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「新型コロナウイルスでわかったこと」(前編)(小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考
「新型コロナウイルスでわかったこと」(前編)

小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

1.科学は万能ではなかった

11月に入っても、新型コロナウイルスの勢いは収まりそうもない。昨年末に、中国の武漢から発生したこの疫病には、今のところワクチンも治療薬もない。これには開発途上国だけでなく、先進国もまったくお手上げ状態が続き、第2・3波に恐れおののいている現状である。

科学が万能だと信じ切ってきた各国の人民は、専門家と称される科学者から、「もっとも効果的な新型コロナウイルスの防御策は、マスク・手洗い・ソーシャルディスタンスだ」とのたまわれ、科学者が忌み嫌う民間信仰とさほど違わないその対処策に驚いている。

また欧米各国で死者が多く、東南アジア各国で死者が少ないという事実についても、専門家=科学者から、いまだに納得の行く解説はない。その結果、日本政府も人民も、専門家=科学者の言い分を、鵜呑みにはせず、眉に唾を付け、疑ってかかるようになった。その意味で、新型コロナウイルスは、科学万能思想の社会に一石を投じたのである。

先日、私が腹痛で病院を訪れたとき、若い女医さんが、「腹痛の80%は原因不明です」とあっけらかんと言い放った。この女医さんの言葉を100%信じたわけではないが、びっくりした。今まで私は、腹痛などの場合、医者から、然るべき病名をつけてもらい、そのご託宣を信じ、処方してもらった薬を服用して治してきていたからである。

騙した医者が悪いのか、騙された私が悪いのか、あるいは医者が薬のプラシーボ効果を期待して処方した結果、それにまんまとはまったのか、いずれにせよ、腹痛が治れば結果オーライなのか。なお、このプラシーボ効果についても、いまだ、なぜこのような現象が起きるのか不明だという。

腰痛に関しても、植田美津恵氏は、近著『いつか来る、はじめての“死”』の中で、これまた、「腰痛のうち80%は原因不明です」と言い切っている。

10年ほど前、私の妻は外科医から、脊柱管狭窄症と言う病名を付けられ、手術を勧められた。私たち夫婦は、手術をせずに自力で治そうと考え、いろいろと試してきた。その効果が現れ、最近では、腰痛は少しずつ快方に向かっている。つまり外科医の見立ては当たらなかったのである。

私自身も、50代で眼科医から、「緑内障です。いずれ失明するでしょう」と宣告されたが、73歳になる今でも、老眼鏡のお世話にならず新聞が読める。眼科医の科学的所見は見事に外れたのである。

医学関係だけでなく、現代社会には、科学では解決不能なことが山積みされている。原発に至っては、廃棄物の処理方法が未解決なのに、安全神話のもとに事態が進行している。地球温暖化、廃プラ問題などの環境破壊も同様である。

また自然科学分野だけでなく、社会科学分野でも同様の傾向が見られ、今、歴史や社会、経済の通説の見直しが始まっている。今回の新型コロナウイルスは、このような現代社会において、科学万能思想の再考を促す絶好のきっかけとなったと言える。

戦前の日本の指導者は、米国との国力差を科学的に判断せず、「強靭な精神で戦えば勝てる。最後には神風が吹く」と日本人民を煽り、戦争に駆り立てた。日本人民は、それらに煽られ、精神力や神風を信じ、科学的思考を放棄し、無謀な戦いに突入し、結果として完膚なきまで叩きのめされた。日本人民は、自業自得ではあるが、貧窮のどん底に突き落とされ、塗炭の苦しみを味わうことになった。

戦後、日本人は、科学的に解明された米国との圧倒的な国力差を見せつけられ、驚いた。進駐軍という名の米軍も、科学万能思想や実証主義を日本人民の間に植え付けた。かくして日本人民は、精神主義を捨て、科学万能思想に拝跪することになった。日本人民は、万事が科学的に解決可能と信じ込み、統計数字で粉飾されたエビデンスと称されるものを重要視することとなった。さらに共産主義思想、ことに唯物史観の影響を大きく受け、歴史や社会が科学的かつ法則的に進化すると信じ込んだ。

しかし、科学は万能ではなかった。

2.統計数字が真実を隠した

現在(11/7)、世界全体の感染者数は4800万人ほど、死者数は120万人を超えた。これらの数字の出所は、米国のジョンズ・ホプキンズ大学とされている。ほとんどのメディアが、そのように報じているので、それは間違いではないだろう。だが、ジョンズ・ホプキンズ大学の出すこの統計数字の信憑性について、メディアや学者関係からのエビデンスはない。

例えば、わが社の工場のあるバングラデシュでは、現在、感染者41万人、死者6000人と発表されているが、とてもその数では収まっていないと思う。餓死か、コロナ死か、はたまた他の病気での死亡か、誰も判定できないからである。おそらく、インドやパキスタン、ブラジルなども同様だと思う。

日本でも、毎日、感染者数や死者数が発表され、多くの人民がそれに一喜一憂している。しかし、専門家の中には、PCR検査の拡充による感染者数の増加を根拠に、第1波のときの感染者数との比較は意味がないという人もいる。巷に無症状の感染者が相当数存在していることを考えると、新規感染者数の発表はあまり意味を持たないのではないか。

死者数については明快であり、その数字は信頼できる。しかし、数字の中身が重要なのだが、その詳細な発表はない。もっとも重要なのは死者の年代別、次に既往症の有無、さらに喫煙経験の有無である。なぜなら、私が当初から指摘しているように、「コロナウイルスを正しく恐れること。感染力は強いが、死者は少ない。しかも高齢者で既往症があり、ことに喫煙者に死者が多い」からである。

「若者は感染しても軽症で済む。高齢者に死者が多い」ということが証明されれば、「医療崩壊」を怖がることはない。病院は重症の若者優先にし、高齢者は後回しすればよいのである。残念ながら、死者の年代別などの詳細な発表は、ほとんど目にしない。

医学関係以外でも、統計数字でのごまかしは多い。

数年前、自動車関係で、排ガスや燃費の数値の不正がメディアを騒がせた。また建築関係でも、設計や耐震ゴムの数値の不正があった。おそらく、巷では、これに類する事例は、表面化していないだけで無数にあるだろう。

それでもこれらは、数値そのもののごまかしであり、不正は暴かれやすい。ただし、実相が不明で、誰もが解明できないようなときには、人間はその数値に簡単に騙される。

たとえば、2000年代初頭、「中国では6億人の農民が都会に職を求めて出てくる。低賃金労働力は潤沢である」と、すべてのエコノミストや中国ウオッチャーが中国進出を煽った。

しかし、そのときすでにわが工場では、「人出不足」が始まっていた。私は「労働集約型企業の中国進出への警鐘を鳴らした」が、無視された。誰も中国全土の実相を見極め、明快な結論を出すことが出来なかったからである。

数年後、「人出不足」は実証された。また、2010年ごろ、「中国では年間6万件の暴動が起きている」という情報が、世界中を駆け巡り、今にも中国が崩壊するかのように喧伝され、「チャイナプラス1」が叫ばれた。

しかし、中国に多くの工場を持つ私の実感から、「これは誤報だ」と思った。しかし、すぐにそれを解明・反証することはできなかった。その後、私は独自で中国の暴動調査を行い、「年間2~7千件ほど」という結論を出した。数年後、この怪情報は立ち消えとなった。

さらに巧妙なごまかしは、数値を測る「ものさし」そのものを、操ることである。従来から私は、中国は「張子の虎」だと主張してきたが、ほとんどの学者や中国ウオッチャーは、「中国は世界第2の経済大国」であると述べている。彼らのものさしはGDPである。

私は、外資に蹂躙されている中国の実力は、「中国のGDPから、外資分を差し引いて計算すべきである」と考える。実際に、今、ただちに外資が総撤退すれば、中国経済はたちどころに破綻する。

世界第1位の外貨準備高についても、外資の持ち分を差し引くと、中国が自由に使える外貨はわずかしか残らない。だから、中国政府は外貨の持ち出しを厳しく制限しているし、外資の流入を大歓迎しているのである。

日本経済についても、まったく同様のことが言える。だから、人民、とりわけ企業経営者は統計数字にだまされてはいけないし、真実を見抜く力を養成しなければならない。そのためには、現場における感覚を重視し、科学・エビデンス・統計数字を万能視せず、自己責任で自主的な判断を下すべきである。

もちろん、そのためには自分なりのものさしを持つべく、しっかり勉強し、直感をみがき、調査を徹底しなければならない。

(続く)

 

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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。