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「朝鮮半島情勢と米中露、南北朝鮮、日本について」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「朝鮮半島情勢と米中露、南北朝鮮、日本について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

朝鮮半島問題は、世界の大きな課題の一つとなっています。

しかし、米国のトランプ大統領からすると、イランを軸とする中東問題と米国の足元であるベネズエラ問題に先行きが見えぬ中、優先順位は、今は低いのではないかと見られます。

中国本土は、北朝鮮が、北京を射程に収める核爆弾を保有したことについて、ある意味では、米国以上に北朝鮮の非核化を望んでいるものと思われ、北朝鮮の非核化については、米国と同じ立ち位置にあると考えても良いと思います。

ロシアは、元々の北朝鮮の盟友として、朝鮮半島には強い関心があるものの、今は、朝鮮半島にまで、勢力を注ぐ余裕はない、しかし、朝鮮半島問題にコミットしたい、そして、北朝鮮を同盟国と見ていることから、北朝鮮の非核化については、米中ほど、積極的に、真剣には捉えていないと考えられます。

一方、朝鮮半島問題の当事者たる南北朝鮮は、共に米中には、真の信頼感は置いておらず、南北融和、緩やかな南北統一を果たし、米中とより対等に国際社会でDealをしていきたいと考えている、特に北朝鮮の出自である文大統領は、韓国のトップとして、そうした状況を具体的に確立するという思いに燃え、ある意味、民族統一、民族発展あるべしという観念的な言動を繰り返しています。

その上で、南北朝鮮は、統一の為の資金を、
「日本は戦後賠償をしていない国」
との国際世論を醸成した上で、日本から引き出す手段に出てきているものと見られます。

こうした中、G-20という世界的な国際会議の直後、その会議の成果を吹き飛ばすような、
「米国と南北首脳による板門店会談」
が開催されたのは6月30日でした。

トランプ大統領のDeal感覚の中では、
「混沌を深めるイランを中心とした中東情勢とイスラエルとの連携強化」
そして、米国の足元、南米で起こっている、
「ベネズエラ問題への早期対応」
を優先させ、中国本土と朝鮮半島に関するプライオリティは相対的には低下しているように思います。

そうした中、中国本土の習近平国家主席の電撃的な北朝鮮訪問により、
「習近平国家主席は、北朝鮮の金正恩委員長が核ボタンを押す資格を持つ人間がどうかを、金委員長を中国本土に呼びつけるのではなく、習近平国家主席自らが北朝鮮に入り込み、しっかりと肌感覚で確認した」
との見方があり、更に、その上で、
「北朝鮮からの核攻撃を受ける潜在的リスクを持つ中国本土としても、米国同様、北朝鮮の本格的な非核化を望んでいる中、北朝鮮を中国本土自らが管理する覚悟をした。
しかし、万一、中国本土の指示に北朝鮮が従わぬ場合、その究極では、米中が共同戦略によって、北朝鮮の金正恩政権を削除する、その上で、中国本土に居る故・金正南氏の子息を北朝鮮に送り、正式に北朝鮮の非核化を進めるということで、米国と合意した。
そして、習近平国家主席は、その見返りとして、トランプ大統領から、ファーウェイの延命を軸とする米中交渉の継続の権利を獲得した」
との見方も出ています。

偉大なるDeal Makerたるトランプ大統領、習近平国家主席らしい動きとも言えるかもしれません。

そして、その後の動きを見ると、
「今後、北朝鮮との対話を如何に進めて行くべきかについて、米国政府内部では意見が割れている」
との見方が出てきています。

即ち、ワシントンの官僚は、
「核交渉の再開で北朝鮮の金正恩委員長は一体、何を要求して来るのか」
について、

*トランプ政権の中で最もタカ派として知られるボルトン安全保障問題担当大統領補佐官は、
「北朝鮮の核活動を事実上凍結させる代償として米国が行う可能性ある譲歩」
についての、The New York Times紙のレポートを読んで激怒、
「北朝鮮は、如何なる対価を得ることなく核プログラムを、直ちに解体すべきである。」
と主張しています。

*一方、米国官僚の中には、
「核凍結は、金委員長が如何なる対価も得ることなく、一層包括的な合意への道へと進むためのファースト・ステップである。
米国政府はその対価として、北朝鮮経済・市民生活の改善のため、ある程度の譲歩を行う」
ことを考えていると米紙では報じられています。

*そして、最終Decision Makerたるトランプ大統領は、2020年の大統領選挙を睨んで自分で作り上げて来たディ―ル・メーカーとしての立場を一層輝かしいものにすることに熱心であり、北朝鮮との間で、ステップ・バイ・ステップの交渉をしたいと考えている様であり、今回北と南の休戦ラインで金委員長と会ったことで、北朝鮮が核を完全に放棄することになるなどとは、公には一度も言ったことがないとしています。

こうした中、トランプ大統領は、
「米朝実務者協議を再開し、米国のコミットメントを確保」
した上で、上述したように、
「北朝鮮との詳細協議と説得は一旦、習近平国家主席に任せ、やれるものならやってみよと様子を見、これが上手くいけば、トランプ大統領自らが、背後で中朝を指導した結果と習近平国家主席の努力を上手にさらう形で、米国内で伝え、次期大統領選挙に生かす、(尚、この場合、習近平国家主席が、中国本土国内で習近平国家主席自身の実績を示すことは敢えて邪魔しない。)
もし、習近平国家主席の北朝鮮説得工作が不冴えとなれば、上述した米中挟み撃ち作戦に基づく金正恩政権の削除に出て、防衛産業筋に恩恵を与えつつ、極東をより平和な世界にしたと世界に訴え、次期大統領選に生かす」
といったことをイメージしているように私は見ています。

複雑に動く世界情勢、しっかりと見つめなければなりませんね。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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