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「私見 国際金融的視点から見た中国本土経済」(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「私見 国際金融的視点から見た中国本土経済」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

私は、しばしば、
「中国本土にはバブル崩壊のリスクはないのか?」
との質問を受けます。

これに対して、私は、
「中国本土国内にはまだ、強い内需があり、中国本土政府が成長のバランスをコントロールしながら運営しているので、そのマネージメント能力の高さから、リスクは低い。
但し、国内の投資家に不安が出て、国内の投資家が投資資産の売却に出るとバブル崩壊は顕在化する可能性が出てくる」
とお答えしてきました。

そして、海外投資家の中国本土からの資金引き上げリスクに関しては、
「中国本土は未だに厳しい金融管理体制があり、外資勢が簡単には中国本土市場にアタックを仕掛けられない状況にある」
との見方をし、簡単にはバブル崩壊の引き金にはならないと見てきました。

しかし、中国本土は、今、
「国際金融の罠」
にはまりつつあるのではないか、との懸念を私は持ち始めています。

中国本土政府・国家外貨管理局は、「国家外貨管理局年報(2018年)(以下、年報)」を発表し、中国本土の外貨準備の過去の運用実績、通貨構成などのデータを初めて明らかにするとともに、投資理念、リスク管理、運用体制などの状況を説明しました。

この発表は、国際金融社会に本格的に参入していく自信がついたという一つの中国本土の思いの表れではないかとも見て取れます。

そしてまた、年報でより多くの情報を公開することで国際金融市場の誤解を減らし、中国本土の外貨準備運用に関する国際信用力を高める上からも肯定的にこれを評価することは出来ましょう。

更に、実際に年報を見てみると、2005年から2014年までの中国本土の外貨準備の平均収益率は3.68%となっており、また、その通貨構成をみると、米ドルの比率が1995年の79.0%から2014年には58.0%まで低下し、米ドル以外の通貨の比率が21.0%から42.0%まで拡大しています。

この変化についても、国際金融市場では、
「中国本土の外貨準備の通貨構成はますます多様化し、世界の外貨準備の平均水準より分散している。これは、中国本土の対外経済貿易発展と国際決済のニーズにかなっているだけでなく、外貨準備の為替リスクを低下させるのにも役立つとも言える」
との肯定的な見方があり、また、
「基軸通貨・米ドル」
に対する挑戦を始めた中国本土の、ここでも一つの自信の表れとも言えましょう。

しかし、問題はここからです。

年報によると、2018年の対外債務残高(以下、全て残高ベース)は1兆9,652億米ドルであり、このうち、中長期の対外債務が6,936億米ドルと全体の35.3%となる一方、短期は1兆2,716億米ドルと64.7%を占めた点に不安の種が生じており、更に、私たち、国際金融関係者の感覚からすると、その短期債務の多くは、「米ドル建て」で占められているのではないかという点が気になるのであります。

以下、細かく、ご説明申し上げます。

中国本土では、この間、米国の動きを見ながら、米中金利差を分析しつつ、
「今後、米ドル安、人民元高になる」
と予想、将来価値の上がる人民元を意識するビジネスマンが増え、短期で米ドルを借入、ビジネスの拡大を図るという行動を取る中国本土企業が増加、その結果、中国本土の短期対外債務が拡大していると、私たち国際金融筋の多くは、ほぼ確信しています。

また、2013年に中長期が21.6%、短期が78.4%であった状態と比べると、対外債務の構造は改善されているとの肯定的な指摘はありますが、短期債務が占める割合が依然として高いとの見方が国際金融筋の一般的な見方です。

尚、2018年の外貨準備に占める短期対外債務の割合は41.4%となっており、この年報では、この点を捉え、
「この比率は、一般的に警戒を要する水準とされる100%を下回っており、中国本土の対外債務のリスクは全体的にコントロール可能な状態にある」
と説明されています。

しかし、1997年のアジア通貨危機を経験した私たちからすると、
「外貨準備の中で、米ドル建て債権を減らす一方、短期の対外債務、就中、米ドル建ての短期対外債務を膨らませている中国本土、中国本土企業は、もし、アジア通貨危機時期のように、突然、そして、急激な人民元安のアタックを国際金融市場で受けると、米ドル建て資産は少なく、返済に充てにくい、そして、中国本土、中国本土企業の収入の主たる源泉が人民元であることを考えると、例えば、もし、アジア通貨危機の際のインドネシアのように数ヶ月でインドネシアルピアの価値が8分の一になったように人民元の価値が8分の一ともなれば、中国本土、中国本土企業は突然これまでの8倍もの人民元を稼がなくては米ドルの返済ができなくなる、しかし、そうした8倍もの利益を短期間にあげることは事実上不可能、よって、インドネシアのように、一旦は国家破綻する、そして、現行の国際金融システムからすれば、その際には、中国本土は、国際通貨基金(IMF)と言う国際機関の管理下に置かれ、財政・金融・産業政策といった経済政策主権をIMFに事実上奪われることになりかねない」
との厳しい見方が出てくるのであります。

そして、こうした形での、
「中国本土のバブル崩壊の可能性」
は国際金融の罠の中で高まりつつあるように私には見えます。

因みに、更に言えば、中国本土政府は、1997年のアジア通貨危機の際の韓国と同様、公式統計に含まれない香港やニューヨークなどの金融センターでの借り入れを対外債務に含めていないとの疑義があり、その額は最大1兆5,000億米ドル前後と国際金融筋は見ており、これを前述の公式統計に加えると、中国本土は、3兆米ドルを優に超える対外債務が存在していることになり、外貨準備高では十分にカバーしきれない状況に既にあるとの見方も出てきています。

最後に、今、拡大する中国本土ビジネス、更には、その中国本土が推進する一帯一路戦略などを見ると、
「日本も今、中国本土とのビジネスを拡大しなくてどうするんだ?!」
と言う声を良くお聞きしますが、
「念の為」
上述したような中国本土リスクを意識して頂いた上で、日本企業の皆様方には、
「中国本土ビジネスでババをつかまされぬよう」
ご注意頂き、対中ビジネスの拡大を図って頂きたいと思います。

また、もう一点、国際金融筋は、この中国本土と共に、韓国、場合によっては北朝鮮も含めて、
「新アジア通貨危機」
を起こし、アジアに広がろうとしている新たなチェンジの芽を摘む可能性もあるのではないかと私は見ています。

そんなことは、私の単なる虚言であってほしいと思いますが~

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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