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「大嘗宮の参観に行ってきました」(日比恆明)

【特別リポート】
「大嘗宮の参観に行ってきました」

 日比 恆明氏(弁理士)

11月24日の日曜日、皇居で一般公開された大嘗宮の参観に出掛けてきました。この日、朝は小雨でしたが10時頃になると曇り空となり、その後一日中曇りの天候でした。これは絶好の参観日和であり、出掛ける決心をしました。雨が降りそうな天気であれば参観者は少なくなるはずで、混乱を避けて参観できると判断したからです。宮内庁のホームページをチェックすると、午前10時の段階で「待ち時間は0分」と表示されていました。
 
大嘗宮とは、皇位承継に伴う大嘗祭のために仮設される祭場で、ここで新天皇が国家安寧などの儀式を行う建物です。大嘗祭は一代一回限りということで、大嘗宮は儀式の後に解体されるのが慣習となっているとのこと。前回の平成天皇の即位の際に使用された大嘗宮は参観できず、次回の参観には私が生きているかどうか不明のため、これが最後でしょう。
 
外国でも大嘗祭に似た行事は戴冠式と呼ばれ、あちこちの王室で行われているようです。有名なのは英国王室の戴冠式で、エリザベス2世が昭和28年に行っています。エリザベス2世の在位期間が長いため、その後は行われていません。次回の戴冠式は世界から注目を浴びることになるでしょう。
 
さて、パソコンのソフトで「だいじょうさい」と入力すると「大嘗祭」と変換されました。このような単語は神社関係者のみが使う特殊なものと思っていたのですが、ワープロソフトには既に登録されているようです。


        写真1

この日、皇居前広場に向かうと参観者を蛇行させて行列させるポールが準備されていました。しかし、天候が悪いため予想よりも人数が少なく、行列しなくともそのまま進行することができました。
 
参観者の中にはバスツアーの一団もお見かけしました。あちこちの旅行会社で参加者を募集しているようで、バス代と弁当代込みで数千円といったところです。しかし、大嘗宮の参観は誰でもでき、無料であって予約も必要のないことからわざわざバスツアーに頼らなくとも良いと思われるのですが。近県の方にとっては、電車などの乗換えもなく、ガイドの案内に従っていけば簡単なのでツアーを選ばれたのかもしれません。


         写真2

この後、手荷物検査とボデーチェックの関門があるのですが、拍子抜けするような簡単なものでした。以前出掛けた新年の一般参賀では、厳重な警戒と手荷物検査でした。今回は建物を見学する、という目的のためでしょう。


        写真3

チェックポイントを過ぎて坂下門から皇居内に入場するのですが、日頃は見かけることのない注意書きが立てられていました。「飲酒、喫煙の禁止」は当然のことなのですが「仮装などの服装の禁止」の項目もありました。もしかしたら、過去に仮装などをして入城した参観者がいたのかもしれません。

また、注意書きの下の方には英文による翻訳文も記載されていました。この日、結構な人数の外国人を見かけることができたので、外人観光客への警告のためでしょう。ただ、私が見た範囲ではスカーフを被ったイスラム系の外国人は見かけませんでした。イスラムは一神教のため、神道を祭る建物を忌避したのではないかと思われます。
 
富士見櫓を廻って東御苑本丸まで辿り着くと、遠くに大嘗宮が見えてきました。本丸の地区は結構広く平坦ですが、ここに到着するまでが大変で、急な坂を登らなければなりません。坂下門の前にある注意書きには、「ハイヒールや下駄での歩行には十分ご注意下さい」と掲載されていた理由が理解できました。坂の傾斜角度は30度近くあり、ハイヒールではとても無理です。高齢者や車椅子であっては参観は難しいでしょう。

そもそも、本丸とは江戸城の中核であり、敵が攻めてくるのを防御するために構築されたものです。お城というのは、歩くために設計されたものでないことを実感しました。江戸時代の武士達は本丸に参上するために、この急な坂を毎日登っていたことになります。将軍に仕えるのも大変だったでしょう。


        写真4

        写真5
 
参観者がお目当ての大嘗宮の正面にまで到着すると、皆様写真撮影をしていました。前列の参観者が撮影に熱中しているため、中々移動しません。皇宮警察官は「押さないで下さい。2、3枚撮影しましたら順路に沿って移動して下さい」と繰り返していました。このため、後列にいる人達はスマホを掲げて万歳の恰好となっていました。
 
大嘗宮の建物は意外と簡素な造りで、もしかしたら天平時代の神宮はこのようなものであったのか、と感じました。英国王室の戴冠式が石作りのウエストミンスター教会で開催されるのとは全く逆のようです。これは木の文化か石の文化かの思想の違いでしょう。なお、参拝者が見学できるのは建物の周囲だけであり、内部には入れません。


         写真6

大嘗宮を撮影している参観者達を横から眺めるとこのようになりました。建物の前には規制線が張られていて、規制線に沿って撮影されていました。この日、参観者で混雑したのはこの場所だけであり、順路では混雑することはありませんでした。もし、日曜日のこの日が快晴であればこのような人数ではなかったと思われます。多くの参観者により、撮影するのは相当に混乱したのではないでしょうか。


        写真7

一通り大嘗宮を参観したなら、皆様は三々五々帰路につかれました。この後、楽堂を経て皇居の北側に退出することになります。私が皇居前広場に入ってから平川門を出るまで、約1時間20分の周遊でした。歩数にして約1万歩となり、少し疲れをおぼえるような散歩となりました。


        写真8

大嘗宮の設営と解体は清水建設が請け負っていました。本丸には建築業の許可票、労災保険関係成立票、建築基準法による確認済の三点セットが掲示されていました。一般住宅を建設する場合には、必ず標識を掲示しなければなりませんが、宮中での仮設の建物にもやっぱり建築法の適用があるようです。


        写真9

帰路において、写真のようなキャリーバッグを引いている人を見かけました。このバックを引きながら皇居内を歩いてきたようです。個人の好みなので別に文句はありませんが、起伏の激しい城内を歩かれたのはご苦労なことでした。
 
大嘗宮の参観は12月8日までです。ご関心の有る方はお早めに。