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「コロナとミャンマーと民主主義」(前編)(小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考
「コロナとミャンマーと民主主義」(前編)

小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

1.コロナと民主主義

今、世界各国はコロナウイルスの猛威の前に、各様の闘いを見せている。一党独裁の中国は、人権無視の完全都市封鎖を行い、いち早く徹底的に押さえ込むことに成功した。英仏独伊などの民主主義国は、ロックダウンつまり民主主義の根幹にかかわる自由の束縛で応対したが、残念ながら苦戦中である。世界最大の民主主義国を標榜していたインドに至っては、惨憺たるありさまである。民主主義国家である日本は自粛要請を繰り返した末、第4波という最悪の結果を招いている。

これらの事実は、パンデミックという非常事態の前には、民主主義陣営の旗色が悪いことを示している。この機会に、民主主義そのものを深く検討してみる必要があるのではないか?

民主主義の旗を掲げていた英仏独伊などの各国は、長期の完全ロックダウンで、コロナウイルスを封じ込めようとした。それは行動の自由や集会の自由という基本的人権の制限の断行であり、いわば民主主義国家の信条に反するものだった。だからドイツのメルケル首相は、これを行うに当たって、
「次の点はしかしぜひお伝えしたい。こうした制約は、渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとり、絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものなのです。民主主義においては、決して安易に決めてはならず、決めるのであればあくまでも一時的なものにとどめるべきです。しかし今は、命を救うためには避けられないことなのです」
と自国民に切々と訴え、「一時的なものにとどめるべき」と強い歯止めをかけた(『ニッポン 未完の民主主義』池上彰・佐藤優対談 中公新書ラクレ)。

同じ民主主義陣営に名を連ねる日本は、一貫して短期の自粛要請で対応し、基本的人権の保護という理由で、法的措置を伴うロックダウンを行わなかった。その結果、救える命を救うことができない事態に陥っている。

日本政府は国民に長期の自粛要請ができず、なんども中途半端で解除を行った挙句、いまだにコロナウイルスを封じ込めることができないでいる。当初から、たとえ短期であっても、「自粛要請には十分な補償が必要」との声も多く、それに応じる形で、政府は個人や企業に補償金を繰り出した。それらは十分な額ではなかったが、それでも、かなりの借金上積みとなった。もしこれが長期であったならば、財政破綻のXデーへさらに近づいていたであろう。結局、政府は財政破綻を恐れて短期の自粛要請を繰り返し、結局財政を悪化させ、その上、コロナも撲滅ず、一兎をも得ずという最悪の事態に陥ったのである。

本来、国家とは財政を含めて、常に万全の準備をしておき、一朝事あるときには、国民を救わねばならない。今回のコロナウイルスに際しても、「国民に十分な補償を行い、長期の自粛要請でコロナウイルスを撲滅する」、これが民主主義国家の行う正常な政策である。だが、すでに日本の国家財政は借金過多で破綻寸前であり、それを行い得なかった。

これは選挙を通じた民主主義の為せる悪しき業(わざ)の結果である。つまり国民の人気取りのため、景気浮揚という名目で国債発行を繰り返してきた結果である。ちなみに、中国政府は完全都市封鎖でも、国民に一切の補償をしていない。

昨年、コロナウイルスが蔓延し始めたころから、私は「医療崩壊」という言葉に疑問を呈してきた。結局、今に至るまで、「医療崩壊」の定義は明確にされていないし、実際に、巷では「医療崩壊」など起きていない。たとえば私が通っているビル内診療所では、ずっと医師も看護師も暇そうにしているし、「病院経営の自由だから、いかに世間が騒ごうと問題はない」と、どこ吹く風である。

また、コロナ患者の受け入れを表明した病院から、医師や看護師が集団で辞めたという話もあった。職業選択の自由だから仕方がないというものの、彼らを養成するのに多額の公金が投入されていることを考えると、なにか釈然としない。ちなみに中国政府は、武漢に野戦病院さながらの病棟を短時日で建設し、そこに中国各地から多数の医師や看護師を強制派遣し、コロナウイルスを封じ込めた。

今回のコロナウイルスで、日本の医療システムの欠陥があらわになり、多くの死者を出していることも事実である。メディアが連日取り上げているにもかかわらず、PCR検査は遅々として進まなかったし、いまだに医療関係者へのワクチン接種も終わっていない。日本は国民皆保険制度を維持し、その結果、世界に冠たる長寿国となった。しかし健常者までもが病院通いするという珍現象が起き、それが国家の財政を疲弊させる一大要因となっている。

私は当初から、「今回のコロナウイルスの標的は高齢者であり、その高齢者は戦後の民主主義を最大限に享受し自由気ままに生きてきた。だから高齢者はコロナに襲われたら、人工呼吸器やエクモのお世話にならず、自宅で大往生を遂げる覚悟を持つべきだ。限りある病床は若者に回せ」と言ってきた。それが「医療崩壊」や「財政破綻」を防ぐことにつながるからである。

最近、医師の森田氏が、『うらやましい孤独死』(フォレスト出版)の中で、
「医療経済学の世界では、多くの研究の結果、“病院の存在や非存在”と住民の“死亡率”のあいだには因果関係はないことがわかっている」
と言い、
「膨れ上がる医療費が問題なら、世界一多いと言われる日本の病院・病床を減らせばいい。病院・病床が減れば医療費が減るのはわかっているわけで、しかも病院・病床の減少は住民の健康にはなんの影響もない。病院・病床が減り、医療費が減れば、それだけ医療の供給量が減るということで、それは医師の仕事が減るということだ。これで医師不足の問題も解決してしまう」
と、断言していることを知った。

(後編に続く)

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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。