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「“報連相”は上下にとって最高の機会、それは……」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(62)
「“報連相”は上下にとって最高の機会、それは……」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

ライブ型新人研修はじめ、出講研修で求められる履修内容に“報連相”の徹底が案外多い。それは、新人研修では、配属先での現状の活躍状況から自然と必要性が高まるからである。

なぜかと言えば、基本事項を密着指導で体得できたことから、部分的任せにより、自由度を加えた育成段階に入ったからだ。従って「何かあったら言ってきなさい」、それが“報連相”の求めである。
 
また、オンライン化に伴う業務が継続されているうちに、社員が自身の存在が果たして所属職場、企業にとって本当に存在感があるのだろうか、上司はどれだけ自分の活躍ぶりを理解してくれているのだろうか……? このまま雇用継続は保証されるのだろうか……いざというときの準備も必要でないのだろうか……」と考える懸念課題でもある。

ならばどう手を打つ、コミュ二ケーションをどうとるか、それは安心感を醸成する心の通う“報連相”の実践である。そこで、この時期だからこそ、今一度“報連相”の基本を確認し、目的に応じた上下にとって最適な“報連相”の実践策が肝心である。

そこで、上下各々に着目し、部下からの切り口として“報連相”の生かし方、上司にとっての切り口からは生かし方、楽しませ方について記すことにする。

1)部下にとっての生かし方
 
まず新人研修場面を紹介しよう。

「Yさん新人役お願いします」「私が先輩です。これから仕事をお願いします」。
会場に先輩席を作り、小生が座る。Yさんは受講前列席に既に着いている。

「Yさんアドリブで対応してください。皆さんはYさんの立場です。演習シートを配ります。それでは……。ここで仕事の指示・受け方のロールプレイイング(役割演技法)演習のスタート。

先輩役の小生がYさんの席に行く。
「Yさん。職場に慣れて来ましたか」
「はい」
「しっかりやってくれているので、評判良いよ。私も安心しています。ちょっとお願いしたことがあります。時間とれますか」
「はい」
「それではお願い事項について説明します。よろしいですか」
「はい」
「演習シートを見てください。ここにHの文字が100個あります。このHのちょうど真ん中に線を入れてください。ここに見本、サンプル、標準を示してありますのでこの通り、この通り線を入れてください。この通りですよ。分かりましたか」
「分かりました」
「質問ありますか」
「ありません」
「それではこの通り、正しく、できるだけ早くして下さい。はい、スタート」

皆一斉に取り組む。「はいここまで……」
「Yさんいくつできましたか報告して下さい」
「70個です」
「だいぶできましたね。では、記録欄に仕上げ数70個と記入してください」

「次に、仕事を終えたことを先輩にお伝えいただきます。隣同士で先輩役と新人を担当します」
「先輩役は、私が指示した仕事内容その通り、その通りできていたら◎、少しでも違っていたら×と先輩になりきって厳しく検査願います」

評価に入る。
「評価結果をデータ化してください。◎=個 × 個 そして出来映え率(◎÷仕上げ数×100)を記入して手製印を記して、新人役に返却ください」

「それでは、返却された数字を生かして、報告シナリオシートに記入し、この演習で気付いたこと、そして、今後こう取り組んでいこうとの考えを記し、先輩から指導いただきたいことを付記してください」。

「では、シナリオシートを活用し、報告演習に入ります。Yさん、私に報告に来て下さい」
ここで報告のロールプレイングの実施。Yさんが報告に来る。

「失礼いたします。Yです。先程の仕事について報告いたします」
「おお、ご苦労様」
「結果は出来映え率が30パーセントでした」
「え、なに! どうして……。詳しく説明しなさい」
「内訳は仕上げ数70個 ◎個×個でした」
「おいおい、それじゃいい加減な仕事したということじゃないか。で、何を感じた、今後はどうする気だね」
「……ですのでこれからは……こうしていきます」
「慣れてきたからこそ今一度基本通りしっかり信用される仕事をすることだね」
「以上で報告終わります」
「ご苦労様、期待しているから、今後も更にきちんとした仕事を頼むよ」
「はい。失礼します」。
以後、全員でこのロールプレイを行う。
 
この演習から、指示→受ける→実施する→評価する→報告する正しい遂行を確認する。体験から得る学びことは多い。それに、ストーリーに沿っての報告法は今後に必ず生かす。それは報告しなさいと言ってもどうすれば良いか分からないのが現状だからである。

学びとったことを自由に発言を求めると、
「先輩の立場になっての体験からも気付きました。結果を見て、言いたいこと(叱り)がこういうことだと気付いても、先輩役として言い切れなかった。先輩はそれだけ自分たちにやんわり言ってくれているのだろう……」
と掴み出してくれる。

いずれにしても新人の立場に立っても報告の必要性、こうすれば良いとの報告スキル体得ができたことは事実。ライブ研修だからこその研修実効としての喜びだ。
 
実際の職場では任されつつある仕事は、成し遂げる時間は長いし、その間に迷い、確認すべきことも多々あることが現実である。従って、終えての報告だけではない。その対策が“報連相”の実践である。ならば部下にとっての“報連相”の生かし方について確認してみよう。

①部下にとっての“報連相”の必要性

◆報告= 仕事は報告によって完了する。そのポイントは、指示された人にスピーディーに行う、長い仕事のときには途中経過を適宜知らせること。実践法は口頭、文章(メール含め)等指示に従う。
報告のストーリーは、実例で紹介したように、結果を先に、詳細はあとにする。それは受ける人はどうなったかをまず知りたいからである。
そして最も大事なことは事実(データ)を基に話すこと。そして、遅れ、ミスは即、報告することである。

◆連絡=連絡とは、任かされている仕事を進めるうえで、状況の変化が生じたとき、関係者に何らかの影響を及ぼしそうな事柄について伝えていくことと意味づける。従って、相手に伝えることが遅れれば時間的ロスの発生や、先方に不具合を生じさせてしまう。それは、いらぬ仕事や、ミスの発生、手待ち時間等を負荷させることになる。
「何かまずい」と感じたときにはすぐその情報を関係者に伝えることが鉄則。この実践に当たっては、決して連絡漏れを発生させない。それは、何でうちに連絡くれないんだ、との不信感を抱かせ、その後の協力関係に支障が生じる。
また、緊急時には手分けした素早い対応が望まれる。あの人は何かあればすぐ知らせてくれる人だ、との信用がそこからも生まれる。

◆相談=事柄によっては右か左か迷うときがある。この場合、自己の判断で決断することは難しい。だからこそ先輩・指導者・リーダーに相談することが望ましい。
リーダーの持つ高い判断力はより自己判断に適確さを助長する。また、リーダーの持つ権力(組織、社会的)を生かした次へ向けた支援を得られる。
相談されて悪い気はしないもの。自分の判断、やり方に、独りよがりの思い上がりは自ら諫めなければならない。 
 
上役は部下からの“報連相”を待っている。だからこそ無精すれば不信感を持たれる。折角努力しているなら正しく評価され、仕事ぶりでの魅力を高めていく事は楽しい。

②“報連相”により、自身の努力・成長ぶりが正しく評価される
 
実は“報連相”の実践は、一生懸命に努力している事実を解っていただく絶好の機会。それは、
〇報告によって進み具合が早ければ褒めてくれるし、その過程で学習したこと、工夫したことを説明することにより、自己啓発、能力の高めを認めていただける。
〇連絡では、安全意識やチームワークの実践として評価される。勿論仕事に精通してくれば、気になるヒヤリハットの連絡もでき、トラブルの未然防止に繋がる。感謝と成長ぶりの認めにつながる。
〇相談することは、自分なりにこうしてみたい、ああしてみたい、の前向きな考えや判断に対して、アドバイスを得ることになるので、仕事に対する積極的活躍ぶりを認めていただける。
 
いかがであろうか。まさに良き評価を頂ける機会である。従って、自身が自信と誇りを持って活躍している凄さは、この“報連相”の機会を生かして魅せていくことである。さらにこの機会でのアドバイスは素直に生かすことにより、仕事は更によい結果をもたらす。
 
オンラインでの業務でも、この実践により、見えない努力(自己啓発・創造性の発掘、試し、クライエントへの配慮、時間対応……)を知っていただく機会である。「上司は、私が頑張っている事など分かってくれていない」この愚痴や、いらぬ不安は“報連相”の無精がもたらす結果である。

2)上司にとっての生かし方
 
これは、指導的コミュニケーションであると共に、この時期安心感を醸成する最も大事な機会である。それは、モチベーションや評価の説得力は事実データに基づくことにより高まるのであり、目標管理、人事評価制度でもそのプロセスでの事実データーをどれだけ持っているかが肝心である。それでなければ公平、客観性、納得できる評価は出来まい。良く課題とされる評価結果による意欲減退はここに起因する。ならばどうする。それは“報連相”の機会を作り、現実の起こっている事実データを収集し、場での対応は事実データに基づくやりとりを施すことである。
 
一方、指導的コミュニケーションで捉えてみると、報告・連絡にくる部下からの要求には、上司から何らかの反応と働きかけがあるとの認識だ。それは、褒めであり、認めであり、ねぎらいでもある。それとともに、じっくり聴いたうえでの適切な指導・支援は、より自信を高め、新たな活躍イメージを提供できる。だからこそ、部下の士気の高めと同時に、信頼関係をより深めるのである。具体的には次の実践を心すると良い。

① 報告は 結果とプロセスチェックだけではない。本人の努力、良き知恵、頑張りなどを探り、誉め、認めていくことが肝腎。なぜなら、本人はそれを期待しているからに他ならない。さらに不備や、次に向けてのアドバイスは、キャリアが生きた支援である。さすが上司は一味違う。キャリアのある人だからこその見識は素晴らしい、との部下からの信頼と感謝される。そこから意欲喚起も促す。

② 相談は 困ったから来る。それは、聴いて欲しい。指導が欲しい。こんな頼られる支援機会はない。ただし、人徳があるかが問われる。じっくりと相手の未熟、葛藤、恥部などの吐露を親身になって聴けるかが前提なのだ。そのうえで適確な示唆を施す。説法好き、弱者の気持ちが読めないでは、相談されることはない。メンタル不全、鬱病の予知対策もこの相談してみよう、気持ちを吐露してみようとの人徳が生きる。相談に来ない、そう嘆く要因がここにありはしないだろうか。

③ 連絡は 連絡内容にタイミング良い感謝、ねぎらいと次の支援対応を施す機会。連絡に来た、この時の行動力、何をどのようにどの程度の手を打ったかその事実は、本人の持つ能力と実践、そして成果等々は、正確なデーターとして今後に生かせる。
 
対面時に限らず、オンラインでも共通であり、文章(メール含む)時でも必ず、ねぎらい、感謝、アドバイス、指導を記すことである。単に印押しの処理では、不安、不信、意欲低下を産む。

この“報連相”時に得た事実データーは以後、仕事への指導、動機付け時に、こちらで示す事項の裏付けのある根拠理由付けとなり、信用を生む説得力となる。

3)“報連相”に来ない。それは、聴きとるパワー不足に因があり

よく「“報連相”に来ない」と愚痴られることがあるが、大方「この人、ちゃんと人の話を聴ける包容力はあるのだろうか」と懸念するときがある。
 
以前、経済団体主催の若手社員研修の際のやりとりを紹介しよう。

「私は、今の上司についていけません」
「どうして」
「私が、指示された仕事に、それこそ入れ込んで、前任者が3日間かかっていた仕事を二日半で仕上げて報告した。その際、下向いたまま自分の仕事の資料に目をかけ、こちらの話しには『ふん、ふん』と生返事しながら聞いていた。気になりましたので、途中で報告を中止したら『なんだっけ。もう一度言え』と言われた。『そりゃないんじゃないんですか!!』と書類をたたきつけて帰ったことがありました。この一件からです」

読者諸氏はどう思いますか。「最近の若い社員はすぐ切れる」と言う人もいるかもしれません。だが、「こんな人に二度と報告に行きたくない」と報告に来させなくしている起因があることにお気づきであろう。聞き下手、話させベタ、それは報告者の気持ちを汲み取れない人間力の乏しさが“報連相”を妨げているのである。
 
改めて聴き方に着目してみよう。大切なのは「相手の立場に立つ」「相手の気持ちを思いやる」という心得だ。これこそが「聴き方」の基本。そのコツを列挙すると、

① 体を向けて、目をかけ、「ご苦労様」「ありがとうの」の心での表情で聴く
② なるほど、そうよくやったね、相づち、うなづきでの反応を示す
③ 内容を正しく理解する=思い込み、前提条件(この部下は若いから、前にこんなミスをしたなど)にとらわれない
④ 気持ちをくみ取りながら聴く=なぜ、どうしてそのようなこと言っているのか
⑤ 以前の話と繋げて聴く=点から線で聴くことにより話の背景が読める
⑥ 長く話されたときには「こういうことなの」と簡単にまとめて、確認していく
⑦ 話に詰まったときには「こういうことはどうなの」と誘い水を提供する
⑧ 不確かなことについては、訊く{質問)ことにより正しく理解する
⑨ 聴くことは責任がある。要望事項については、OK、NO~なぜならば、今はN0いつOK等適切に回答しよう
⑩ 自身への誹謗、中傷めいた話が出てきたときには、よく言ってくれてありがとうと真剣に受け止めよう。{誤解事項は、後ほど正しい理解を働きかける)
⑪ 異見{自分の考えと違う)は学びの機会として受け入れよう
⑫ 勝手なこと言う、独りよがり、自己中心的な話が出てきたときには聴き止め、後ほどこの事実と、是々非々について指導事項として生かそう。このことを怠ると、上司もそう思っていると都合良く賛成者に組み入れられることもある

話の聴ける人は包容力のある人である。だから、“報連相”を楽しませる人物的影響力を持っている。
 
そのパワーは部下の活躍意欲を喚起し、成長のヒントを授ける。例え、活躍場所が離れていても孤独感によるいらぬ不安感を起こさせることなく、安心感をつくり出す。そこには、この職場でこの仕事、この上司の基で活躍する楽しみの創造がある。

その実感・交換の機会が報告・連絡・相談の実践に他ならない。新人もようやく独り立ちができてきた時期、責任を持って任されて実績を作り上げる逞しさを加えていく。

先日のトップ工具メーカーの製造三社の新人研修では、「仕事は良き人生づくりなり」とのトップの言葉を軸として学び合った。たった一回の人生心豊かに生きる事は皆の想いだ。その実現の舞台として選んだ企業。現在の取り巻く環境に惑わされず日々楽しく活躍するエネルギーは、上司からの温かく包み込む人間味豊かな意思の交流である。“報連相”はその血流に他ならない。
 
受講者のグループワークによる今後の活躍の方向性の条件に「必要な“報連相”は怠ることなく実践し、上司に迷惑かけない」と提起された。研修の依頼事項に応えられたことの実感である。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/