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「働き方改革への第一線での取り組み」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(64)
「働き方改革への第一線での取り組み」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆働き方改革は、企業・社員双方に「良いことである」との認識
 
働き方改革に伴う管理者クラスの取組みの有り様について経済団体主催のセミナーに出講{対面方式)した。その柱は、働き方改革の目指すこと・時間外労働の短縮・そのための業務遂行の効率化・その実現の源泉は人材育成とし、管理者の具体的実践の確認と更なる実践ヒントの学び合いとした。

まず、受講者と意見交換したのがTV番組の二つ。
一つはドラマ「刑事アフター5」~残業禁止!捜査は5時まで、働き方改革で熱血刑事が趣味人に!

「逆転旅館負債10億円の老舗旅館の鍵は働き方改革休んだら利益アップ?」
この実録番組である。

番組欄を目にした瞬間、刑事の仕事で17時帰宅、そんなことできるか、10億返済なんてできるはずがないと疑心暗鬼の心境。しかし、捜査班としての事件解決力は高まるストーリーであり、倒産寸前の老舗旅館Gは近郊有名温泉地に挟まれた谷間の温泉地だが、素人女将M氏が見事に10億円返済、今やIT活用により120人の従業員を40人に、年中無休を週休3日に、社員の給料アップも実現、評判宿に変身した実録であった。

そして、双方の共通事項は、家族生活の夫婦、親子の関係が改善され、より心豊かな状況になったとの点だ。まさにライフワークバランスが見事になされている(勿論刑事ものはドラマであるが)。

受講者からの所感は、
「凄いね、やればできるとの言葉は分かっているが、仕事の有り様や私生活を変える、そしてまた変える、更に変えるこの改革の継続化は、言うは安し、行うは難しですね」
が大方だ。
まさに第一線の現実を踏まえての忌憚ない意見である。

「 働き方改革は“暮らし方”そのものであり、我が国の文化、ライフスタイル、働くことの考え方を変えていくことである」と説くのは、筆者地域の中小企業経営者のマネジメント支援活動を推進しているNPO法人(筆者理事)メンバー社労士M氏の見解である。

こう捉えてみると、働き方改革は、企業にとっても社員にとっても双方に良いことであると明言できる。確認してみよう。

◆企業はより強い体質を創造できる

まず、企業はより強い体質を創造できるからだ。
なぜなら企業は環境適応業、ならば制定された働き方改革法は変えることはできない新たな環境条件であり、この条件を受け入れ、変えていく活動推進に他ならない。

それは、例え現在の最適な実施方法でさえ変える取組みである。昨今の言葉である前例踏襲、慣例に従う、既得権の改善、縦割り組織活動は、企業でも「今までこれでやってきた。何が悪い」「そんなことやったら、あそこから文句が出る。できるわけがない」との言葉に置き換えることもできるからだ。

ならば時間外労働上限規制に対しての残業を時間どう削減するか? 真正面からの取組みに着目してみよう。

その取組み過程は、現在成している業務実態の是々非々の分析、非であれば廃止、是であるならばやり方を変える取組みである。

やり方の改善は効率性を高め労働生産性の向上をなし、取りかかり時間短縮となる。また、単純なる論理だが、関わる人数の減少は人件費の削減を及ぼし利益率は上がる。しかも、効率なる業務への改善力は、社員の更なる育成・成長なくして生み出すことはできない。

それは、新たな能力確保が新たな発想を生み出す元であり、潜在化された現有能力の活用でもある。この社員の能力向上、そこから生み出す改革力、それは、紛れもなく企業の体力を高めていくことに他ならない。

◆社員にとっての利点

一方、社員にとっての利点は、時間外労働の減少は、心身の健康、新たな学び、趣味特技への楽しみの増進、友人交流、なんと言っても家族と過ごす時間確保により円満なる家庭環境が整う。更に視点を変えての推察は、企業の業績向上は社員への還元が導き出され、所得金額の向上、福利厚生の充実、働く環境の快適さの実現に繋がる。

更に、取り組みのプロセスでは、能力向上による成長したい欲求の実現、新たな業務方法の提案では、認められたい欲求が褒めの評価で実現し、職場に、会社に貢献したいとの欲求も、企業の伸展の一端を担えた実感も得られる。

このことは、働きがいの享受であり社員満足といっても過言でない。だからこそ社員にとっての働き方改革は、心豊かな人生づくりである。

この双方の「良いことである」実態は、実は、持続的経営のより強い企業づくりであることは言うまでもない。

◆時間外勤務の短縮への取組みに着目すれば……

ならばどう取り組んで行くか。
まず、長時間労働の活動に着目してみれば、社労士M氏は
「調査例には長時間労働の原因に対する意識として最も多いのは、管理職の意識マネジメント不足」
である。

従って、管理職は、従業員(部下)の仕事量や内容、仕事の進め方を把握し、なぜ、長時間労働になるかを理解し、改善に当たることが求められている、と説く。

推進策は、諸処あるだろうし、コロナ禍での対応で既に、全社的に従来の仕事への取組み方法を変えていることも現実である。
 
ここでは、受講者は、中小企業幹部、管理者が多数であることから、社員個人に着目し、「なぜ、残業が多くなるか!」、第一線での具体的現象の意見を重ねて確認した。

現実の確認・提起事項としてまとめ上げたのが以下である。

*緊急を要する仕事がいきなり入る。(顧客・上司・トラブル対応……)
*チームメンバーの休みにより、付加が多大し(時には、代行もある)自身の仕事の遅滞が発生、その処理対応に時間を要する
*上司の評価が気になる。従ってあえて、時間外にも仕事をする仕事量を作る
*残業代が、生活給化しているのでどうしても残業時間を確保する
*より良くする心意気が、過剰品質なる仕事を作り、自己満足の取組み傾向がある
*業務責任を果たすのに現有能力(スキル)が低い。自分なりの頑張りが凄くても、スピード、質はどうしても劣る。だから時間はかかるし、不必要なミスも起こすとなれば処理時間が加算される
*お客様の過剰なる要望に対する是々非々の判断不足と、折合いを見出す折衝力不足により渋々受け入れる
*協力の要請が苦手、任せることのできない抱えすぎの自己の弱さの自己満足
*帰りにくい環境・雰囲気(上司の残りなど)を払いのける勇気不足
*帰宅への楽しみ感がない。むしろ負担感あり。
*組織はできる人の所に仕事は集まる(忙しさの片寄りの要因)
 
以上であるが読者諸氏の実態はいかがであろうか。

◆じゃあどうする? 
 
それは、帰れる条件、帰りやすい環境、帰っても安心、帰りたい楽しみを整えれば良い。とりわけ個人の大方の対策については、上記項目を逆転させれば良い。例えば、能力不足により時間がかかるとすればスキルアップに本気で取り組むことである。

さて、管理者としてはどうするか。自身の改善、管理システムの構築、全社活動への働きかけなど様々な施策は既に実施されていよう。

確認・提起事項として列挙すれば、
◎上司から、定時退社の率先垂範
◎可能な限りの事前申請{残業・休暇)の実施と管理=この流れは本人申請→管理者判断(今日中にどうしても必要かの判断)→アドバイス・指導による時間短縮の施し→他のメンバーの協力で解決可能なら協力要請→そして、翌日の報告時間の精査(本人の記載時間の確認)→ご苦労様のねぎらいと残業縮小への指導
◎全社実施のノー残業日の設定(自宅業務にならないよう配慮は必要)
◎短縮時間目標の設定による推進=全社・部門・個人単位
◎業務方法の改革=職種に応じた勤務方法(出社・在宅)・遂行方法(対面・オンライン・テレワーク等)のベストミックスにより、効率よい取り組みによる取りかかり時間の短縮
◎顧客企業の生産計画の不備による,繁閑の影響については一時的時期に集中した繁忙負荷の改善を提案する。
◎人材育成による業務への取りかかり時間短縮の実現
◎他メンバーが支援できる条件は多能化による対応スキル。その計画育成実施
◎会議の見直し改善=必要性・出席メンバー条件・開催時間・開催方法〔集合・オンライン・ZOOMのベストミックス]、例えば報告会議ならあらかじめ報告内容をメール送信し、検討いただく、質問等も事前に送信、討議内容でも、討議資料をメールで事前送信、検討、意見を用意し、会議に参画すぐ討議に入る
◎心身の健康管理に心し、病気、メンタル不全による就業影響は発生させない
◎残業時間削減による成果(人員削減、人件費の削減による利益……)を社員還元し、時間短縮へのよりモチベーションを高揚する。その策は、個別には評価制度による報酬、全社員対象には、決算ボーナス、福利厚生の充実、作業環境の整備、設備投資による身体への疲労削減
などがある。

勿論 大企業・中堅企業での実施例は、数々あることは周知の通りであろう。

◆その実現は業務効率化を楽しむ
 
確認してきたように残業時間の短縮実現は、業務効率化に取り組むことに他ならない。それは、実作業の取りかかり時間の改善を実現し、時間外労働時間の短縮となる。

ちなみに、業務効化とは=「ムリ」(仕事量・期限)「ムダ」(必要以上に時間をかける)「ムラ」(片寄り)この3ム改革に取り組むことでもある。

ならばどんな施策が考えられるであろうか。それは、現状の業務の取り組み方を再確認して、付加価値の生まない仕事は廃除、必要業務は、更なる最適手順方法へと改革する実践である。

その取り組み策についても受講者と共に現在実施している事項、こうしたらよいとの考えをまとめ上げ提起事項とした。

●現在の最適とされる取組み法としての標準書、マニュアル等の蓄積された方法も再度見直し、更なる新たな方法の編み出しに取りかかる
○人が成していることでも、機械化、IT化に置き換える可否を診断し、人力×デジタル化の最適なミックスパワーを創造する。
●目標達成に向けて、PDCAサイクルをスパイラルに回し、全体を観ずの計画性なき遂行は排除し、スケジュール化し、流れ良き業務遂行の徹底を計る。
○チーム各自の予定を可視化し、互いに関心持っての協力関係を密にし、チーム力による効率性を高める。
●優先順位(重要性×緊急性)に心し、ゆとりある心中で作業に取り組む。このことは、「ミス無し」は当たり前と共に、アイデアを生み出す機会となる。
○無理に一人で頑張る懸命さから、社内外の最適な能力提供のできる人の力を生かす。普段からの人脈ネットワーク(仕事・人の引き出し)がここで生きる。
●ミスの発生には、即関係者の協力を得て早期解決し、早い気持ちの切り替えに徹し、作業スピードの鈍化はさせない。
○ミスの分析を必ずし、諸処の要因から真因を掴み出し、改善する。
●効率悪い原因が、本人の能力・意欲不足にあるならば、早期に自己研鑽への支援、育成の実践。
○集中心が薄れた時は適度な休憩をとり、心身のリフレッシュの実践
●創造性・改善の向上施策の施し=個人単位の改善提案制度・職場のチーム単位の小集団活動の推進など
○3S活動の推進=特に後始末の徹底(整理、整頓、清掃)それは探すムダ時間の排除=後始末は次の仕事のスタートなり。
●会議方法の改善=必要性・出席者・進め方・時間・方法(立っての進め・オンラインの活用・早朝開催・・)
○移動時間改善として、テレックス・オンライン・リモートワーク等活用、これには、在宅のワーキングスペースの確保と、社内、顧客様とのネットによる業務遂行の調整。
●情報、調査、手続きなどの場合、利用できるアプリ活用も効率スキルである。
○ペーパーレス化で、・資料作成、印刷、配布の手間、押印の適正化による必要以上の手間,時間を省く。
●開発事項には、ハイレベル(専門力(知識・技術力・人間力)メンバー(社員・企業・学校・専門家・公的機関・・)の総力形成による、スピード、高品質の取組み検討

◆人材育成なくして実効なし、ならばその実践法は
 
人材育成なくして実効なし、ならばその実践法は、現実を変える、新たな策の生み出し、新たな学びによって導き出される。

ならば、どうしても育成を実践しなければならない。新たなインプットなくして,新たなアウトプットは得られない。そこには働き方改革を「なぜするのか」「どうするのか」に着目した指導・支援、研修が不可欠である。ここまでの確認事項からその育成課題として次の10項を提起事項とする。

① 考え方を変えるその第一歩は、持続的経営に向けた働き方改革推進の戦略、施策をしっかりと共有化し、自身にとってのOKさの理解・納得を施す。その指導、教育。
② 現職務の遂行能力{スキル、知識)を向上。
③ 少数精鋭仕事集団の実現に向けた多能化の育成。
④ 新たな知恵を生み出す、新たな知識、情報、創造力向上スキルの教育の実践。
⑤ IT・デジタル化の活用に必要な情報、知識、スキルの研鑽の助長と育成。
⑥ 単純明確な伝わる話し方、相手の意図を察する聴解力のスキルアップ。
⑦ 効率、時間改善の推進は自己のPDCAサイクルの適切な実践が不可欠、この再教育
⑧ 立ち位置による時間外時間・効率化に対応できるリーダーシップ、メンバーシップの向上。チーム力の総合力による効果を高める指導、研修。
⑨ 心身の健康管理の徹底に向けた{健康経営)指導。
⑩ 人生100年時代、心豊かな人生づくり{ライフワークの最適条件の形成)と当社での活躍の楽しみの整合性をきちんと認識する、この働きかけ。

アフターコロナ、どうする。働き方改革もコロナ禍での自粛要請に伴う企業活動で、IT活用に業務遂行を必然的に編みだし実践を成してきたことも事実である。この実践経験を生かし、人の力を最大に生かし、デジタル化との融合を最適に構築し、残業時間の減少、効率化された業務推進を実現していくことが肝心である。

その実践成果は持続的経営の糧を重ねることに他ならないし、社員にとっては働きがいに満ちた活躍と、OFF時間の充実による人生100年時代の心豊かなライフスタイルでもあろう。

受講者と楽しく確認と提起事項をまとめ上げ、肘タッチと合掌で今後の活躍へのエールを交換しての結びであった

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/