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「『正倉院の世界』展にでかけてきました」(日比 恆明)

【特別リポート】
「『正倉院の世界』展にでかけてきました」

日比 恆明氏(弁理士)

本日は11月3日で、文化の日となり祭日です。この日は秋晴れの澄んだ日とはいえず、今にも雨が降りそうな曇り日でしたが、上野公園にある東京国立博物館で開催されている「正倉院の世界」展にでかけ、奈良天平時代の宝物を鑑賞してきました。


博物館の入口には案内の立て看板が掲げられていて、展覧会の案内と入場料の掲示が示されていましたが、その中央には「無料入館日」と訂正の貼り紙が貼られていました。何と、この日は入館料が無料でした。東京国立博物館では、博物館の日(5月)、敬老の日(9月)、文化の日(11月)の3日間は入館料が無料となっているのです。

何とラッキーなこと、と喜んでいたら、入館料が無料なのは館内の敷地と常設展示場だけでした。特別展は有料で、大人1700円の入場料をバッチリ徴収されました。

特別展の会場のある平成館に向かうと、入口からは長蛇の列が並んでいました。今まで何度も博物館にでかけたことがあるのですが、こんなに入場を待つ人達の行列を見るのは始めてことでした。ガイド嬢は、「最後尾からの入館は待ち時間が40分となります」と案内していました。この日の来場者は1万人を越えていると思われました。

なぜこのように来場者が多いかと言えば、まず、東京で正倉院の宝物を見る機会が滅多にないことが挙げられます。奈良国立博物館では、毎年秋になると「正倉院展」(「正倉院の世界」というタイトルではないのに注意されたい)が開催されていて、今年は71回目となっています。

しかし、過去に東京で正倉院の宝物が展示されることは少なく、5年に一度程度なのです。その理由は、国宝、重要文化財を奈良から東京まで搬送することが大変であり、破損などをおそれているからと思われます。


次に、主催者が読売新聞、NHKであることが理由に挙げられます。読売新聞では毎週のように正倉院の特集記事を掲載し、この展示会の告知をしています。マスコミにより広く告知されたため、この日の来場者の中には遠く福島、仙台あたりからも来られた人達が多いのではないか、と推測されました。


来場者の中には、このようなスタイルの人達もいました。天平の時代に着用されていた衣服か、それとも中国唐時代の衣服のデザインか不明です。時代考証をすれば少々疑わしいデザインですが、それらしい雰囲気でした。この3人組は中国人かと思ったら日本人でした。

なお、会場内では中国語の会話をしばしば聞くことでき、かなり多くの中国人が来場していたようです。展示されている宝物の中には、唐時代に到来したものもあり、それらの中には中国本土では消失したものもあります。本国では見かけることのできない宝物には、中国人も関心があるのでしょう。


平成館に入場すると、どこも人だらけでした。1万人以上の入館者が殺到するのですから、人込みを歩いているようなものです。展示物の前には行列が出来ていて、落ちついて展示物を観察することが出来ません。前に立つ来場者の肩越しに辛うじて宝物を見ることができました。館内では、ガイドが「立ち止まらないで、歩きながら鑑賞して下さい」と行列を誘導していました。


展示場では行列が続き、歩くだけでも大変でした。このため、各所にある休憩所ではこのような有り様となっていました。


会場内には、正倉院の建物の一部を再現してありました。高床の部分を説明しようとするもので、正倉院の扉の部分だけでこれだけの規模なのです。実物は左右33m、奥行き9m、床下の高さ2.5mの巨大なものであり、北、中、南の3棟から成り立っています。中学校の教科書でお馴染みの校倉造りで、写真では眺めることができるのですが現物は国宝なので近くまで寄って見ることができません。そのため、このような実物大の展示物を作ってその大きさを実感させようとしたのでしょう。


今回の「正倉院の世界」展の目玉は、写真にある螺鈿紫檀五弦琵琶でした。中国本土には既に実物は無く、世界でこれ一つしか残っていない、とのことでした。琵琶の表裏には薄く削った螺鈿が嵌めてあり、それはそれは綺麗なものでした。

但し、撮影しても良いのはレプリカであり、本物は撮影禁止でした。そのレプリカでも、平成の日本の最高水準の技術により製作されたもので、本物と比較しても遜色のないでき上がりでした。