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「人生100年時代、生涯現役の存在感を創る」(澤田良雄)

講師の研修日誌(70)
「人生100年時代、生涯現役の存在感を創る」
—-それは今、話力を生かした活躍を楽しむ

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

■現役を楽しみ続ける人の二つの軸
 
春、晴れやか、華やか、それに新たなに気の張る時節である。コロナ禍でも新入社員研修、新役付き研修でお役に立てることは楽しい日々である。そこで訴求するキーワードは「人生100年時代、いかに生涯現役で活躍する自身を育て上げるか」としている。

現役とは、お役に立てる決め手を持ち、頼られる存在感ある人として活躍を楽しめる人である。その決め手は次の二つの軸である。

①一つは専門力であり、これには専門知識(広く、深く、新鮮、論理性)、技術(匠、多能、応用)、新を生み出す開発力(経験を生かした改善・改革、想像性、破壊と創造、挑戦と継続による結実)であり、さらには仕事以外の特技も加わる。いわば、自身の売り物である。

②二つ目は人間力である。これには、人間味(感受性、温かみ、謙虚)、協力を取り付ける掌握力 (信頼、適切な評価の施し・感謝心)、指導力(是々非々の育成)、人徳(利他の施し、言行一致の実践、倫理的実践観)である。
 
この二つの軸を持った人財は、いわば「憧れの人」として、現在、将来でも寄ってきてくれる人が絶えない存在感を確保していることは周知の通りである。

■一隅を照らす人 その存在感で良い

それは、現在であり、将来においてでもあるが、ただし、その憧れの大きさは、決して、大きな実績の達成者とか、広く有名人としてでなくても良く、あえて言うならば「一隅を照らす花」でも良い。地味だが、目立たないが、しかし「あの人がいたおかげで」と感謝を得るお役立てのできる人も多い。

昨今のスポーツ界でのすごい成績を獲得した話題選手のスピーチにも必ず「チームの皆さんのおかげです」と感謝の言葉があるのはその一例といえる。各自が自ら選び続けて活躍する舞台は、職業に貴賎はないし、どの業界で大中小零細の規模を問わずその道の第一人者であり存在感のある人に他ならない。
 
さらに企業組織に着目すれば、「当社は全体最適とのスローガンを掲げ、一人一人が担当する職種、立ち位置で成すべき役割を最大に果たし合う。この強さが選ばれる企業としての社会への貢献力であり、企業活動の目的である」としている企業も多い。

■今できる最高の施しで、貢献を重ねる楽しさが将来を創る
 
しかしながら、一朝一夕にその決め手人財にはなれまい。先日、出版業を営むI氏と談義を交わした。I氏はかつて小生が拙著を初出版したときのご縁で、その見識と先を読む推論には多くの学びをいただく敬する人である。

交わす話題で、この人生100年時代にどう生きる、どう活躍するかに論点を置いてみた。諸処の異見交換する中で「小生は講師活動でも、一隅の花である。それは、野に咲く野花にすぎない。しかし、小生の花の醸し出すエネルギー、提供できる独自の良さの提供、そして、観ていただく事によるほっとする一息、そして新たな歩みだしヘの背中の押しでお役に立てている実感は嬉しい」と紹介した。
 
例えば新人研修後の感想文に「新人は何もできないわけでない。挨拶でも最高実践することが自分を粗末にしないことである。まず、新人として与えられた仕事を存分にこなすこと、そこに、自分が秀でた得意分野(就活で売り込んだはず)を活用する楽しみを持つとの話は、気負いと不安感を持っていた自分に安心と一歩踏み出す勇気をいただききました…」と記している受講者もいる。

この内容を引き出す源は何か。それは、研修企画、講師として既に40年余、延べ6,000回(日以上)日とは、研修講師として1日研修はじめ多数日数の研修で、受講者に密着しての現場、現実、現人(個々の人の)指導、支援を第一義としているからである。

従って、大きな会場での講義でなく、受講者の特性(業種、職種、役職、企業規模、企業の歴史、理念、そして対象者の学歴、年度の傾向…)を踏まえての落とし込んだ講義・演習の工夫を担当者と摺り合わせ実施に入る。そして、研修現場での進むに従っての全体の変化、個々人の変化を捉え、最適な褒めと、アドバイスを施すことである。まさに泥臭く、一桁の受講者数でも親身になって向かい合う一輪の野花の強さである。だからこそ上記の新人からの「ほっとした」との安心感との言葉を引き出せるのであろう。
 
この信条は、新人研修に限らず、リーダー、ベテラン層の研修でも各所に演習を組み入れ、演習心得は、「他の人に劣ることを恥じるよりも、昨日の自分に劣ることを恥よ」としている。その演習で気付いた改善点を、ほんの少し変えていく成長が、決め手を磨くことであり、さらに、立ち位置が変わる、役割が変わる度の錬磨が重なる。そのパワーがやがて「あの人に訊こう、頼んでみようと将来に向けての決め手ある存在感の確立に近づく。」このストリーを軸としての指導支援である。
 
つまり、新人は、学び、新風を施す人、リーダーは上に立つ人としての存在。ベテランは一目おかれる「いてくれる人」としての存在感、そして、やがて定年ならば、その後は自分が選んで活躍する場であり、活躍条件や、働き方は自己決定でも良い。専門力でも、企業での専門力だけでなく、特技での活躍の場もあり、人望により社会活動の存在感も依頼される。だからこそ100年時代を楽しく生きる実感が得られのである。
 
単に息しているだけの100年ではもったいない。そのことは多分に「あの人のおかげで」と語り継がれる人であり、故永六輔氏が提唱した本当の死は「語られなくなったとき」との言葉が思い起こされる。

■決め手を生かし貢献できる基本力は、感謝の心で話す力である
 
ならば、決め手を生かして「おかげ様で」といわれる施しどきの基本力は何かと提起すれば、それはお役に立てる機会をいただいた感謝、指導支援をいただく感謝の心で伝える話力である。それは、6,000日余日の研修でも必ず「話力・聴解力の向上の実践スキル」を織り込んできたことに他ならない。

その信条は、どんなに決め手を蓄えていてもそれをお役立てなしでは、自分を粗末にし、実にもったいない。それは、宝の持ち腐れであり、しかも、「あのときに言ってあげれば良かった」こんな悔いや、「人は人、別に言ってあげることはない」との冷たさは、その人の人間性の豊かさを磨くことはできまい。それでは、例え、専門力があっても「あの人に訊いてみよう」「頼んでみよう」と心を喚起することは難しい。実際研修現場で、話す事が苦手、もう少し話せたならとの言葉も聞く。また、俺は話しはうまいとの自意識過剰な輩の不愉快に聞かされる話しも多い。

だからこそ、「もう少し、こうすれば」とお役立ち心がうずき、指導、支援に尽力してきた。勿論話しの達人、スターを育成することではない。「もう少し話しに自信持ちたい」「、基本を一度確認したい」「自分の話しがどうか確認したい」との「もうちょっとうまくなりたい」との想いに応えての支援である。だからこそ、他の人とうまさを競うことでなく、話すことを職業とするのではない。現在の活躍期待に応えた実行時に、持ちうるパワーでお役に立つための伝える機能としての話力の磨きである。

ならば、人生100年時代、現在の舞台ではどのような感謝心で話力向上に取り組むかを提起してみる。

■新人時は、将来の決め手づくりの土台を育てていただく感謝で話す

専門力の進化は、守(基本)・破・離と右肩上がりに進む。その最も大事なことは土台である基本をしっかりと習慣化することにある。だからこそ、育てがいのある新人として指導者が楽しめる対応が不可欠。

その話力は「ありがとうございます」「お願いします」と指導していただく感謝であり、その時だけでなく、翌日、翌々日と重なる謝念に基づく継続にある。そして素直に「はい」と受け入れる返事が肝心。「何事にも一生懸命頑張ります」と綺麗な言葉で抱負を述べても、人・することの好き嫌い、都合の良い言い訳を正当化しての返事は困りもの。それに言葉の丁寧さに増して、心の表現としての語調、表情、振る舞いの新人らしい誠実・ハキハキ・熱意の伝わる話しぶりが「良い新人だ。指導するのが楽しい。ありがとう」と指導者からの感謝の言葉が機会をみて新人にかけられる。
 
ここでの必要話力のキーワードは「対人関係をつくり深める会話力」「育てられ上手の話し方」「叱りに感謝その受け方」「報連相の実践」「プレゼンテーション」そして、「訊き方・聴き方」…がある。

■リーダー時は協力いただき、その実践に感謝の心で話す

上役は、自らの想いを関わる人の献身的な協力を得て、貢献実績を蓄える楽しさがある。だからこそ、ここまで尽力してくれた方々への「おかげ様」の心で新たな協力を依頼する話し方である。従って「ちょっとした話し方」としては、単に指示するだけでなく、本人の能力の認めをしたうえで、なぜあなたに依頼するかを丁寧に説明することにある。

以後、その協力ぶりに気配りし、褒めの言葉の施しと、相談を受けての指導は、自身の経験、見識、立ち位置での権限を生かしたアドバイス的話し方が望ましい。そこには、上から目線でなく相手の心中、能力、「ちょっとした気配りのある話しの工夫」が良い。 必要話力は、会議、指導での論理的スピーチ、上に向けた提案、協力関係を構築する折衝、モチベーションアップの一言、コーチング、そして最も大事な聴き方…がある。

■ベテラン層は「双方のおかげ様」を生かして話す

メーカーで活躍してきたベテラン層の研修は楽しい。大手N製鉄ではエバースマイル研修と称して、いつまでも笑顔で活躍するとの合い言葉を共有しての研修だからである。メーカーであるから、その道の達人、職人肌の人が大半で、皆、入社時に目で覚えた時代から、多くの課題に取り組み新たに編み出した技能、技術に誇りを持ち得ている。それに、皆さん、「家族のおかげです」の謙虚さも厚く、これからもさらにお役に立っていきますとの気概を持ち合わせている。

ちなみに高齢者、定年者への周囲からの見方は二つのタイプがあり、それは「あの人まだいるの、残るの」と「あの人いてくれるの」である。 前者は論外、100年時代、職業人生は定年で終わることなく、頼ってくる存在感ある人は生涯現役であることを確認してきた。だからこそ「いてくれるの」とは言葉は嬉しい。その事実に重ねて、以後の周囲の人ヘの献身的施しが、新たにおかげ様の感謝をいただくことになる。

そこでの話し方は、訊いてきてくれることの感謝で話す。だから、丁寧に話すゆとり、自分の経験則での話題の提供と新たな視点での出される異見に耳を傾け、学び心で受け止めること。これがないと頑固、古いとのイメージができ、秘めてる専門力の施しの機会は失われる。

専門力の技能伝承は自己の分身を宿すことであり、以後、後継者が育ててくれるこんな嬉しいことはない。だからこそ、訊いてくれる、教えを請うてくれる…その寄ってきてくれる心を喚起する話し方が良い。必要話力は説明力、現物、現場を活用した話し方、稲穂の一言の掛け(実るほど頭を垂れる稲穂かな)相談を受ける聴き方、指導話法…がある。

いかがであろうか。このように、現在の活躍の舞台で自身の決め手を育て、生かしての活躍が100年時代の存在感ある生き方を楽しめる事である。今、何歳、その舞台は? 感謝される機会とは…ならば話し方に着目し、そのちょっとした磨きに心することが生涯現役を実像化することに結びつく。I氏は一言「それは感謝話法ですね」とつぶやいた。
 
新年度の新たな活躍、また人財育成計画にも考慮する上でのお役立てになれば幸いである。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/