髭講師の研修日誌(109)
創業成功の第一歩は、ひと言のコミュニケーションが生きる
澤田良雄((株)HOPE代表取締役)
□独立して自己ブランド化を創る熱い心
職業人生での「決め手」をお役立てするには、起業することです。それは、現在まで磨いてきた専門的キャリアの実績を最大に生かした事業への取り組みです。いわば起業、創業です。そこに、「熱い心」がみなぎることは、言うまでもありません。この創業する際の学びの機会として、地元の商工会議所の「創業塾」があります。筆者は、その講師団として、長年携わってきました。
□目指す創業に向けて不安や疑問を丁寧に解決する創業塾とは
当創業塾は今回10回目を迎え、土曜日の10:00から16:30までほぼ1日を6回継続します。学び合う内容は、創業にあたって、提供する商品・サービスをどうするか、売り上げ・利益の見込みを見据えたビジネスデザインをどうするか,そのための、イノベーション感性の学習をし、そのビジネスプラン作成に向けての考え方を理解します。そして、作成に当たって必要なフレームワーク、創業に必要な会計と税務ポイント、資金調達、資金繰り繰り、経営者にとっての値決め、Webマーケテイングの活用、小さな会社のブランデイング、そしてマーケテイン基礎を学び卒塾者の経営する店舗を訪問して学ぶマーケテイングツアーがあります。
更に,実際の創業の実感を高揚するための先輩卒塾者の創業体験、又、創業の失敗例、さらなる企業発展に向けた企業事例を担当講師のコンサル体験からの論説もあります。
受講者は,これらの学びから、それぞれの想いの実現に向けて,ビジネスプランの作成に取りかかり、具体的に,何を(商品)」、誰に(顧客)どのように(売り方)どこに(店舗・拠点)いくらで(価格)など、相互に支援し合います。
その方策は,独特の会場設営を学校形式でなく、少人数のグループ式に設営し、講義からの学習内容を即、ビジネスプランの計画事項に仮記入してみて、グループ内で発表、他メンバーは,顧客視点から所感を提供します。その状況を観察して,グループ担当の講師が適切に,学習内容の補足、そして,やりとり内容に対して講評し、発表者のビジネスプランのよりランクアップ作成の支援をします。
そして、最終講では,受講者各自の作成した創業計画の発表です。勿論,講師団の審査による最優勝賞獲得の競い合いも楽しみ合いです。
まさに,学習し、試して、そしてその是非を確認する。そして,より良くする改善の実践により、ものにできる塾なのです。
□講師団は地元で活躍する士業が中心です
ちなみに、講師団には、中小企業診断士、税理士、社会保険労務士、行政書士の面々であり、筆者が企業教育コンサルタントして加わり、総勢10人です。各自は、市内に事務所を有し,市内外の企業の経営指導を実際に業としている現役のコンサルタントであり、経営者もおります。従って、講義内容及びグループ演習での支援指導では、地元の実態に即した適切さがあります。
そして、特別講師として,当市市長からの「当市のマーケット戦略と創業機会」の講話を組み入れています。周知の読者も多いことでしょう。当市は、「母になるなら流山」とのキャッチフレーズで,全国での人口増加率のトップを数年間確保してきた実績を成し遂げたのが現市長です。直聴講し,意見交換し、そしてふれ合いの機会は当市で創業する受講者にとっては親和感が高まり、行政と経済団体が協働し合う、起業パワーを増幅する一端です。
このような,学習内容の充実、そして,塾生の学びの実感と確実なる知識習得への講師団による支援体制は、「他所にない、まれなる創業塾である」と評するのは当研修の主任講師を担当するS中小企業診断士です。S講師は,他所から実施条件(時間・回数・多数受講者・単独講師など)準じた依頼を受け現在実施中とのことです。
筆者もかつて、全国各所の経済団体の創業セミナー類で、一コマ(2~3時間)を担当して来た実績がありますが、当創業塾の丁寧なまさに「塾」としての支援指導の機会は素晴らしいと評価できます。
□卒塾者の創業成功例を一部紹介すれば・・
既に卒塾者の創業も数多くの評判を得ています。例えば、
●製造現場での技術を生かした自製商品が格別の評判
*ハム・ソーセージを自作し、販売している店舗「umami」があります。同商品の大手メーカー、販売店は多くある中で、着実に顧客を生み,評判を広げて、「あのお店は、はやっているね」との評判が顧客の広がりとなっています。現在では,お中元、お歳暮、さらには贈答品として,市内外に販路を拡大しています。
経営者は,かつて大手ハム会社の製造現場役職者のM氏であり、店舗内に設備を整えて自製、製造現場を見える化し、顧客の目をひく工夫が良い。商品もオリジナル商品の白色ソーセージ、ハート型ハムなどの顧客の声を生かして開発しています。店舗主任は社交性豊かな奥様の担当です。
●こだわりで、差をつける味わいのある一時の安らぎの提供
「ランチメニューのシンガポールカレーが受けてます。」と笑顔で語るのはシンガポールでの生活体験からの工夫した独自メニューや、注文受けてからドロップで入れるコーヒー、食材には奥様の実家で栽培の旬の野菜を使う。顧客のいすは、全てデザインの違いにこだわり、店内照明器具もそれぞれのデザインが違う。それはT経営者のインテリアデザイナー、奥様の美大の学びのセンスを十分に注ぎ込んでいるのです。
顧客も,このこだわりを楽しみ、日々の工夫されたランチメニュー、サラダ、デザートの味わいを楽しんでいます。昼食時の混雑対応は、スマホ活用による予約もあり、テイクアウト方式も取り入れています。又、会合でのランチや茶菓,ドリンクの注文を頂き、準備対応もしています。「なじみのお客様もおかげで多くなりました。」と調理、接客するのご夫妻の笑顔です。
●カウンセリングを生かした治療が功を奏し,日々の予約がほぼ埋まります
競輪選手の治療など、実効の腕を要して,鍼灸、マッサージを開業して5年、クチコミでのクライエントが広がり、お一人1時間の治療時間の毎日の予約が、ほぼ埋まっているのは治療院経営のS院長です。
創業当時は、自らチラシを1,000軒ほど入れ込みを数回施し、地元広報誌にも掲載し、「まずは,認識して頂く」ことに必死でした。現在は、「見てください,これ、顧客からの感謝の言葉をお書き頂きました」と紹介されたのが治療室の壁に貼られた顧客10人から氏名・写真入りの感謝文でした。拝読しますと「丁寧にお聴き頂き、こうしましょうと治療方法を示して頂き、安心して任せました。おかげで腰痛もだいぶ良くなりました。ありがとうございました」「実はあちこちの治療院に行きましたが、いまいちでした。ここに来て,先生の治療を受け、これはいけると信用しました。…」・・安心、信用、良くなっていく実感など素直にかかれていました。
「いいね。」とS院長と握手を交わします。そして、高齢者向けの市役所の1回500円助成券利用の対象治療院にも選ばれ、可能な限りの顧客様への負担減にも配慮しています。
…他にも、「IT、Webの関連事業で、その都度の案件単価を高めても受注できる信用を得ました。現在は,デザイナービジネス事業もスタートし,3人のデザイナーを要しています」と成功感溢れる笑顔で語るN氏もいます。まさに拍手です。このほか、創業成功事例は多々あります。よくぞ,コロナ禍での厳しい条件を乗り切ってきての現在です。
勿論 筆者は顧客であり、利用するたびに状況を伺い、お役だて出来る伴走支援を施しています。その際,確認する基本は,創業塾で学んだ,内容に照らし合わせ、状況変化に素直に対応していくマインドと施し策です。まさに経営です。「経」は創業の想い(経営理念)であり「営」とは戦略です。この変化対抗は、本物の創業者、経営者としての進化を得ていくのです。
実に、創業する際の本心、本音が厳しい環境を乗り切る器量を育んだのです。
さて、筆者の担当は、創業成功のビジネスコミュニケーションの指導です。それは、この熱い思いをビジネスプランで成功のストリーを作成し、その実現していく上でのまず必要なことは何か,それは、想いを,ビジネスプランに従って,理解、納得を得て、相手が当初,心してなかった協力への態度変容を成させていく働きかけです。それには,各種のコミュニケーションスキルがありますが,ここでは,最も肝心な、出会いを生かすコミュニケーションに着目します。
□創業成功の創業者のひとことのコミュニケーション
創業時の第一歩は、新たな人脈づくりです。その人脈には二つの人を得ることです。
①協力をいただく人脈作り =支援・協力者づくりです。これは、資金繰り、店舗探し、ルーム確保。設備購入、原材料確保などの紹介頂くことであり、又交渉に関する支援などの力を借りることなど多々あります。
②顧客作り=購買力です,これは、採用、購入、依頼などビジネスの売り先相手の確保です。そこで心することは、「優秀なるビジネスマンから・・認知の低い創業者への脱皮」です。なぜなら、起業前の実績形成は、勤務先企業の社会的存在、お取引様、職場の方々の協力は、大方寄ってきて頂いていた強者の立場だったからです。しかし,創業当時は、例え企業のトップであっても、一転して、ほぼ寄って来る人は無き状況であることの覚悟です。従って、「どうぞ、お願いします」とこちらから寄っていく働き掛けをする人への脱皮が肝心です。そのマインドは「おれがおれがの「が」を捨てて,おかげ、おかげの「げ」で生きる、この言葉に集約できます。従って、過去の実績にとらわれた自信家、自意識過剰、上から目線の言動のコニューケーションは即、改めるべきです。
そこで、実践すべきコミュニケーションの第一歩は,人脈づくりのひと言のコミュニケーションです。それは,出会いを生かした縁づくりが、協力頂ける人脈づくりとなるからです。それは、「ありがたさを感じる人」へと脱皮による「ありがとうございます」「どうぞよろしくお願いいたします」、そして、事が進んだ折には、「おかげさまで」と感謝の心から表現されるひと言の実践です。具体的実践法を記してみますと、
③出会いを生かす縁づくりのひとことの実践
出会いの機会を生かして、確実な縁づくりにつなげるには、まずは挨拶のひと言が肝要です。「こんにちは。お会いできまして、ありがとうございます。私は〇〇と申します。どうぞよろしくお願いいたします」。とお会いできた事への感謝の心での挨拶です。ご縁づくりの機会は、最初の出会い以外にはありません。その機会は再び訪れることはないと心する事です。この出会いを点とすれば、継続によって遷都なり縁となり、線のご縁の人が、四方八方に紹介して頂き、面として広がっていきます。勿論、言葉の奥にある人柄の好印象は、言葉、表情、語調、目線に謙虚さとなる謝念が溢れていることです。
④ご支援、協力頂けたときには例え小さなことでも即、お礼のひと言
筆者は,創業塾生への伴奏支援の施しに、受講者の想いに関連する知友者の事業と連携すると判断したときには、双方の聴解を得て、出会いの機会を支援をいたします。その支援に、受講者から,即、「ありがとうございました。お会いできました」と一報が届くことは、お役だて出来た喜びがあります。
また、名刺交換された出会いは、当日に手書きはがき及び、メールで即、出会いの喜びの言葉をお送りすることです。この筆マメによるひと言のコミュニケーションは例え一方的あっても良いのです。なぜなら、必ず相手様の心に残り,気に掛けて頂くことになるからです。
⑤掛け合いのコミュニケーションで,学ばせて頂く
一言のコミュ二ケーションで好感関係ができたら、更に相手を知る、こちらを知っていただく相互理解を深めていくコミュニューケーションの実践です。それは,掛け合いの(会話)コミュニケーションです。この活用による相互理解の形成は、協力関係をつくりあげることへの大事な過程です。また、掛け合い法は、顧客創造の機会に提案する場合のアプローチ話法としても不可欠です。ここでの極意を記しますと、
●学ばせていただく楽しみです。
その掛け合いの心得は、訊ねる←お答えを聴く→話す楽しみを支援する(うなづき・相づち)→聴いた話しを盛り込み話す←相手からの問い返しを得る(ところであなたは(?) と訊かれます。ここで自身が話せる機会です。決して、自身の話をここぞとばかり話す事は御法度です。せっかく,ひと言の交わし合いで,好感得ても、自分フアースト感の人柄は歓迎されません。それには、会話(快話)への時間対応頂けた感謝、さらに、学ばせて頂くのは、こちらの訊く事を受けて話して頂ける感謝です。この謝念の人柄でやりとりすることです。
●相手の問いかけに応えた話し方は、
単純明快に話す工夫です。「問いあわせ頂きありがとうございます。それは,「こういうことです」とズバリひと言で主張し,なぜならば、と簡単な説明・根拠・例えの事例…などショートスピーチに心します。その対応は完璧で無くてもいいのです。それは,相手が興味があれば,再度問い掛けして頂けるからです。もちろん、興味がなければ、相手からの問いかけは途切れます。
●学びを多くする楽しみは聴き上手です
それは、相手が話す楽しみを増長させます。従って、学ぶ事柄は多くなります。その聴き上手の実践は、「うなづき」あいづち(同感です。良かったですね。なるほど)と相手の心持ちを察して,適宜行います。そして、学ばせて頂いた話しは、必ず生かし「先ほどこのような話しを頂きありがとうございました、従って・・」と、次に生かします。
特に、協力、支援の可能性・顧客になり得る可能性をお持ちになったと察したときには感謝の心で受け止めます。
□事後に心を傾けよう
案外、頼む時は熱心だが、それが成された後は軽視する輩がいることも事実です。時が経って多少の立場になると、種を蒔いて頂いた人の恩を忘れる成り上がり人格では、折角の縁も切られていきます。「井戸を掘ってくれた人を忘れるな」こんな言葉があります。
それは、ひと言のコミュニケーション、掛け合いのコミュニケーションで得た人脈はやがて,創業の想い成功させていく売り物(商品・サービス・技術・相談対応)の評価も含めて「人伝えのコミュニケーション」に発展していくからです。そこには、本物・本気を醸し出す人柄の好印象から、ビジネスの信用を産み、信頼を創ります。
従って、新たな人脈、新たな協力、新たなビジネスチャンスをいただいた方には、生涯にわたり「おかげさま」の感謝を忘れないことです。
上記で紹介した卒塾者の成功事例の共通項はここにもあります。
今回の創業塾での,筆者の支援講義時には、受講者に訴求力を高める工夫して、マイクなし、対話形式で、かつ、額にマジックを塗り込みながら全身からほとばしる、心の伝わりに重きを置き、何を,なぜ、どうするとの実践へのヒントを提供しました。
この、話しぶりは、顧客獲得に向けてのコミュニケーションへの導きの一端です。受講者の聴き入る姿を確認し、創業前の活躍場面で実践していたスキルを、創業者としての実践への転換に役立てたと、講義後の感想を伺い笑顔の筆者でした。
いかがでしょうか。このような実践は,創業時に限らず、日頃のビジネス遂行上でも共通です。例えば、営業時、会合での初顔合わせ,人事発令での新任地、初取引、とりわけ新人時の活躍のスタート時は重要事項です。どうぞ、わかっている,できる、やっている事実を確認し、最高実践を施しているか確認していただけたら幸いです。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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