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書評:「『失敗』の日本史」(本郷和人著) 評者:小島正憲

【小島正憲の「読後雑感」】

「『失敗』の日本史」 
 
本郷和人著 中公新書ラクレ 2021年3月10日
帯の言葉 : 「『失敗』にこそ学びはある!」

本郷氏は本書の冒頭で、
「本書の試みとしては、歴史上の失敗を取り上げることで、その時代の特徴を分析しながら、なぜそれが失敗だったのかをあきらかにする。そしてもし失敗がなかったら、歴史はこう変わっていたかもしれないと推測する」
と書き、そのような試みをする理由として、
「戦後の歴史学は長く唯物史観の影響を受けていた。そのため“歴史にもしはない”というのが常識であり、歴史学はそうしたことを考える必要はないのだ、とされてきた」
ので、
「そこに物語を付け加える」
ことによって、子どもたちから歴史嫌いを無くしたいと書いている。

本郷氏は、平清盛・源義経・源頼朝・後鳥羽上皇・北条時宗・北条高時・後醍醐天皇・北畠顕家・北畠親房・春屋妙葩・斯波義将・三方院満斎・足利持氏・畠山持国・上杉謙信・武田信玄・今川義元・武田勝頼・北条氏政・浅井長政・織田信長・豊臣秀吉・石田三成・京極高次・上杉景勝・伊達政宗・毛利輝元の諸武将の失敗について、自説を展開している。

それぞれに面白いが、今川義元の討ち死について、
「戦国の世で敗戦したとしても、そのまま敗戦国の大将が戦場で討ち死にするケースは、さほどない。大将たるもの、家来を犠牲にしてでも逃げます。ずるいようですが、それは自分の保身のためだけでなく、将たる者の心得であり、大将さえ逃げればまた勢力を盛り返すかもしれない。であれば戦場の死も報われる可能性が残るのです」
と書いている。
たしかに、信玄も信長も家康も、命からがら逃げ延びた経験を持っている。それを、「将たる者の心得」と言い切っているところに、本郷氏の革新性がある。

本郷氏は、浅井長政の裏切りについて、「その理由が僕にはわからない。本当にわからない」と正直に書いている。明智光秀については、
「光秀の裏切りは、別に驚くようなことではない。信長は、裏切られるのです。もともと裏切られ続けていて、ついに光秀がやってしまった。そういうことなのです」
とあっけらかんと言い放つ。
晩年の秀吉については、
「このころの秀吉がなにを考えていて、なにをやりたかったのか、僕にはよくわかりません。天下を取った後は、誰が本当の敵なのか、すっかり見えなくなっていたとしか思えない」
と書いている。
石田三成についても、
「補給部隊を率いていた三成が、大将として天下分け目の戦いの場に出てきたとき、それを乗り越えられるような経験もなければ才覚もなかった。人はあまりに不相応なことをやると、得てしてしくじってしまう」
と素っ気ない。

また本郷氏は、
「僕は鎌倉時代の仏教の革新は“易行”にあったのだと思います。易行とは易しい教え。“人に優しい”という優しさと“簡単な”という易しさは、時に同じ意味を表現するのかもしれません。救われるためには、厳しい修行や深い思索は要らない。お金のかかる経済的負担も必要ない。そうしたハードルは一切不要で、勉強も修行もなしに、ただ“南無阿弥陀仏”と唱えれば、それだけで浄土へ行くことができる。“南無妙法蓮華経”と唱えれば成仏できる。そうした教えが鎌倉時代に出てきた。ここに革新があったのです」
と書き、その反面として、日本では深い思索を伴う哲学が育たなかったと書いている。なるほど。

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清話会 評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。