中森剛志氏(中森農産(株)代表取締役)

1988年東京都生まれ。東京農業大学農学部卒業。在学中より「日本の農業に一生を賭ける!」を合言葉に活動。日本農業最大の課題は生産分野にあるとの確信から25歳の時に埼玉県加須市へ移住。27歳で稲作農家として独立、翌年法人化。JGAP・有機JAS認証事業者。埼玉県稲麦作経営者会議理事。
■25歳で就農、なぜ米の
大規模農場化を目指したか
私は今、農業をやっていますが、東京生まれでもともと農家ではありません。今年、農業を始めて6年目で、今33歳です。東京農業大学の農学部で「日本の農業に一生を賭ける」を掲げて学生時代を過ごし、青果流通業や飲食業を東京で営んでいました。同時に、超党派のシンクタンクやスローフード協会に関わって、農業に貢献できる形で動いてきました。
25歳のときに、様々考えた上で農業生産のほうに行かなければ、日本農業の課題が解決できないという結論に自分なりに至り、埼玉県加須市に移住し、メガファームの構築を目指すということを、ここ5、6年やっています。
加須市で1年半、米作りを大規模にやっている早川農場さんで研修を受け、2016年に独立就農しました。お米作りで10ha。17年、18年と毎年、規模を拡大し、今年は150ha、作付け延べ面積だと200haぐらいやっております。米、麦、大豆、サツマイモ、日本で四大作物といわれるものを栽培しています。同時に有機栽培の取組みもどんどん増やしていて、今年は15 haぐらいやっています。
今は社員が10人ほどいます。資材は普通に卸やメーカー、JAから仕入れており、出荷先は、ほとんど卸売業者で、流通業者に販売する前に、間に入ってもらっている形です。今年、このコロナ禍で非常に米価が下がっており、2年前に比べ半値ぐらいになっています。輸出米も同じくほぼ半値です。弊社は契約栽培で大ロットで出していますので、それほど影響は受けていないというのが正直なところです。
輸出も少しやっており、酒米もやっています。加須市の酒蔵で一緒にお酒を造って、今年、去年とフランス、イギリスのコンクールで金賞をもらって、加須市が大騒ぎになっている状況で、半分、趣味みたいな感じでやっています。
装備はトラクター、コンバイン、乾燥機など、この水田農業、お米作りは極めて装置産業的な農業なので、1億5000万円ぐらい初期投資にかかっています。
日本は農業従事者が極めて高齢化していて、若手の農業経営者が今、なかなか育ちません。65歳以上の農業従事者が、日本は60%。先進大国はだいたい20%前後です。
2025年問題と、色々な業界で騒がれていて、団塊の世代の方々が全て後期高齢者になる。75歳を超えると身体能力が半減すると医学的に証明されていて、後期高齢者という呼び方に変わるわけですね。すると当然、農業などできなくなる方が大半ということになります。2025年を境に、水田農業においては一気に堰が外れるように農地が流動化してしまうのではないかと予想しています。
今は米が余っていますが、これから2050年までにかけて日本の人口は1億人弱に減ると言われています。1億人いる所に米を必要量、供給できなくなる可能性があるということです。そこで米が不足していくと、今は価格が下がって大変ですが、中長期的に見ると米の値段が上がるだろうと思います。これ以上、米の値段が上がると日本人、日本の企業が米を国内ではなく海外から入れたくなるということが起きます。すると日本で米を作らなくていいということに本当になってしまいます。そこを私は危惧しており、ゆえに今、大規模農業をやっています。大規模に供給していくことで、プレーヤーが少なくても、一プレーヤー当たりの供給能力を高めて米の相場を維持する、相場が高くならないようにしたいという動機でやっております。
農業界は新規参入がなかなか少ない業界でして、特に水田農業、米作りは少ないようです。私も当初は、絶対ムリだと言われ、行政の人も農協の人も東京で話した人も皆、「そんなばかなことはムリだからやめておけ」と100回ぐらい言われました。新規参入がないので、高齢化がどんどん進み、子どもが継がなければ、ひたすら高齢化して新規が入らない業界になってしまっているということです。
国も、それではまずいのではないか、ということで、中間管理事業というものを立ち上げています。私がちょうど農業を始めた頃に動き出したのですが、要は都道府県が農地の賃貸借に介入するということで、中間管理機構というところがいったん農地を地主から借り受けて耕作希望者に貸し出すという仕組みをつくりました。私も就農当初、申請したのですが、「君は農地もないし、作業場もない、農業もやっていないし、研修生というのは無職と同じだから手を上げることはできません」という感じでした。
ただその後、その運用はまずいということで、県の上のほうの方が謝りに来ました。今はだいぶ改善されて、私もとても助けられていますし、色々なエリアで中間管理事業が進んで、私たちのほうで事務のコストを負担しなくていいので、とても助かっています。これが今、全国的に進みつつあり、水田農業をてこ入れするためにはこれをいかに運用するかが重要だと思います。
うちの会社で社員が増えているとき、いい大学を出ている人間を雇おうとすると、親御さんに反対されるのです。「私の家は農業なんかやらせるために大学に入れたんじゃない」、と。農業界はそういう目で見られているのだな、とつくづく感じます。
そういう現状を変えていく必要があると思っていますし、社員にもそう話しています。そのためには農業で他産業並みの待遇、ステータスに見られるように農業自体を変えていかないとならない、と切実に感じております。なので、弊社では、他産業並みの待遇をし、繁忙期でも週2日、社員は休みを取っています。
■日本は農業を保護しない国
米作には、大いなる可能性がある
水田は水がないとできませんが、規模を急激に拡大したので、水が確保できない。エリアごとに水の確保の仕方違い、高低差で引き込む所、蛇口化されている簡単な所もあります。その地域の人たちが、暗黙の了解で何十年、何百年かけてつくってきた習慣に従うしかないのですが、うちは大規模にやっていて、そこに付き合うと作業できないため、自分たちのペースでやろうとしたら、水が一切、手に入らないということが起こりました。その結果、水が入らない田んぼで田植えをするということも、就農して3年目ぐらいにあり、するともう10町歩(約10ha)ぐらい全部ごみになってしまいます。
うちが規模を大きくしたり、機械を買ったりすると、地元の人たちからするとよそ者が農地を拡大して、たくさん機械を使って暴れているみたいに捉える方もけっこう多くて、村社会的な嫌がらせがよくあります。ごみを捨てられたり、吸い殻を田んぼに捨てられたり、けっこうありました。悪口はしょっちゅうです。社員も散々、田んぼでいじめられて泣かされるときもありますし、農業というのは大変だなと、今だに思います。
でもそれでも、私たちがそこを耐えて、日本の農地を守れる組織、会社になっていけば、将来的には私たちの存在意義を確立できるのではないかと考えていますし、社員にも話しています。今は過渡期というか、残っている農家さんたちと私たちみたいな新興の勢力とのぶつかり合いみたいな感じになりつつあります。ただ丸5年やってきたなかで、最初の頃は「あいつは2、3年でいなくなるぞ」みたいに言っていた地主さんも、最近では「もうあいつしかいないかも知れない」という感じに変わってきて、時間が解決してくれるのかなというところです。
水田農業の課題を改めて考えると、高齢化で米価が下がっていますが、これからもまだまだ下がる可能性はあります。私が水田農業を始めようと思ったのは、日本を良くする可能性があるのではないかということです。増田寛也さんが書いた『地方消滅』という本に出てくるデータですが、全国1800近くある自治体の中で、若年女性の人口動態の優れている所から順に数えていくと、都会ではなく秋田県の大潟村が全国で2位でした。
東北は過疎化が進んでおり、特に秋田は過疎で最初になくなるのではないかとも言われる県ですが、大潟村だけ希望の光のように輝いています。なぜここだけ若い女性がいっぱいいるのか。それは大潟村が水田農業、米を作るためにできた村だからだ、というのが分かりやすい結論です。
日本は本当に狭小で、農地解放以来、農地が分散し、一戸の農家当たりの所得が小さ過ぎて全く商業ベースにならないのが水田農業の最大の課題でした。これだけ機械化が進んでいますので、大規模化していくと商業ベースになると統計データには出ていました。私はそうすれば日本の農業が良くなると学生のときからずっと思っていました。NHKが米農家は時給250円です、というような報道を10年以上前からして、皆がそう思ってそれで誰もやらない、参入障壁もありますが、基本的に認識がずれているのだと思います。大潟村は米を作る村で、大規模に米が作られていて、皆、年収が軽く1000万円を稼いでいます。当然、そこの息子は嫁を連れて帰って来ますから、若い女性が増えるという単純な話です。
日本の農業を大規模化していって、あちこちで大潟村のようにしたら、日本の人口分散も可能になるし、東京一極集中の緩和にもつながりますし、都会の生活コストが下がって豊かさが上がる。そういう様々な可能性が、大規模農業にはあると私は感じまして、これをやらないといけないと思っていました。でも誰かやるだろう、農家じゃない人がやるだろうと思って、20代半ばまで過ごしましたが、一向に誰もやる気配がない。全然、大規模化が進まない。特に水田農業だけ進まない。何なんだ、これは、早くやってくれと焦れていたのですが、そんなことを言っていても仕方がないので、では自分がやろうと乗り出した次第です。
日本で農業する意味があるのか、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパで米なんか安く作れるのではないか、だから輸入したほうがいいという経済人がけっこう多いのです。日本の農業は保護され過ぎていると言うのですが、全く事実に基づいていません。
2014年、私が就農した頃に今以上の米価の大暴落があり、当時は戦後最大の米価大暴落と騒がれました。日本は今、海外から来る輸入米に280%の関税をかけており、日本の米は守られている、その分、国内の消費者に負担を押し付けていると言われるのですが、無関税枠がミニマムアクセス米77万トンの中に10万トンあります。無関税の主食用米です。その10万トンの枠が、2014年は1割ちょっとしか消化されず、9割以上はその枠が未消化です。当時の相場はお米1俵あたりおよそ1万円前後です。つまり国内で米価が1万円ぐらいだと、アメリカ、オーストラリアから無関税で輸入しても国内のほうが安いということになります。
そんな馬鹿な、と思われるかも知れませんが、アメリカやオーストラリアは干ばつがひどくて、基本的に水利費が日本の10倍かかっています。日本のお米は最終的に水分値が15%で仕上げられるのですが、彼の地では乾燥し過ぎていて15%にできない。なので、米がまずいし、効率はいいけれどもコストがかかっています。かつ、海を渡って輸送される物理コストを加えると、全然、日本のほうがいいと現場のビジネスマンたちは感じており、だから五大商社も動いているわけなのです。無関税でも米は入ってこないし、関税で守られているわけではないということです。
農業所得に占める補助金の割合を見ると、日本は本当に農業を保護しない国です。OECDが出している農業保護率というデータを見ると、日本は極めて農業保護率が高いと言われるのですが、内外価格差という数字のトリックがあって、高く出るようにしているのです。単純に所得に占める補助金の割合を計算していくと極めて少ない。
そもそも日本は、米とこんにゃくくらいしか関税をかけておらず、全く農産物を守っていない国です。極めて開かれています。冷凍食品とか外食の素材は基本的にほぼ外国産です。要はこれだけ関税が安かったらそうなってしまう、それが日本の状態です。それで野菜農家たちは「野菜が飽和していて」と皆、嘆いています。それはこの国が農業を守っていないからだということです。
■世界から遅れを取る日本の有機農業
そこに大きな伸びしろがある
今、日本の水田農業が極めて零細で、資本生産性が低くて、労働生産性も低い。この伸び代が、これからは無限に近いぐらいあると思います。イタリアの大規模農家は、1人のオペレーターで200町歩(約200ha)くらいやります。うちは今、200ha作付けして10人でやっていますから、単純に労働生産性がうちの10倍です。色々な作業体系があって、様々駆使するとそういうことができるのですが、と言うことは伸び代が、単純計算で労働生産性だけ見ても10倍ある。資本生産性も、これからロボットトラクターなど普及してきたらとめどなく上がる可能性があるということです。
私たちの会社としては、長期的に日本農業を維持、発展させていくために何をしなければならないかを考えたときに、この日本農業の、生産性を含めての生産能力を高めなければいけない。そもそもやる人がいないとか、やろうとしてもできるようなインフラや環境じゃないとか、そんなことを言っている間に兵糧攻めに遭うかもしれない。そういう様々なリスクが将来、あと数十年すると襲ってくるかも知れません。
特に水田農業というのはビジネスではなく、国防に近いと私は考えています。そういう認識が普通の人にないので、農業は保護され過ぎているとか、米は余っているのだから作らなくていいとか言いますが、普通の先進大国は、穀物は余らせて輸出するというのが当たり前です。やれるのにやらない。その能力をどんどん毀損していく。そんなことをやっているのが世界で唯一、日本だけだということです。
今は最盛期の半分しか日本はお米を作っていませんが、世界はまだまだこれから人口が増えていきます。日本のモノを欲しがっている国も多くあります。ただ、今、日本は世界で比較すると有機農業という点では極めて遅れています。これは色々な事情があって、例えば日本は高温多湿だから、そもそも病害虫を防除しづらい。生物多様性が豊かだという意味でもあるのですが、それによって有機農業がやりづらい。あとは大手の流通、量販店等が有機農業に本腰を入れてきませんでした。農協も資材が売れなくなるから有機農業などやってもらっては困る、というスタンスで来てしまいました。
私もスローフードの集まりで世界に行って「日本の農業をどう思いますか」と聞くと、「あの世界で一番、農薬を使う国ね」と言われる。「なんであんな農薬漬けのものを食べているのだろうね」みたいな感じで、実態がばれているのです。
中長期で考えたときに日本の有機農業を推進していくということは重要になると思います。世界中は今どんどんオーガニックが進んでいて、アメリカではもう当たり前で、どの町に行ってもオーガニック産品が手に入りますし、しかも安い。ヨーロッパでもどんどん安くなっています。ホールフーズをAmazonが買収しましたが、あれが極め付けです。アメリカのオーガニックが当たり前になった証明です。背景は、ホールフーズの経営が悪くなった、というのはオーガニックの会社自体が当たり前になり過ぎて、ホールフーズの価値が下がったのです。中国のオーガニック市場も日本より数倍大きいです。世界中で作られているオーガニック農産物が今、どんどん日本に入ってきています。日本の農業者や農産物は、これからそれらとの闘いを余儀なくされます。すると、日本は関税がほとんどないですから、日本人がもしオーガニックの産品を食べたいと思ったら外国産のモノしかないので、皆、国産よりも安くて安全な外国産のモノを買うというふうに、どんどんなっていくと思います。
だいぶ前からですが、私が見た事例で、東京の割とアッパー層向けのスーパーにスペイン産のオーガニックのニンニクなどがけっこう置いてあって、日本のニンニクは農薬がたくさん使われて1個300円、スペイン産はオーガニックで1個100円です。どちらを買うかということです。私はスペイン産を買ってしまいました。
そういうことが全ての品目でこれから間違いなく起きます。ですので、うちは大規模にやっていますが、有機農業を当たり前にすることを日本の農業の目標にしたいので、そこに向かって日々、努力して頑張っています。
ただ、有機農業、特に正式に有機JAS認証を取るとなるとお金もかかりますし、事務作業も大変です。うちもスタッフに担当を任せていますが、事務作業が煩雑過ぎて失敗もあり、こんなに大変な思いをするのか、という感じです。でもやっていかないとならない、問題があれば変えていかないと、というスタンスです。
今、日本の農業として有機農産物を作ってアメリカに持っていけば、オーガニック食品だけで5兆円弱のマーケットがある。日本のお米は1兆3000億円の市場です。日本人は米を食べない傾向にありますが、世界では逆で、世界の人々はグルテンフリーにしたいから米粉をいっぱい送って欲しいという要望がとても増えていて、あと数年したらグルテンフリーは1兆円市場になるとも言われます。ですからここを狙っていくというのは農業者、農業経営者としてやっていかないと、と思っています。
■いいことづくめの飼料米だが、
日本では全く進んでいない
日本の飼料米制度、要は家畜の餌用に米をやって、米の価格を維持しようということに対して財務省が、そんなことをしてお金を無駄遣いするなと言っています。前提としてのその発想自体が間違いですが、ただ日本の今の畜産、主に濃厚飼料は9割ぐらい輸入です。粗飼料、いわゆる牧草などは8割ぐらい自給できていますが、金額やボリューム的には濃厚飼料が多勢を占めています。アメリカから濃厚飼料の主要構成農産物のトウモロコシを毎年、5000億円弱くらい輸入しています。そのお金はアメリカに行く。
今、燃料が上がっています。畜産の濃厚飼料もどんどん上がっています。リーマンショック以降、国際穀物に投機マネーがいっぱい入ってきて、高騰を繰り返しています。私も畜産を大規模にやっている農家の知合いがたくさんいますけども、皆泣いています。畜産農家のコストは半分が餌です。戦々恐々として、餌が値上がりしたら赤字だと、大規模にやっているほどそういう状況です。
ですので、国内で餌米を供給できれば、米農家は米価が安定しますし、畜産農家は飼料価格が安定します。そのお金は国内に落ちて、国内で循環する。いいことしかないはずです。前提から間違えている財務省は何を考えているのか分かりません。この飼料米制度は、基本的に先進大国は皆やっています。日本だけです、全然やっていないのは。先に申したように、農業や農作物を保護していませんので。
飼料は、米でなくてもよくて、日本でデントコーンなど飼料トウモロコシを作るというのは私も近々やる予定ですし、それに変えてもいいのです。とにかく国内で家畜の餌を作るための政策とか予算は取るべきだと言うのが、私の意見です。ところが、それを阻止しようとする勢力が大勢います。これはもう損ばかりで、国益にならないです。
飼料米は、今、日本の飼料業界が言っているだけで需要が100万トンあります。本気で使おうと思ったらその3倍ぐらいあるはずなのですが、政府が掛けたはしごを外すのではないかと農家は心配するわけです。財務省もやめろと言っていて、やりづらいところがあったりで、全然足りていません。ここ2年くらいは、年間で40万トンくらいです。2014年は50万トンぐらい飼料米の供給があったのですが、米価が上がるとともにどんどん減っていって21年はおそらく60万トンを超えてくると思うのですが、それでも畜産業界が欲しいと言う量の半分ぐらいしか供給できていません。
うちは今、養鶏場に大量に出しています。うちが有機農業をやっているので、その養鶏場がすごく質のいい、臭いが少なく、かつペレット化されていて、窒素含有率もほどほどにある鶏ふん堆肥を作っていて、うちは毎年500トンぐらい使いますが、その堆肥を優先的にもらうという意味合いもあって、言わば耕畜連携です。私たちみたいな耕種農家と畜産農家が連携して、有機物をうまく回して相乗効果を出していこうという取組みです。
でも昔の地主さんに「これは飼料米ですよ」と言っても「うちの田んぼでブタの餌、作らないでくれよ」と言ってくる。「いや、ブタじゃなくて鶏です」と反論しますが、基本的に飼料米なんか作ってくれるな、という人のほうが多いのです。
私が今後やっていこうとしている農業は、2025年問題に端を発する農地の流動化の受け皿になること。それをやらないと2、3年で田んぼに木が生えて、その後、林になってしまいます。地主さんも高齢化しているので、農地の管理などできないです。農地と言っても、今は不良債権、負債です。草を管理するだけで毎年、何万円もかかるし固定資産税もかかります。水利費で排水のコストもかかります。地主さんは持っていても意味がない。それを有効活用してくれるところがないと困ってしまうのですが、そこがない。日本中の農地の恐らく2割から3割は近い将来、耕作する人がいなくなります。2025年問題が起きたとき、どうなるのかということです。
生活環境も悪化しますし、何より先祖が血と汗と涙を流して作ってきた農地を、ここで打ち捨てるということです。過疎化が進んでいる地方がたくさんあり、当然、農地もたくさんあります。行政と一緒に農場を作っていくことを今まさに進めております。
あとは付加価値化です。有機栽培は色々なやり方があり、うちもけっこう模索して、ここ3、4年、お米の有機栽培に取り組んで、今年からようやく売れ始めている感じです。有機米は相場の倍で売れます。大ロットで倍なので、販売管理費を上げずに、かつ化学肥料や農薬も使わなくていいのでコストがかかりません。うまく工夫できれば、通常の2倍、3倍の値段で売れてコストは下がるということができる可能性があり、そこに向かってうちも取り組んでいるところです。有機米は今、10町歩ぐらいやっています。10町歩はけっこう広くて、この規模で有機栽培をやっている農家は、おそらくそんなにないと思います。
あとはITを農業にどんどん取り入れていくことをやっています。ロボットトラクターとかAIはまだ活用しづらく、トラクターにセンサーをたくさん付けたりして、技術者とデータを蓄積しつつソフト面から独自に開発しているところです。
社員メンバーは色々な地域から来ていて、皆、若いです。農業をやりたい人は大勢いるのですが、普通の待遇でやれないことがほとんどで、ブラックな農業法人もけっこうあるのです。農業への貢献の仕方っていう意味でも、「農地の受け皿」というだけではなく、雇用就農で農業人を増やす、「人の受け皿」にも、うちの会社がなっていければと思っています。