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「ベテラン社員の活躍は、本物企業の糧なり」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(78)
「ベテラン社員の活躍は、本物企業の糧なり」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

ベテラン層社員の研修は楽しい。それは、ここまでの活躍に自信と誇りを持って更なる貢献するとの覚悟を持った社員だからである。

先日、大手鉄鋼所のベテラン層研修に出講した。長年継続してきた研修である。担当者とのパートナーシップを生かした指導・支援においては、受講者から、あらかじめ日ごろの活躍ぶりを事前にレポートとして提出していただき、この現状確認に基づいて、今後の活躍をレベルアップする「志事(しごと)」を楽しむように支援することである。

志事とは、志をもっての取り組みのことであり、ちなみに仕事は、仕える事、つまり言われたことをこなす、さらに最悪なのは「死事」といわれる、いわゆる、やる気のない取組み態度である。

以前に良く問われた高齢者の「今更無理することはない」「大過なく」とのモチベーションの低い取組みは、この死事の類いである。

◆志事の楽しみ方は、自ら築いてきた当社の発展に、更なる伸展をさせる貢献力を楽しむ

気概をもった人の常に生き活きと、明るく物事を捉えていく笑顔の心を持った建設的な考えを持っての活躍がある。従って、「さすがの活躍による、さすがの貢献力」づくりに自分だから成せるベテラン層パワーの誇りなのである。
 
このような、仕事ができる、人を育てる、企業の課題が解決できる、こんな逞しさと専門力を持ちうるベテラン層社員の活躍は、企業の更なる伸展の生命でもある。それは、「企業環境を巡る変化は,常に進化する企業活動を求める。とりわけ現況コロナ感染防止対応など厳しい条件もあるが、今後に向けての発展は,豊富な実績と能力を有するベテラン社員パワーだからこその本物、一流、本格、オンリーワンの企業の売り物をより強くしていくことが可能であり持続的発展を左右する。

なぜなら、そのパワーは、後輩の育成・技能継承力としても発揮され、若手社員が基本を踏まえた新たな発想により進化させることに他ならないからである。また、見方を変えれば、若手の発想の実現には、このベテラン層の力が不可欠なのである。

若手パワーをといっても、この組合せがあってこそ企業の生きた活力なるのである。今研修の、事前レポートにも若手との交流、そして共同での新方法の試し、開発などの記述は多い。例えば、

*まずこちらからの挨拶、笑いも必要そのための雑談で和ませる。
*世代の違いの対応にTV、漫画、流行に関する情報収集で会話する。
*若い社員との会話、時代に合った事柄、趣味趣向を生かしたことなど自分から話す。
*相談に乗る
*時には食事する
*若い人がどうのこうのという批評家では無い。さらに、指導機会でも 
*伝える技術と伝えるべき内容の整理を行い、自らの経験・知識を生かして話す 
*押しつけにならぬよう相手の考え方をしっかり聴く 
*新規仕事の対応には、若手と現場を下見、危険箇所を洗い出し、相互確認で、安全第一業務遂行を共に実践する。

さらには、
*自分なりの業務のやり方が固定観念で堅くならぬよう、上司、部下の考え方を聞き、よい点は取り入れ、新しいやり方の試技をしていく・・・
等が実践事実として記されている。

理解いただけるように「最近の若い社員は」等と捨て台詞を発する人はいない。勿論、この課題を超えての対応活躍であることは計り知ることはできる。

◆改めてベテラン層が持つ魅力を確認してみると

①ひとつは、技術などの専門力であり、エキスパート、スペシャリスト、あるいは職人ワザ、匠、マイスターなどと称されるレベルの力量。
②もうひとつは、豊富な経験で関わった多くの人との出会いで磨かれた人間力。
である。
 
この2つの強みのパワーを併せ持つことで、業務に生じる困難さに対応し、解決する力量が期待され、実践により、良き影響力と貢献力を積み重ねているのである。それが、自然と後継者の育成にも繋がっているのが現実である。

なぜかと言えば、被指導者は指導者の器以上に大きならないからであり、被指導者が「誰に教わりたいか」の条件に求めるキーワードが「、憧れの人か」が問われる現実だからだ。その憧れとは、専門力による一目おかれる実績を示していることと、あのような人になりたいとの人物的魅力如何の評価であるからだ。

◆今後はおかげさま作りの貢献の楽しみ

現状から、ベテラン社員の活躍のキーワードは、なんであるかと言えばそれは「おかげ様づくり」である。なぜなら、現在「さすがの技術力・専門力をたくさん持っている人」「経験豊富な人」として一目置かれる存在」になるには、多くの方に指導をいただき、協力をいただき、その結果なのである。

「自分が頑張ってきたんだ」との主張もあるが、大方は、生かされてきた自身であることも事実であろう。従って、これまでに「おかげさま」という体験は豊富に持ち得るのである。

だからこそ、今後は、それを現場にお返して、「おかげさま」と感謝される新たな貢献を楽しみとしていくことである。

その活躍のポイントは次の6点である。
①さすがの専門力を生かした新たな業務に貢献する。それは新しい、初めて、珍しい、独自のものへの関与
②経験による成功・失敗から得た経験知を生かした業務の改善(創意工夫)の実践
③第一線の活躍だからこその、現実、現物のデータに基づき、組織での難しい案件の解決に貢献
④卓越した技能は社の財産、だからこそ分身としての技能承継の実践
⑤後輩管理者の補佐、支援に貢献
⑥ハイテク技術を生み出す基は、暗黙知、だからこそ暗黙知をさらに究める
 がある。

いずれも 豊富な知識、体験を生かした施しにより、「おかげさま」の感謝と実績を残す活躍ぶりとなるのだ。そして、この実績は、企業の歴史に名を残すことになり得るし、施した相手の記憶に残り、退職でも、お役立ての機会の声がかかり、生涯現役としての活躍の場が提供される楽しみに繋がる事例も多い。

◆更なる年輪を加える楽しみ

さらに、事前レポートに記された内容には専門力をより高める実践も紹介される。例えば、
*自己の専門力の高めを自己啓発 
*進化するIT技術への対応 
*一段高い目標への挑戦 
*自ら国家試験を取得 
*技術者からの指導、研修機会を生かして専門知識向上 
*電子化業務移行へも苦手意識を超えて、自己研鑽、考える、使いこなしの実践 
*常識にとらわれず、見方を変える事が重要 
*現状把握からより良くする改善へ 
*何事にも興味、疑問を持ち、楽しく知識を深める心掛け…
と記されている。

ここには、経験則に固守しての「絶対このやりかたしかない」とか「私の考えに絶対まちがえはない」との思考枠の固まリによる、意固地な人、頑固な人、人の異見は聴かない人、馴れたことを馴れた方法でやる人の現状維持型の人ではなく、そこには、新たな学びによる新たな考えを生み出す活躍ぶりがまぶしい。
 
それは、経験則(経験・体験から創り上げた最良の方法)にプラスして変えていく働きかけであり、変化対応に「何をどう変えていくのか」、時には改革的創造性も遺憾なく発揮していく実践である。とかく、意固地な人は、自分のやり方に固守するがそれは、経験則が壁を作っている事に他ならないのでありやがて行き詰まる。しかも、口では、視点を変える、切り口を変える、発想を変える事が大事だと言いつつの事である。
 
しかしながら、ベテラン社員にとって、現状を変えることは自己との戦いである。何故かと言えば、積み重ねてきた手腕に自信と誇りを持ち、一所懸命やっている思いは強いからであるから、経験則にはまっていれば安心感があることは確か。従って、それを壊すとか変えることは、まさに、自己の心との戦いである。

しかし、現状維持は退歩となる。だからこそ経験則にプラス改{改善=少し変える)革(革新=思い切って変えていく)をどう施すか。そこには、新たな学びとして、若い人の意見を聞く、他部門の人の視点の違いからの要望を聞く、専門部門の人からの知恵を借りることも良い。その学びから生み出す智恵による変える実践での新たな経験則は、自身の年輪を一回り多くする。

◆生涯稼げる力を磨く楽しみ

実は、年輪を加えることは、人生100年時代の将来に向けての稼ぐ力としての決め手を磨くことであるのだ。言い換えれば、将来、自分の中に「売れる力」「決め手」があると言い切れる強さを蓄えることに他ならない。そこで、決め手を磨くための学びの実践について確認してみよう。それは、次の5項目である。

①経験として体得した能力をさらに深める追求。それは、幅広く、深耕し、新たな要素を加味させる。
②資格取得の挑戦。「売れる力」は、単に何ができるか、とか、腕がいい、というだけでなく、社会的に認められる能力も必要。それが資格・検定である。
③ハイテク化に対応するためにIT専門家と親しく交流。長年蓄積してきた暗黙知(カン・コツ)、の専門力や技術力は、やがてデジタル化・AIに置換えは必要不可欠、新しい技術にこれまでの積み上げてきた知識、技術を組み込む機会への対応力でありベテランの成せる貢献。それには、デジタル化に関する知識は必要である。
④話力を磨く。自己を生かせる機会に正しく伝えるためにも、どうしても話力を磨くことは必 須。会議、指導の機会、提案事項の上申などの機会は多い。必要なときに、必要なことを必要な方法で話す力は不可欠である。
⑤時に、現在を踊り場と位置づけ、一息入れて、今後に向けての志事ヘの取組みを考えてみよう。それは、目標の設定からである。ならば、ここまでの蓄積した決め手を確認し、改めて、何が好きか、何をしたいか、何ができるか、何を学ぶかとを体系化してみると良い。

志事は、新たな目標を実現して、お役に立てた事実を示すことである。実現には、変える知恵を産み出す、その基は新たな学びによるインプットである。

◆ライフワークバランスの活躍ぶりも良し

今後の活躍に向けての研修の終項は、各自のレポート内容に、当研修で得た新たな学びを加味して充実した会社生活をどう楽しむかをグループによるワークショップで提案する事である。その提案内容の一例には、
*日頃からの体調管理をし、ベストコンデションでの仕事の対応 
*何事も前向きに取り組む 
*ライフワークバランスを上手に調整、職場で充実した仕事を遂行 
*特に健康第一、休肝日設定、適度な運動と睡眠で体力向上 
*自分の居場所を持つ、それは会社に貢献できる人材づくりとして、若手とともに取り組む 
*仕事は苦しいことばかりで無い、だから楽しくやっていく心得を今後も生かす 
*定年延長で長く働けるために相談出来る人、気分転換できる間関係を気付く
等々が提案された。
 
「居場所づくり」、これは、ベテラン社員に対する「あの人いてくれるの」「あの人まだいるの」との周囲からの見えない評価がある現実をわきまえてのことである。特に、雇用更新等制度での勤務継続時にみられる実態である。そして、ライフワークバランスとは、仕事と仕事以外の趣味や地域貢献などとのバランスを考えるハイブリッド型の活躍スタイルへの着目である。

具体的には、企業での活躍と学びの両立、企業の勤務と特技での活躍、現職と副業のダブルワークなど、様々な形態がある。先日の地元商工会議所主催の創業塾での受講者にも、企業での副業を認められている条件を生かして創業するとのプランの作成もあった。

ベテラン、高齢者、年だからこんな自身を粗末にする必要は無い。人には限りない可能性が秘められている。ましてや、現在の最高の強みも、更なる進化させていかなければ、人生100年時代の変化に対応した「お役に立てる楽しみ」を得ることは難しい。

◆寄ってきてくれる人、貢献できる楽しみを高める11の確認

ここまで、ベテラン社員の活躍の楽しみ方を考察してきた。まとめとして、いてくれる人としての確信と、将来に向けてお役ににたてる決め手を生かし得る具体策を追加して次の11項目まとめとしてみよう。

①現在の実力は、これまで関わった人のお力添えの「おかげさま」と感謝の心を持つ
②ベテランの決め手は、卓越した専門力と人間性の豊かさ。だからこそ、この能力の施しを活かし「おかげさま」。の言葉を楽しむ。この施しのパワーは、「このことは、あの人ならではのものだ」と評価され、寄ってこられる存在感となる。
③現状維持は退化なり、生涯の決め手を高めるのは、「志事観」を持つこと。その志は、周りに施すことにより、本物としての決め手がより磨かれる。難易度の高い期待への取り組む機会は最善とする。
④「あの人が指導してくれるから」と、たとえ職分の立場が変わっても、存在感があるからこそ信頼とによる安心感は「おかげさま作り」が成り立つ。
⑤常に経験則は新たに加えていくこと。そのためには、人の異見を聴かせていただくことへの感謝の心と自分の可能性を信じること。
⑥ベテランだからこそ人間的な実りがある。人間味を創るのは、日ごろからの周り人への「おかげさま」との謙虚さである。それは「実るほどこうべの垂れる稲穂かな。」
⑦「多くの方のおかげで、生かされている自分に気づく」 ことにより、謝念が深まる。
⑧技術継承は「自分の分身を宿すこと」。宿してくれる後輩に「ありがとう」との感謝。
⑨技術継承の指導は、やって見せ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじとのステップがある。 「褒めてやらねば」とは、指導を受け入れてくれたことへの感謝。
⑩相談を受けることは、「信頼される人」ならではのこと。信頼して相談に来てくれたことに感謝して傾聴する事。決して「ああしろ、こうしろ」の説法をすることではない。
⑪将来の決め手を作るためにも、そして自分の選択により人生100年時代の働き方を楽しむためにも、新たな学びを加えること。そして、教えていただける人に感謝。
ということになる。

◆新たな年、企業での新たな活動は、ベテラン社員の活躍が生きる
 
人には限りない可能性が秘められている。それは、コロナ禍での諸制限に対応してきている昨今を診断することでもその一端を自覚できる。

例えば、新たな生活様式、新たなビジネス実践法、対面を極端に減らす販売法、お届け法にはドローン活用等様々な常識化してきたこともある。また、各自の見識の基本に、個人は社会との関わりでなりたち、さらに社会を形成する自然、多くの生物との共存もあり、それは地球、宇宙性もありととらえる必要もありと学びもある。なぜなら、コロナ禍では、人に感染させない、との対応には、近隣、他の県市、町との移動制限、外国との水際作戦等々の施策が施された。コロナは生き物、年末には、宇宙に行ってきました、との話題もある。
 
さらに、企業活動にはSDGs(サステナビりテイ経営)が提唱され17項目により、環境等に留意しての、より良い世界を作る持続的開発力を求められている。
 
新たな年の新たな企業活動も、この新たな常識を踏まえて、ベテラン社員がここまで培ってきた高い能力を最適に生かす手腕は不可欠である。なぜなら、新たな一流、本物の活動常識を生み出す楽しみを秘めているからである。それは、品質が良く、スピードに長けての実現である。その具体的着目点は、ベテラン社員のおかげ様づくりとして記した6条件を存分に楽しめるよう環境を整える事もその一策である。
 
研修終了直後に受講者からの寄ってきてくれてのお礼の挨拶の交わしには、活力がほとばしっていた。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/