【これから注目すべき商品とサービス】 高島健一  清話会セミナー講演録 東京 2017年3月29日(水) [ 特集カテゴリー ]

先端技術が描く日本の未来像 [ AIやロボットの活用で日本の将来に活路を ]

少子高齢化時代に
求められる経営戦略

最近UAE(アラブ首長国連邦)を訪ねた。2008年に完成した超高層ビル「アドレス・ダウンタウン・ドバイ」は、何もない砂漠に築かれたものだ。20年の東京五輪後にその郊外で万博開催が予定されており、ドバイの空港はそのための拡張工事中だ。空港までは砂漠地帯が続き、まだまだ開発の余地があることが分かる。

 

ドバイは人工島の整備も進めていたが、09年のドバイ・ショックで債務を返済できなくなった。それが世界の信用不安の引き金となり、日本はドバイに直接貸し付けているわけではなかったが、円高が一時84円台まで進んだ。それからドバイの開発は停滞していたものの、11年以降はドバイでもアブダビでも株価が高騰。現在は再びちょっとしたバブルの様相を呈しており、3500万〜4000万円の1LDKのマンションが売り出されると即座に完売するほどだ。4000万円で買った部屋は年間400万円ほどで貸せるので、投資用として売れるのである。

 

この景気のきっかけとなったのが、10〜12年に北アフリカ・中東諸国で起きた民主化運動「アラブの春」で、エジプトやリビアなどの政情不安で多くの人がドバイに逃げ、資金も移した。ドバイの犯罪率は日本より低く、テロの危険性もほとんどない。安全な国という認識が周辺地域にあり、東南アジアにおけるシンガポールと似た位置づけを中東・アフリカ地域で担っている。

 

アブダビの海岸沿いには木が多く、砂漠地帯とは思えないほどだ。サステナブルシティとして開発中のマスダール・シティはまだ5%しかできていないが、UAEは本気で脱石油を考えている。UAEに限らず中東産油国はどこもこのところの石油安で財政収支が悪化した。

 

サウジアラビアは1981年にGCC(湾岸協力会議)ができたころは人口1600万だったが、2014年には3000万とほぼ倍増。その3分の2が自国民だが、国営企業や公的機関の雇用者は飽和しており、定年退職後の職がないこともあって脱石油を目指している。原油安で昨年減産したものの、50ドルを上回るとアメリカのシェールオイルが採掘され始め、16年の世界一の産油国はアメリカになった。現在は再び原油価格が50ドルを割り、強い危機感に覆われている。

 

サウジアラビアが原油価格の下落を心配するのと同様、日本は人口減少に切迫感を持っている。日本の65歳以上人口の割合はどんどん増し、60年の総人口は8674万人になると予測される。国勢調査に基づく人口推計は信頼性が高い。今年0歳児が100万人として、大量の移民受け入れでも行われない限り、10年後に10歳児が120万人になることはないからだ。

 

企業の経営者は、40年ほど先の総人口が8000万人台になるという前提でものを考えなければならない。現在の人口と単純に照らせば、国内の売上は3分の2になる計算だ。人手不足についても、国家が進める戦略とは別に、各企業が主体的に打開策を考えなければならない。

 

15〜64歳の生産年齢人口がやがて半減することから、日本学術会議は75歳以降を高齢者と見なそうとしている。最近の70代はまだまだ元気なので、十分に仕事ができるはずだ。社会保障や後期高齢者の医療費の問題が今後ますます深刻化するのは確かだが、介護ビジネスなど追い風になる分野もある。

 

東日本大震災後に訪日したイギリスの投資会社の人が、「高齢化社会の先頭を走る日本は、これから本格的な高齢化が進むアジアや欧州諸国の手本となるようなビジネスを展開できる」と述べ、目から鱗が落ちる思いがした。音楽教室などは、趣味を楽しもうとする定年後の人をメインターゲットに切り替えつつあるが、こうしたことは当然他の分野でも考えられる。

 

スイスなどは優秀な外国人を積極的に受け入れているが、そうした政策は島国である日本にはマッチしないのではないだろうか。私たちには、イギリス国民がEU離脱を決定したことを、心情的に理解できるところがある。外国人労働者を大量に受け入れるより、AIやロボットに頼るほうが国民性になじみそうだ。

 

「AIやロボットが人間の仕事を奪ってしまう」という悲観的な見方もあるが、その本質はあくまでも「労働力の補完」である。面倒な計算を電卓に、荷物の運搬をトラックに任せたりするように、人力より効率的にできる作業はAIやロボットが担えばよい。

 

ただし、コンピュータは正解が決まっていることへの対処は得意でも、教えられたことからしか判断できず、人が備えているような常識はない。

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