次世代小売流通への架け橋 菊原 政信 [ 特集カテゴリー ]

アフターコロナ時代にリテールに求められものとは [ 第3回 ]

緊急事態宣言が延長され、引き続き不要不急の外出自粛が要請される事態となり市街地での人通りは減り、商業施設、小売店舗も休業しているとこが多く見られます。政府による保証も打ち出されていますが、事業者にとっては休業期間中の対応には十分でないとの声が多く聞かれます。この記事が掲載される頃には、緊急事態宣言も解除されて休業していた店舗も開店して、街中に人が繰り出しているかもしれません。しかし、新型コロナが絶滅したわけではなく、当面は一人一人が慎重に行動する日々が続くと共に、顧客を受け入れる店舗側も慎重な対応が求められるでしょう。最近では、リモートワークなどが取り入れられ環境や意識の変容を経験した我々にとって、これを機に大きく社会構造の変革が起こる時代に突入していくことになるかも知れません。このような状況を踏まえて、今回は、4月23日にオンラインで開催されたNext Retail Labの討論会で提言された意見を中心に掲載します。

 

 

 

消費者に「外出して買い物をするのが怖い」と感じさせる事態に

 

新型コロナの感染により、感染してから重篤になるまでの期間が短く最悪の場合は死亡するとの報道により、外出することに大きなリスクを感じる事態となりました。毎日の報道を見ていると感染された方が口々に「まさか自分がかかるなんで」と発言さており、自覚がないまま感染していたと言う得体の知れない恐怖感があります。グローバル化と言われてきた中、各国の生産工場が休業、各国を結ぶ航空機が飛ばず世界が初めての危機を共有することが起こり、多くの人の価値観が変わり始めて自分の意識が中心に向くようになりました。

 

小売店舗も密閉、密集、密接の環境を避けてソーシャルディスタンスを保つなど工夫をしていますが、買い手、売り手双方にとって当分心理的な不安は拭えません。一方、リモートワークにより家にいることが多くなり、家で出来ることの価値が見直されています。

 

小売業のみならず飲食業、ライブハウス等、消費者との接点である店舗が活用することができずイベントも中止になり戦後最大の危機と見られており、今回の事態によって経済を回していたのは、実は3密によるところが大きかったことに改めて気づかされました。

 

不要不急の外出制限により、食品など日常必要となる商品の販売は伸びていますが、その他の商品についてはネットで購入する頻度が以前に比べて増えるなど社会構造の変化と消費の行動と人の行動は密着しています。

 

 

小売業のビフォーコロナとアフターコロナ

 

 今回の事態を踏まえて、小売業としてのあり方について事前事後を通して考えてみます。不要不急で行動を止めることは、実店舗での購買機能のみならず、提供してきた文化を止めることにも他なりません。販売の拠点としても店舗オンリーの時代からネットショップでの販売は今では珍しくなく、むしろ当然のように展開されるようになりましたが、実情としてインターネットモールや自社ECサイトを立ち上げているが、企業によって消費者との関係性にはばらつきがあり、全ての事業者が一定の成果を上げてきたとは言い切れません。

 

 これまでの社会現象や一般的な活動としては、人手不足と人件費の上昇により、いかに原価を下げて粗利益を増やすための施策などモノ中心の考えが占めていましたが、コスト削減はもはや限界に達してきており、社内外においてデジタル化に積極的に取り組んできた企業とされてない企業との差がつきはじめていました。制約を受けている中で起きていることは、実店舗の休業により売上がダウンし、店舗側の人員をECにシフトさせようとしていますが補えていない、またECを強化するにも先行き不透明な為投資計画が立てられないなどが挙げられます。それでも今は国などからの補助金、助成金によりこの場を凌いでいる状況ですがそれにも限界があります。

 

自粛解除後のアフターコロナで変わることは、一気に以前のような経済活動に戻るとは考えにくく、実店舗以外でもデジタル対応により顧客との接点を築いてきた企業と、そうでなかった企業との差が更に如実に現れます。デジタルを今まであまり使っていなかった食わず嫌いの人達も使わざるを得ない状況になった時に体験したことにより、利便性を感じて使う機会も増えました。企業側にとっても単にECサイトを立ち上げているのみではなく、消費者と売り手を実店舗とネットを通して接点を持つだけではなく、密接な関係を維持していくことが必要となります。

 

更に短期的な指標に基づいて活動、購買額や頻度に基づいた複数年度の営業利益によるLTVの増加、リモートによる対面などリアルな双方向対面販売など、ネットの新たな使用感や良さに気づき、やがて社会構造、利益構造、評価軸が変わります。実店舗空間で実施してきた接客、接遇をデジタル空間でも味わえてオンラインでもワクワク感や体験感を提供するデジタルツインの発想が大切となります。

 

 

変革の序章が始まった

 

新型コロナにより物理的な店舗が使えない状況を経験したことを踏まえて、事業者としてはビジネスモデルの変更を検討してせざるを得ない100年に一度の変革のタイミングが訪れたと考えます。

 

消費者の心理や行動が変わっている以上、事業者としてその変化にどのように寄り添っていくか、従来の取り組みがこの先も通用するのだろうか不可逆な時をむかえて、この際今一度考えを改めてイノベーションを起こしていく必要があります。3密を避けるため新しい生活様式の推奨や企業、一般家庭、教育分野にオンラインでのコミュニケーションが導入されて慣れ親しんで行き今まで以上にデジタルの繋がりが必要となり、国が推し進めているキャッシュレスも紙幣の受け渡しによる感染の恐れから利用率が上がってきています。しかしながら、人間としての欲求は変わらずリアルな体験を求める行動は無くならないでしょう。消費者から支持されるのは、共に課題を解決するパートナーとして共感共有されることにより購買行動を呼び起こした企業こそが生き残るでしょう。数年後にはリアルな体験が貴重になる時代になり、ある程度高額なものであれば予約後来店、人との接触を避けるためロボットの導入、オンラインでバーチャル試着して店舗に来てもらう等オンラインがリアルを持ちこむ新業態の小売が誕生するかもしれません。現在のコロナウィルスが鎮静化してもこの先、第2、第3の波が来ないとも限りません。その波を乗り越える為にも、改めてこれからの小売業としての意味を考える時です。

 

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

菊原 政信〈きくはら・まさのぶ〉

フィルゲート代表 青山学院Hicon主幹研究員
青山学院大学在学中より起業し車両盗難防止器の企画、製造を始める。卒業と同時にアメリカ、ヨーロッパを中心に輸出を行うと同時に香港に現地法人を設立し日本向け雑貨輸入を始める。その後業態をシステム開発に変更して代表を務める。1996年EC研究会の立ち上げに参画し、理事として毎月セミナーの運営、日本オンラインショッピング大賞の企画に携わる。2010年マーケティング、事業プロデュースを目的にフィルゲートを設立、代表として現在に至る。近年は、様々な分野においてネットとリアルの融合を目指して上場企業からベンチャーまでの支援を行っている。現在、産学連携の一環として「現役大学生参加のアクションプログラム」の企画プロデュース・運営を展開。

次世代小売流通研究会「Next Retail Lab」主宰。