歌川国貞と勧進帳

伝統を伝え、育て、革新する伝・Tokyo 若柳 尚雄里 [ 特集カテゴリー ]

歌川国貞と勧進帳 [ 第十三回 ]

「松嶋屋!」歌舞伎座の三階席の最後方より大向うが飛ぶ。九月の秀山祭の夜の部は歌舞伎十八番の内『勧進帳』が上演され、武蔵坊弁慶のお役を奇数日は松本幸四郎丈、偶数日はなんと今年75歳になられた片岡仁左衛門丈が勤められました。

「丈」とお名前の最後に付けるのは、昔から歌舞伎役者に限ってはいないそうなのですが、役者の場合、立役と女形、年齢も様々である事から「さん」や「様」ではなく、「丈」をつけるのが習わしとなっております。

そして毎年恒例の歌舞伎座九月の「秀山祭」とは、初代中村吉右衛門丈の顕彰し、その巧みなる芸を継承する事を目的とした興行で、吉右衛門丈は巧みな台詞回しや、役に対する深い解釈により、現在の歌舞伎に大きな影響をもたらした役者です。そしてこの度は、もしかしたらこれで最後かもしれない仁左衛門丈の弁慶を、お勉強しに歌舞伎座へ。決して楽ではない役に、私は勝手に楽しみやら心配やらで、登場を心待ちにしておりましたが、静寂の中にも機敏なる荒事での舞も、台詞回しも全てに於いて、あの様にどこかお品のある弁慶を拝見させて戴いたのは初めてでした。江戸歌舞伎を中心にさせて戴いている我々には、到底真似の出来ぬ上方の芸。当代きっての二枚目役者は健在で御座いました。

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