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「TPPについて」 —-インド太平洋経済枠組み(IPEF)との整合性は?(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報

「TPPについて」
—-インド太平洋経済枠組み(IPEF)との整合性は?

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

米国のバイデン政権からとんでもない提案が出てきそうであります。
もともと、対中経済包囲網などと言われ、米国自身が提案し組織してきたものの、自らの国内事情によって、いとも簡単に脱退したTPPでありますが、5月23日に開催される予定の日米首脳会談に合わせて、そのTPPに代わる新たな経済圏構想としての、
「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」
の設立を米国政府・バイデン大統領は表明するとしています。

米国が主導し、日本や豪州、インド、韓国や東南アジア諸国の参加を想定した構想としており、単なる貿易と投資の連携だけでなく、データ流通のルール作りやサプライチェーン(供給網)で連携し、地域包括的経済連携(RCEP)に加わる中国本土への対抗を念頭に経済圏の構築を目指すと見られています。

そして、この構想に関して、米国の国家安全保障会議のキャンベル・インド太平洋調整官は、中国本土への対抗を念頭に米国主導で立ち上げる予定であるインド太平洋経済枠組み(IPEF)を正式に発表したいとしており、既に東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の複数国が参加するとの見通しまで示し、日米首脳会談前に首都・ワシントンで開催された米国とASEANの特別首脳会議でもIPEFは議題となった模様であります。

私は、こうした構想を概念的に否定する者ではありませんが、しかし、これまで、TPPを引き延ばし、米国が脱退した後、その米国の意向もあって、TPPを守ってきた日本の立場はどうなるのでありましょうか?
日本にもTPPを脱退して新構想に入れというのでありましょうか?

TPPをそのままにするのであれば、日本はどのようにTPPと新構想のバランスを調整するのでありましょうか?
日本には、新たな難題が突き付けられました。

尚、こうした動きを見ていると、米国はロシアに続いて、覇権争いの対象国となる中国本土に対しても、今後も断続的に圧力を加え、
「中国本土も国際社会と価値観を共有し、英米が主導してきた国際秩序に従うように」
と誘導してくるのではないかと私は見ています。

実際にバイデン大統領は、日本、韓国訪問を前にして、5月12日午後、ホワイトハウスでアセアン(東南アジア諸国連合)10カ国のうち9カ国の首脳らを米国に呼びつけ、
「アセアン特別首脳会議」
なるものを開催、この会議でバイデン大統領は東南アジアのインフラ整備、安全保障、伝染病対策などに1億5,000万米ドルの支援を約束する一方、上述した中国本土牽制に向けたインド太平洋経済枠組み(IPEF)を発足させる下準備をアセアンとの間で開始しています。

私たち日本にとっては、米国との関係を意識しながら、難しい国際社会の中での日本の立ち位置を考えなければならない事態とも言え、ウクライナ問題に次いでの、一難去ってまた一難となりそうです。

更に、その米国も、バイデン政権の基本的考えが、野党・共和党とも共有されていれば良いのですが、米国の世論調査によると、バイデン政権が米国国民の過半数以上にしっかりと支えられているとは思えぬようなデータも最近では見られ始めるなど、米国自身に、今後の変化の可能性が出てくれば、日本の動きは更に難しくなりそうです。

本当は一旦、今年11月の米国の中間選挙の様子、結果を見てから、日本としての本格的な動きを示した方が良いのかもしれません。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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