発したことはないだろうか。
●報告することは=相手が見えない状況を知る、努力を知っていただく機会
●連絡することは=相手に安心を与え、次への業務推進を即行できる働き掛け
●相談することは=相手を信頼している証。相談される人は真に信頼されている人。
●報告、連絡を受けたら必要な人へ繋ぎ、円滑なる業務の推進に生きる。
●喜びの報告づくりは、報告した人の喜び作りに生かす
 
報告は受けるだけが目的でない。受けながら、努力を認め、頑張りを褒め、成果を賞讃する機会でもある。意欲喚起、モチベーションの実践策として絶好の機会である。
 
なぜなら報告者の心中には褒められタイ、認められタイ、役割を果たしタイ三匹のタイを持っている。仕上げた成果は必ず上役からその点での反応があるはずだとの期待は高い。三タイの欲求は、褒め認めの一言で喜びに転換できる。
 
また報告の受けは指導の機会である。本人の最善策は指導者の繰り出す全ての最善策ではあるまい。そこに指導者だからこその情報力の豊富さ、権限の広さ、人脈の豊かさがあり、効果的打つ手の手腕がある。この切り口からの指摘、アドバイスは、成長しタイ欲求に応えた施しである。このような報告の受け上手が、報告する意欲を高めるのである。
 
2)会議の活用で全社最適の集約と相互の学び合い
三人寄れば文殊の智恵」とは、出席者が異見を出し合うからである。そこに議する価値がある。各社での全体最適、全社最適の価値がこの過程で形成されることは言うまでもない。他の人の「こう思う」の〝異見”の「なぜならば」の根拠付けは相互に学び会える機会である。
 
3)ショートミーテイングの活用でスピードと質を高めた業務遂行
直ぐ関わる人での意見集約を図りたいときの活用がよい。難解度のないテーマを、それぞれの意見を出し合い、集約する。あるいは考えを示し、そのことへの異見を聞く、同意を得る。このレベルでも良い。立ったままでも十分できるし、その席でもできる。
 
4)朝礼の活用で話力の向上、元凶の共有化そして更に大事な要件が……
活力朝礼と称した実践企業は多い。決められた時間を守る、大きな声での挨拶、返事の交換で活力をスタートさせ、立ち姿、お辞儀などの基本動作を確認し、仕事での活躍の法則(すじみち)を確認する絶好の機会。伝達事項は協力関係を強めるし、基本能力の話すスキルも高める。
さらに、リーダーにとっては、メンバーの心身の健康状況の診断の機会でもある。「心中を察して欲しい」そのシグナルを振るまい、表情で伝えている。「話す事ことない、忙しいから朝礼無し」、実にもったいない判断のコミュニケーション不足である。
 
5)個人面接で相互の想いを交換する
制度がある、なしではない。相手の思いを聴き、こちらの想いを伝える、そこに正しい相互の理解が生まれ、今後の信頼関係を創れることである。飲ミ二ケーションも同様である。特に気になるシグナルを感じたときには即、ショート面接をすると良い。
例えば朝礼時で察した事実を元に「何か心配事があるのかな」と問いかける。「別に……」が最初の答えであろう。みた現実を以前と比較して気になる心情を伝え、サポートする旨を伝えれば良い。
多分ぽつりポチリと話す。本人の作り上げた心配事は本人にとっては正論。これを認めたうえで、リーダーとして想いを披露する。いかに独りよがりでの心配事であったかに気づくことも多い。心機一転の言動はそこから生まれる。
そううまくいくものか? それでもよし。相手にこちらの人間味が届いたことは確か。勿論、普段の人物的影響力如何である。
 
6)見える化の推進
個別情報保存ではいざというとき困る。ならばどうする? 「見える化にしよう」。この活動は既に推進されているであろう。白板、看板の利用、掲示、パソコンでの共有(動きは適宜入力)……がある。
先日の建築部品メーカS社のQCサークルか活動の改善発表では、台車の置き場所の一覧表を作成し掲示、各所ごとに看板を掲げ、置き場所を床にペンキで図示した。要は共有化する視覚化コミュニケーションの一策である。
 
7)連絡事項のスピード化
聞いてない。観ていない、困ったことだ。メールの一斉配信、これ開いてくれることが前提、回覧、皆いることが前堤。もしそうでなかったときはどうする? 連絡事項は緊急要素も多分にある。だからこそ万全策を重ねたいことでもある。
 
必要なことを、必要な人に、必要なときに、必要な方法で実践することが、協働力を生かしたリーダーの活躍ぶりである。
 
先日農業関連全国組織のリーダー研修で、今後の活躍に向けてまとめ上げた提言にもコミュ二ケーションの実践を約する項目が目につく。
 
●今後の活躍に向けた11(いい人)の活躍指針
 1.挨拶の実践は部下・組合員様に心を込めて、胸を張り実践する
 2.引き出すコミュニケーションの実践で信頼関係を構築する
 3.単なる良い人でなく相手のことを思い、褒め・叱りを心がけ結果を出す
 4.上下に歩み寄り、プライベートも含めた「心の通わせ上手」となる
 5.ミーテイングを活かし、多様な意見の取り入れや、コウモリの目を活かした切り口で違えた発想を広げる
 6.上司への働きかけに加えて、下からの報連組を積極的に取り、繋ぎ役もする
 7.制度の内容を自身が理解し、相手目線で話し、理解、納得を得る伝えをする
 8.マニュアルを利用一度は実践して教える、ときには君なるどうすると導く
 9.部下・同僚のSOSサインをいち早く気が付き、声がけ、モチベーションを高める
10.制度改正など経験則にはまらず新たな気づきを大切にする。
11.目標となるリーダー像を決め、具体的に行動し信頼関係を築こう!!
  *コウモリの目とは自身と反対の角度から観る(コウモリはぶら下がり反対目線)
団体は組織構造の変化の激しい昨今であり、新事業・サービスの内容も拡大する。この実現を遂行する要がリーダー研修の受講者である。第一線で伸展させる手腕を発揮する上でのコミュニケーションの実践は、C社と対象者が違えども共通である。
 
C社のT部長からのメールが届いた。研修所感である。その主旨は「解っている、やっている。でも最高か、まだできてないな、こうすればいいんだなと現状を診断し、更なる新たな一歩の踏み出しの施策を見出しました。受講者からの声も同様な記載が多い」との記述であった。お役に立てた実感は楽しい。
 
読者諸氏の日頃の診断とこれからのほんの一つの実践の踏み出しにお役に立てれば幸いである。

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◇澤田良雄氏

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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