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「世界経済について」(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報
「世界経済について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

国際機関である国際通貨基金(IMF)は、ウクライナ危機が世界経済に打撃を与えるとし、世界の143カ国の今年の経済成長予測を引き下げるとしている。
そして、IMFのゲオルギエバ専務理事は、エネルギー価格や食糧価格の上昇など、ウクライナ情勢の経済的影響について懸念を表明した。

更に、
「ロシアのウクライナ侵攻は、危機を更に深めている。
世界はまだ新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復しておらず、今や戦争による原爆投下リスクにまで直面している、
インフレ率は上昇しており、これは多くの経済にとって、明白かつ現在の大きな危険である」
と述べている。

IMFにより、今回下方修正された国々は世界のGDPの86パーセントを占める国々であるともされている。
更に、IMFは、リスク要因として中国本土の景気減速も挙げている。
中国本土は今、新型コロナウイルス感染対策に苦慮しており、更に市場の信頼を妨げている不動産問題にも直面していると指摘している。

IMFは、
「中国本土政府が、自国経済の回復と経済成長を軌道に乗せることを目的とした措置を講じることを期待している。」
と述べると共に、
「中国本土政府は既に景気を刺激する為に金融緩和策を導入しており、おそらくいくつかの財政措置が今後も見られるだろう。
そして、中国本土政府にはそのような措置を講じる財政的余裕がある」
とも指摘している。

尚、実際に、中国本土の中央銀行である中国人民銀行は4月15日、金融機関から預金を強制的に預かる比率を示す「預金準備率」を0.25%引き下げると発表した。

引き下げは25日付で、昨年12月以来4カ月ぶりとなる。
金融緩和を進めることで、新型コロナウイルスの感染再拡大で落ち込んだ経済を下支えすると見られている。

また、同じく国際機関である世界銀行は、インドと南アジア地域の経済成長率予想を引き下げた。
ウクライナ危機によるサプライチェーン(供給網)のボトルネック悪化やインフレ高進を引き下げの理由に挙げている。

具体的には、インドの今年度(2022年4月─23年3月)の成長率予測を8.7%から8%に引き下げた。
また、南アジア(アフガニスタンを除く)地域も6.6%と、1%ポイント引き下げている。
そして、インドについては、労働市場が新型コロナウイルスの世界的大流行から完全に回復せず、インフレ圧力も高まり、家計消費が制限されると指摘した。

世銀の南アジア地域担当のハートウィグ・シェイファー副総裁は、
「ウクライナ戦争による石油・食料価格の高騰は実質所得に大きなマイナスの影響を与える」
との見方を示した。

パキスタンの今年度(22年6月終了)の成長率予想は3.4%から4.3%に引き上げられたが、来年度の予測値は4%に据え置かれている。

経済危機に直面しているスリランカの今年の成長率予測も2.1%から2.4%に引き上げたが、財政及び対外不均衡により見通しは非常に不透明だと指摘している。

世界経済は混沌としている。

 尚、こうした中、筆者が気にしているのは、円・米ドル為替である。
「比較的安心、安全の通貨・円」
と言われ、2011年の東北大震災の際にも、
「円買い」
が起こるほど、国際金融市場で信認を得ていた円が、ここに来て突然、米ドルに対して、円安状態になってきている。
 その理由としては、
「日本と米国の金利差の拡大にある」
と見られるだけではなく、
「日本が今般の一連の紛争に巻き込まれる危険性も含めての、有事となることを前提とした、有事の米ドル買い」
との動きが国際金融市場では見られ始め、
「単なる米ドル高」
だけではなく、世界各国通貨との相対比較に於ける、
「円安」
が見られ始めており、このまま、米国との金利差が拡大し、ウクライナ情勢が長引くこととなると、他通貨よりも大きな、
「一層の円売り」
が見られ、1米ドル130円割れも起こることもあるのではないかと筆者は懸念している。
 
購買力平価でみた日本円の対米ドル適正レートが111円程度と見られる中、120円を超える円安は、日本経済全体にとっては悪影響の方が多いと見ておくべきであろう。
 
尚、ロシアのウクライナ侵攻以降の対米ドルで見た主要国通貨の騰落率を見ると、
円     マイナス約9%
韓国ウォン マイナス約2%
人民元   マイナス約0.5%
ユーロ   マイナス約3%
ルーブル  プラス約2%
となっており、円の下落率が主要国通貨に対して最も大きくなっており、一方で、例えば、主要なエネルギー資源、食糧、原材料を産出している国であるロシアが、自国通貨・ルーブル建ての決済を貿易相手国に要求し始め、一部国家がそれに応じる姿勢を示し始めている現在、国際金融市場に於けるルーブル決済の比率の順次増加していくことが予想される今、即ち、決済通貨としてのルーブルの影響力が国際金融市場で高まると予想されてきていることからのルーブル高が見られている点もここでは留意しておきたい。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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