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「確認・診断の新人の成長支援」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(93)
「確認・診断の新人の成長支援」
澤田良雄氏 ( (株)HOPE代表取締役)

◆ほとばしる意気込みでのスタートであった

 「本日はビジネス話法研修をご指導いただきありがとうございます。また個別に苦手な話法の相談に乗って頂きありがとうございました。この研修を経て、メーカー社員として責任持って仕事をする事の意味を再確認でき、また、プレゼンテーションで上手く相手に伝える実践法を学ばせていただきました。これからも立派な社会人になる為に一歩づつ着実に頑張って参ります。今後もどうぞよろしくお願いいたします」。受信したメールを読み込み思わず喜びに浸る。これは、工具トップメーカーN社の新人研修受講者からの、研修当日深夜に着信したメールである。即返信する。続いて他の受講者からも入る。「・・・澤田講師の貴重な体験談などを伺うことができ、大変勉強になりました。特に対人関係で重視すべき事を学んだワークショップが印象に残りました。10年後には大きく活躍できる人に成長できるよう今できることを実践してステップアップして参ります。今後は、社内外でも周囲に寄り添った考働ができるよう日々精進して参ります・・・。」。実に履修内容を踏まえての所感と今後の活躍へ向けての道筋作りが嬉しい。

 さて、新人も入社1ヶ月過ぎた。どんな成長状状態であろうか。多分に理想と現実の違いに戸惑い、あれこれ自己中の拙論にはまり「こんなはずではなかった」などの心境ではないだろうか。それは、新人の企業への期待条件も多様化傾向にあり、例えば、働き方改革、人生100年時代、ライフワークバランス、キャリアプラン、転職如何、副業、将来起業、偉くなるより楽しく働く・・の諸説の飛びかいの影響でもあろう。

 従って、新人育成の目的、指導の有り様も様々である。しかし、この時期、「脚下を照顧せよ」との言葉があるように、新人として足下をきちんと確認し、専門力をきちんと身に付け、人間力を素直に磨き、早く一人前になる事が肝腎である。それは、育てられる、育てる双方の想いを融合させ、その実現に向けての成長の喜びを共に分かち合えることである。

 育てを願う新人の発する意気込みは、「1日も早く仕事を覚え、貢献できるように、何事も全力で取り組み、精一杯頑張ります。」「社会人としては、まだまだ未熟でいろいろと至らぬ点もあると思いますが、先輩社員の皆様と共に、精一杯仕事に取り組み、会社に貢献できるように、努力していきます。」「学生時代に学んだITやプログラミングについての知識を生かして、新しいことを臆せず取り組んで生きたいと思います。精一杯努力します。」との、自己紹介であった。1ヶ月経った現在、このほとばしる言葉に沿った実践状況はいかがであろうか。今回は、昨今出講した研修現場を基に受け入れ職場ヘのお役立てを記してみる。

◆将来像も描いてのスタート

 新人の意気込みに、さらに、「10年後になりたい人物像」を掲げているのは文頭に記した工具類トップメーカーN社グループである。その人物像の一部紹介すると、

「周りから頼れる人」「革新的な製品を提供できる技術者」「信頼される人」「誰からも慕われるような人」「後輩から頼られる先輩」「安心して頼れる、任せられると思われる人」「最初に頼りにしてもらえる人」「周りを笑顔にさせるような人」「兄妹が誇れる姉」「自分で考えて行動できる人」「身に付けてきた技術を後輩に教えられる人」・・・である。まさに、ブランド企業で活躍する近未来像の描きである。

 ならば、「入社1ヶ月、今日までこの人物像への近づきの実践はどんなことを成しました」か。と問い掛ける。そして、掲げた想いの実現は「今、できる事の最高実践」の右肩上がりの成長であり、その確認事項は、

 ●企業人の活躍評価は、「頭心行=頭は知識・知恵・心は意欲・行は実践、相手が観る・診る評価は行であると補講する。そして、
 ●自身が発信する(書く、話す)事は、その場で終わりでない。以後、評価の物差しであり、単に点対応でなく線対応が今後の活躍である事を確認する。更に加えて、
 ●N社O社長としての新人への期待事項は「新入社員には、夢中になって開発し、誇りを持って製品を作り、喜ばれる製品を販売する事で社会に貢献できる実感をして貰いたい。」と社内誌に記した内容を確認し、重ねて、研修講話での「解らない事は先輩方に相談しながらどんどんチャレンジしていくべき。今は失敗しても先輩方がカバーしてくれる。<創意工夫が大事>です」と話された(研修担当者からの情報)内容を確認し、その取り組み状況を問い掛ける。

◆対面型だからこその確認と診断での指導・支援

 さて、意気込みを持ってスタートして1ヶ月。既に入社前からネット情報であるべき活躍ぶりを描き、入社後の諸処の研修機会で、企業理解を踏まえ、どう活躍するかの知識(頭)は修得されている。 従って、この時期の指導は「確認と診断」である。それは、知行合一・言行一致の実践の現状に着目、「そんな事はわかっている」「私なりにできます」との自負心があることを前提に、まず「やって見せなさい、それは身についていますか。」の確認と診断なのだ。

 例えば、研修スタート時の幹部による開講講話時の受講態度を後席から診る。座姿勢の背筋がきっちりしている・いない、うなずきをする・しない、メモをする・しない、これだけでも受講者各位に差が観える。次いで、講師紹介を受けて、「おはようございます」と心を込めて講師挨拶をする。どう返すか、受講者からの声、語調、目線、お辞儀状態を瞬時に感じ取る。すかさず、「心を込めて、最高の挨拶をした人、手を上げて下さい」と自己診断での評価を問う。全員上がれば良い。現実はそうでない。手を上げた受講者に名を聞き「Sさん・Yさん・Uさんに拍手を・・」と促す。拍手。すかさず、ここまでのところで感想を聴くと「何気なくやっていました」「敬いの心が足らなかった」答えが返される。挨拶の大切さを学び、どのようにする、話の聞き方はどうする、既に学んでいる頭(知識)であり、やれば出来る言動(マナー)なのだ。すかさず「新人は何もできないわけでない。今できる最高実践。できる能力があるのに、あのときにやっておけば良かったとの悔いは、自分を粗末にする事だと補講のお役を成す。そして、新人の8つの活躍の極意を確認する。

① 新人は注目の中で職場・企業の華となる =華とはイキイキ、挨拶、笑顔、熱心さ、一生懸命、学ぶ意欲そして素直な人

 基本能力は徹底的にモノにする、 それは100点満点なりで信用を創る =プロも元はアマだった。それは基本の完全マスターの専念から・・成長は守(基本)破・離なり

③ プロとは、さすがの能力→を生かして成果を上げ→金を獲る人  =能力は人材、成果は実績、その評価によって賃金は決まる・生涯現役の稼げる人の土台作り

④ 仕事は選べない、ならば適性はつくる事なり  =担当する仕事は既に決まっている。向いているいないではなく、モノにする挑みが、やがて 楽しく、適性をつくる

⑤ 関わる人は選べない、ならば苦手な人こそ、こちらから心を開く  =単なる印象での好き嫌いは御法度。人は十人十色、異なった持ち味の人だからこそ学べる

⑥ 解らなかったら訊く、困ったら相談、その素直さが不安無し、ミス無しの極意なり   =見栄をはる、未熟な事の自覚無しは、ミスを生む、ストレスを抱える基

⑦ 叱ってくれる人に感謝、本気で育成してくれる師匠である  =指導した事ができれば褒め、駄目ならさらなる期待を込めてびっしと叱る。育ての鉄則と心得る

⑧ マナー無精は嫌われる、ビジネスの遂行にはネックである  =先輩、上役、お客様を敬う心が、言葉、振る舞い、表情の品格をつくる。

◆出来るかの不安も「して診たら」出来る自分に気づく

 次いでの確認は、できる自分に気付くことである。N社の担当部門と策定した研修タイトルはビジネス話法、この確認と診断は、いきなり数人に「お題拝借の1分間スピーチ」の演習に入る。その方法は、封筒入りしたお題カードを見て、即一分間のスピーチをする。当然戸惑い、不安があるのは承知。スピーチ後は一人一人のスピーチを診断し、褒め、アドバイスを施す。それは、なぜよいのか、なぜ、どのように改善するのかを基本条件を確認する。そして、まとめ講義として「単純明快なビジネス話法」としての筋道作り、好感度高い話し方、立ち姿、お辞儀・・等の当たり前の言動を確認する。そして、グループ編成して全員での同時演習、グループ内では仲間からの感想をプレゼントする。対面型研修だからこその最高の学び合いである。

 終了後の感想は「私にもできた」との安堵感を秘めた笑顔が良い。それは、できる力を持った自身の確認ができたからである。勿論、不備な、未熟点の診断から今後への向上のヒントを掴めた実感があるからだ。実は、いきなりの「お題拝借スピーチをせよ」の指示には、大半は、体験無き事ゆえ、出来るか、旨くいかなかったらの不安を抱くことは自然な成り行き、でも、出来る可能性を信じ、「できた」の実体験そのことが、「やれば出来る自分」を実感出来るとの思惑である。それは、職場での活躍は、学生時代にはない体験が多い。だからこそ、できない自分と決め込むな、本気でものにする覚悟を創る働きかけに他ならない。

 このように、確認・診断の施しには、新人が明記、明言し、既に学び得た内容の情報を担当部門との綿密なる打ち合わせで得て、テキストを作成し、受講者との共通の物差しで是々非々の確認・診断する。従って, 改善への導き時には、時には大声をだし、受講者に迫るシーンもある。小生の全身全霊で指導・支援する取り組み姿勢がそこにある。それは、配属先の指導マインドと同様であろう。

◆学生から企業人への脱皮それは思考枠の殻を破る

 学生から企業人(入社した企業の社員)に早く脱皮する事は、新人の第1の課題である。それは、学生時代に良しとしていた思考、言動を変えなければならないことがある。それには、ここまでの思考枠の塊を破る事である。自信有るといっても、所詮自分の範囲、頑固、意固地、小生意気、自己中では企業人として新たな活動をすることは難しい。この確認診断には、パズルを活用(文字を繋いで意味の通る文章を作る、ほぼ同じ形が3問、4問目はがらりと形が変わる。5問目は4問までの回答の導きががらりと変わる)する。ほとんどの人が、4問目でつまづき、5問目ができない。

 演習後の感想でだされるのは「1問目からの回答経験が重なると、回答はその思考枠にはまってしまう」「考えが固定化してきてしまう」「案外頭が固い(笑い)」・・が出される。そこで、みなで確認する思考枠を壊すその実践は

 ●「自分の考えに絶対間違いない」と固守すればするほど思考枠の壁は壊せない。
 ●ネガテイブ思考は失敗例の経験であり、他責にしたり、自己否定による「でも」「だって」「あの人は、またこういうだろう」とのいらぬ心配性の先読みによることが多い。ならば、
 ●「失敗は成功の母、第1回の失敗は第2回の成功の足がかりであり、より良い智恵を産み出す元である。それには、

 ○自分と異なる考え方(異見)を歓迎し、新たな視点で物事を診る
 ○先輩からの忠告、アドバイスは素直に取り入れる
 ○時には異なった条件に身を置いてみる(場所・人の集まり・学習など)そこで、いつもと違った目線での自己をみる。

 いずれにしても「井の中の蛙」「蛸壺思考」「世間知らず」「頑固者」・・ではなく新たな学びを活かして、新たな目で気付き、考えを変える。そして試す実践、その結果を検証する。そこで得た新たな経験での自信は、一回り大きな自身の成長である。

◆叱りに感謝の育てられ上手

 「将来の決め手づくりに向けた育てられ上手とは、叱られ上手」。叱られるときに実践する次の言葉を素直に発信すること。「すみません」「申し訳ありません」「ご注意ありがとうございます」「私の未熟な点をご指摘いただき、ありがとうございます」「言いにくいことを、はっきり言っていただき、自分の足りない点がよくわかりました。ありがとうございます」「今後とも私の未熟な点につきまして、どうぞ厳しくご指導ください。私にとりまして、ありがたいことです」「新人時代に厳しく指導いただけることは、将来の自分づくりにとって大変貴重なことです。ありがとうございました」 叱られた時には、こうした言葉で応えていきます。

 指導者の叱りは、上から目線での感情の爆発ではなく、新人に本気で寄り添う育成の愛情からだ確認する。受け入れ職場での「叱ることは・・・」との声へ事前対応である。

◆対人関係が苦手、ならば親疎関係を創る会話のスキルはこうする

ここでの確認は、相手を観て本人の意向を推測し、いかに本人の正解と合致するかを楽しむワークショップである。質問は食事は、和食・中華。洋食のうち好きな食事はどれかなど10項目・・正解が2~4項目が現実。誰しももっと当たると楽しんでの結果である。この診断結果からの学びは「印象だけで人決めをしない」「自分から知っていただく働きかけが必要」と確認する事ができた。そこで、「苦手な人、ちょっとあういう人」はと思う人だからこそ、その先入観を超えて、自ら関わりを楽しんでいく事」そのスキルは、掛け合いの話力。その極意は、

 ●訊く→相手の話を聴く→そして更に問いかける。すると相手から、問い返しとして「ところであなたは」と、こちらから問い掛けたことが相手から問われる。
  それに答えていけば良い。この循環が繰り返されていくと補講する。
 ●問いかけのコツは テニスとタケと覚える。テ=天気、気候、季節 二=ニュース、出来事 ス=好きなこと(趣味、食物 )、、スポーツ と=友達、特技、親 タ= 旅、お出かけ、買
  い物 ケ=健康、研修・・・である。

 何を話すかというと難しい。 何を教えて貰おうかと考えると楽しい。

◆受け入れ職場での確認診断の願い 

 5月病となにかと取りざたされる時期だが、新人が当初の意気込み、反面持つ不安から「この会社だから安心出来る。だって褒められた、認められた事が嬉しいから」の実感があるなら、このままこの会社で良いのかなどのふらつき感情は起こらない。たとえ入社して、3年で大卆3割はやめるとの説がまことしやかに論じられようとも、それは他社の例であり、自社、自職場ではない。指導する新人は10割定着であると信じ、共に成長する寄り添いの指導マインドと指導実践が成されているであろう。従って、確認・診断を願いは3点である。

活躍の有り様、現職場で現実にはどうであるか、既指導事項(当内容を活用も含め)を踏まえて確認、診断し、褒め、認めるの一言をかける。
 その反面、可能性を信じてのアドバイスの追指導の実践は十分であろうか。

ABCの徹底した真似ぶ(学ぶ)指導環境であるかの確認である。新人が迷うのは学んだ事、自身が実践と現実のギャップを観察した時である。それは、作業の基本、
 決め事の励行などの諸処事項がある事は周知の通り。
 是非 A=当たり前のこと B=馬鹿にしないで C=チャントやる。この観て真似ぶ育成環境を診断する事にある。

適切な4者ミーテーグの開催による診断。これは、部門長(採用時の最終面接者)管理者(統括職場に新たな戦力申請者)そして、直接指導社員、新人の4者のコミュニケーションの機会
 である。なぜなら、配属先での育成は、先輩社員に「しっかり指導せよ」と責任を丸投げすることではない。それは、部門の新戦力を確保した部門長、管理・監督者が責任者であり、
 その想いを実現するために、新人の秘めたる気概と現実のギャップを埋める知識、技術をしっかりと身に付けさせていくことのが直接指導者である。さらには、職場全員で協力する環境の
 整えは管理者の役割である。従って、受け入れ時「なぜ、この職場に来て頂いたか」の想いの紹介から、新人の発信してきた想いの実現に向けていく約束をし、育成過程のおおよそを示し
 たのであるからこそ、以後それぞれの役割に準じた事実を確認・診断しつつ早期戦力化としていく事を無精することがあってはならない。この機会があるからこそ、新人は自己の成長ぶり
 が明らかになり、不安事項を汲み取って頂く事により安心して活躍できる。特に、悩み、不満、不安で心痛むときには、「あのー」と一言かければ良い。必ず、道は開ける。と説いてい
 る。だからこそ定着する。対面型コミュニケーションがだからこその実効である。

 各社・各所での新人研修で一緒した受講者の確認・診断からの気づき事項はどんなことであろうか。学ぶ事は変わる変わること。それは、変わりゆく成長である。「やれば出来る」「いつやるの、今でしょ」この踏み出しを確かなものにし、変わりゆく成長をいかに楽しんでいるであろうか。それは、入社時に描いた想いの実現であり、人生100年時代を心豊かに生きる職業人生の出発の時だからである。                     

 各自の今日の活躍する姿を勝手に思い描き、自身の指導・支援ぶりを確認・診断しつつ、さらなるお役だて力の向上を期す今日である。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/