[ 特集カテゴリー ] ,

「COVID‐19と『人生100年時代』」(小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考
「COVID‐19と『人生100年時代』」

小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

1.高齢者は弱者ではない

この1か月半、メディアは「武漢発2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患(COVID‐19)」の報道一色である。

たしかにコロナウイルスの伝染力は凄く、日本のみならず世界がそれに振り回されている。しかし大騒ぎの割には、日本の死者数は少ない。しかも高齢者がほとんどだ。世界でも高齢者に死者が多い傾向である。

だからメディアや識者は、「高齢者は弱者であり、死亡させてはいけない」と訴え続けている。そのため世論もその方向に大きく流され、インフルエンザや交通事故より死者が格段に少ないにもかかわらず、弱者としての高齢者の生命を救うことに、対策の力点が置かれている。

高齢者は、その合唱に甘えてはいけない。いまこそ高齢者は声を挙げよ。「我々は弱者ではない。人生を十分楽しんで生き抜いた強者である。もう、いつ死んでもよい。この際、未来ある若者を救え」と。

あのクルーズ船も余生を楽しんでいる老人客がほとんどだったではないか。しかも高齢者の中で死亡しやすいのは、生活習慣病などの既往症がある人や、呼吸器疾患がある人だという。

つまり炎上を承知の上で言えば、私と同様にダラダラと飽食の人生を送り、有害だと指摘され続けたタバコを吸って生きていた高齢者(副流煙吸飲者を含む)に多いのであり、いわば因果応報なのである。

「今を生き抜いている高齢者には強者が多く、弱者は少ない。高齢者はすでに、“我々は切り捨てられても良い”と腹をくくっている」、メディアを含む多くの識者には、この視点が必要なのである。すると政府の打つべき対策は、大きく変わってくる。

2.中国発大恐慌の兆し

今回のCOVID‐19で、湖北省では死者が3000名を超えた。この死者数だけを見ると、それは多くの人に恐怖心を植え付けてしまい、「正しく恐れる」気持ちを奪ってしまうことも当然だ。

しかし湖北省の人口は5850万人(武漢の人口は1100万人)であり、感染者数は6万8千人ほど、致死率は0.05%であり、この数字を冷静に見れば驚くには当たらない。それでもこの死者数は、武漢で一時的に大量の高齢者が病院に押しかけ、医療崩壊が起きた結果だとしか考えられない。

今回のCOVID‐19については、当初から、ネット上でいろいろな情報が飛び交っていた。私の手元には、1月初旬に、すでに武漢の病院は高熱患者で溢れているという情報が届いていた。そのうち、どうもSARSに近いものだという情報も出回った。しかしそれらの情報は中国当局の手により、すぐに削除された。

私は、それらをデマ情報だと思い、深くは探らなかった。なぜなら数か月前に、中国の他省でペストの発生が伝えられ、それが誤報とされていたので、私は今度も誤報だろうと軽く見てしまったからである。

そして、ちょうど春節間近だったので、バングラデシュやミャンマーに派遣していた中国人技術者たちを湖北省へ帰した。その直後、湖北省が強制閉鎖された。つまり、ネットの情報はデマ情報ではなかったのだ。

私の情勢判断は甘かった。帰省した中国人技術者たちは50日間以上、自宅隔離を余儀なくされてしまった。彼らの中には心身に軽い異常をきたす人も出てきた。私が正しく情勢判断をしていたら、彼らを危険に曝すこともなかったし、各工場に技術指導者不足という負担をかけることもなかったのだ。

その後、ネット上では、「李文亮医師の告発と拘束と死亡」、「新型コロナウイルス肺炎の発生源は海鮮市場ではなく、中国科学院武漢ウイルス研究所である」、「1月2日、海軍工程大学の原因不明の肺炎に関する内部通達」、「武漢の女医が12月30日時点で“SARSコロナウイルス発生”という検査報告書を提出」、「今回のウイルスはSARS+エイズのようなもの」などの情報が流れた。

それらのすべてに共通していることは、「1月初旬には、得体のしれないコロナウイルスの蔓延の兆しがあった」ということである。だから当局にとって、1月初旬に武漢封鎖をする判断材料が十分だったことは明白である。当局が、1月初旬に武漢封鎖をしていれば、死者数は激減していただろうし、世界への拡散も防げたのもまた明白である。当局の初動の遅れが医療崩壊を引き起こし、武漢の死者数を激増させたのである。

米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のオブライエン氏も、3月11日の講演で、新型コロナウイルスに関する中国政府の初動の対応について「隠蔽活動だった」と断じ、「そのせいで世界各国の対応が2カ月遅れた。中国の行動は最初から間違っていた」と述べ、感染が全世界に拡大したのは中国の責任であるとの認識を明らかにした。中国が事態を直ちに開示してWHOや米疾病対策センター(CDC)の現地入りを要請していれば、「中国で発生し、今や世界各地で起きている大規模な感染を大幅に抑えることができていたはずだ」と強調した。

やがて中国共産党政府は、「対コロナ戦争に勝利した」と高らかに宣言するだろうが、その代償はきわめて大きい。もともと中国経済は米中貿易戦争の影響で下降線をたどっており、中国政府はそれを食い止めるのに躍起となっていた。そこにCOVID19の襲来である。中国政府はリーマンショック時のような大量の資金投入で、この危機を切り抜けたいところだろうが、すでに国家財政は借金過多でパンク寸前であるため、それは不可能である。頼みの外資企業はこの期間に、次々と中国外に生産拠点を移動させている。

ちなみにわが社は、すでに10年前から脱中国を実践しており、今では多国籍企業へ変身している。「中国を世界の市場」と捉え進出してきた外資企業も、今後の長期にわたる中国市場の消費意欲の冷え込みを予測して、次の一手を他国に打ち始めている。COVID‐19は中国国内の企業活動を萎縮させ、今や「コロナ賃下げ」という言葉さえ出始めている。これでやっと中国人民も、バブル経済の夢から醒めるだろう。

なによりも、COVID‐19は中国発であるから、中国政府は世界に向けて謝罪の言葉を発するべきである。それが大国としての責務でもある。謝罪の前に、中国発世界大恐慌が襲来し、それどころではなくなるかもしれないが。

3.日本の初動の遅れと巻き返しのチャンス

日本政府のCOVID‐19への初動も遅れた。1月下旬に中国人の入国拒否を決定すべきだった。日本政府にとって未知の経験であったことも事実だが、その後、北海道に感染者が激増したことから見て、最大イベントである雪まつりに目を奪われたことは明らかである。政府の経済政策の一つがインバウンドであったことから考え、経済への冷却効果を恐れたのであろう。

また習近平主席の国賓来日も重要な政治日程となっており、それへの深謀遠慮があったにちがいない。しかし、それらは初動の遅れで、見事に吹っ飛んだ。それどころか今や、日本経済再生の切り札ともいうべきオリンピック・パラリンピックの開催さえ危ぶまれている。

2月初旬、後手後手と言われながらも、政府は小中高の閉鎖やイベントなどの中止、不要不急の外出自粛などを打ち出し、COVID‐19の劇的な拡大を防ごうとした。多くの日本国民がそれまでの日常生活を犠牲にして、その要請に応えることに努めたので、「爆発的な拡大にはならず、持ちこたえている」という状況となった。

しかし日本経済は萎縮し、株価は劇的に激落した。もともと消費税アップの影響で景気は大幅に下降していたところに、この大波が押し寄せ、日本経済は大不況の様相を呈してきた。もっともCOVID‐19は世界に蔓延し、やがて世界大恐慌に発展するとも予測されている。

ことにインバウンド関係者には、今回のCOVID‐19は致命的な打撃を与えている。すでに蒲郡の旅館を始めとして閉鎖・倒産する業者が出てきている。

しかし考えてみれば、今までの状態が異常であったとも言える。すでに日本の各地で、政府のインバウンド政策の結果、オーバーツーリズム現象が起きており、大きな弊害となっていた。日本各地に怒涛の如く押し寄せる観光客は、日本の公序良俗を汚し、文化や社会を変質させようとしていたとも言える。カネ儲けのために、それらを犠牲にすべきではない。COVID‐19を政策転換の一つのチャンスと見るべきである。

またCOVID‐19は、デイサービスなど高齢者施設を利用していた高齢者を直撃した。その結果、政府は高齢者にも自宅待機要請を余儀なくされた。デイサービスなどの利用は超高齢社会の目玉政策であったが、高齢者が一堂に会するのは集団自殺行為でもあり、それを止めざるを得ない事態になってしまった。

もともと日本政府の超高齢社会対策は、明快な解決策を示せないでいたが、これでいよいよ迷路に入ったとも言える。しかしCOVID‐19を政策と思想の転換のもう一つのチャンスと見るべきである。

4.高齢者はヒーローになれ

資本主義体制に恐慌はつきものである。前回の恐慌はリーマンショックであり、すでにそれから12年が過ぎている。したがって、そろそろ来襲しても不思議はではない。恐慌のきっかけや形態は様々だが、今回は戦争という悲惨な結果につながっていないだけ、不幸中の幸いとも言うべきだろう。

いずれにせよ、以前の世界は過剰生産に陥っていたので、COVID‐19が過剰生産を結果としてソフトランディングさせることになる。なぜなら、この間、中国内の工場はほとんど閉鎖されたし、チャイナ一辺倒リスクを回避するために、外資企業がいっせいに中国から脱出してしまったからである。しかも中国外には、質量ともに中国に匹敵する場所はどこにもないので、その分、生産が大幅に縮小するからである。

それは10年前から、東南・南西アジアを転戦している私が実証済みである。つまりCOVID‐19は自動的に過剰生産を緩和・解消させることになり、以後の世界の風景を一変させる可能性がある。

同時にCOVID‐19の世界への拡散、つまりパンデミックは、グローバル経済の結果であるから、復興過程ではグローバリズムへの強い反省を伴う。それは世界経済の縮小を招き、確実に世界の様相を激変させる。

その中で、日本も今までの経済拡大一辺倒の政策から大きく路線変更を余儀なくされる。しかも日本には、超高齢・人口減少社会という日本固有の特殊事情があり、それらを見据えて復興コロナ対策を打たねばならない。

だが幸いにも、都合のよいことに、今回のCOVID‐19の本質は「若者は死なない」ことである。したがって、高齢者を切り捨て、若者を中心にした社会再建を目指す大胆な政策を打ち出せば、意外にCOVID‐19はたやすく克服できる。 

だから、政府は高齢者への余計な配慮をしないで、若者中心のCOVID‐19対策を行えばよい。まず、病院のベッドが満杯になったら、若者優先で使用し、高齢者は後回しにすればよい。こうすれば医療崩壊は起きない。また「若者に死者が少ない」という実情をしっかり見据え、過剰な自粛は避け、景気浮揚に全力を尽くすべきである。しかも、この際、20年先を見据え、超高齢者がこの世から姿を消した後の、日本の人口が8000万人ほどになる社会を想定し、ダウンサイジング対策を打つべきだ。

「国家百年の計」と言わなくても、せめて「国家二十年の計」でよい。安倍1強と呼ばれる現在、安倍首相はその強みを生かし、蛮勇を奮うべきである。その結果、自民党は下野する事態に陥るかもしれない。しかし後年、安倍首相は名宰相の誉れに浴することになるだろう。

日本の高齢者は今、世界の「人生100年時代」のトップランナーである。その日本の高齢者は、COVID‐19の前に、わが身を呈して20年後の日本の礎となる覚悟を持つべきである。高齢者はヒーローとなることによって、「日本発“人生100年時代”の新思想」を生み出すべきである。

 

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。