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「先輩社員の寄り添い活動」(澤田 良雄)

髭講師の研修日誌(86)
「先輩社員の寄り添い活動」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆新人指導社員への支援指導

「ありがとうの気持ちを社名にしました」というS社は創業104年、物流・機工・構内操業支援を融合的に事業展開する大手企業である。企業理念は「人を大切にする事」とし、会社の強みは「人財」、だれでも成長できる環境づくりと称して、人材育成を本格的に推進している企業でもある。

先日、新人育成制度の一環であるB&S(ブラザー・シスター)制度で活躍する若手社員の研修を担当した。

対象者は、当社が掲げる「100年現場力」を担う第一線で活躍する2年~10年社員であり、任され責任持って活躍する世代である。従って、B&Sに選ばれ、新たな期待を加えた活躍は並大抵ではないだろうと推察できる。

制度内容の説明は担当者が行い、先輩社員としての活躍を楽しむ心得や具体的な実践スキルを指導支援することを担当した。受講者は、既に拝命後5ヶ月の体験を要しているので、研修の軸は「新人への寄り添った支援・指導」に置き、現状の「活躍ぶりの確認と診断」とした。

従って、受講者との対話・受講者間の活躍紹介、意見交換、そして助言講義方式で進め、貢献力の向上に結びつけた。この着目はB&S活動に特定することなく指導する際の共通事項であるとして今回の執筆とした。

先ず、活躍の心得としての寄り添いは、

選ばれた喜びを寄り添いの心意気とする

「選ばれた自分」こんな嬉しいことはない。職場は力のある人のところに仕事が集まる。それだけの能力と人望が認められた証である。

従って、期待に応えた活躍の楽しみを自ら招き入れることができたことに誇りを持つことである。一方、「頼まれることは試されている」との言葉があるが、それは、顕在能力に加えて新たな潜在能力、可能性の確保状態をみてもらう機会でもある。

さらには、役割は人を造るという言葉があるように人間力の向上もある。だからこそ、自己の持ち味を生かした取り組みで、さすがの存在を高めたら良い。そこから、主体性を持った取り組みの楽しさが醸し出される。

この楽しむ気概が新人への寄り添う指導と支援の心意気を育むのである。

 

◆新人への寄り添いでの施しとは

各社の新人へ指導支援制度は、新人指導員制度、メンター制度等様々あろうが期待される活躍は大方次の6点である。

1.仕事の基本を完璧に身に付ける指導、支援

2.対人関係への不安を払拭し、職場環境になじみ各自との親和感を高める

3.不安、心配事を抱え込まないよう気配りのコミュニケーションを図る

4.自律した生活スタイル(健康、遅刻なき、急遽な休みなし、疲労回復)を習慣化するよう適宜、相談、指導の施しをする

5.働きがいを享受できるように喜びの実感を演出、提供する

6.職場の上司、先輩、人事スタッフと連携し、定着に心する

 

 などの役割期待であり、全社・職場を挙げての新人の定着策である事は言うまでもない。

従って、B&S活動の楽しみは次の3点であると確認した。

◆活躍の楽しみの3点

)生涯に渡って感謝される恩人となる

 新人の育みを支援指導出来るとは、双方の人生の良き思い出づくりであり、将来の人生のパートナーともなり得る。

それは、新人が入社時に「精一杯頑張ります」と言っても、「できる仕事か」「実際に指導してくれる人とは気が合うか」の二つの不安を秘めている。

従って、不安を払拭し、「良き先輩」「心地よい職場」「良い仕事に就き自分にもできる」というこの安心感を抱かせてくれるB&Sへの謝念は、何年か後にも「私が、今このように活躍できているのは入社時に御世話いただいた〇〇さんのお陰です」の言葉で表される。

B&Sの役割を得た社員だからこその喜びである。この事は時代が変わろうとも変わることはあるまい。

2)やったとの達成感を実感出来る

 担当の仕事をこなし、新人の指導支援活動は並大抵なことではない。だからこそチャレンジ精神に基づく取り組みの楽しみは「やった!できた!の達成感」を享受できる。

それは、特に困難な役割への取り組みであり、順調でないときほど得られる事が多い。これは大きな自信を蓄える糧である。

3)自己成長できる楽しみ

 それは、指導力、人間性を磨ける機会である。なぜなら、周囲からの期待の目に応えて行く意識的活躍は自分を磨いていくからだ。

たとえ、これまでの苦手、未熟事項に対しても必然性を痛感し取り組む自分があるからだ。それは、やればできる可能性を持っていた自分に気付く機会でもある。

実は、これは、ネクストステージの活躍の能力づくりであるのだ。いずれにしても、これらの楽しみは新人とのやりとりによって産み出す楽しみである。

 

◆新人への寄り添いでの施し

そこで、新人からの期待事項、現在の実践状況を受講者と共に確認してみた。先ず、

1)新人の欲する事項は

①仕事ぶり、言動の人間的魅力が憧れを持てる先輩であって欲しい

②言うことと成す事の模範的行動を示して欲しい

③仕事を丁寧に教えて欲しい

④気がつかないことはどしどしアドバイスして欲しい

⑤ダメなところはきちんと叱って欲しい

⑥仕事のカン、コツを教えて欲しい

⑦良いところは誉めてほしい

⑧相談に乗って欲しい(仕事・プライベート)     

等々の確認事項である。次に、

2)現在の実践事実

ならば、拝命後どのような心構えを持って活動しているか受講者間で紹介し合うと、新人への思い入れ、気配りの寄り添いの実践は次のような事実が共有できた。

まさに多忙な日々でも新人に気を掛け、献身的に施している事が浮き彫りとなる。確認事項には、

①自分の知っていること、経験は惜しみなく与える

②求められれば、いつでも、どこでも率直に意見交換する

③新人の個性、良いところを認め、他の人へも紹介していく

④時にはため口での会話をするが、他の先輩、上司時にはきちんした言葉で話す指導など妙に新人を甘やかすことは控える

⑤言うことによく耳を傾けて、話すことを楽しませる

⑥問題、不安、悩み事には察してこちらから声がけする

そして、

  • 仕事とプライベートをきちんと分けて関わりをする
  • 仕事上での基本、規則はきちんと守った取り組みで、自ら良い模範を示す
  • 指導に当たる時には、優しさと厳しさをバランス良く施す
  • 上役からの本人に対する情報は状況に応じて知らせる
  • 忙しい中での指導実施もあろうがなんとか時間を創出したり、他の人からの協力も頂く
  • 上司に適宜報告、相談し指導支援を仰ぐ

と実態の紹介がされた。

まさに先輩・指導者としてのメリハリのきいた指導支援活動の取り組みである。もちろん苦労あっての重ねであることは共有できる。

3)新人の反応は

だからこそ、新人からの反応としての声は、次のようである。

①親切に教えてくれて、やる気が出る

②褒められたり、ねぎらってくれたりすることが嬉しい

③朝の挨拶などニコニコ声がけしてくれるとほっとする

④指導された仕事がうまくいったときは嬉しい

⑤他の人(B&S以外の職場の人)からほめられたときは、感謝です

⑥話をじっくり聞いてくれたときには安心感が出た

との指導レポートに記されることもあるようだ。勿論、時には

  • 自分が入社前に思っていたことと、あまりにも違っていた事への戸惑いもあった
  • 自分の言ったことが理解、納得されなかった
  • 指導する先輩が不機嫌で話しかけづらかった
  • 自分は間違っていないと思うことを叱られたときは辛かった
  • 一所懸命やってもなかなかうまくいかなかったときは先輩に済まないと思った。

などの声も受け止められている。これらの実態を踏まえ、助言指導として

◆寄り添いによる良さの発見7つのポイント

 受講者から出される実践事項に「できるだけ褒めるようにしている」との紹介が多い事に着目し、良さの発見による喜びを、「・・しがい、働きがいの享受」へ導く策を支援した。

その策は、新人の持つ欲求には「褒められたい」「成長したい」「認められたい」の「三たい」がある。この欲求に寄り添った実践は良さの発見による一言のシャワーで良い。

例えば、「大分上手くなったね」「いつも明るい挨拶は気持ちいいね」の一言のシャワーは新人にとっては「褒められた、成長している、認められた」と心地よい喜びなのである。その発見実践法は次の7点。

 

①指導に基づく日常の仕事ぶりや成果が見えて来た

②地味なことでも,続ける行動にも目を掛けていく

③訊きに来る、相談に来た時にその実践に着目する

④失敗の克服に取り組み,小さいながらも改善点が見えたこと

⑤指示事項への取り組み経過で良き条件が見えたとき

⑥他人との相互比較でなく、本人の重ねて来た良さを絶対評価とする

⑦成果が期待通りに上がらなかった場合でも、本人の努力や工夫した点について着目し、その認めの一言と、今後の成長の期待感を述べ激励する。

次に、着目したのは、継続しての実践はコミュニケーションであるとの提言である。そこで、この助言講義は新人の心を察して行う「寄り添うコミュ二ケーション」であるとして支援した。

◆寄り添う3つのコミュニケーションの施し

その実践スキルは一言で言えば、「寄って来させる」「引き出す」「察する」コミュ二ケーションである。

1)寄って来させるコミュ二ケーションを生かす 

これは、「訊きに来る」「相談に来る」ように仕向けることである。よく耳にする言葉の「「何かあったら言って来て」と言っておいたのに」とか「言ってこないから大丈夫らしい、ようだ、だろう」の無精はないだろうか。

また、「忙しい中で指導してやっている事ぐらい解れよ」などの攻める心はないだろうか。これでは、気軽に声がけをさせたり、寄って来させるのには疑問が残る。新人の現実は、「訊きたいが」「相談したいが」との迷うことも多い。この時、「訊きに来る」「相談に来る」寄ってくる親和感は「訊きやすい」、「丁寧に教えてくれる」この先輩の条件を踏まえ、気持ちよく迎えて、可能な限りの時間を工夫して、じっくり聴いていくことである。

2)引き出すコミュニケーションの実践

 そこで、心することは引き出すコミュニケーションの実践。

それは、「何か・・あるのだろう」と察しの配慮により、「あのー?」のこの言葉を新人から 掛けさせるだけで良い。なぜなら、そこから自然と「何か」と指導者から聞くことに繋がり「実は・・・」と話しは進展していく。

小生の新人指導ではこの「あのー」と声がけすることを指導しており、質問の仕方の上手さなどは現実はいらないとしている。それは指導者側の訊く、聴く、そして、求められる対策方法を丁寧に施せば良い。そして、引き出しの交わし合いの過程では、ここまで、見えなかった新人の持つ、考え、知恵が浮き彫りされ、次に活用も可能となるのである。

3)察するコミュニケーション

 また、定着への動揺、悩み的心中は行動によりシグナルを送っている。気にかけて観れば、挨拶、出勤時刻、歩きの後ろ姿、仕事への取り組み時の活力等の変化が一例である。その変化は「気づいて欲しいとのシグナル」である。

従って、本人からのこのシグナル(兆候)に早期に気づき、尋ね、聴き、不安、いらぬ先読みの心配説の小さい芽を摘みとっていくと良い。この察しのコミュニケーションはメンタル不全を未然に防ぐ予防管理にもなり、突然「辞めます」の事態は起こるまい。「気が付きませんでした。言ってくれれば良かったのに」の後追いの自省は、察するコミュニケーション無精も一因である。

 

◆迷ったときは上司の協力を仰ぐ

 今後の活躍へのエールは「上司、人事担当者の力を借りよう、必ずあなたに寄り添っているから・・・」である。それは、自分なりに精一杯成していても、時には、厳しい状況が起こることもある。それは、自身の仕事の多忙さや、新人自身の成長程度、健康等々の課題発生もあり得る。この時どうする。それは一人で抱え込まず、

①上司への報連相を生かす事により、現状を正しく理解頂き、適宜適切な支援を仰ぐこと。実は、上司もそれを待っている、なぜなら、任命時の「責任持って頑張ってくれとの言葉の前提は「必ず、うまくいくよう自分がカバーする」との覚悟があるからだ。従って、迷ったときには、いつでも声がけすることを望んでおり、頼られる、この存在が嬉しく、B&Sに寄り添った上司の働きかけなのである。その前提は、活動の状況を適宜報告する事にある。努力、頑張り状況は報告により関係者に理解が発生し、気にかける現実をつくる。

②なぜなら、新人にはどうしても当社、職場での戦力としての採用である。だからこそ、職場ぐるみ、会社ぐるみで関わる人達の一体となった取り組みが不可欠なのである。従って上司、関係者の意見、支援を頂く働き掛けに併せて、関係者からの支援の施しは、新人への寄り添いの後ろ盾となり、心にゆとりを持って実践できるのである。

 さて、寄り添いの指導支援は職場での育成の基軸である。それは、現場、現実を踏まえての指導だからである。作家相田みつをの言葉に「花を支える枝 枝を支える幹、幹を支える根 根はみえねんだなあ」というのがある。根が重ねてきた底力であり、歴史であろう。そこには、悲喜こもごもの事態に遭遇し、さらなる肥料として学ぶ事の施しがある。肥えた土が新たな改革力を産み、その栄養分が幹の年輪となる。そこには新芽、枝、花、実の実績の産み出しがある。当研修受講者のB&Sの寄り添いの活躍ぶりも、新人への根(基礎力)づくりであり、本人のさらなる肥料の施しともいえる。職場での指導的立場の人の施しも同様であろう。

 部下育成に関する研修が多い昨今、「受講者に寄り添った指導」を命題とする小生だが対面研修だからこそ、現実に即した指導支援の施しのこの実感は嬉しい。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/
  

 

      (2,022年9月 研修・講演講師  澤田 良雄筆)