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「行」で診断、「頭」「心」を確認する(澤田良雄)

 

髭講師の研修日誌(61)
「行」で診断、「頭」「心」を確認する

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

■オンライン研修で頭は満開、心はふらつく
 
集合による新人研修に出講した。今年の指導過程は、「行」→ 「頭」←「心」とした。
「行」は行動・実践であり、「頭」は知識・知恵、「心」は心意気である。

平時なら「頭→心→行」であるが今年は入社時から在宅勤務で2ヶ月間テレワーク、オンライン研修で学習を重ねた。既に就活で企業調査、会社訪問で企業理解も一応はしているので、新人としてどう活躍するかの知識はけっこう習得されている。それに、早く、配属先現場で活躍ぶりを発揮したい、との心意気も高い。

勿論、この心意気も在宅勤務が続く中、他社の採用取り消し、入社式取りやめ、業績悪化に伴う企業環境厳しさの報道情報から不安感を抱くこともあった。また、緊張感の乏しい在宅生活での学習は、自律心が弱り、活躍への心意気が萎えていくこともあろう。このことは、研修担当者との事前打ち合わせにおける十分な摺り合わせ事項である。

■させてみて→実践の是々非々を自己診断

ならば今年は、どう実効高まる研修を進めるか。それが「行→頭→心」の指導手順である。

具体的には既学習から 「そんなことはわかっている」「私なりにできます」との自負心があることを前提に「やってみせなさい」からの指導・支援である。

例えば会場に入る。各自の準備状況はどうか、続いて担当部署幹部からの開講挨拶時の受講態度を後席からみる。背筋がきっちりしている・いない、うなずきする・しない、メモする・しない、これだけでも受講者各位に差が出る。

紹介を受けて、「おはようございます」と心を込めての 講師挨拶をする。受講者からの声、語調、目線、お辞儀状態を瞬時に感じ取る。すかさず、「心を込めて、最高の挨拶をした人、手を上げて下さい」と自己診断での評価を問う。全員上がれば良い。現実は0で有り、1~2人である。

手を上げた受講者に名を聞き「Sさんに拍手を……」と促す。拍手、その状態をみる。「心を込めて最高の拍手した人、手を上げて……」と再び問いかける。3人上がる。ここまでのところで、感想を聴くと「何気なくやっていました」に類する答えが多い。挨拶の大切さ、どのようにする、話の聞き方はどうするなど、みな、既に学んでいる頭(知識)であり、心である。

心意気についても、入社後の活躍ぶりでの抱負として「何事も最善を尽くす、一生懸命する、熱い人だとみてもらう」……事に向かう心持ちの腹づもりを記し、自己紹介でも述べている。ましてやその行い方は、やればできる言動なのだ。

■最高実践なしは、潜在的魅力を粗末にすると説く

これらの頭・心は潜在能力である。ならば行(最高実践)は、なぜできなかったのか、ここにスポット当て、「企業はやった事実がその人の評価なり」、やらずして「わかっている、できる、やろうと思った、自分なりにやった」は自分を粗末にしていることに他ならない、とし、新人としての周囲からの期待に応えた「打てば響く心と言動の最高実践」の確認講義を施す。

さらに行(実践)は、言われてやるでのは価値がない。それは、スイッチを入れられて動くロボットなり。自分を生かすとは、期待され入社した「人材」即ち、自身の持ちうる魅力ある潜在能力(活躍材料)を必要な人に、必要なときに「最高に生かし実践する判断と決断」は人だから持ちうるパワーであると深める。

だからこそ「あのときにやっておけばよかった」との悔いは絶対に残さないよう確認する。

■「つもりレベルの学びマインド」に注意

改めて、開講の挨拶時のうなずき、メモの実践者にスポット当て、褒める。本人の照れた笑顔が新人の初々しさとして美しい。ここまででも、入社後の学んだ責任と、学生から企業人への脱皮よる成長ぶりの自己診断による未熟点の確認ができる。

だからこそ、ならばどうする、の本気で「変える」ヒントに気づき、会場での試しの実践へと研修環境が整っていく。多分、先に講義による知識の施しをすれば、多分「わかっているよ」、こちらがやってみせれば、「そんなことはできるよ」と「つもりレベルの学びマインド」に陥り、研修実効は高くはあるまい。

■できるかの不安も「してみたら」できる自分に気づく
 
担当部門と策定したビジネス話法、ビジネスマナー、指示の受け方、指導の受け方、忠告の受け方……と研修内容を重ねていくが、必ず「させてみる」からの指導の運びである。

例えば、ビジネス話法でもいきなり数人に「お題拝借の1分間スピーチ」を「させてみる」。即、一人ひとりのスピーチを診断し、褒め、アドバイスを施す。勿論、なぜよいのか、なぜ改善するのかを基本条件を確認し、まとめ講義として業種、職種に落とし込んで「言って聞かせる」指導支援へと運ぶ。

そして、グループ編成での全員の試しの演習である。見事に基本を踏まえた、筋道を立て、わかりやすく、感じのよい単純明快なプレゼンテーションが体得できる。いきなりのお題拝借スピーチをせよの指示には、体験なきことゆえ、できるか、うまくいかなかったら、の受講者の不安を目論見、でも、できる可能性を信じての施しである。できた、の実体験、そのことが、「やればできる可能性を自覚」する体感支援である。

■確認と本気で変わる覚悟を創る
 
「させてみて」の方法は、教材活用による個別・ペアー演習、問いかけによる自主回答発表、グループによる意見交換、集約、発表など最適な方法を施し、そこから掴んだ言動実践を是々非々を浮き彫りにし、既に学んだことの確認とさらなる深めの理解、納得を施すことにある。

それは、本気で心を変え、行動を変え、ものにしていく覚悟を創る働きかけに他ならない。だからこそ、時には大声を出し、受講者に迫るシーンもある。全身全霊で指導・支援する自然な取り組み姿勢がそこにある。

■育みの段階、現場に落とし込んだ丁寧な指導
 
教育とは、「教」は教え、引き出すことであり、「育」とは実際にできるよう、認めと修正のアドバイスにより育むことである。

配属先での現在は育みの段階。今年度は適宜「させてみて」の指導の施しから、本人と共に指導必要点を浮き彫りにし、現場、現実に落とし込んだ「なぜ」「どうして」と丁寧に根拠、理由付けする「言って聞かせる」指導を願いたい。

さらに試しの実践でみて、是々非々の褒め、注意は必ず成すことがよい。

■憧れの人の指導者にパワハラはない

注意に関して、褒めるのはいいが、叱るのは、パワハラが……こんな言葉は恥ずかしい。それは、新人の憧れの人としての専門力×信頼される人間力が乏しいとの自己評価であるからだ。

N社の新人の10年後の自己像には、頼られる人、社内一番の営業マンなる、〇〇のことは◎◎に聴けとの存在感ある人、後輩ができたら慕われ、育てのできる人……と記している。

目指す自己像が先輩であることが望ましいと願うことに異論はあるまい。憧れの人から強く叱られた(本人の言い分にすぎない)からといってパワハラだということはないであろう。もし、ネットで学んだ理想的上司像に当てはめ、とやかく言う新人がいたらまさに未熟な新人である。

組織は関わる人を選べない、わかっていることである。だからこそ、小生の指導では「きつく叱ってくれる指導者に感謝。それは本気で育てる愛情豊かな、熱き心の指導者である。誰しも叱りたくないのが素直な心情だからです」と説く。

■今年入社は幸いである
 
ご担当者から終了後、「スタート時点と終了時には受講者の顔つき、動きに変化が見えます」との所感を聴けることは嬉しい。

新型コロナ感染防止対策による思いもよらずの企業人としてのスタート、アンラッキーと見る節もあるが、今年入社できたことは幸いである。それは、やがて、入社時の想いが多少なりとも実現できたとき、「なぜ、そのことができたのか」の問いに、「入社時の多様な学ぶ機会は、見えない根を育み、かつてない厳しい企業環境で芽を出し、成長した逞しさを身につけたおかげです」と、この時を語れる唯一の新人だからである。

「あの年に入社したんですか。さすがですね」……それは、企業の歴史の一節に記される巡り合わせである。こんな運の良い幸せ者である。研修の結びに小生が送ったエールである。
 
「今の会社で働き続けたい」との数字が高くなったとの新人の意識調査結果が紹介されている。ならば、育みの手腕如何がまさに問われる今年である。 指導者も巡り合わせた幸福者である。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/