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「コロナウイルスのモニタリング検査を受けました」(日比恆明)

【特別リポート】
「コロナウイルスのモニタリング検査を受けました」

日比恆明氏(弁理士)


               写真1


               写真2

某日、新宿駅の東西連絡通路を歩いていたら長い行列を見かけました(写真1)。

最近は他人との密着を避けるため、行列などは見かけることはありません。駅の地下のため、指定席の予約をするために並んでいるか、と考えたのですが雰囲気が違ってました。行列の先頭に回ってみると、「新型コロナウイルス感染症モニタリング検査」の幟旗が立てられていて、検査キットを渡していました(写真2)。

要するに、ここではコロナウイルスに感染しているかどうかを判別するPCR検査のキットを配付しているのです。この検査キットは無料でした。
 
元々、タダとなれば何でも受け取るという卑しい根性であるため、私も行列に並んで検査キットを受け取ることにしました。民間病院で唾液によるPCR検査を受けた場合、安い所で1万円、当日に結果を通知する超高速検査では3万円の費用がかかります。それが全く無料となるのですから、貧乏人の私には有り難いことです。

ただし、検査を受けるにはスマホを持っていることが条件で、個人情報をスマホで入力しなければなりません。まず、パンフレットの左側にあるQRコードから氏名、年齢などの情報を入力し、検査に協力することに同意することを承認します。

次いで、中央にあるQRコード(Android用、iPhone用は右側)から専用アプリをダウンロードし、再度個人情報、パスワードなどを入力しなければなりません。これが結構面倒なのですが、30分ほどかけて登録する頃には行列が進んで受付までに到着しました。何せ、タダなのですから多少の手間は仕方ないことでしょう。


             写真3


              写真4

受付では、検査キットの使用手順や注意点をマニュアルを示しながら説明を受けました。一番の注意点は、唾液を採取して保存する検体管の使用方法のようで、検体管の取り扱いについて担当者から何度も説明を受けました。15分ほどの説明が終わったなら、チェックシートにサインすることで終了します。そして、大型本程度の大きさの段ボール箱に入った検査キットを受け取りました。
 
今回、PCR検査のキットを無料で配付しているとは全く知らず、偶然に見つけたのでした。この無料配付が一般に知られていないのは、色々と複雑な事情があるようです。まず、このPCR検査は厚生労働省ではなく内閣官房が主導しているもので、コロナウイルスの陽性者を見つけるためのものではありません。検査の結果としてコロナウイルスの陽性者が発見されるのですが、それは二次的なものであって本意ではないのです。

この検査は「モニタリング」であり、コロナウイルスの発生状況を分析するための基礎データを収集することにあります。数多くのデータを集めることで感染拡大の前兆を予測しようとするものです。このため、検査キットは「協力していただける方」にだけ配付しているのです。
 
こうした趣旨から、検査キットの配付は事前に公表されることがありません。「何時」、「何処で」、「何人分」を配付するかは一切知らされることはなく、この配付と出会うことができるのは全く偶然でしかないのです。もし、配付場所と日時が公表されたらどうなるでしょうか。民間病院での検査では、1回1万円以上の費用がかかるのです。それが無料になるということであれば、検査を受けたい人達で会場は大変な混乱になると予想されます。このような事情があるため、検査キットの配付はコッソリと行われているのです。
 
次に、配付場所なのですが、全国満遍なく行っているのではなく、東京都、大阪府などの14都道府県の繁華街等で開設されています。内閣官房が指定した都道府県は、既に感染者が多数発生している都市なのです。多数の基礎データを集めなければならないので、山村などの過疎地では実施されません。方針としては、1日1万件の検体を収集することを目標としているようで、全国的に有名な繁華街であれば出会うチャンスもあるでしょう。
 
ただ、この検査キット配付によりコロナウイルス感染のモニタリング調査が行われても、その詳細が発表されないのは問題です。一応、キット配付数、発見された陽性者数は発表されているようですが、それ以上のデータは公表されていません。それは、感染拡大の予測を分析するために実施されているのですが、分析した結果があまり正確ではないからのようです。このため、一部のマスコミからは、このモニタリング調査の有効性に疑問がある、という批判もあるようです。


               写真5

さて、貰った検査キットを開いてみると、検体採取器、各種説明書などの一式が封入されたビニール袋が入っていました。

  
                    写真6

このビニール袋を開いて、中にある封入物を広げたのが写真5です。検体返送用ビニール袋、返送用紙箱、4枚の説明書、返送用伝票、検体採取器、QRコードシールが入っていました。極めて丁寧なキットです。素人が検体を採取して、それを安全に発送しなければならないので当然のことですが。


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検査キットで一番重要なのは、被検査者の唾液を採取する検体採取器です。初めて見る道具ですが、これが精密に組み立てられていて感心しました。プラスチックで出来ていて、上側には唾液を流し込む漏斗があり、その下方には唾液を保存する検体管が接続してあります。

外観からは簡単な構造のように見えるのですが、検体管は二重になっていて、内部の管には唾液を安定化させて保存液が入ってます。被検査者が漏斗から唾液を流し込むと、唾液は検体管の二重になった空間に注入されます。その後、漏斗を検体管から引き出すと、検体管の中央に封入してある保存液が流出し、唾液と混合されます。最後に検体管の開口部にキャップをねじ込んで封印します。検体管の胴部には、被検査者に割り当てられたQRコードシールを貼り付けて発送すれば終了です。
 
良く工夫したものだ、と感心していましたが、コロナウイルスの発生よりもかなり前から販売されている商品のようで、それほど珍しいものではなさそうです。また、同じような機能を持った採取器は複数の企業から発売されているようです。


               写真8


               写真9

さて、検査キットを貰ったのですが、キットを利用して唾液の検体を採取するには少々面倒な作業でした。採取の手順を順に説明します。
 
1、翌日中に採取しなければならない
検体管に入っている唾液を安定させるための保存液が有効なのは、唾液を採取してから96時間以内のようです。このため、宅配便などで輸送する時間などを逆算すると、キットを受領した翌日に唾液を採取し、当日の午後4時までに郵便局に持ち込まなければなりません。
 
2、1時間の飲食などの制限
唾液を採取する1時間前からは飲食はできず、喫煙、歯磨きはできません。唾液に異物が混入すると検査でエラーが生じるからで、当然のことでしょう。
 
3、専用アプリを立ち上げる
予め指定された専用アプリをスマホにインストールしておくのですが、採取の前にこのアプリを立ち上げておく必要があります。最初にするのは、QRコードを読み取らせて、個人情報とコード番号を紐付けします。QRコードは検体管に貼り付けるため、受け取った検査企業では個人を特定することができます。
 
4、専用アプリの指示に従う
最初にQRコードで個人を特定した後は、スマホの画面が順次切り換わり、採取の手順をイラストにより指示してくれます。キットに入っているチェックシートとスマホの画面を交互に見ながら作業を続けます。3、4回スマホの画面が切り換わると作業は完了します。漏斗を検体管から引き抜き、開口部をキャップで封印して一連の作業は終了しました。この間、約3分なのですが、スムースに作業を進めるためには、予めマニュアルを熟読しておく必要があります。マニュアルを読まずに、スマホの画面に従って作業したならどこかで失敗するのではないかと思われます。


              写真10

採取した唾液を入れた検体管を専用のビニール袋で二重に梱包し、そのビニール袋を返送用の段ボール箱に入れて三方をシールで封印すれば発送の準備が完了します。この段ボールに宛て先が印刷された専用の伝票を貼り、午後4時までに郵便局に持ち込むことになります。なお、宛て先は市川市の国立病院のようでした。
 
こうして説明すると簡単なように思えるのですが、QRコードを読み込まなかったり、2枚のビニール袋で二重に梱包しなかったり、と細かな点を見過ごすこともありそうです。この種の作業に慣れていない人が作業すると、どこかでチェックポイントを見落とすのではないかと予想されます。私個人の実感からすると、10%くらいの人は失敗すると思われます。このような失敗が予想されるので、マニュアルには同じような注意書きが何度も表示されていました。

この原稿を作成している最中に、スマホに着信音が鳴りました。スマホの画面には「検査終了」の表示が出て、検査企業からは「陰性」と判断されました。検体を郵便局で発送してから48時間で検査が終了しており、極めて迅速な処理でした。


              写真11

ということで、私はコロナウイルスに感染していないことになり、先ずは安心できました。この検査キットのシステムは便利なのですが、多少の問題がありそうです。

1、個人情報が抜き取られる
今回の検査では、専用アプリに氏名、メールアドレス、携帯電話の番号、性別、年齢を入力しなければなりません。もし、検査で陽性と判断された場合、どのように取り扱われるか問題となります。強制的に入院させられるのか、自発的に治療するのかその後の処置が不明です。
 
2、若手の人しか検査対象にならない
この検査方法では、スマホを仲介してデータのやり取りを行うため、スマホの操作に慣れていることが必須となります。すると、スマホを保有しない高齢者は検査の対象にはならず、データの年齢層が偏ることになるでしょう。
 
3、詐欺の手口になるかもしれない
このような無料で検査キットを配付するのは有り難いことですが、詐欺師からすると個人情報を容易に入手できる手口になるかもしれません。どこかの道端でニセ検査キットを無料で配付しながら、キットと交換に個人データ、クレジットカード情報を入手するかもしれません。もしかしたら、もう実行している詐欺師もいるかもしれません。ご用心下さい。