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「人材育成『なぜするの』? それは3つの切り口」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(55)
「人材育成『なぜするの』? それは3つの切り口」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

人材育成の支援(研修・講演)が多い日々である。実効ある実施に向けた打ち合わせ時のご担当者部門とのキーワードは「なぜ研修するの」が基点。従って、経営理念、今日までの伸展の事実、企業動向、今年度の計画、対象者への期待事項、その実現に向けた強味、啓発必要点……を談義(異見交換)し、実効に向けてパートナーシップを構築していく。担当者と共に創り上げる研修がそこから形成される。

「なぜするの」? その柱は次の3点である。

1)経営理念の末端までの共有による自己確立の促進
2)チームワンで目標を必達する熱い仕事集団の醸成
3)各自の能力条件を自ら学ぶ楽しみづくり

今回はこの3点を切り口として提起していこう。

1) 経営理念の末端までの共有による自己確立

まず、経営理念の末端までの共有について切り込んでみると、先日Sテクノ社の新入社員のフォローアップ研修を担当した。数年継続し携わってきた研修である。

開講のトップ講話でH社長は、
「“人のお役に立つこと”をわが喜びとする精神は、創業以来、私たちSテクノが守り続けてきた企業理念です。従って、入社して約半年経った社員として、今後は自分の仕事を通して“人のお役に立てる”ことは具体的にどんなことがあるのか、そのために何をどうするかを考えた仕事の取り組みを期待します」
と話された。

半年間そのための「守」=基本を幅広く育成し、いよいよ「破」=自分なりの提案をなし、やがては「離」=自己確立を成して下さいとの訴求である。

Sテクノ社は後付け建材メーカーとして50余年リーデングカンパニーとして伸展してきた開発型企業。従って、研修担当者T氏との打合せ時からのキーワードは「考働力」、即ち人の持つ考えるパワーと、即行する実践力、そして、関わる人との連携を意図とした活躍ぶりができる社員育成。半年経ち、信用を重ねてきた新人から、任され、責任持って活躍する社員へのランクアップである。

「責任持って」とは、自己の持ち味を加味して関わる人の協力を得ることが欠かせない。だからこそ「働」。あえて文字の意味合いを解すると、「人の力を重んずる、人の力を重ねる」といえる。

「お役に立てることは何ができる?」 それは、人だからこそできる「今見えないないことを想い浮かべ、こうしてあげたら喜んで頂けると智恵を生み出し、ならば先手で施しができることであり、おもてなしの実践にほかならない。

ここまでの半年の学びの経験値は更なるお役立てを高めていく経験智として生きてくる。Sテクノ社は人財3条件として、「創造」(新たな価値を提案、推進できる人財)、「挑戦」(失敗を恐れず果敢に行動する人財)、「共生」(多様な価値観を尊重し、共に高め合える人財)を掲げ、目指すべき社員像の育成を推進している。

更に組織力も上に立つ人の「考働」によるメンバーの潜在能力を引き出す牽引力によって強化されている。だからこそ成せる開発創造型企業としての伸展がある。

2日間、現状の活躍ぶりを確認し、社内常識テストも織り込んだ。まとめは今後の活躍に向けてのディスカッション「後輩を迎える先輩社員としての当社の人財に向けて」のテーマ。

受講者の発表では 次の11(いい)ポイントが提起された。

1.向上心を忘れず、自分の枠にとらわれず深掘り・探究心を高める
2.お客様一人ひとりに本気で対応する
3.積極的姿勢を忘れず、多くの人ともコミュニケーションを取る
4.凡事徹底。例え、お取引様、業者さんにでも自ら堂々と挨拶する
5.業務内容や製品を確実に覚え込む
6.小生意気にならず、先輩の仕事を真似るなど多くを学びとろう
7.ミス無しに徹し、考働力を高め仕事の工夫を重ねる
8.何事にも視野を広げた仕事をする
9.伝えるときには、キーワードを絞り、端的、明確に、相手に解る話題を活用する
10.同期仲間は互いに鏡とし、切磋琢磨しつつ、繋がりを生かし、支え合う
11.成功も振り返るPDCAを実践する
 
来春には「憧れの先輩となる」、このビジョンに向けて各自が実践目標の設定に落とし込み、指導者からのアドバイスを得て、以後、自主管理を実践する。

PDCAサイクルのスパイラル化は、「お役に立つことの高度化」、その「実現のための考える」「新たな考えを産み出す」機会であり、考えの創出には「新たな学び」が不可欠である。

2)チームワンで目標を必達する熱い仕事集団の醸成

Kシステム社の決算会議での特別講演の依頼テーマは「人材育成とチームワーク」である。K社は、創業以来22年、紆余曲折の業容を重ねて現在は確実なる存在感ある企業である。

当日、時間前に会場に伺った。玄関を入りエレベーター利用である。待つ間に女性と一緒になった。乗車した。すかさず「何階ですか」と問いかけを頂く。「8階お願いします」と答える。すると「澤田先生ですね。本日はありがとうございます」と挨拶をなされた。小生にとって初顔の人である。サッとひらめいた。これから講演するK社の方。でも小生の名前までもと……。

「私Nリーダーの部下です。ですからもしやと思いました」と紹介する。Nリーダーとは、打ち合わせ時に対応頂いた女性管理職であり、仕事のできる人との印象の強い人である。当決算会議の主管責任者にほかならない人だ。なるほど、主管部署内での協力関係は強い。チーム力としての評価ができると判断した。講演の掴みにこの事実を取り入れたこというまでもない。
 
先のラグビーワールドカップで、「勝つのは奇跡でなく必然である」「チームで勝つ」との選手の言葉が多くの方に影響を与えた。仕事での現実の巧拙に通ずるともいえる。この場面も企業の評判を高める功の一端である。

K社のモットーは「世の中、人のためになる仕事」であり、システムの納入でなく運用サーポートサービスを主業務としている。業界の特性である個々社員の持つクリエテイブパワーをフランクに交換してきた組織風土が特色であり、人材育成の推進は社員による教育員会を設置し推進している。従って、受講反応も良く、ここにも育成文化の一端を確認することができた。

改めてチーム力に関して確認すれば、その意味合いは「チームの目標達成のために各自が自分の役割を果たすこと」である。そこには互いに支援し合い、影響し合うことにより一人ひとりで別々に活躍するよりもプラス条件が生まれる。

よく1+1+1=3でなく、3プラスアルフアの相乗効果が出るという。それは三人寄れば文殊の知恵といった創造性であったり、技の連携プレイだったりする。また、異質メンバーの相互の影響は個々の能力向上も及ぼす素晴らしさがある。職場の組織活動に置き換えれば次の7条件が伺える。

●チームワンの強い仕事集団の7条件
①努力の方向性の一致    (経営理念・年度計画・部署目標の共有)
②役割の当事者意識と相互協力  (責任感・協働関係・法令遵守)
③心の通った対人関係    (挨拶・会話・相談)
④提案・知恵の発信と活用  (改善・提案・小集団活動)
⑤個人力が協働力の活用  (協力関係・リーダーシップ・メンバーシップ)
⑥柔軟な動きで総合力向上  (楽しい風土、柳のしなやかさ)
⑦適切な報連相で風通しの良い親密性  (コミュ二ケーション、相互関心)

そこには、各メンバーが最高実践を施すにも協働力が形成され集団力の強さとして高められている。即ち「協」は上の力は大きく下に支える小さな力が 忄(りっしんべん) 心一つとなり大きな力となる。即ち協力の力を生む。「働」は人の力を重んずる、人の力が重なると理解ができる。

●実践状況をみてみよう
それでは具体的な手の打ち方がなされている状態を10点列挙し、現状診断にお役立てたいと願う。
それは、
① 目標設定の前提となる上位方針が具体的に示されている。
(何をどう期待するかの明示、各自の目標設定が生きる)
② 形式にとらわれず、常に新しい方法や考え方を検討材料に取り上げる
(上位者の革新力と部下からの提案を生かす。実践決定権は上位者にあり)
③ 情報が迅速に広報され、部署への落とし込みが成されている
(情報加工力によるスピーデーな対応のヒントが部署内に落とし込まれている)
④ 意見の対立があっても課題中心であり、後でしこりを残さない
(信用・信頼関係が醸成されている)
⑤ 思わぬ不具合が発生時、傍観、批判のみでなく各自が自分自身のこととして受け止めている 
(協働関係の集団・相互支援・早期解決・発生事実から学び合う)
⑥ 意見交換はタテ・ヨコともにゆがめられず率直且つ自由闊達に行われる。
(組織での立ち位置の違いがあっても相互の認知と相互協力・建設的会合の実施)
⑦ ひとこと言葉が飛び交う挨拶風土ができている。
(上司率先による活力職場醸成・各自が喜働による活躍ぶり)
⑧ 目標達成に向けた報連相が生かされている
(上位者への下位者から寄ってくる報連相の機会を生かしたほめ、アドバイス支援)
⑨ 指導・支援が適切に施されている
  (目標達成に向けた不足能力の育成力行使・任せる勇気)
⑩ 下位者に上位者が気にかけてくれているその実感がある
 (寄っていける人物的影響力、憧れ的存在感、必ず観てくれている安心感)
ということである。

如何であろうが。環境によって人は育ち、士気も高まり、仕事の面白さが生まれる。牽引者が10箇条を施すならばメンバー間の不信、不満の蓄積による意欲温度を下げることはなく相互信頼を基にした強い仕事集団が形成されている。

それには、前提となる強いチームの7条件を、チームの職責に応じた適切な育成の施しが不可欠である。「目標達成は必然である」「チームで成し遂げた」との言葉の現実化を生み出し、職場員全員で大いなる乾杯を愉しみたいものである。

3)各自の能力条件を自ら学ぶ楽しみづくり
 
大手製鉄所での熟練者の研修担当も長い。世界1の鐵鋼製造力を総力を結集して実現している企業だからこそ熟練者の受講者と確認する。それは「一人ひとりが現担当のプロとして世界で一番、一流、そして他社(人)の追随を許さないオンリーワンの専門力を有している人ですね」である。

勿論その答えは首をタテに振る。それは、仕事での瞬間瞬間は他の人がカバーできない。勿論、事が起こってからの支援は別だが……。とすると総力の一役を担う人は、瞬間瞬間、最高の力を完璧に施すこととなる。

逆説すれば、たった一人のたった一瞬の対応の未熟さが他の人の力を無駄にしてしまうことになりかねない。ここに各自の人材育成の「なぜするの」の切り口がある。それは各自の最高実践のレベルアップを支援することである。

●実績形成能力の5本柱とは

そこで、実績形成をストリー化して、5つの能力軸を記してみよう。

① 専門・基本能力=これはインプット能力で、専門的知識、技術力、組織機能の理解、方針、法令、条例の理解、お客様の理解、情報力、関わる人の理解力、先見力、教養、計数感覚……。

② 企画提案能力=①からアウトプットを創造する力。多面的思考力、改善革的創造力、計画(実施方法発見)力、企画提案内容の理論構築力、発信する判断・決断力、課題解決力……。

③ 意思伝達・折衝力=②を発信するには、自己表現力(話力、文章力、ビジュアル)聴解力、そして折合い、調整の折衝力が欠かせない。
 
④ 人間的魅力=頭が良く、弁が立っても日頃の人物的影響が協力温度を決める。共感性、誠実、信念、熱意、そして幅のある遊び心。要は職場内外から信頼関係を得る人間性。

⑤ 実績達成力=計画満点実行せぬが玉の傷、努力したが結果実らずでは恥ずかしい。自らの先手の実践力、想定外の事態発生時の問題解決力、経過を診る管理力、そして心身の健康管理力。特にメンタル不全に要注意。

この5本柱はどれが欠けても「新」を見出すこと、また新たな目標を掲げても協働力を活かして成果を産む活躍は不可能だ。しかもこの条件の個々の内容は変化する。例えば専門力でも、広さ、深さ、新鮮さをどう増幅していくか、不断の育成と啓発が決め手となる。

なぜなら現有能力の蓄電池は使えばなくなる。だからこそ自己発電型で常に新たな能力的エネルギーを蓄えることにほかならない。自己啓発の必要性は解っている。だからこそ、その支援に社としての支援策、上司からの自己啓発方法の指導が不可欠である。

サーカー選手の三浦知良選手は54才。34年ぶりにJ1に昇格するチームの現役選手である。「サッカーが好き。だからもっと技術を磨きたい」と語る凄い人である。チームの大半の若手プレイヤーの良き影響を与えまさに、レジェントとヤングパワーの融合と言える。
 
この切り口では先日、自動ドアーのリーディングカンパニーであるT工業の管理者研修を前期・後期に分けて実施した。トップを後継したY社長の思い入れで人材育成に力を入れての支援である。

研修内容ではあえて、当社の若手社員の良さに着目し、どう生かし活力を高めた組織の強さづくりにするか、年長者の持つ凄さに着目し、より高い技術力・技能力による貢献力の高まりを助長していくかを研修内容とした。

まとめでワークークショップ方式で更なる活躍の施策を産み出した。その一部に、
「若手、年長者問わず、フェイスツーフェイスの会話を更に多くし、視野の拡大に生かす」
「年長社員の熟練力と若手社員の活動意欲を融合しONEチームに育てる」
「任せる勇気とやらせ方に配慮し部下の意欲を高揚していく」
「年長者若手に一言(感謝、ねぎらい、認め」のプレゼントでモチベーションを上げる働き掛けを施す」
等々が提起された。

働き方改革対応には多様なる労働力の活用も欠かせない。「若い人は……」「年長者は……」などとタコつぼ思考での中傷は異能力の集団だからこその強味を削いでしまう。それぞれの強味を最適に融合し、企業、職場に貢献できる楽しみを各自が享受する企業活動を推進したいものである。

その実現には、「お役に立てる喜びを創る当社」「チームワンでの仕事集団」「自家発電型の学ぶ各自」こんな人材育成のキーワードを今回は記してきた。

「社員の成長が当社の成長です」。 今年も大手製油所構内管理のC社のA社長と確認し、中途採用の多い新人研修を支援した。ここ数年で最も多い受講者数であった。

 

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◇澤田良雄氏

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/