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第2回【清話会会員企業インタビュー】内藤環境管理株式会社(増田辰弘) [ 第2回 ]

水、土壌、産廃などの環境分析110番企業 ― 内藤環境管理(株)

~常にユーザ―本位でプロにこだわり抜く職人の技が持ち味 

 

【会社紹介】

 内藤環境管理株式会社

  • 設立:1972年9月
  • 代表者:代表取締役社長 内藤 岳
  • 事業内容:水質分析、土壌・産廃分析、製品分析、PCB分析等
  • 従業員: グループ合計150名
  • 売上高: 資本金:5,000万円 資本準備金:4,000万円

  • 典型的な職人型企業

内藤環境管理(株)(本社さいたま市、内藤岳社長)は典型的な職人型企業である。それは同社に在籍する膨大な専門家、職人の数から読み取れる。ざっと述べても環境計測士10名、作業環境測定士16名、浄化槽管理士2名、建築物環境衛生管理技術者1名、臭気判定士4名、放射線取扱主任者3名、特定建築物石綿含有建材調査者3名、土壌汚染調査技術管理者2名という具合である。

大変失礼な言い方だが、これだけ多くの専門家、職人集団の組織だと会社の雑談などはそれほど面白くないだろうと思われるぐらいの規模である。各分析室には病院の医師の様な白い制服の社員が多くなんとなく身が引き締まる思いのする社内である。

さて、多くの専門家、職人集団が行う同社が展開する商品であるが、公害や河川の水質の分析などの環境管理に伴う調査、測定、化学分析、施設管理に伴う同様の分析それに個別に水質分析、土壌・産廃分析、アスベスト分析、塗膜分析、製品開発・品質管理に伴う化学分析などの分析である。多くが法規に定められ仕事でユーザーが事業を行うのに不可欠な仕事である。

同社の年間売上高は、約15億円であるがその主な分野別内訳は、水質が45%、土壌が5%、PCBが24%、アスベストが8%、製品開発・品質管理が6%、その他が12%という分布となる。1972年に現会長の内藤稔氏が水質分析でスタートしただけにこの分野が一番強い。

排水の分析から始め、次第に環境全般へと事業範囲を広げて来た。環境分析の新分野にどんどん進出したというよりは多くはユーザーから新しい仕事が持ち込まれそれを愚直にこなして来たといえる。

  • 環境分析5つの隠し味

同社は、ひとことで言えば環境分析のビジネスモデルを練りに練り究極に具現化した会社である。私はこれ以上の会社をあまり見たことがない。これらの状況を隠し味という形で説明したい。

第1は環境分析情報の提供体制の整備である。

「むつかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」――これは井上ひさしの有名な言葉であるが、とかく難しい環境分析の仕事だが同社の経営方式にこれだけピタリとはまる表現はない。

確かに会社には専門家は多いのかも知れない。しかし、一般のユーザーはそんなことはほとんど知らない。知らないが困ったからやむを得ず同社に分析を頼む訳である。この会社はそんな事情をよく心得ていて顧客に大いなる工夫をし情報提供している。それはまさに舌を巻くほどのレベルである。そのひとつが環境分析情報の提供体制の整備である。

まず、ユーザーに提供するホームページ、環境に関する旬な話題や業界情報を届ける「ニュースコンテナ」、環境に関する分析情報や詳細情報を届ける「ザ・ナイツレポート」と3段階での提供である。特に、ザ・ナイツレポートについてはユーザーにここまで詳細な情報を知らせて商売は大丈夫なのかと思えるほどの大サービスの提供ぶり、内藤社長にお聞きするとやはりこのレポートはユーザーだけではなく、同業者や大学などの研究者なども活用しているようだとのことである。

第2は顧客への密着した営業体制の確立である。

先程述べた様に同社の売上高が年間約15億円であるが、そのうち50%、宅急便でやって来る分析の仕事である。ちなみに同社が宅配業者に支払う宅急便代は年間約4,000万円である。同社の一角には宅急便の荷物置き場があり集荷時間には山と積まれている。

これはそれほど簡単な仕事ではない。総ユーザー数約2万社、主たるユーザー約2,000社をエリアごとに社員を配置し、24時間対応の受発注システムで間違いなく顧客にスピーディーに分析結果を送り届ける。お客様はこの会社を自社の分析室としてお使い下さいというこの「あなたの分析室」の構築は、同社が過去に数多くの経験と失敗の積み重ねたもののたまものである。

  • 会社の舞台裏を支える専門家の非正規社員

第3は更なる「あなたの分析室」の実現へ向けたオープンラボの運営である。

ユーザーはそうはいっても依頼した仕事の分析結果が心配である。早く結果が知りたい。このオープンラボは、そのようなニーズに対応したもので分析の進捗状況が直接現場で、あるいはユーザーの事務所でWebで確認できる。また、過去の分析データーをダウンロードしたりグラフ化の作業もできる。かゆい処に手が届くサービスである。

第4は、専門家集団の直接指導である。

分析結果を早く正確に届けるのはもちろんであるが、時には必要に応じて分析した同社の技術者が直接顧客を個別に訪問し、データーの意味をわかりやすく解説をする。また質問に答えるかたちで今後の方向性をアドバイスを行うことである。

第5は、専門家の非正規社員の存在である。

同社の社員は約150人そのうち半数程度は非正規社員である。正確に言えば腕に覚えのある専門家の非正規社員である。かって環境分析関係の仕事をしていたが結婚を期に一時現場を離れていた。しかし、子供も大きくなったのでもう一度そんな仕事がしたい。平均的にはそんな社員である。

彼女たちが、同社の環境分析の仕事の舞台裏を支えている。同社の圧倒的な底力は実はこの多くの非正規社員の存在なのである。彼女達は痒い所に手が届き目配りの聞いたサービスを行っている。時には新人の正社員の教育も行う。何でもできるスーパー非正規社員のパワーが同社を支えているのである。

  • 不思議な現象から見て取れる会社の安定度 

  同社の事業の経費の多くは、人件費と各分析室の測定機器のリース代という固定費である。一定の仕事のボリューウムをオーバーすると収益分岐点を超えて黒字になる。

また、同社の営業部の仕事は基本的には現在のユーザーを回ることだという。今のお客を大事にする。今のお客から新たな分野、新たなニーズを探し出す。これで仕事の固定化率6割程度という同社の事情が見えてくる。

同社の求人資料を見ると大学の全学部全学科となっている。環境分析の仕事の会社であるから求人は工学部、理学部に特化したものと思っていたがこれも意外である。文科系に向く仕事もあることのほかに、多分に専門特化した同社の仕事だけに一から丁寧に教えますよと言うことでもある。

全国産業資源循環連合会、環境技術学会、日本水道協会など同社はおよそ100ほどの団体の会員になっている。どこの会社でも関連の業界や学会の会員として参加している。私も多くの企業を取材しているが多くの団体に参加している会社でもせいぜい20団体ぐらいである。

これは環境分析の仕事が社会環境対応業で絶えず変化する。新しい動きを探るためにはこんな学会や業界に幅広く参加することが不可欠であるという理由のほかに分析室に閉じこもりがちな技術系の社員に外の空気を吸わせたいという会社側の配慮もある。

  • 経営陣の前に立ちはだかる3つの壁

 内藤環境管理㈱の経営は、同社の抜群の環境分析サービスとそのことにより多くのユーザーに恵まれ売上高が毎年15億円、利益額が6千万円をそれほど変化なく確保し着実に安定成長している。この一見順風満帆に見える状況が経営陣を悩ませる。というのも同社の経営陣には常に3つの大きな壁が立ちはだかっているからである。

その第1の壁は、同社が長年研鑽を積み、創り上げた完璧に近い同社のシステム化した環境分析ビジネスの仕組みゆえに事業そのものがマンネリ化、ルーティン化し易いことである。このことにより、現場から奇抜な発想や行動が起きにくい風土が出来上がったことである。

第2の壁は、多くの社員がそれぞれの専門家であるから自室の分析室に閉じこもりがちになることである。自分の分析の仕事には探究心が豊富で熱心なのだが会社のほかのことにはあまり興味を示さない社員が多く、笛吹けど踊らず状態になりやすいことである。

第3の壁は、この環境分析の業界は年商700億円程度の市場を全国の地域ごとにそれなりの有力企業が分け合っているかたちでほかの業界のように激しく仕事を取ったり、取られたりと言うような激しいことは少なくビジネス自体が静態形で動いていることである。

これらのことは、普通の会社から見れば誠にぜいたくな悩みにも見えるが、この壁を動かさねば会社としての次の景色は見えてこない。絶えずよどんだ空気が充満した組織になり易い。これは経営陣の大きな悩みである。だから内藤社長など経営陣の大きな仕事のひとつはこの壁を壊すことであり、これまで様々な手を打って来ている。

  • 更なる飛躍へ3つの差し手

内藤社長が打った手のひとつめは事業の撤退、廃止である。同社は数年前から放射能の分析の仕事から撤退した。この仕事は福島原発の原発事故から発生した事業だが市場規模そのものが小さくなった。同業他社と少なくなった仕事を取り合うより撤退の道を選んだ。

土壌分析の仕事も大手ゼネコンなどが行うタワーマンションなどの大型工事の仕事からは数年前に撤退した。下請、再下請のシステムゆえに同業他社とコストダウン競争となったからだ。これらの事業自体は利益が出ていない訳ではなかったので経営陣が判断しないとそのまま事業は続けていたことになる。そして、この事業の撤退、廃止することにより社員に会社の事業の方向性を教えているのである。また、このような事業の見直しを積極的に行うことによりその経営資源を新たな事業に振り向けることができる。

ふたつめは、営業部の数名だが新規事業、新規顧客を専門に開拓するスーパー営業マンを配置していることである。彼らはこれまでに取引したことのない企業やこれまで手掛けたことのない新規事業を開拓している。有能な彼らは同社が今後取り組むべき事業を前線で探す役割を担っている。

3つめは、多くの事業に社内で参加を募り自分の事業以外の会社の事業に参加させることである。同社のホームページ、ニュースコンテナなどの素晴らしさは先に述べたがこれらは担当職員がそれ程いる訳ではなく、各事業の社員の参加により成り立っている。先に述べた多くの学会や業界の会員になるのもそのことにより幅広く参加して貰い社員に自分の守備範囲を拡げて貰うことにある。

また、社員の名刺も実は社内で作っている。内藤社長の名刺は季節ごとの名刺が何十種類もあった。同社には名刺づくりのプロがいる。同様に年賀状づくりのプロ、イベントのプロがいる。経営陣が涙ぐましい努力をして社員の守備範囲を拡げる努力をしている。

同社の環境分析ビジネスモデルとしてはどこから見てもケチの付けようがないほど完璧な出来であるが、弱点をあえてひとつ指摘するならば完璧に作り過ぎたことではないかと思われる。少し遊びを作っていた方が良かったかも知れない。それ程完璧なものである。だから、多くの社員がこのシステムに嵌り込んで出て来れなくなる。誠に考えさせられる取材であった。

  • 会社のある街の景色 不思議な町 さいたま市太田窪

内藤環境管理(株)から歩いて行けるぐらいのほんの近い距離にうなぎ料理店の「小島屋」がある。この店のうなぎがこれまで食べたことのないような極上の味なのだ。周りにレストランや店舗などがとてもあるような街ではないのに多くのお客がどこからともなくどんどんやって来る。店の規模も大きく立派な離れや駐車場もあり、従業員が何十人もいる。これだけの規模のうなぎ屋も私はまた見たことがない。

この店のランチタイムは午前11時から午後3時までなのだが混まない時間にゆっくりうなぎを食べたいと相当遅い時間にもお客がやって来る。さいたま市の南区太田窪は本当に何もないどこにでもある普通の郊外の住宅地なのだが、「内藤環境管理(株))とこのうなぎ料理店「小島屋」という職人の技術への究極のこだわりの味を見せる2つの会社が存在しているという不思議な町の体験をさせていただいた。

 

増田辰弘(ますだ・たつひろ)

『先見経済』特別編集委員

1947年島根県出身。法政大学法学部卒業後、神奈川県庁で中小企業のアジア進出の支援業務を行う。産能大学経営学部教授、法政大学大学院客員教授、法政大学経営革新フォーラム事務局長、東海学園大学大学院非常勤講師等を経てアジアビジネス探索者として活躍。第1次アジア投資ブーム以降、現在までの30年間で取材企業数は1,600社超。都内で経営者向け「アジアビジネス探索セミナー」を開催。著書多数。