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「ウクライナ情勢と欧州の電力・エネルギー事情について」(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
「ウクライナ情勢と欧州の電力・エネルギー事情について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

ロシアのウクライナ侵攻によって、世界第二位の石油、そして天然ガスの産出国であるロシアからのエネルギー供給が滞ることによって、欧州のエネルギー事情が急速に悪化していることはご高尚の通りである。
 
このエネルギー不足から生じる、特にドイツの電力不測の見通しは深刻であり、
「ものつくり大国・ドイツ」
にとっての電力は死活問題であることから、ドイツ経済の低迷が直ぐに予想されており、更に、そのドイツ経済が欧州、EU経済を牽引していることから、EU全体の景気鈍化も再び懸念され始めており、こうした結果として、EUが発行する通貨・ユーロが基軸通貨・米ドルに対する安値が進展しているのもある意味では必然である。
 
こうした中、石油・天然ガス世界一の産出国である米国が一定程度、欧州に対するエネルギー供与の姿勢を示しているが、それだけではエネルギー不足は補えない。
 
フランスも自国の電力事情からドイツをはじめとする周辺国に対する売電余力には欠ける。
 
そして、こうした状況から、
「米国はウクライナ情勢をTake Chanceしてむしろエネルギー供給で金もうけをしているのではないか?」
などといった批判も一部では出、また、
「世界の原子力利権を握るフランスは、こうした現状をやはりTake Chanceするかのように自然再生エネルギーではなく、原子力発電復活に向かって動いている」
との声も上がり、実際にフランスのマクロン大統領は、年初、EUの一部加盟国を取り込みながら、
「原子力発電の再利用」
に向けた政治的動きを示している。
 
更に、本来、SDGsの概念からすれば、本来進めなければならない再生エネルギーの活用拡大に向けた動きは、
「現状の電力不足の解決に向けた即効性がない」
という認識から、その必要性の声は上がれど、一向に具体的な動きは見られない。
 
欧州にとっては、これから冬に向かい、特に北欧などは晴れ間も減る精神的にも厳しい季節に向かい、更に欧州大陸の北部では氷点下の時期となる今年の年末を先ずは乗り越えられるのかに関して、強い危機感が生じている。

そして、例えば、フランス東部でドイツ国境に近い、EU議会もある歴史的な都市・ストラスブールにあるストラスブール大学では、その節電に伴う暖房の節約、中止により、大学を一時閉鎖するとの姿勢を示していた。

コロナ禍でオンライン授業などを強いられてきた学生たちの反発は強いが、
「節電対策」
としての動きであり、ウクライナ紛争の影響はこうしたところにまで及んでいるのである。
 
つまり、欧州、特に寒い地域の欧州では、
「この冬を越せるのか?」
という肌感覚での懸念、危機感が募っており、フランス各地では、
「暖房は最高19度までに抑えること。
何故ならば、温度を1度下げれば7パーセントの節電効果があるからである」
との指示が政府から出ており、フランス政府は、フランスの省庁との言える、
「エッフェル塔やルーブル美術館などの主要な名所のライトアップも節約する」
とその決意を内外に示すまでに至っている。

更に、上述したように本来は原子力発電志向の強いフランスでも、
「石炭火力発電再開」
まで議論され始め、
「世界的な紛争を引き起こしたロシアには依存しない、自立したエネルギー供給を目指した動き」
がここで顕在化してきている。
 
このフランス以上に更に電力不測が深刻となっているドイツは、長く、
「原発には依存しない」
ということをエネルギー・電力政策姿勢に掲げ、原発を回避する政策を取ってきたが、ロシアからの天然ガス輸入が、ノルドストリームの輸送停止により、点力不足が顕在化する中、
「エネルギー価格が高騰するだけでなく、電力供給そのものに強い不安が出てきている」
という事態となっている。

こうしたことから、ドイツでも、脱原発は時期尚早であり、原発は当面必要であるとの声が上がり、三基ある原発のうち二基の使用継続可能な状態とし、一時的対応としつつ、現状の危機を乗り越える妥協策とも見られる動きさえ出てきている。

しかし、ドイツには根強い原発反対派が存在しており、こうした、
「現実との折り合いをつける政策姿勢」
がドイツ国内での、一つの大きな、
「政治的な対立」
に繋がる可能性も危惧され始めている。
 
ウクライナ情勢に端を発した欧州の電力・エネルギー問題が、
「欧州の混沌、そして世界の混沌の導火線とならぬこと」
を祈るのみである。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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