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「指導実践における褒めの効用」 (澤田良雄)

髭講師の研修日誌(91)

「指導実践における褒めの効用

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆指導実践3つの型と褒めの施し

 昨今、対面コミュニケーションが復活し部下育成に関わる研修が多い。部下育成の具体的実践法としているのは次の3つの型である。

①山本五十六型
  ご存じの山本五十六元帥の名言
「やって見せ,言って聞かせて ,させてみて,褒めてやらねば人は動かじ、話し合い、耳を傾け、承認し,任せてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守って,信頼せねば,人は実らず」という言葉を活用した方式である。特に前半は、新人や初心者を対象にした基本習得の指導法として適している事は周知の通りである。それは、今昔に関わらず、共通する仕事を覚える一策は「観て覚える」つまり、「まねぶ」修得が現実である。

②ドクター型
 このストーリーは、診て→教え→褒め・または叱り→生かすとし、医師の治療法(診断<問診、触診、聴診、検査,病歴など>→治療すべき病名の判断→治療方法の決定→治療の施し→その後の経過と追治療・・)に学び、真なる指導内容を掴み出し,最適な指導方法を施す事としている。その為には、単なるミスの随時改善指導でなく、ミスの関連性、報連相時の内容のOK・気がかり事項のキャッチ、単発指導の累積内容、業務成果の数字トレンド、仕事ぶりの昨今の活力傾向、対人関係状況などを、可能な限り事実確認し、かつ情報を得て、真の指導内容を掘り起こしての指導実践である。
 そして、最適な指導方法の施しを成し、後を診る。それは、指導による変化が,指導目的に合致しているかの実効の精査であり、良ければ褒め、不十分なら、その点を指摘し,できる力を高める追指導の施しを成せば良い。
 肝腎なことは、身に付けた新たな能力の最大発揮を継続的に行いうる高い活躍機会ヘと生かす事である。なぜなら、指導とは、期待事項を成せる人に変えていくことである。期待事項は現状の不足カバーだけでなく,先に向けた想いである。

③引き出し型
 成長は守・破・離の段階がある。守の基本能力が蓄えられれば、自らの考えを生かす仕事への取り組み破の段階となる。従って、キャアリアレベルに適応した指導法として教えないスタンスを先ず持ち、本人の潜在能力を引き出し、その能力を生かした活躍へと導く支援指導が良い。従って指導ステップは,訊く(尋ねる・引き出す)→聴く(想いと内容の正しい理解)→出された考えを認める(指導必要点の合致点と本人独自の考え)→成すべき目的に合致している考え、独自性の高い考えを褒め→そして、必要事項の不足部分について指導者からの追加項目とする。部下にとっては、自分の考えを認めてくれた喜びと、指導者からのアドバイスはさすが上の人は違う,キャリアの凄さだとの認めによる指導者にとっては信用を得る機会でもある。コーチング法を生かした指導実践はこのプロセスに最適であろう。

 さて、この3方法で共通している極意は「褒めの施し」である。筆者も指導現場では受講者に寄り添い、最適に実践している。だからこそ受講者と再会すると「先日は,ありがとうございました」と笑顔での挨拶の交わしが嬉しい。まさに褒めの効用であろうか。そこで今回は,育成・指導の実効を生む褒めの実践のお役立てとする。

◆褒めの施しの効用

誰しも、「それは,ダメだこうしろ」といわれるより、「この事はよくできているね。素晴らしい。だから,更にこうできますね」と認めの段階があっての次への期待は嬉しい。だからこそ,「ありがとうございます。これからも頑張ります!!」と笑顔で答え、次への取り組みが成される。それは、褒められたことにより自信が高まると同時に、皆の期待も集まり、更に持ち得る能力を発揮しやすい環境になり、自然と持てる能力をどんどん磨く楽しみが、「学び力」の向上ヘと連鎖していく。

◆指導結果に感謝、指導による承認欲求に対応する

三方法での共通の事項は、指導の後をみる段階での褒めの施しである。ならば、褒めは、指導者にとっては謝念の伝えでもある。なぜなら、指導内容や、依頼事項を受け入れ、理解,納得し、正しく実践してくれた証として認め、労い、感謝心と褒め心が自然に沸いての施しだからである。それは,指導者としての嬉しさであり感謝の発信でもあるのだ。それは、その場だけの評価でなく、以前との比較を踏まえ、成長状況を認識した褒め処の見出しの努力が生かされている。冒頭の五十六型の育ての極意はこの実践心得であると理解出来る。

 一方、相手の欲求に応えていく施しでもある。というのは、指導された人は、指導に応えた実践により、二つの欲求が発生する。その一つは、「指導されたことをしっかりやっています。」この取り組み状況を観てください。もう一つは「これだけ上手くなりました。この成長ぶりを評価して下さい」との欲求である。これは、誰でも持つ、認められたい、成長したい,役割を果たしたいとの承認の欲求であり、褒められることの期待心境といえる。従って、褒めの実践は、指導を受けた部下のこの欲求に応えた部下の喜びを産むプレゼントでもある。褒めは双方の喜び合いの機会なのだ。

◆実践の八つの極意 

 ならば、その、具体的実践はいかに成すべきか、褒め上手の極意として、次の8つの心得を提起してみよう。

①いいと思えることが目についたら、すぐに認めの言葉をかけ、それがなぜ良いのか単的に説明。その着目点は、話した事、指導した事柄のその後の物事のとらえ方、心持ち、人間性の高めによる言動の変わりよう・・。まさに学びにより、心が変われば言動が変わる。この事実に着目することが褒めの第一歩なのだ。

小さな成長でもしっかり観ていき、その努力を評価。「頑張ってくれてありがとう。以前からするとこのところが大分良くなってきたね。」などの言葉がけが良い。

本人が観てほしい、気がついてほしいとの欲求を察知、その欲求事項に着目して、はっきり褒める。「頑張り様も素晴らしいね」「ここまでできたのですね、見事。もうすぐで完結ですね」と笑顔の一言,グータッチも良い。

地味なことでも継続していることに目をかけ、褒めます。

 当り前のことでもきちんとこなし続けるのは、努力があり、素晴らしいこと。ましてや継続は力なりとの称讃でもある。案外指導された一時だけとの現象になることも少なくない。

くどくならないように褒めます。あれもこれもと褒める大安売りは慎む。褒められた印象が薄れ、おだてととられかねない。

⑥褒め言葉は、単に「良かった」だけではなく、「ありがとう」「ごくろうさま」の感謝の言葉、労いの言葉も効果的に加えると良い。

さすが」「すばらしい」「すごいですね」「センスが良いね」「みごと!の言葉も大げさにならないよう心しての活用も効果的。指導者よりも勝っている認めでもある。

⑧本人が努力したにもかかわらず、成果が期待どおりに上がらない場合でも、努力や工夫について訊き、良いところは褒めます。また、思わしくなかった結果については、今後どのように進めていくべきか指導。そして「あなたならできます」と今後の成長を期待していることを伝え、激励。ここにも認める心が届く。

◆誰に褒められているかが肝腎

 大事なことは、誰が褒めているか。憧れ、信頼する人に認められ、褒められるから嬉しい。だからこそ「あの人に褒められた」と仲間からの褒めもあり、身近な人にも話す楽しみとなる。この褒め上手な人とは,専門力及び相応の実績を有しており、人間味溢れる人である。その特徴は、

労いと感謝のこころを持った人間味溢れる人です。それには、相手に温かい関心を線対応で寄せる。線対応とはその時その時の点対応でなく、継続的に気にかけ,その変化の良さを感受できること。

②また、長所を見つけることのできる人です。その為には,成長レベルを的確に評価ができると共に、相手の話しを聴く、人柄を理解する姿勢が成される。更に、短所を長所に返還する指導、必ずできるとの期待する包容力もある。「短所も見方を変えれば長所なり」そこには信用し,期待を寄せる人間愛がある。それでなければ「ダメな人,しようがない人」と勝手なレッテルを貼り、良さの発見は難しい。

異見にも聴き上手な人です

 特に、異見(自分と異なる考え方)を話しているときでも、先ずは受け入れていく聴き手であり、その実践は,うなずき、相づちを的確に施す。これは,相手の考え方を認め、自分にない良さとしての褒め心でもある。だからこそ「なるほど」「そのような考え方もよいですね」との言葉は、相手の認められの喜びを創り出す。

◆是々非々での生かし方が大事です

 もちろん、相手を軽んじての嘘、単なるお世辞などは論外。時には,きちんと叱り、その変わりようを認め、褒めることが,双方の感謝に基づく褒めである。そこには、是々非々を踏まえた「あのときにきちんと指導頂いたお陰でここまで成長できたのです」と、褒めた相手からの感謝の言葉が返礼される事も多い。
 

◆褒めることで次の指導機会を頂く

 褒められた時の返答は様々だが時として、「ありがとうございます。でもまだまだなんです。いろいろ足らないところ,未熟な事もありますから」との言葉もある。「そうですか。それではこうしてみたらいかがでしょう。必ず,この心配も解決できますよ」と話しを進めて行く。褒められた喜びが未熟さの本音がポロリと出るのであろう。そしてさらなる成長への「これからもお願いします」意欲喚起の発信なのである。

◆褒めはうきうき感を沸かせ、それは,褒めた人の喜び

 今朝経営者の学び会で、3分間スピーチをした建設器材S社役員のS氏からメールが入った「スピーチに対してお褒めの言葉を頂き、嬉しいです。今日は1日張り切って仕事ができます・・・」との文意である。S氏には、3ヶ月前後継者塾の話し方教室で2分間のスピーチを診断、「話しぶりには勢いがあります。目線をかける、声も良い、語調に心がこもっています。しかし、時間オーバーになりました。そして上から目線での表現が時に出ますね。今後は、聴いて頂けている,この謙虚さを生かすと好感度高い話になります」とコメント。これは、スピーチ慣れや、日常、上の立場での話し手に多い傾向で、場が異なり、聴き手の特性の違いヘの配慮無精がもたらす現実である。

今朝のスピーチも他社の人々が聴衆。当然小生の支援は先のコメントの改善がどうかを基点に診断し、「時間内、言葉遣い、目線の柔らかさが良くなりました。さすがですね。スピードを多少押さえて,間を保つと更に良いですネ」と率直にコメントを施した。「ありがとうございます」その場でのニコッと言葉返しをしたS氏でした。その余韻がメールでの送信に至ったのであろう。拝読した小生も思わず、にっこり。「褒めは、相手の心をうきうきとし、活力を沸き立たせる力があります。同時に褒めた事への感謝の言葉は,褒めた人の嬉しさにもなります。」

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/