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「志事を楽しもう」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(84)
「志事を楽しもう」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

■新たな活躍時に抱く活躍の気概、それは志事観
 
深掘り、温泉、手押しポンプの専門メーカーとして104年続いているO社の社員研修のテーマは「志事観で楽しんでいますか」と掲げて実施した。

それは受講者が中途採用者が大半であり、入社前の職業、職種、立場、年齢も様々である。しかし共通しているのは、当社での活躍に志を抱いての入社である。それは、大企業での活躍では成し得ない責任持った仕事を完結できる楽しみ、当社で役どころを存分に発揮して頂くヘッドハンテイングの人、アパレル店での店長経験から子育てとの両立した生活が最適。整備士資格を持ち機械の取組みが好き、その活躍が存分にできるから…等、O社での活躍に「私だからお役に立てる」との強い心意気を持った社員である。

現実に、海外の活躍を既に託された受講者、また、コロナ禍での海外業務の停止状態を生かして、海外留学形式の社員もいる。従って、研修会場での受講者の勢いは楽しい。自己の存在を示す言動もあり、小生が敢えて出番を創り、存在を確かめることも施す。従って、終了時の感想と実践目標の発表は実に楽しい。それは「期待に応えて私はやります。どうぞみていてください」の意志が伝わってくるからである。

勿論、O社社員に完全脱皮することがあってのキャリアを生かした活躍による存在感づくりである。そのための研修実施の機会は実に配慮されている。それは、前日に全国から全社員を集め、恒例の年間計画を発表、キックオフし、それを受けての小生の担当である。ちなみに年間計画書は小冊子にまとめられ各自が携帯することにしているので、今期の社長の想い、全社目標、部門目標、テーマ目標それには数字を掲げているので、全社員が共有した認識の元に活躍の一体化が成されていく。

この時期、新年度にちなんでの企業の「新」は、新入社員、新任管理者など新たな舞台、キャストでの活躍が期待されその対応研修に出講が続く。今回は、そのおりの志、想いを持った活躍の有り様に着目し、その実践策を7項目提起してみる。

■7つの実践を楽しむ

1.主体性を持って志事を楽しむ

組織の一員としての活躍は、やりたいことだけができるわけではない。やりたくない仕事をせねばならない時もある。ならばどうする。それは、プラスにとらえて楽しむことである。

具体的には、新たなキャリアを増やす、もし不得手なことなら研鑽し高める絶好な機会である。決して、ふてくされての死事(心意気が乏しい取組み姿勢)は成すべきでない。「頼まれることは試されている」との言葉があるがそれは、顕在能力に加えて潜在能力、可能性の確保状態を診て頂く機会であり、人格の確認もあろう。

従って、自己の持ち味を生かした取組みでさすがの存在を高めたら良い。そこに志事観による主体性を持った取組みの楽しさが醸し出される。特に中途採用者のキャリアによる貢献に加えて、従来の企業風土に新風を送り込む価値がここにある。

2. 目標を明確化する
 
志を単なるイメージにとどめていたのでは、実像にはなるまい。どう実現するかに向けた戦略、戦術で活躍の筋道を立て、そして、目標を掲げて的に向けて明確に取り組む本気の仕掛けが必要である。そこには、必ず数字化され、実現に向けたプロセス管理ができてくるのである。

単に「頑張っています」と心意気に酔っていては、明確な進捗は確認できない。目標値にどの程度であり、さらに、「何をどの程度強めていくか」の客観的判断に基づく次への取組みが不可欠である。

3.PDCAサイクルを螺旋状に回す
 
確実な進捗により、結果を高くする実践は周知のPDCAのサイクルを上昇型に回すことである。

先日 担当した工具トップメーカーN社工場新人研修では、入社前に10年後の自己像を描き、入社後2.5ヶ月経っての自身を確認した。受講者は人事部門主催の研修や配属先の指導育成によるさすがの成長ぶりもあり、頼もしさを直感することもあるが、劣化しつつの気概、言動もあるとみる。従って、同期仲間の力を借りてC段階(現状の活躍ぶりの素直な診断、検討)と位置づけ支援指導した。
 
最終項での各自の研修感想と「今から、何をどうする」との宣言には、「10年後の自己像、入社時の思いを軸とした是々非々の診断による気付による確認ができた」と自信の確認と反省を見いだし、だからからこうすると一段高めた踏み出しの決意は心地よい。

そして、皆での共有事項として「来春に向けて、新人から担当者社員となる方向性」を提起し合い、この提起事項を以後、各自の新たな実践目標設定に落とし込みD(実践)し、上司と共にC(検討)を月毎に実施する仕組み作りを施した。

必ずや、来春には明らかな成長ぶりを魅せ、10年後の想いの自己像が実像化に一歩近づくであろう。

4.挑戦しての失敗を生かす
 
先日、「300人の前で主張発表をします。人前で話すことが苦手なのです。ご指導頂けませんか」との声がけに喜んで対応した。小生の敬愛する経営者のご子息でもあり、早朝の駅周辺クリーン活動仲間の学生である。

訴求したい内容をお聞きすると、
「小中高時代から最近まで、話しが苦手、失敗からのトラウマから、人前に出ることを避けていたのですが、あるとき、新たな役割の依頼に父に相談したら『やる前から失敗のこと考えても仕方ない、お前ならば必ずできる』と温かく励ましの言葉で諭されました。ですから、依頼役を引き受け、頑張りました。ここでも話すことの失敗からのスタートでしたが、あるときなぜかあがらずにできました。
その体験から、今回の発表を引き受けました。そこで、掲げたテーマを『本当の失敗は挑戦しないこと』と決定し、指導支援は、持ち得る可能性の自身での確認と失敗するかも知れないとの心情の殻を取り払うことに着目した。やがて話すことへの楽しさがあります」
との彼の言葉に「いける」と確信し、当日会場で聴講した。

「挑戦しての失敗は失敗ではない。挑戦しないことが本当の失敗なのだ。これまで人前でしゃべることを憂いていた私もこのように大勢の前で喋れているのです。誰だって失敗することはあります。しかし、この失敗を次にどう生かすか。このことを自分自身に言い聞かせ、これからも挑み続けます」
と発表を結んだ。

見事に素敵な発表であった。聴衆からの大きな拍手は余韻が残るほど送られた。小生はなぜか感動の涙が頬を伝わった。

まさに、志を実現させるには自身の持ちうる能力を粗末にしないで最高実践を重ねる上に、思い切って取り組む挑みの取組みも不可欠である。そこには、一か八かの取組みはあるまい。失敗を恐れない気概と可能な策の施しを成してもそれでもかなわぬこと態が失敗として起こりうる。
 
肝腎なことはそこから新たに何を変え、何を加えていくかが肝腎である。そのためには、失敗原因をなぜ、なぜの可能な限りの追求で真因を突き止め、「ならばHOW(何をどうする)と前向きに方策を打ちだし実践ヘと運ぶ。

この際、一考を要することは、従来のやり方を改善する穴埋め対策のみにかかわらず、なぜ持ち得る強みを最大に生かし得なかったか、強みをさらに強くするかにも着目することである。

5.自分特有の強みを高める

その取組みは、自身の得意とする専門力、特技、人間味の良さ、気概の有り様など書き出すことを勧める。それは、案外自己分析では、自身の弱みに着目しがちであり、しかも他人と比較して周囲の目を気にしての判断によることが多い。

誰しも、弱み、短所があるが、長所、強みを持ち合わせているものだ。強みを自身が認めの確認することにより、「自分にはできる可能性を持っているではないか」心意気を鼓舞できる。

この際、横並びに記した強みを、どれでも生かすことでなく、選択のステップを踏むとよい。それには、現状打破の最適な活用策として「効果性」「緊急性」「重要性」「可能性」などを評価項目として点数化して順位付けすることも良い。

6.継続は「智可楽(ちから)」なり、そこには学びのパワーが不可欠

継続は力なりの言葉があるが、それは単に同じことを繰り返すのみでなく、PDCAサイクルの継続は上昇に変えていく累積である。

確認しておくが、変えるとは新たな学び(知識、技術、情報、体験)によって、新たな方法の知恵を創り出すのであり、実践を楽しむことである。ですから、順境であり、持ち得る能力や経験則での方策で克服できる時には良いが、苦しくなり、時にはまさかのこと態の発生時こそどうするかの真価が問われる。

五輪選手が、メダル獲得に向けて、現状の環境では限界と感じたときには、鍛錬の場を海外に移す、指導者を新たにし、学びパワーを高めていることも現実である。高い志には、それだけの順境を創り上げに増して、思い切って自己練磨条件を新たに整えることも必要なのだ。

身近に引き寄せれば、資格取得、学び直し、研鑽の機会活用を再考するのも良しである。デジタル化の進化はこの思いを、身近に実践する方法策として提供されている。

7.謝念を磨く、人からの力添えが頂ける

「自分なりに一所懸命しています」、これで志が実現できることならいいが、現実には多くの方々の献身的な施しを頂くことが多い。

素直に「有り難い」との人間味の豊かさを発信することである。有り難いとは難きことが有ることであり、当たり前のことでも、多少にかかわらずの苦労が施されている。従って、協力者に対して「ありがとうございます」「おかげ様で」の言葉をいかに発信しているかが肝腎なのだ。

先日のH県経済団体の新任管理者研修での基本軸は、選んでくれたことに感謝、期待していただけていることに感謝。だから、あの人が管理者になったのだからとの期待に応えて、管理者らしく自他の力を結集して活躍を楽しむとした。これこそ管理職の志事観である。
 
その実践は、自身を中心に置いたとき、縦軸の上司・部下、横軸の同僚、そして、ナナメ軸の所管部署以外の社内外の専門者、お取引、外注、関係官庁…の協力を得ずして業務の遂行はできない。だからこそ各自の忙しい時間を割いてでも協力頂ける管理職の人間力が問われるのである。

ならばどうする。受講者と確認した条件は、「感謝の心を素直に言動で表現します。それは、「ありがとう」「おかげ様で」「助かりました」と言葉に、表情に、しぐさに、語調に心を込めて声がけします」と確認した。

実は、この実践が継続的に協力を取り付ける極意である。それは、お願いするときは丁寧にしても、終えた後を粗末にすることは次ヘの不信感を抱かせ、協力の断りへとなることが実態なのだから…。
 
終講時に送ったエールは、新任での活躍の今年の年末に「おかげ様で、これだけの当署の実績を創ることができました。みなさんのご協力のおかげです。ありがとうございました」と笑顔で挨拶できることを祈念しますと贈った。各自とグータッチして「ありがとうございました」と交わす瞬間は心地よい。

「働きがい」「やりがい」このキーワードが現在注目されている。それはコロナ禍での活躍方法が、一人でデジタル機器を通じてであったことから、人と人との交流、支え合いのコミュニケーションが不足したことにある。

だからこそ、新人でさえ、これでいいのか、これが入社時の想いにどう繋がっているのだろうか、会社にどう評価されているのか不安感が募り、働きがい、やりがいの実感が乏しいようであった。このことは、対面研修の打ち合わせ、出講して直に受講者との触れあいで掴む心情である。

新春、新年度で新たな立場での活躍に向けて、志も新たに活躍を楽しむ昨今である。その初心の気概はいかがであろうか。

世間では、働き方改革で活躍方法の選択の自由さを啓蒙され、人生100年時代、企業での職業人生の定年以後が、どう職業人生を継続させているかが問われている。その源は、売り物、稼ぐ力が何があるかだが、それは、現在の企業、職場でどれほど、志を持って楽しく活躍し、働きがいを重ねているかで決まる。

「やったー」「できたー」この小さな瞬間を楽しみ、やがて「やりましたよ」「やりましたね」とハイタッチを多くに人と楽しみたいものである。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/