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「中国本土の電力不足とIMFの世界経済見通しについて」(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報
「中国本土の電力不足とIMFの世界経済見通しについて」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

中国本土における最近の深刻な電力不足が指摘され始めています。
そして、その影響を勘案し、海外の投資機関などは中国本土の経済成長率見通しを相次いで下方修正し始めています。

例えば、米国の投資銀行であるゴールドマン・サックスも、中国本土の今年の経済成長率見通しをこれまでの8.2%から7.8%に下方修正し、日本の野村証券も8.2%から7.7%に下方修正しています。
更にまた、世界的な格付け機関であるフィッチも中国本土の今年の経済成長率見通しを従来の8.5%から8.1%へとするなど、各機関とも軒並み下方修正してきています。

そして、中国本土で深刻な電力不足が続いている影響で、9月中旬から中国本土の全国31の省や直轄市のうち20カ所以上で電力の供給を減らすか、あるいは完全にストップする限電令が出されたとも奉告されています。
これに伴い、遼寧省をはじめ、中国本土全国各地で広範囲な被害が発生し、その実態も次々と報告されてきました。

ブルームバーグ通信は、私、真田には、ちょっとシンボリックに報道し過ぎているとは感じますが、
「中国本土の農家では農業機械の使用が難しくなり、収穫ができなくなっている」
と報じています。

また羊毛工場などでは生産を最大で40%減らしたとも報道されており、日米欧の期間のみならず、中国本土の経済メディアである「第一財経」でも、
「電力使用量が多い東北3省(吉林省、遼寧省、黒龍江省)で原材料生産や加工工場が稼働を中断した。」
と報じました。

江蘇省では米国のクァルコムなどから半導体の供給を受け、これを最終製品に組み立てる世界最大の半導体後工程メーカーの日月光が一時、工場の稼働をストップし、アイフォンを組み立てている和碩も電力使用を減らした為、生産に支障が出ていると報道されています。

中国本土政府当局は最近の電力不足で市民が不安を抱き始めていることから、山西省や内モンゴル自治区など自国の炭鉱に大規模な増産を命じ、海外からの石炭輸入を最大限増やすなどの緊急対策に乗り出してはいます。
中国本土政府などが明らかにしたところによると、中国本土の李克強首相は国務院常務会議で、
「社会運動と同じような脱炭素の動きから抜け出さねばならない」
と訴え、地方政府が炭素削減目標を達成する為、厳しい限電令を続けていることを批判、緩和するように促しています。

また、豪州との関係悪化による、化石エネルギーの豪州からの輸入に滞りが出ていることもこうした電力不足の背景にあると見られています。

いずれにしても、中国本土の電力不足による影響が世界に広がることへの懸念も徐々に広がっており、
「中国本土との交易が大きい台湾や韓国などの隣国が特に大きな影響を受けるだろう。
オーストラリアやチリのような金属の輸出国、更にはドイツなど中国本土との主要な貿易相手国も中国本土経済の悪化で被害が発生しかねない」
との予想も出始めています。

もちろん、日本への悪影響も懸念されます。

こうしたことを受けての中国本土政府の動向、そして、国防にも影響するエネルギー問題に関する人民解放軍の基本対応姿勢もフォローしたいと思います。

さて、世界には、上述したような点だけでなく、
*人材不足
*半導体不足
*コンテナ不足
*原油価格の高値傾向
*こうしたことに伴うインフレ懸念
もあり、更に、国際金融市場では、
「中国本土の恒大集団の破綻懸念から発生する国際金融市場の不安定さ」
なども指摘されており、
「世界の経済成長見通し」
が下方修正される傾向にあります。

そして、客観的、論理的、科学的、中立的であるとされる国際機関であるところの国際通貨基金(IMF)が最新の経済見通しを以下のように示しました。
 
即ち、IMFは10月12日、最新の世界経済見通しの中で、2021年の世界経済の成長率をプラス5.9%と予測し、今年7月時点から0.1ポイント下方修正しています。

新型コロナウイルスの感染再拡大やそれに伴うサプライチェーンなどの混乱などが反映されたとしています。
先進国の今年の成長率はプラス5.2%と予測し、7月に比べて0.4ポイント下方修正、国・地域別では新型コロナウイルスの感染再拡大で疲弊した米国がプラス6.0%で1.0ポイント下方修正され、日本は7月より0.4%ポイント低いプラス2.4%、英国は0.2ポイント低いプラス6.8%と予測されました。

一方、ユーロ圏19カ国は7月より0.4ポイント高いプラス5.0%とされています。

また、新興国と開発途上国はプラス6.4%で0.1ポイント上方修正されましたが、このうち中国本土がプラス8.0%で0.1ポイント下方修正され、インドは7月と同じプラス9.0%とされています。

また、来年の世界の成長率は7月の見通しと同じくプラス4.9%となっています。

もう少し、詳細にIMFのコメントを見てみると、繰り返しとなる部分はありますが、
「2021年の世界経済成長率は5.9%と7月の前回見通しから0.1ポイント下方修正した。
新型コロナウイルス感染再拡大や、世界的な物価上昇により、多くの国で景気回復の勢いが鈍っている。
経済成長の下振れリスクは増大している。
これを国・地域別にみると、2021年の成長率見通しは、感染力の強いデルタ株流行や、国際的な製品供給網の目詰まりによる高インフレの影響から、下方修正が相次ぎ、米国は2021年の成長率を6.0%と前回見通しから5.0%へと下方修正、一方、バイデン政権が進める大型経済対策への期待から2022年は0.3ポイント上方修正した。
日本の2021年見通しは2.4%と前回から0.4ポイント引き下げたが、2022年は3.2%とワクチン普及効果を見込んで0.2ポイント引き上げた。
エネルギー不足が深刻化する中国本土は2021、2022年とも前回から0.1ポイント下方修正した。
ワクチンの接種率が約6割に達した先進国は2022年に新型コロナウイルス感染拡大危機以前の成長軌道を回復するが、ワクチン普及が遅れている中国本土を除く新興・途上国の成長率は5.5%を下回る。
こうしたことからすると、格差拡大を避けるためにも途上国のワクチン普及や財政支援に向けた国際協調が必要である。
また、景気先行きのリスクとして、米国が政策金利を引き上げた場合、世界的に金利が上昇することで2026年までに世界経済の成長率が約1.25ポイント下押しされる。
各国でワクチン普及が停滞した場合は2025年までに1ポイント以上成長率が押し下げられる」
となっています。
 
やや、不安な国際情勢見通しでありますが、参考にしていきたいと思います。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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