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「この時、チーム力を生かすリーダーの働きかけ」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(72)
「この時、チーム力を生かすリーダーの働きかけ」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
 
◆この時、リーダーの楽しみは
 
なんといってもリーダーの楽しみは集団力を生かした実績形成である。このことはスポーツ界の監督、指導者あるいは舞台、映画、指揮者、各種イベント責任者でも同様である。特に、厳しいとき、普段と違う等の時には「この時だからこうする」との意気込みでの想いを発信してその実現に取り組むことも多い。

そこには「この人と仕事したかった」「この人についていけば確実、実績集団のメンバーとして誇れる」とのリーダーを信頼する協力者を得て、「チームワン」のチーム力を創り上げることにある。そのためには、協力者個々のメンバーを育て、最高に生かし合う手腕発揮を楽しみ、その結実としての成果を周囲から認められ、チームみんなで「やったー」と歓喜の雄叫びを上げることはいつの時も変わりはないであろう。
 
特に難関の時にこそ発揮される協力メンバーが一丸となって創り出す奇跡もあることは、スポーツ界の話題だけではなく、企業での職場活動でもあり得ることだ。だからこそ、この時、リーダーの「皆さんの心からの協力のおかげです。本当にありがとうございました」と言葉を詰まらせながらも感謝の言葉を述べる自身は最高の楽しみのはずである。
 
確認してみよう。協力者が惚れ込む「この人だから」とのリーダーの人間力とはどんな人であろうか。諸説はあろうが、それは「おかげ様で」「ありがとうございます」「ご苦労様」と感謝の心とねぎらいの心を豊かに持った専門力と人望を魅せている人である。

◆「この人だから」とは、その人間力を確認する
 
人間力とは抽象的表現であるが、その要素を考えてみると、その人の持つ人間味・姿勢に基づく発信する力が周囲に与える影響力と考えられる。具体的には次の3つに大別できる。その一つは
① ぶれない軸を持っている。具体的には、高い志、私心がない、明確なビジョン、信念、責任感、勇気、決断力などがキーワードになる。二つ目は
② しなやかな対応力を兼ね備えている。具体的には柔軟性、創造力、変える勇気、判断力、学ぶ力、等である。そして、
③ 人間味がある。具体的には、温かみ、感謝、気概、遊び心、倫理観等である。
 
言い換えれば、その人の生き方、考え方、人生に対する姿勢(人生観、職業観、倫理観)が滲み出るものであり、理論、理屈、スキルやテクニックを包含しつつ、それを超えた豊かな人間性、品格、人徳ともいえる。 
 
だからこそ、協力者は、安心感、納得感から 尊敬、信頼さらに心服と強い影響を受ける喜びとなり、協力への楽しみとなるのである。よく言葉に出る上司の器とは、この条件をどれだけ持ち得ているかということでもある。

◆弱みはメンバーがカバー、多様化の人財が良い
 
だからといって、3つの人物的影響力を生かし得る上で、専門力の全てに長けていなければならないことではない。それは、リーダーの個の力の頑張りでなく、確認してきたように「この人だから」とのメンバーを惹きつける人望で、自身の弱みは、補完可能なメンバーの力を生かせば良いことである。

「私がその点はカバーします」とリーダーの強み、弱みを踏まえた協力を惜しまない求心力がそこに生きる。今この時、多様化された人材が不可欠であることは周知の通りであるからだ。

ならば、その、実現は、どうすべきなのか。それは、日頃から、既に関わりのある人をはじめ、新たな出会いの人に対して、おかげ様の心から話す意思疎通如何にあるといえる。筆者はこの点に着目しての指導支援の施しも多い。

◆指導研修現場に診る「おかげさま」の人間味
 
リーダー研修現場では、「心に残っていること」をテーマに体験事例を元にスピーチ実習をお願いする。その体験事例は、両親、子供、学校時代の教師、学友、球技大会での成績結果、入社してからの仕事に関わること、特に厳しい案件の達成、海外での活躍、先輩、上司からの言動に関する是々非々など多岐にわたる。

そこには、事例は違えども通ずる特徴は、厳しかったとき、不安の時、困り果てた、迷った時に、自分の頑張りはこうした、周囲の人が親身になって寄り添ってくれた、思い切って支援してくれた、叱咤激励しつつも一緒に行動してくれた、そのおかげで乗り切れた、そして、良い結果を勝ち得たとの体験事例の過程と結果が吐露される。

時には、絶句もするし、晴れやかな表情も魅せる。もちろん、自身の必死な努力があってのことではあるが、周囲の人からの親身な手助けに「そのおかげで今の自分があります」と、感謝の言葉でまとめられる。
 
結構感動することも多いが、筆者のみるのは、「自分は必死で、頑張りました」に着目した話の組立てか、それとも「このように救って頂きました。施してくれました」かの、どちらに重きを置いた話の流れかを診ることにある。後者であれば、人からの施しを感じる人間味が豊かであり、話ぶりにも言葉の詰まりがあっても、最後は晴れやかに皆さんのおかげで現在の自分があります。と結ばれる。

従って、「この人なら、人は、協力し、ついてくる」と判断し、「どうぞ、この体験で掴んだ自分のために尽力していただけるありがたさを、今後も関わる人に感じ「おかげ様」の感謝の心での話すことをお願いします」と支援する。
 
一方、自分の頑張りに着目した話のリーダーには、「そつなく、イキイキと頑張りの話ができています。しかし、温かみが感じません。どうしても「俺が」の自己顕示力の高さが気になります。お願いします。

「俺がおれがの我を捨てて、おかげおかげのげで生きる。この言葉を大事にしてください」と支援の施しをする。実は、この指導に対して様々な反応がみられることが楽しい。

あるとき、経済団体研修でのこの指導から、10数年後に再会した受講者から、
「先生のあの言葉に、その時は抵抗しました。しかし、その後に、担当していた案件がつまずき、にっちもさっちもいかなくなったとき、部下が一所懸命踏ん張ってくれました。その時、あの言葉を思い起こし、部下の活躍ぶりの良さを改めて見直しました。次第に「皆、自分のために苦しくてもついてきてくれている」と涙がこぼしました。おかげで現在は、幹部職として活躍しています。ありがとうございました。お礼が遅れました。すみません」。

思わずハグしての感激の交換もあった。嬉しいことである。
 
心が通うチーム力とは、このようなリーダーの存在なくして現実化しない。必要になったからと付け焼き刃的に良き人を演じても、日常の言動のありようによる真実の人物をみている人には通用はしない。
 
昨今、コロナ禍だからこその心の通い合い云々が取り沙汰されるが、従来からこのようなリーダーの及ぼす影響力により形成されたチームならば、この時だから困ったと言うことはあるまい。更にこの機会を生かして、維持発展させるあらたな方法を加えることで良いであろう。それは、対面だけでなく、デジタル化を生かしたメールーでもオンラインでも活かせるのである。

一方 困った、困った事が本当であれば、それは従来からの弱さの付けがここに来て顕在化されたに過ぎない。だとすれば、今後に向けて、当たり前のチーム力の有り様をどうつくり上げていくかには、自身の人物的影響力に着目することも肝心である。

◆協力関係は4方向の人材を生かすこと
 
さて、協力チーム編成による想いの達成には、人間力を生かしたリーダーシップが発揮される。リーダーシップとは端的に意味づければ「自らの想いを発信し、関わる人から積極的に協力を得て、目的を成すこと」と言える。従って、関わる人のパワーをどう総合化し、かつ高めて行くかであり、単なる現状の能力を総合化することではない。

従って、メンバー力をどう高め、生かし合うかの采配が不可欠である。
その実践としては、
①育成する=新たな目標は高くなる。ならば個々の力も不足能力であり育成は不可欠
②コーデイネートする力量で、各自の能力を融合化=単独の専門力の活用でなく、関連する専門家、部署同士の組み合わせを生かす
③各自の異見(考え方の違い)を3人寄れば文殊の知恵として新たな智恵を産み出す=議論が必要。それは互いに違いがあるからそれを生かす事。各自の異見の根拠は皆違うならば、三人の異見の根拠の違いを出し合ったら、創造する元データーは3倍となる。多面的、深さ、新た、ここから産み出される智恵は貴重である。議して決するとはそのことである。
 
そこで、頼る協力メンバーの確保には、次の4方向の人に働きかけの実践である。
①立て方向=(1)上には上長、トップまで、(2)下には部下
②横方向=同僚・同列に並ぶ職分の人
③ナナメ方向=自部署以外の専門力を持った人で、他部署、他社。関係団体、官公庁、顧客、各種業者……。
 
以上の関係する4方向には、協力頂ける可能な人、新たに協力頂きたい人が存在する。ならばどのように働きかけをするかと言えば、「何を成したいかのを想い、目標を示し、この人のためなら協力しようとの人物的影響力を生かした「なぜするのか」「なぜあなたの協力を求めるかを説き、理解、納得を得て、OKの意向を確保する運びとなる。

◆異質の人を繋ぐ総合力の強さ
 
特にナナメ方向の人は、自分、自署、自社以外の専門家であり、この人達の協力はゴールに向けてのスピードの早さと、創り出す成果の品質の高さを左右する。
 
しかし、自署のメンバーとは異質であり、先方からすれば、他チームに対する協力であり、責任感も乏しくなるのは当然。ましてや、社外の人は、所属する組織の理念、思想も違うし、損得関係が伴うこともあり、折衝する過程も起こりうる。だからこそ、リーダーの器と力量が問われる。従って「なぜ」「何のために」の前提事項は具体的に「何を」「どのように」との依頼を示し、丸投げの依頼での後トラブルを防がねばならない。
 
そこで、専門家の協力を得るための日頃の努力は二つの引き出しを持つ事にある。一つは、この事はどこに訊く、あるいは頼むかの「仕事の引き出し」であり、もう一つは、誰に訊く、誰に頼むの「人脈の引き出し」である。この引き出しは、日頃の部署外の社員との交流や社外での出会いの機会を持ち、縁づくりを構築しておくことに他ならない。

◆依頼の話方は感謝話法です。
 
さて、実際にタテ・横・ナナメの人との協力関係を構築する上で必要な能力は何かと問えば、それは話す力である。依頼の前提は、自分の想いが、必ず相手にお役に立てる、だから依頼するのであると信念を持つことに他ならない。

例え、断りから始まり、やがて、協力しますと了承頂くことがあっても、協力チームでの成果を社内外で認められたときには、協力者から「あのときに、お話頂いた事を実践したおかげで、私も業績も伸ばせました」と感謝の言葉を頂く事になる。リーダーはこの感謝の言葉を協力者が発信できる責任を持つことであり、楽しみでもある。従って、依頼する時の話方はどう心するかといえばそれは感謝話法である。
 
感謝話法とは、感謝の心で話すことである。なぜなら、自身の仕事で精一杯活躍している人に、更に負荷をかけるのが協力依頼だからである。従って、従来からの、協力に感謝を踏まえて話す配慮が必要である。例えば
「いつも快く協力いただき感謝しています」
「あなたの協力のおかげで、ここまで良き評価いただいてきました。感謝しています」
「あのときの献身的な協力は今でも忘れません。本当に助かりました」
「若手社員の君の提案が、あの難しい場面の切り口となりました。貴重な意見ありがとう」
「あなたの補佐のおかげで、忙しい時でも安心してチームを離れられました。おかげで外との協力を多くいただけました」
とおかげ様での感謝の話からはじめ、
「そこでまた、あなたの力を借りたいのですが……。」
「この新たな目標は、あなたの専門的立場から是非協力が必要なのです。どうぞよろしくお願いします」
「今後のあなたにとっても必ず役立ちます。また、是非一役買って頂けませんか」
「あなたたちと創り上げた先の成果は、皆さんの一体となっての強い協力による賜でした。上司もその力を是非今度も頼りにしたいとの事から、貴社に依頼しました。この期待に応えて、今一度皆さんの力を貸してください」
と進める。

ここで心得は、「なぜ、あなたなのか」それはここまでに協力し頂いた具体的事実に感謝し、だからこそ今回もどうしてもその能力が頼りなのですと明確にしていくことである。
 
そこにはリーダーの「この人の人間味と本気さが伝わってくる」との熱意が、相手の心を動かす。とかく耳にする「あの人がだめだったら、この人に頼もう」とは大変失礼な感じがするのだが……。

◆この時若手社員の「しがいがある」この実感を是非……。
 
この時、是非この協力チームに組み入れて頂くことは、若手の「仕事のしがい」を創ることである。
というのは、コロナ禍での、新人研修で掴む彼らの心中は、在宅勤務等の日々が重なると、内定時の想いと現実の違いに戸惑いもあり、「自分は何のために」との不安感が募っている現象が伺える。皆、役立つ仕事を思いっきりしたいのである。

それは、「しがいのある仕事をしたい」のである。新人に限らず若手社員も同様である。一例を紹介しよう。指導先の深掘りポンプ製造のトップメーカーO社は社員数40名企業であるが、昨今、中途採用若手社員に、大手メーカー勤務に勤務していた2名入社した。

動機は何か? それは、「給料が下がるのは承知の上、でも自分がやりたい仕事ができる会社と評価したので入社したい」とのことである。

単に給料云々でない。働きがいとの言葉でくくれば、仕事のおもしろさや、やりがい、また、自分の成長(能力向上、人間性等)がある、それに、社会的に認められるとの考えがあることも実感である。だからこそ、その実現を是非、リーダーの手腕によってチームメンバーに組み入れ、「仕事のしがい」として、次の4点を享受させて頂きたいのである。

① 仕事の意義を実感している=仕事に意味・意義・やりがいを感じる
② 責任・任された事の実感=自分の仕事であると認識し、責任を感じる
③ 達成感を実感できる=仕事をコントロールし、知恵を働かせ、実践して、独自の生きた成果を感じる 
④ 協力チームに所属しているありがた味を実感できる=周囲の注目、協力の喜びを感じる。このような各自の「仕事のしがい」を創り上げるよう働きかけを願いたい。

この時、コロナ禍で、制約条件が多々あることは事実であるが、「だからなんなの、だからこうする」この気概あるリーダーだからこその創れる「あのときだから、みんなでこれを成し遂げたね」と語り合える足跡を残せる良き機会でもある。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/