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「今こそ人材育成への取り組みを」(澤田 良雄)

髭講師の研修日誌(85)
「今こそ人材育成への取り組みを」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

周知のごとく、厳しい環境下でも進化し続ける元気企業づくりは、全社員の活力を結集していくことである。それには、経営理念に基づく変化対応戦略に、新たな思考と能力を加味していかねばならない。要は人的財産をどれだけ育て、生かし、企業の組織活動に活用していけるかだ。そこには「企業は人なり」人材(現在持ちうる能力)を人財(新たな能力付加で改革実績形成者)に、どう育成するかが問われる。

先般、地元会議所主催事業として経営塾が開講した。ねらいは、経営過程で困難な問題に直面したとき、経営理念・企業の存在意識を再確認する。それには、基礎となる経営理論を理解し、基本に立ち戻ることである。そこから、行き当たりばったりでない意志決定(課題解決)ができる。

そこには、ぶれない軸の経営持論を持つことに他ならない」とし、中小企業診断士、大学教授、税理士、そして教育コンサルタントとして小生も講師団に加わった。研修項目は企業経営概論・経営学のフレームワーク・会社が長く続く経営術・会計を経営に生かす仕事術・経営者の人を生かした仕事術・そして地元経営者による経営理念を生かした経営の実践である。

研修方法の特徴は、半日講義と内容を踏まえての受講者と講師との半日のグループ討議である。非常に密度の濃い研修であり、参加者の中小企業のトップ、後継者、幹部から好評であった。終了時の受講感想スピーチの姿には一段と逞しさを感じ得た。

そこで、今回の寄稿は、小生担当の人材育成に着目しお役立てとして記してみる。

◆持続的経営には新たな想いが発信される

経営とは 想いの実現に向けて人・物・金・情報・自然(農業、漁業、林業・・)を生かして利益を生み出すことである。それには、経営の「経」は理念・創業精神等であり経営の軸である。そして「営」は戦略・スローガン・方針・中長期・年度目標等であり、変化に基づく最適な実施策と意味づけられる。

また、利益の必要性は企業の持続に向けての研究・開発・設備等の投資に不可欠であり、社員への賃金・福利厚生等の還元、さらに関わる人(業者、関連企業、販売社・・)の付加価値の創造への貢献である。そして、社会貢献として納税、地域貢献、株主への配当を可能にする原資である。まさに利益の「利」は利他主義であり、三方よしの考えに根ざしている。

従って、新年度のトップの「新たな想い」は,このより向上に向けて年度経営計画として発信され、以後、社員一丸となって実現していくが、その活躍には,どうしても改革することが必須である。それでなければ、目標数字の達成はあり得ない。例えば、売り上げ目標達成にも新たな売り方、新たな扱い商品の確保、物流方法の再考等もあろう。

◆想いの実現には育成は不可欠です

ならば、改革の実現に向けての新たな発想・智恵が要求されるが、その発想には素となる能力に新たな学びを加えない限り不可能である。なぜなら、現存能力のみでは、どうしても類似なる知恵しか生まれまい。だからこそ、現有能力の未活用を生かし得るヒント、さらに全く違う切り口での創造力の発揮には、新たな学びが不可欠であり、その為の人材育成が不可欠なのである。

だからこそ、「企業は人なり」とは、経営における最大の取り組みは社員力を生かし、向上させる必然性を説いた言葉である。いわば、企業の「企」の文字は人がダメなら止まると意味づけも出来よう。 しかも、組織での人はバラバラな人の集まりからスタートするから、理念、想いの共有化が不可欠であり、各部署では目標を具現化するリーダーの方針により、陣容を整え、メンバーの最適能力を最大発揮を促進する。そして、さらなる育成を施すと共に、相互に協働しうるようリーダーの牽引手腕が問われる。

◆実践企業にみる人材育成への取り組み

では、中小企業での人材育成はどのように実践されているのであろうか。出講企業でも様々であるが、ここに三社様を紹介しよう。

  • 「当社の財産は人材なり。社員が成長した分だけ当社も成長する」とは大手製油所構内の設備管理会社C社社長の弁。構内管理技術が売り物であるからまさに人的財産が生命。しかも大手企業の委託となれば統合の進む中で選ばれ続けるかは死活問題。数年、幹部から一般層まで繰り返し育成を支援してきた。お陰で「あそこの社員は元気がある、積極的、本日安全、最高品質、まさに頼れる」との評判を高めてきた。圧巻は、研修時に「絶対的挨拶で絶対的安全を成し遂げよう」の全社運動をぶち上げ、推進した事である。その成果は親企業を訪ねてきた人から「挨拶の良い精油所ですね」声が届けられ、親会社からC社に「御社のお陰です・・」とお礼の言葉が掛けられた。
  • 和菓子、洋菓子メーカーS社では、「私たちは食文化の向上を通して豊かで平和な社会の実現に貢献します」「食を通してお客様に夢や感動を与え、この地域を豊かにしていく使命があります。私たちがこの多種多様な食の楽しみ方を実感し、その良さを伝える力を養うことも必要となります。創業70年時、改めて創業者の「S社の誓い」を確認しましょう。」とI社長。これを受けて、研修を実施、創業者の想い(それは一口食べた時に思わずにっこり出来る安らぎの瞬間を届ける)そして、後ほど確立した誓いの言葉(一部上記)再確認し、その心を各自の業務で生かし得る方策を提起し合った。
  • また全社員が胸に「笑顔バッジ」をつけた印刷関連業のD社の研修も楽しかった。D社は印刷、健康関連事業の営業主体であるが,製造・管理部門も加わり、各地から集合しての全社員研修である。既に多様な研修を重ねてきており、笑顔バッチにふさわしい社員気質と社内文化が気持ちよい。トップは落研出身、実に楽しい人であり、出勤時には、近隣に住む両親に挨拶し、社屋が見えたところで社屋に挨拶し、室内に入るときは今日も一日よろしくお願いしますと挨拶を交わす人でもある。トップの言動が社員の人間性を育み、社文化の育みになっているのである。

◆育成着目の必要項目の確認

しかしながら、多分に「具体的にどう実施したら良いのか」「費用がかかる。今予算がない」「うちの社員はレベルが低いから他社の人とじゃ恥ずかしい」など、不安と面倒と、どこかに「今更」『無理しなくても何とかなってきた』の人材育成投資(時間・経済)に対する軽視が気になることもある。

それでは、現状までの企業総能力(社員各位の能力を総合化)では変化の早い環境に競争力を高めた「新たな強さづくり」はできない。今までの経験値(経験年月)に経験智(経験から掴み出した智恵)を生かし、新たな学びを得て、新たな改革事例を社員各位がそれぞれの役割・立場で創り出した分だけ、企業の強さが他に勝っていくからである。

新・初・独(自)・難(題)の持続的経営のキーワードがそこにある。その基点は、トップの変えていくための育成への取り組みである。ここで育成必要事項を確認してみよう。

1.経営理念・社歴、ビジョンや価値観の共有・浸透

2.組織の活性化等を含めた社員のモラールやモチベーションアップ

3.各部門での中核人材の育成

4.管理職の能力開発(経営センス・リーダー・マネジメント)

5.女性社員の能力開発、管理職登用

6.技術革新に伴う技術者(開発・研究)の能力開発

7.企業風土改革の推進

8.社員評価の公正感・納得感のある評価と面接力

9.対人関係力・チームマインド

10.コンプライアンスの徹底(法令遵守、倫理観)

11.危機管理・情報の一元化

12.環境問題への対応

13.現場の技術伝承への対応

14.グローバル人材(国際化対応)の育成

15.欲しい人材の確保と早期戦力化

16.事業展開(多角化、新規事業、撤退)に応じ機動的な職種転換教育

17.雇用対象者の多様化(外国人や身障者等の雇用)

18.40~50才層及び、高齢者のキャリアプランと活用

19.各部門・業務でのスペシャリストの養成

20.多能化(I(ひとつの専門)→T→Π(二つの専門)→O型(一人完遂)の育成

21.生産性向上(少数精鋭化の推進)

22.心身の健康管理の充実

23.ボランティア・地域貢献活動ヘの参画

24.雇用形態の多様化への対応(非正期・派遣社員の指導・正社員との融合等)

25IT、デジタル化推進への対応

26.自動化・ロボット化に伴う対応、人員配置転換

27.承継者の育成

28.コミュニケーションスキル                               

29・社内起業、副業制度の検討

30.新人、若手社員の定着に向けた指導支援対応

 などがある。この他、読者諸氏の特有の項目を付加していただくと良い。

推進実施の方法例                    

ならば、中小企業での実施策についてはどうするか。自身(トップ・幹部・上司)での施し、自社、そして、専門家の協力の取り付け、そして、関係機関の活用などに着目して10項目提起してみよう。

 1)目標達成は育成なくして達成なりの当たり前(目標管理とのリンクしての指導)

 2)社内人材育成計画の作成・実施(コンサルタントの経営診断よる指導・支援活用)

 3)所属団体・機関の主催セミナーの活用(受講料安価) 

 4)自己啓発への支援策・ 受講経費の援助(補助制度を設定)

 5)OJTの推進(上司の指導力の学習)

 6)資格、検定の取得推進(情報収集、キャリアプランとの整合)

 7)人事政策との連携(採用・異動・昇格・目標管理・人事評価精度・・)

  8)  社内諸活動の取り組み(小集団活動・安全・改善提案・3S活動・・・)

  9)  朝礼・終礼の実践 (役割による体験学習)

  10)  学ぶ企業風土の醸成(トップの学びによる実践が功を奏す)

そして、日常業務での意図的施しとして

  • 任せる事仕事の割り当てに思い切る。任された責任感から学ぶ勢いが増幅する。訊きに来る事は本音で学ぶ事ゆえ効果は高い。守破離での活躍プロセスで基本ができうる信用から、任せ、責任持たせると、いよいよ持ち味を生かせる。だからこそ志事(自ら想いを創り取り組む)だ。認められた自意識の高さが「どうしても期待に応える・結果を出す」と覚悟を強める。だからこそ学習意欲も高まる。勿論 達成できるよう支援指導することの無精はしない。
  • 報連相時の事実に基づく指導=報連相の受けは単なる内容確認だけではない。その事実までの過程での本人の努力に着目し、労いとその方法について評価していくことがよい。実は本人が知って欲しい欲求なのである。また、考え方、施しについての不足部分は、すかさず指導していくことである。報連相時の認めの言葉は次に向けての意欲喚起になっている。また、評価時の公平さには報連相時の事実データーに基づく説明が、部下からの納得性がたかまる。
  • トップが施す一言の指導=一言の掛け(ねぎらい・感謝)の言葉)は社員の嬉しさを助長する。「Aさん誕生日おめでとう」「Bさん、奥さんの誕生日おめでとう」「Cさん、お子さんの入学おめでとう」こんな一言実践している社長もいる。関心持っての情報を見事に生かした一言である。それはモチベーションの向上にもなる。そして、確認すべき事項は

◎肝腎なことは「能力は、単なる評論家的自己満足でなく、試し、実践の鍛錬による習慣化し本物にする」事であり、「学ぶとは言動が変わること」である。その証は、目標達成率に魅せる実の結びにある。未達成は育成の不十分さにあり。

◎投資としての「時間、金」を最適に生かし「売れる決め手を持ったプロとして、稼ぎ出す力」を蓄える社員の育成は双方にとって楽しい。

◆先に向けた花開きへの育成

それは人の持つ可能性は無限にあり、磨き方、高め方の学習方法は無限にある。例えば、大谷選手や将棋界での藤井棋士(王位の快挙も凄い)も、一朝一夕にこの成績を産み出す実力を身に付けたのではあるまい。多分に多様なる取り組みの試みと、鍛錬を重ねての実力を備えたのであろう。それは、今後も続く学びの継続である。

ビジネス界での初、新た、独自の商品開発も同様である。それは、ようやく世に出たものであり、この事実は、降って沸くわけでもなく、長い研究、数え切れない試作、失敗の連続による得られたデーターからの新たな見いだしの実りの快挙でもある。それは、まさにトップの学ばせ方の仕掛けと、本人の学ぶ力の結集による先に向けた変えていく鍛錬の賜である。

人生100年時代、世界的規模での鳥の目・時流を読む魚の目、足下を見る虫の目、そして相手の立場たったコウモリの目の多面的視点で変化を捉え、多様化された思考、しかも、働き方改革などの活躍条件が提示される現在である。

肝腎な事は、社員各自が現在の選んだ活躍舞台でいかに「働きがい」を享受するかである。そこには、成長できた、認められた、お役に立てた喜びの実感がある。その源は育成と学びの合体に他ならない。

コロナ過でも、対面研修の機会が多い現状である。各社、団体、行政の人材育成のお役立てに今回記した事項を踏まえての尽力は楽しい。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/