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「2019年、渋谷のハロウイン」(日比 恆明)

【特別リポート】
2019年、渋谷のハロウイン」

日比 恆明氏(弁理士)

今年も渋谷では「ハロウイン」が開催されました。「開催」と言っても主催者がいるのではなく、仮装した人と野次馬がどこからとなく渋谷の路上に集まって、そぞろ歩きをするだけのことなのですが。
 
昨年はセンター街で若者が軽トラックを横転させる事件があり、ごみ散乱や商店街の売上低下などの悪影響もあって社会問題となりました。渋谷区議会では、今年のハロウインの中止や代々木公園での開催などが討議されたようですが、いずれも沙汰止みとなっています。群衆が勝手に集まってくるため、規制はできないと判断したからでしょう。

そもそもハロウインはケルト人の収穫祭であったのがアメリカに伝搬し、子供が仮装してお菓子をねだって歩く行事に変わった経過があります。その本家のアメリカでもハロウインは変化しており、家庭内や会場内での行事になっているようです。子供が見知らぬ人から毒入りのお菓子を渡されるような事件を防止するためです。

しかし、渋谷のハロウインを観察していると、伝統のカボチャの飾りや魔女の仮装は殆どなく、最近に流行っているキャラクターや風刺的なコスプレばかりです。日本のハロウインは進化し、独特の文化に変化していったようです。こうなれば、ハロウインという称呼を止めて「渋谷の秋祭り」「渋谷馬鹿騒ぎ大会」「渋谷仮装行列」などに変更すべきではないでしょうか。


        写真1

午後8時前後の渋谷駅前スクランブル交差点では、このような人込みでした。センター街では山手線のラッシュ時よりも多い混雑振りで、歩行するのが困難な状況でした。参加者は100万人と言われていますが、これは25、26、27、31日の合計ではないかと思われます。

何れにせよ、正確な統計はなく推定値で、この日の参加者は50万人以上ではないかと推測されます。個人的な感じでは、参加者は昨年よりも2、3割増えているのではないかと思われました。渋谷駅前には入場制限があるわけではないため、電車で到着した人達が次々と集まっていました。


        写真2 


        写真3 


        写真4 


        写真5 


        写真6 


        写真7 


        写真8 


        写真9

路上では仮装した人達が写真の写し合いをしていましたが、それらの多くは既製品のコスプレを着用していました。このため、仮装した人達を眺めていると同じようなコスプレである、30分ほど観察していると見飽きてきます。

仮装している本人は非日常的な気分で高揚しているのでしょうが。写真4は大阪道頓堀にあるグリコの看板を真似ており、写真5は野武士を真似た仮装です。写真7は令和の元号を発表した菅官房長官を真似てもので、極めて精巧なお面をつけていました。
 
このようにハロウインが盛り上がっているのですが、実は市場規模は縮小しています。ハロウインに関連した売上は、2016年には1345億円でしたが、2018年には1240億円に減少しています(日本記念日協会の試算)。

この売上金額には、仮装の衣装などからデパート、スーパーなどでの店舗の飾り付けなどが含まれているようです。小売店や飲食店などでは、ハロウインのイベントを開催しても集客や売上が見込めないと判断したのではないでしょうか。渋谷での盛り上がりとは逆に、商業界ではハロウインから熱が冷めてきたようです。


       写真10 


        写真11 


        写真12 


        写真13 


        写真14

今年は外人の仮装も多く見かけられました。写真10では、本物の飛行機のパイロットかと一瞬錯覚しましたが、彼らもコスプレでした。写真11の人物はフランス人とのことで、中東からの移民ではないかと思われました。

外人の仮装では、欧米系の人達は比較的年齢層が高く、50代、60代の人も珍しくはありませんでした。これに反して、中国人、韓国人(多くは留学生か短期労働者と思われる)の仮装者は20代の若者に限定されていました。これは路上パーフォーマンスに対する文化の違いにあるのではないかと推測されます。特に中国人は国内での集会が禁止されているため、このような匿名で参加できる仮装パーティは異次元の世界と考えているのではないでしょうか。
 
写真14では、肌の黒い人がコスプレしているように思えましたが、この人物は日本在住の日本国籍者でした。たまたま、警備会社に雇われて、警備の制服を着用しているだけでした。普段は見かけない服装をしていると、全てが仮装のように思われました。


        写真15 


        写真16

この日、少数ではありましたが個人のパーフォーマンスが見かけられました。写真15は全身を金色にした男で、何やら叫んでいました。男の股間に注意して下さい。写真16は身体を血だらけにして、苦しんでいる様子を演技していました。何れも売れない役者のようで、パーフォーマンスの途中で警官により排除されていました。


        写真17 


        写真18

来場者が余りに多いことから、今年から警備の方法が変わってきました。毎年のように騒ぎがあることから、警察では過去の体験から学習し、効率的な警備をするようになってきたようです。また、渋谷区では約1億円の予算を拠出し、警備会社に警備を依頼していました。その結果、25か所にのヤグラを立て、ヤグラには警備会社の警備員が乗り、「立ち止まらないで歩いてください」と注意してました。

ヤグラの周囲には制服警官を配置し、ヤグラから警備員が不届き者を見つけると警官に通報していました。警備員では警官のような逮捕権が無いからでしょう。今までにはなかった警備手法であり、群衆が一か所に固まらずに自然に移動するため効果的であると思われました。また、警官は群衆を車道から歩道に誘導しており、人の流れを回遊させていました。今年の警官の動員人数は昨年の倍近いのではないかと思われ、どの通りでも警官の姿を見かけました。


        写真19 


        写真20

昨年のハロウインでは条例違反や窃盗などで13名が逮捕されましたが、今年は軽トラックの転倒などの騒ぎが無かったためか逮捕者は9名と減少しました。私は偶然でしたが、容疑者が逮捕される瞬間に出会いました。写真19がそれで、真ん中に立っている男が容疑者です。痴漢か盗撮の容疑ではないかと思われます。
 
渋谷ハロウインでの騒動の原因は飲酒にある、と考えて、渋谷区では本年6月に路上飲酒を禁止する条例を公布しました。また、小売店に依頼して、ハロウインの期間中は酒類の販売を中止するよう依頼しています。このためか、路上で飲酒する者は見かけられず、酔っぱらいもいませんでした。参加者の方も飲酒禁止のルールを守っていたようです。

同時に、路上喫煙も禁止したのですが、こちらは余り守られていなかったようです。無断で喫煙していたのは外人が多いようで、写真20で喫煙していた4名はいずれも中国人でした。


        写真21 


        写真22

ハロウインで問題となっているのは、参加者のゴミ捨てです。飲食物の空き缶、空きトーなどをポイ捨てするため、路上にはゴミが散乱して後片付けが大変です。このため、翌日早朝にはボランティアが自発的にゴミ集めをしており、この活動はマスコミが模範行為と報道しています。

しかし、参加者がゴミ捨てをする前にゴミ集めをするのが先決なのです。このため、あちこちではゴミ箱を設置し、路上への放置しないように呼びかけてました。

写真21は、或る民間会社が駐車場にゴミ箱を設置して、ゴミをここに投入すると何やらプレゼントをするという活動をしていました。写真22は、ゴミ箱の設置と共にゴミ袋を道行く人達に手渡していました。こちらは渋谷区による活動で、作業していた人達はほぼ全員が渋谷区役所職員でした。時間外に公務員が駆り出されるのは、大変なことです。


        写真23 


        写真24

地元の商店街ではハロウインの開催を反対しているのですが、その理由には売上が激減するという影響があるからです。しかし、同じ商店街と言っても業種により温度差があり、飲食店ではむしろ売り上げを伸ばす好機と考えているようです。

それぞれの飲食店の前では、店員に仮装させて客引きをしていました。飲食店の中には、テーブル、椅子を全て取り払い、客全員を立ち飲みにして、通常よりも2倍の人数を詰め込んだところもあったようです。


        写真25 


        写真26 


        写真27

飲食店に対して物販店ではハロウインには反対のようです。道路には参加者が溢れるため、顧客が店舗に入店することができず、商品が売れないからです。ハロウインの当日になると、物販店では売上げが3割減るという話もあります。このため、渋谷地下街(しぶちかショッピングロード)では各店揃って午後6時半にはシャッターを閉め、休業していました。振興組合で取り決めたのでしょうか、これだけ一斉に閉店するのも珍しいことです。

また、一部の店舗では参加者による被害を受けないように、事前に予防策をしているところもありました。写真27では、進入禁止のテープを張りめぐらし、店の前に座り込まないようにしていました。営業は続けたいが、参加者で邪魔されるのは嫌だ、という対策でしょう。


        写真28 


        写真29 


        写真30

渋谷のハロウインは世界的に有名になったせいか、ありとあらゆる国籍の外人が集まっていました。写真28はインドネシアから来日した女性です。写真29は仮装かと思ったら、ミャンマーから来日した本物のお坊さんでした。写真30の女性の国籍は不明ですが、ブブカを着用した参加者は今回始めて見ました。多分、この日には数十カ国の国籍の外人が渋谷まででかけたのではないでしょうか。
 
そもそも、渋谷のハロウインに外人が集まるようになったのは、インターネットによる影響が大きいと思われます。ネット検索で「SHIBUYA HALLOWEEN 」と入力すると、多数の英文の紹介ページが検出されました。半分位は日本語のホームページをそのまま翻訳したもので、残りは在日の外人が独自にホームページを立ち上げたものでした。各ホームページでは、渋谷までの行き方、遊び方、どのような仮装であるか、などが詳細に解説してありました。

また、ハロウインは中国語で「萬聖節」と翻訳されています。このため、「澀谷 萬聖節」と入力して検索すると、中国語で渋谷ハロウインを紹介するホームページが多数検出されました。
 
このような現象から、外人にとって渋谷ハロウインは日本の大イベントであり、観光地であると認識されているのではないでしょうか。政府は外人観光客の誘致に必死となっています。しかし、単純に観光地を巡るツアーや爆買いなどでは外人観光客も飽きてしまいます。外人観光客のリピーターを呼ぶには買い物をする「モノ」から、日本独特の体験を味わう「コト」に方向を変えなければいけません。渋谷ハロウインは絶好の「コト」観光なのです。

このイベントを上手く活用すれば、外人観光客をより多く集客できるでしょう。渋谷区も考え方を変え、ハロウインを中止するのではなく、利用することを検討する時代に入ったのではないでしょうか。


        写真31

JR渋谷駅のプラットホームで見かけた仮装した女性です。この恰好で自宅から渋谷まで到着し、同じ恰好で帰宅していました。車内でも仮装のままで乗車する人達を多く見かけました。一夜限りの非日常的な体験をして、その楽しい気持ちを自宅まで持ちかえるのでしょうか。

昔観たアメリカ映画で、金持ちに扮装して仮装パーティーに参加した若者が、安アパートに戻って衣装を脱いだ瞬間に現実の自分の姿に戻ってガッカリした、というストーリーがありました。彼女もそれと同じ感情を味わうかもしれません。なお、彼女は中国人でした。

■今後のハロウイン
 
渋谷のハロウインは毎年盛り上がり、参加人数も増えています。外国観光客も増加していて、このままいくと恒例のイベントに定着する可能性があります。

似たようなイベントに、ニューヨークのタイムズスクエアで大晦日に開催される「カウントダウン」があります。このイベントは100年以上の歴史があり、毎年100万人以上が参加する有名なものです。

道路事情や社会体制が異なるので、同じように比較することは難しいと思われますが、行政、警察で管理を上手に行えば定着するのではないでしょうか。カウントダウンでは、警備が厳しく、タイムズスクエアに入るにはボデーチェックがあり、手荷物の持ち込みは禁止されています。テロを防止するためです。また、飲酒も禁止されていて、厳重な警戒体制となっています。大きな事故も無く長期間続けられたのは、過去の警備の体験の蓄積があるからでしょう。

渋谷ハロウインもこれから警備の体験を積み上げ、事故や犯罪が発生しないように努めれば、健全で誰でもが楽しめるイベントに定着するでしょう。来年の開催を楽しみとしています